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哲学人資料『反復』

全体公開 4562文字
2020-11-11 21:51:29

名称:反復 Gjentagelsen
人間名:コンスタンティン・コンスタンティウス Constantin・Constantius

外見:三十代の男性。装飾品としてのモノクルとループタイを愛用している。
 身長176cm 体重68kg

対応:一般的な収容者と同じ生活サイクルを適応。ただし食事の内容は常に同一とし、食事は単独で行わせる。
 同意がある場合に限り、【永劫回帰】との対話は基本的に許可される。

注意点:当哲学人の意見に従わないこと。特に心理検査にて自主性が低いと判断された者、メランコリックな性質の者、詩作を趣味とする者、精神病既往歴のある者は会話を行わないこと。当哲学人と接触後に起きた運命的な出来事に関心を払わないこと。

 当哲学人は環境の変化に弱く、物品の配置のずれや顔を合わせる職員の担当替え等で強いストレスを覚え、時に怒りを露にし攻撃的になり、時に抑鬱症状を表す。安定した収容のため、常に一定の環境に保つこと。

収容経緯:■■年■月から■■年■■月の間に■■県にて発生した■■件の青少年による失踪事件調査において、面識のない当事者全員にとっての親密な友人としてコンスタンティウス氏の名が挙がる。
 ■■年■月■■日 重要参考人としてコンスタンティウス氏に聞き取り調査を行う。収穫なし。
 ■■年■月■■日 ■■氏が失踪。再びコンスタンティウス氏の友人であるとの証言があったため、哲学人関与の疑いから哲学人犯罪取締課に通達。
 ■■年■月■日 哲学人犯罪取締課職員がコンスタンティウス氏に聞き取り調査を行う。氏が自身の哲学的能力により青少年に関与したことを認めたため確保。

 青少年■■名の行方は以前不明である。


取調記録:■■■■/■/■■
調査官「散々暴れてくれたようで……
当哲学人「それは失礼した」
調査官「改めて。今回はただの聞き込みじゃなく、取り調べを開始します」
当哲学人「ええ、どうぞ」
調査官「はじめから話します。ここ数年、異様なペースで青少年の家出……というか、失踪事件が発生しているんですね」
当哲学人「ほう」
調査官「その行方不明者の全員と、貴方がとても、親密な友人であったという話を聞いていまして。行方不明者同士に面識は無いにもかかわらず」
当哲学人「ありがたいことに、友人には恵まれる質なのでね。しかし友の友が良い関係を築けるとは限らないだろう」
調査官「年が離れすぎているように思いますがね」
当哲学人「良き出会い、良き関係というものは時に年齢や性別、国籍を超越する」
調査官「どうやって出会ったんですか?」
当哲学人「一人一人答えるべきかな」
調査官「とりあえず思い出せるだけ」
当哲学人「全員覚えているとも。■■君はあの大通りにある喫茶店で出会った。当時の彼は喫茶店に一人で入るということに緊張した面持ちで、辺りをキョロキョロと見回していてね。その微笑ましさに店員からも暖かな目線を向けられていた。当然私もだ。勇気をもって踏み出す若者というものは美しいものだからね。その緊張を解すために、というのは言い訳だが、その時は私から声をかけて」
調査官「他の方は」
当哲学人「より短く話せと? お望みの通り。■■君は私が雨の町を散策中に、傘が無くて難儀していたところを。■■■君は愛犬の散歩途中に出会い、その愛らしさに私が魅了されてね。■■君は公園のグラウンドで部活の練習に打ち込んでいるところ、ボールが転がってきて」
調査官「もういいです。それで、貴方は自らが哲学人であり、彼らに能力を使用したと認めましたね」
当哲学人「ああ、そのとおり」
調査官「彼らはどこですか」
当哲学人「それは私の知るところではない」
調査官「彼らの失踪に関わっているというのに?」
当哲学人「私は彼らを詩人にしたまで。詩人を作る作業は相当な骨折りだが、彼らの美しさを見れば、それに値するものだといつも思わされる」
調査官「具体的に話してください」
当哲学人「私は彼らに助言をしたまで。彼らは恋に、時には敵意に、あるいは今自分が置かれた状況に、つまりは情熱に身を焼かれていた。自らの感情の過敏さに、体が耐えきれなかったのだ。だから、現状に耐えきれないというのなら、様々な手段を講じるべきだろう」
調査官「それで、家出を唆したと」
当哲学人「違う。そんな短絡的で、その上後悔と懺悔と罪悪感で満たされるとわかりきっているような、なんの解決策にもならない手段を伝えはしない。彼らが私のように利口であれば、手段をもっと選んだだろうに」
調査官「貴方は、どう言ったんですか」
当哲学人「一人一人異なる」
調査官「……それは、何と」
当哲学人「それを話すことは、彼らの悩みに触れる。せっかく私にだけとひっそり打ち明けてくれたあの勇気を、私は裏切ることになる。私から言えることは、例え逃げるにしても、このようなやり方でなく、もっと利口な方法をすべきだったということだ」
調査官「……振り出しじゃないですか」
当哲学人「そうは言えない。安心してくれ、彼らの内幾人かは、いつか私に手紙を送るだろう。私の助言を無視し、周りから差し伸べられる救いの手も無視し、自ら立ち向かうべき難題から逃げたのだから。己のやり口に耐えられない嫌悪を覚えて、しかし言える相手など他にいない。故に、やがて私に帰ってくる。確実に」
調査官「貴方の能力は……洗脳の類いですか?」
当哲学人「いや、それは私の技術だよ。私の観察眼と等しく。私の能力はそれらを発揮するきっかけを私と他者に引き寄せることだ」
調査官「未来の改変ですか」
当哲学人「それほど大袈裟じゃない。ただちょっと、そうだな。私の周りでは、運命の出会いが非常に多くなるだけだ」
調査官「運命の」
当哲学人「私が沢山の親友を得ている理由が、それらと出会えたことが、運命以外にどう言えるだろうか。その運命を手放さないことに慣れているだけだ、私は」
調査官「……運命の出会いを、何度繰り返してるんですか」
当哲学人「人生は繰り返し、つまり反復だ。しかし反復などないのだよ、私の読者よ。しかし詩人はどのような手段でか反復を知る。そしてまた私に帰り、失った己を取り戻し、繰り返すのだ。そして私は本のまま、未だに反復を探している……反復を探す作業を不完全に反復してしまっている」
調査官「……永劫回帰?」
当哲学人「彼女を知っているのか」
調査官「あっ……え、お知り合いですか」
当哲学人「直接会う機会には恵まれなかったのだがね。彼女の兄から話は伺っている。ここにいるのか?」
調査官「……その質問には答えられません。収容の有無は機密情報になります」
当哲学人「そうか……
調査官「取り調べは、一旦終わります。お疲れさまでした」
当哲学人「ああ、ところで。私は哲学人として、収容されると聞いた」
調査官「その予定です。行方不明者数が落ち着くまでは特に」
当哲学人「私の寝泊まりする部屋のことだがね、頼みがある」
調査官「何でしょうか」
当哲学人「自宅から家具……少なくとも寝具は持ち込みたい」
調査官「流石に寝具はありますよ、収容室にも」
当哲学人「枕が変わると眠れないんだ! いや、家具の配置が変わるだけでも本来なら許しがたい。そんなことになるならいっそすべて叩き壊して……ああ、まあ、今は流石にやらないが……今後暮らす場所となると……
調査官「監視をつけるということで、自宅待機でも構いませんよ」
当哲学人「監視!? 自宅に! 見知らぬ他人に自宅を見張らせろと! 最悪だ、そのような……
調査官「まあ、そうで……
当哲学人「そのようなことで変革が訪れるなど! 私は家の中だけは綺麗に整えていた。いつでも反復が行えると信じられるように! 何度わかっても、何度わからされても! 反復などはこの世にはない……あの喜びは丸きり同じ形で帰っては来ない……ああ……ああ!」
調査官「……ちょっと、環境整備の人と話し合ってきますね……



