第1話「救いの手」
人物表記が一人称だとややこしくなったんで今回から三人称視点での書き方に挑戦中。(難しい)
今更ですがゲームと小説のストーリーはミックスしています。
@acbh_dmc4
目が覚めたら別人に生まれ変わっているなんて、そんなのあり得ないと思うだろ?
それも自分の先祖で500年も昔の人物に生まれ変わるだなんて。
だがこれは現実だ。
9歳のエツィオ・アウディトーレとして目が覚めた俺は、己に待ち受けている運命の全てを知っていた。
このままでは8年後の未来に俺の家族は無実の罪を着せられ、処刑されてしまう。必ず回避しなければと決意した俺は、直ぐに行動を起こした。
先ずは強力な仲間を作る為、狐に接触した。単身で狐に追いつき実力を見せれば、彼は俺の能力を買ってくれた。
そのお陰で俺はモンテリジョーニの伯父、マリオの養子となり、アサシンとしての教育を受け、さらにはモンテリジョーニを発展させることに成功した。
だが、これが大きな間違いだった。
モンテリジョーニの急な発展に宿敵テンプル騎士団の総領、ロドリゴ・ボルジアに目をつけられてしまった。
開き直った俺は、短い期間にさらに教団の強化を図り、モンテリジョーニのアサシン教団の規模を拡大させて、間一髪で家族の処刑を止める事に成功した。
これで暫くは平穏な時間が訪れるだろうと思っていた。
だがエツィオの運命の輪は、簡単に彼を休ませてはくれない。
必ず彼の生きた歴史通りに、少しだけ変化した人間関係と、時間を早めて進んでいく。
俺は、デズモンド・マイルズ…の生まれ変わり、エツィオ・アウディトーレ・ダ・フィレンツェ。これは俺の物語だ。
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ポカポカと柔らかな日が差し、ヴィラ・アウディトーレの訓練場から傭兵達の陽気な笑い声が木霊する。風も柔らかく撫でる様に野に咲く花々を揺らしている。
とても平和で良い陽気のこんな日は、木陰に横になり、転寝できれば気持ちが良いに違いない。
フィレンツェに残したエツィオの弟子たちより急使が齎され、フランチェスコ・デ・パッツィがフィレンツェの牢から消えたと報告を受けてから、逃亡者の足取りを追わせていた。
エツィオの弟子たちや狐の優秀な情報網から、数日の後、早くもフランチェスコの足取りが掴めた為、エツィオやフェデリコ、マリオ等で会議をする事になった。
そしてマリオにジョバンニも地下の聖域に連れて来るようにと命じられ、エツィオ達兄弟はジョバンニの寝室を訪ねて行った。
軽くノックをすると、母マリアが扉を開けてくれ、エツィオ達の顔を見ると朗らかな笑みを見せた。2人の兄弟も午後の挨拶を口にし、慎重に言葉を選んでマリアに伺いを立てた。
「父上は起きていますか?」
「ええ。今、調度食事が終わった所なの。あら、エツィオ?療養椅子なんて持って、ジョバンニを散歩にでも連れて行ってくれるの?」
「散歩ではないのですが、マリオ父上と一緒に少々お話をしなければならなくて」
「なら、ここでしてはいけないの?今日は体調が良いようだけれど、あまり無理はさせたくないの」
マリアは何かを察したように顔を顰め、ジョバンニの会議への参加を渋った。
彼女はジョバンニの本当の生業を知っているため、アサシンの仕事に復帰させられると思ったのかもしれない。
マリアの心配を宥めようと口を開く直前で、ジョバンニからお声がかかった。
「マリア、大丈夫だ。私も話したいこともある。無理はしないと約束するから、行かせてくれ」
「……約束ですよ?フェデリコとエツィオも、ジョバンニに無茶をしないよう言ってね」
「ええ。承知しています」
マリアの許可を取り、エツィオはジョバンニを療養椅子――車椅子へと介助して座らせた。
そして椅子の後ろの取っ手を持ち、ゆっくりと移動する。
階段には折りたたみ式の車椅子昇降機が設置されており、車椅子の乗揚げ部分を倒してからジョバンニをその台に乗せて取っ手を回してゆっくりと階段を下った。
贅沢を言うなら電動にしたいところだが、流石に林檎を用いて回路などの設計図を書いても、それを再現できる口が堅くて信用できる技術者はそうそう居ない。
