X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

目が覚めたらエツィオに生まれ変わっていたので、家族生存目指します!

全体公開 4341文字
2020-05-14 15:34:28

第18話「頬の痛み」

Posted by @acbh_dmc4

翌朝、フェデリコと共にクリスティーナの家へと向かった。
アニムスでは軽い足取りで辿っていた彼女の家までの道を、重苦しい気持ちになりながら進み、彼女の家にほど近いところで足を止めた。
フェデリコに彼女を迎えに出る様に言い、俺はそれを少し離れた位置から見守った。

フェデリコが扉をノックして、家の者にクリスティーナを呼んでもらい話をしている。
二人とも暫しとても楽しそうに笑い合いながら会話を交わし、それからフェデリコが申し訳なさそうに何かを伝えると、クリスティーナは不安そうに顔を曇らせた。
宥める様に彼女の両手を握り、甘い顔をして耳打ちをすると、頬を染めて控えめに頷いた。

その二人の姿を見て、俺は傷つくのと同時に、どこか安堵を覚えた。
フェデリコならきっと彼女を幸せにしてくれる。あんな風に楽し気に笑い合えているのだから、きっと互いを想い合うようになるのも時間の問題だ。寧ろ、もう互いに好意を抱いているように見える。
そう自分に言い聞かせて、大きくため息を吐いた後、己の両頬を気合を入れる様に叩いてから歩み寄る二人に対して向き合った。
いつものように笑顔を張り付けてクリスティーナに挨拶をする。きっといつも通りに振る舞えている筈だ。

「やぁ、クリスティーナ。急な話で申し訳ないもしかしたら不愉快な思いをさせてしまうかもしれないけど
こんにちは、エツィオ。私も、いつまでも貴方に甘える訳にはいかないもの。あの方に私達の事を話せば、酷い事は言われると思うけれど、これで終わりに出来ると思うわ」
「うん。フェデリコ、彼女のフォローを頼む」
「ああ、勿論」

二人を伴ってヴィエリの指定した待ち合わせ場所へと向かう。
あまりイチャつく二人を見たくなくて、先頭に立って目的地までの道を急いだ。

俺ですら相当ショックを受けているんだから、ヴィエリなんて衝撃なんてものではないだろう。激高した奴がクリスティーナや俺に殴り掛かってこないとも限らない。
クリスティーナはきっとフェデリコが守ってくれるだろうが、あまり恐ろしい思いをさせたくはないから、ちゃんと見極めよう。
だが俺に殴り掛かって来た時は甘んじて受けよう。元々協力するつもりではなかったにせよ、今更関わりを絶つ罪悪感もある。
それにそうしてくれた方が決定的な亀裂を作る切っ掛けにもなる。うまく煽り立て、俺への憎悪でクリスティーナどころじゃなくすのも手だ。

(どちらにしろ後味が悪いアサシンになるのであれば、まともな交友を取れるとは思っていないが俺自身は未だ実戦に出たことがないし、覚悟が足りないのかも)

少しの頭痛を覚えつつ、待ち合わせ場所が見えて来たので辺りを確認する。
意外な事に、そこには既にヴィエリが待ち構えていた。辺りに奴の取り巻きや、テンプル騎士団と思われる者の姿などは見受けられない。
たった一人で、少しだけ思いつめたように爪先を眺めるヴィエリが俺を待っている。
思わず緊張し息を詰めたが、緩く息を吐いて肩の力を抜き、口元に軽薄そうな笑みを浮かべて奴に近づいて行った。

「よぉ、ヴィエリ。早いな」

ヴィエリは俺の声に少しだけ嬉しそうに顔を上げ、俺の後ろに居る者達を見て顔色を変えた。
困惑した顔でクリスティーナを見ると、次いでフェデリコを不愉快そうに一瞥してから俺に怒りを押し殺したような声で詰まった。

「エツィオ、お前一人で来いと指示した筈だぞ?!な、何故クリスティーナと余計な者まで居るんだ?!」
「ああ、お前に話さなきゃいけないことがあって
「よぉ、ヴィエリ。お前のお陰で俺とクリスティーナはめでたく恋人同士になったんだ。だからもうクリスティーナにちょっかい掛けるのを止めてくれ」

鼻につく小ばかにするような物言いでフェデリコがヴィエリを挑発する。そしてこれ見よがしにクリスティーナの腰を己の方に引き寄せて、あからさまにベタベタし始めた。
ヴィエリは目を剥いてフェデリコを凝視し、口をパクパクさせて、震える手で二人を指さしていた。
二人の様子にヴィエリだけでなく俺も未練がましく心が痛くなる。しかし、今は自分の気持ちは二の次だと見ないふりをしてヴィエリに状況を説明する事にした。

「俺が不安がる彼女に護衛としてフェデリコを紹介したんだ。それで意気投合して、恋人同士になったみたい」
「な、なんっ!!エツィオ!お前っ俺に協力する筈だっただろう!」
協力って言うか、まぁ、アドバイスするとは言ったけどさ」
「エツィオからお前がクリスティーナにこれまでの事を謝りたいって聞いたんで、ついでに謝罪の場も設けようと思ってな」

後ろめたさを感じてヴィエリから視線を逸らす。
憎々し気に俺を睨みつけるヴィエリに、内心でため息を吐いた。
これでいい筈だ。目論見通り、ヴィエリとの関係を絶てればこの度のミッションは完了だ。そして、元の関係に戻るだけ。