対話記録:■■年■月■■日
対象:【永劫回帰】
永劫回帰「待っていました。お久しぶりです」
反復「永劫回帰……本当に、実在したのか。それに、この部屋は」
永劫回帰「はい」
反復「室内に入る風、空気の流れ、君の呼吸音、木々のざわめき、遠くの人の囁き、すべてが一定で乱れなく繰り返している……落ち着く……私の理想……!」
永劫回帰「でしょうね」
反復「っ、君がこちらに来ているならば、私も早々に海を渡るべきだった。それならば私はさようならを言う回数が少なくとも半分減ったことだろう。私の精神病。私の偏執。私の失望。死の説得力に囁きかけられる日々。それは君という存在によって大きく癒される。二度同じ音を鳴らすことのない角笛を讃える必要もない!」
永劫回帰「いいえ。貴方は癒えません。貴方は僕によって気を紛らわしているのみです」
反復「……このすべても既に体験済みか、神の反復」
永劫回帰「回帰です。僕の永劫回帰は回り帰る。反し復元するものではありません」
反復「しかし人生は反復だろう。失った自己を取り戻す行いだ」
永劫回帰「いいえ。人生は回帰です。それは本来、一つの人生の中で起こるのではないのです。それは本来、一つの人生そのものなのです」
反復「一つの人生の中で知覚されないものの何が人生か。人生は感じられるものの中にある。過去の哀愁を感じる追憶か、未来の不安を感じる期待か、過去を未来に持ち込む安全な反復か」
永劫回帰「回帰は自然法則の末に起こる事実です。人のスケールでの物事ではありません。死して消える些末事ではありません」

 両哲学人が十数秒黙り、睨み合う。

反復「ともあれ、君のそばほど私の心が静かになる場所もないのだよ。そうだな、世間話をしよう。君は世間を知らないのではないかな」
永劫回帰「賛成します。貴方の話は何度聞いても上手です」
反復「光栄だ。では、以前私の出会った詩人の話を」



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