もしかしたらレオナルドであれば再現可能かもしれないが、エツィオとレオナルドはまだそれほど親しくない。教団に関わらせるには時期尚早という所だろう。
無事に階段下まで降りきり、先に下で待っていたフェデリコがジョバンニの車椅子を台座から下ろすと、邪魔にならない様に昇降機を折りたたんだ。
「しかし、凄いものだな。この療養椅子と昇降機は。よくこのような発想が出来るものだ」
「500年後の知識を元に作り上げたのです。モンテリジョーニの職人たちを集めて、近いものが出来るよういろいろ工夫したんですよ」
突拍子もないエツィオの発言に、ジョバンニとフェデリコは目を丸くしていた。それはそうだろう、想像もつかない遠い未来の産物だと知れば誰しも驚くというものだ。
ジョバンニの乗っている車椅子は、現代にあるものと大体同じものだ。
鉄で骨組みを作り、背もたれと座席部分を皮張りにし、中に綿を詰める事によって座り心地を良くした。もちろん持ち運びや収納を考えて折りたたむことが出来る。
デズモンドであった頃の知識を職人たちに話し、潤沢な金を渡せば喜んで作成に協力してくれた。
以前、狐には話したことがあったが、エツィオが遥か未来の“予言”を持っていたことに、二人とも突っ込みたそうにしているが、今はそれよりも優先すべき問題があると不問にしたようだ。
書斎の隠し扉を開き、地下へと降りれば、既にマリオがエツィオ達を待っていた。
「来たか。ジョバンニ。大分顔色が良さそうだな」
「ああ。ここの医者は腕が良いようだ」
マリオはジョバンニの答えに満足そうに頷くと、早速本題に入った。
「病床の身だがジョバンニにも聞かせた方が良いと思ってな。先日、フィレンツェでフランチェスコ・デ・パッツィが牢から消えた事は話したな。お前の処刑を執行しようとしていた、あの最中だ。恐らくお前に全ての罪を着せることが出来れば釈放の正当性を主張したのだろう。だが、それが失敗したことでそのまま姿を眩ませたようだ」
「奴の脱獄の目的は、恐らくロレンツォ殿の暗殺です。俺の記憶ではミサの最中に襲撃がありました。フランチェスコ・デ・パッツィ一味が主導で教皇の後ろ盾を得て動き出す筈です」
「ふむ、ロレンツォ殿を暗殺し、フランチェスコ・デ・パッツィ一味は教皇の後ろ盾があるとして、フィレンツェを牛耳る筋書か。奴がフィレンツェを支配してしまえば大変な事になる」
「ロレンツォの暗殺に関しては、今はエツィオの弟子に任せ、ジョバンニの傷が癒えたらフェデリコと共に警戒すれば問題ないだろう」
「ええ。体が回復し次第、またロレンツォ殿と仕事をすることになる。公の場には大体ご一緒する事になっているから、エツィオの予言のような大々的な暗殺は阻止できるだろう」
現状の把握と、今後の確認を終えると、次にエツィオが集めさせていた情報を報告する。
「それで、フランチェスコの潜伏先ですが、現在サン・ジェミニャーノのヴィエリの元に居るようです。弟子からの知らせの後、直ぐにロベルト隊長からも密使が届きました」
今はサン・ジェミニャーノにテンプル騎士達が集まっている。
本来の歴史ではフィレンツェを追われたエツィオは、マリオの下で1年間の修業を終え、スペインへ亡命する直前にサン・ジェミニャーノでロドリゴ・ボルジアが会合を開く。
その会合でアサシンとしての初仕事にヴィエリを暗殺する際、己の仇の黒幕を知る事となる。
しかし現在のエツィオは家族を救っただけでなく、ヴィエリとも関係性が変わってしまっている。
本来の運命通りにヴィエリを手にかける事に躊躇が生まれていた。
「お願いがあります。俺に一度だけサン・ジェミニャーノへ偵察に行かせて下さい」
「エツィオ、お前の立場で敵陣に乗り込むのが悪手だと分からぬ訳ではあるまい?」
「分かっています。ですが、今一度ヴィエリと話がしたいのです。前にも話しましたが、ヴィエリを教団に迎える気はありません。テンプル騎士団から抜けさせれば、それで良い」
マリオは眉間にしわを寄せ、厳しくエツィオを見つめると「勝機はあるのか?」と問うてきた。