しばしの沈黙後、ヴィエリはなんとか冷静に勤めた口調で俺を問いただした。

「エツィオ、俺を、裏切ったってわけか?」

ヴィエリの顔を正面から見据える。何でもない風を装って俺は一言「ああ」と肯定を口にした。
ギリ、とヴィエリが歯を喰いしめ、まるで射殺さんとばかりに詰め寄ったのを見て、フェデリコが俺を護るようにヴィエリの前に立ち塞がった。
色々面倒なので裏切った事にしたが、フェデリコは俺が誤解を受けるのを心配したのか、ヴィエリに言い返してくれた。

「結果的にって話だろ。別に俺はエツィオに嗾けられて彼女と付き合おうとしたわけじゃない。そもそもお前が変な連中を寄越さなかったらこうなってなかった」
「そうよ!エツィオは暴漢に絡まれた私を心配して、フェデリコを紹介してくれたんですもの。それからは貴方にかかりきりで、私達に構う暇なんてなかった筈じゃない!」
「煩い!女は黙っていろ!!」
「謝罪をしたいと手紙を寄越した割には横柄な態度じゃないか。今まで迷惑をかけてきた事を少しは反省したんじゃなかったのか?」

唾を飛ばしながら喚き立てるヴィエリからクリスティーナを護るように、フェデリコがまた一歩前へ出た。
それを見て少しだけ冷静になったのか、憎々し気な目でフェデリコの後ろに隠れるクリスティーナを睨みつけたので、慌てて俺はフェデリコ達を下がらせた。
まだ話し合いをできる余地はある。昔の奴ならもう問答無用で暴れていてもおかしくない状況なのだ。
円満に別れる必要はないが、あまりヴィエリを傷つけるのも憚られた。

「ヴィエリ、騙し討ちみたいに連れてきたことは謝る。でもこうなった以上、お前の目的は達成されないと思うし」
「そもそもその女はエツィオに気があったんじゃないのか?昨日、俺の手紙をエツィオが持って行ったときに、随分熱の籠った目で見ていたくせに!」
「!」

背後で息を飲む気配がした。
だが、ここで俺が反応することは出来ない。朝、フェデリコと共に楽しそうな笑顔を見せた彼女を思い出す。
もし、俺に少しでも気持ちがあったとしても、それはきっと今だけだ。
フェデリコとこの先一緒に居れば、きっと彼女はフェデリコの事を心から愛すると思う。

「ヴィエリ、それはお前の勘違いだ。そうだろ?だってクリスティーナは今フェデリコと付き合ってる」
「お前だってお前だってこの女の事が好きなんじゃないのか?」
「仮にそうだったとしても、それは今ここで関係ないだろう?まぁでも、謝罪する空気じゃなくなってるし、クリスティーナ、すまない。気分を悪くさせただけだったな。フェデリコも
「おい。話は終わっていない。エツィオ、お前、俺から逃げるのか?!」
「逃げる気なんてない。今日はお前とちゃんと話し合いに来たんだ」
「何を話し合いに来たって言うんだ?!俺を笑い者にしようとして来たんだろう!お前の兄貴が裏でせっせと女を手籠めにしている横で、俺にのうのうと無駄な手紙を書かせて!」
「違うわ!エツィオはちゃんと貴方に向き合って相手をしていた筈よ!でなきゃ、あんなにまともな手紙なんて書けないですもの!」
「煩い!煩い!煩い!!この売女め!」
「ヴィエリ!それ以上言うな!フェデリコ、クリスティーナを送ってってくれ。ここからだったら彼女の家からそう遠くない。少しぐらいなら大丈夫だろ?」
「ああ、そうだな。直ぐ戻る」

今にも殴り掛かりそうになっているヴィエリを抑えて、二人が立ち去るのを待つ。
二人が通りの角を曲がって姿が見えなくなってから、俺はヴィエリにもう一度向き合った。

「ヴィエリ、本当にすまないと思っている。全部俺のせいだ」
「そうだ!お前のせいだ!お前なんか信じなければ、俺は!」
「すまなかった。許さなくて良い。俺はそれだけの事をし

ガツンと頭に衝撃が走った。目の前に星が散り、数秒フリーズしてしまう。
ヨロリと体勢を崩したが、後ろ脚を踏ん張って耐え、またもう一発ヴィエリからの拳が振り上げられるのを目の端に捉えた。
この程度の攻撃ならいくらでも避けられる。だが、今はそれをするべきではない。せめて、歯を食いしばって、ヴィエリの拳をもう一発受け止めた。
衝撃に思わず後ろへ倒れる。尻もちをつけば、ヴィエリが馬乗りになり、俺の胸倉を両腕で掴み上げた。
まだ数発殴られるだろうと思ったが、ヴィエリは燃え上がる怒気をその目に滾らせて、低い声で俺に凄み、それから汚いものを投げ捨てる様に手を離した。

「二度と、俺の前に現れるな」

すくっと立ち上がり、肩で息をして冷たい目で見下される。
その顔は悔しそうに歪められ、どこか泣き出しそうにも見えた。
無言で立ち去るヴィエリの後ろ姿を眺めて、変えられなかった関係に、ただため息を吐いた。

ずきりと痛んだ口元に顔を顰める。
鼻と口から生暖かい液体がポタリと垂れて白いシャツを赤く汚していた。
唇から結構な血が流れ出ていたので、どうやらまた切れたようだ。
随分薄くなっていた唇の傷が、その存在をもう一度確かにするように裂けていた。


前の話    もくじ    次の話


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.