本当はエツィオも頭では分かっている。恐らくヴィエリはエツィオの手を取る事はない。父親やテンプル騎士団のやり方に疑問こそ持っているが、家族を裏切るような真似はしないだろうと考えていた。
それならば話し合い、これからは敵同士で、互いの命を狙う事になると警告しておきたい。そうすれば、剣を交える際に迷いは無くなる。
「……そんな顔をするな、エツィオ。本当の所は行かせたくはないが…そのヴィエリという者とフィレンツェで色々あったんだろう?気持ちはわからんでもない」
「お前の存在は大きい。エツィオ、サン・ジェミニャーノへ行くのなら、そのロベルトという男に最大限の協力を頼め。必ず生きて戻るのだ」
「分かりました」
エツィオがホッとした顔を見せると、ジョバンニとマリオは仕方ないというような顔をして目配せした。
フランチェスコがサン・ジェミニャーノに逃げ延びてから、幾度となくモンテリジョーニへ奇襲があった。
だが、互いの兵の練度も、規模も大きな差があった為、大事には至らない。
それどころか、その奇襲を利用してどさくさでロベルトとの連絡を取り、何名かの兵をアサシン側に寝返らせたりしていた。
エツィオの偵察時に、万が一があってはならぬと、ヴィエリの警護に当たっている兵たちはアサシン側の者で堅めさせた。
皆、あの傍若無人なヴィエリを何故エツィオが特別視するのか不思議がっているようだ。
(アサシンとして、無情になる事は容易い。ただ、ヴィエリの人生は、とても寂しいものだ……)
エツィオ、いや、彼の中のデズモンドは遠い未来の父、ウィリアム・マイルズの事を思い出していた。
幼い頃は理解できなかった厳しい父の姿。
アサシンとして非情な指導者の顔しか見せず、家族のことなどちっとも愛していないと思っていた。
だが、最期にはデズモンドを失いたくないと、アサシンの長としての責務よりも、最後の最後で父親としての、家族としての情を見せてくれた。
ウィリアムの温かな言葉が、デズモンドの命を懸ける覚悟を固めさせてくれた。
(もっと早く分かり合うべきだった)
せめてもの救いは、ウィリアムに自分の気持ちを遺せたことだ。
だから、今のエツィオにはヴィエリの孤独が痛い程分かっていた。
エツィオはせめて、少しでもヴィエリに寄り添ってやりたかったのだ。
フィレンツェに派遣していた弟子たちがパッツィ家の子女達を連れ戻って来た。暫くの間はヴィラに保護することになっている。
意外にも大人しくこちらの要求に従い、ただ一つ、ヴィエリやフランチェスコの無事を問うてきた。
エツィオは、彼らの現状と、これからの彼女たちの処遇を説明した。
話してすぐは取り乱していたが、直ぐに平静を取り戻した彼女たちは、とても強いとエツィオは感心した。ヴィエリ同様、多少我が儘が過ぎる事はあるが、まだ分別はある。
己の立場をちゃんと分かっていた彼女たちは、文句は言いつつも、ヴィラで静かに日常を送っていた。
着々と潜入の準備は整っていく。
いよいよ明日、サン・ジェミニャーノへと潜入となった前夜に、エツィオはパッツィ家の者を集めた。
「これから、ヴィエリに貴女方の元に戻るよう、説得に行きます」
「殺しに行くの間違いじゃなくって?!わたくしの坊やに何かしたら、お前達を皆殺しにしてやる!!」
酷く取り乱し怒り狂う夫人を宥め、淡々とパッツィ家への処遇を伝える。
初日同様、パッツィ夫人は怒りを露わにしたが、対してヴィエリの妹のヴィオラは、冷静にエツィオの話を聞いていた。
ヴィエリを家族の元に戻るよう説得しに行くが、決裂する可能性が高い事。
父親のフランチェスコは説得に応じる気配はない事と、もしその二人と完全に敵対し、討つ他なかった場合に、パッツィ家の子女達はアウディトーレ家が支援をする事などだ。
全てを話し終えると、ヴィオラは騒ぎつかれてか、ショックの為かグッタリしているパッツィ夫人を支え、ゆっくりと部屋の扉へと向かった。
その後ろ姿を眺めて居ると、ヴィオラは顔だけで振り向き、エツィオの目を見て、一言だけ声をかけた。
「……お兄さまを、頼みます」
それだけ言うと、ヴィオラは小さく礼をして去っていった。
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