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エツィオに生まれ変わったデズモンドは、平穏な人生を歩みたい

全体公開 5761文字
2020-12-28 12:32:44

第2話「説得」

Posted by @acbh_dmc4

「忌々しいアウディトーレめ!大人しく一族郎党消え去ればいいものを!それもこれも、全てあの小僧の所為だ!こそこそと我らの周りを嗅ぎまわる薄汚いアサシンめ!」

朝から恨み言を呪詛の様に吐き続けるフランチェスコの怒りの矛先が向かわぬよう、ヴィエリはひたすら黙して目の前の食事に集中していた。
フランチェスコがサン・ジェミニャーノへと逃れて来てからというもの、ヴィエリは父親の機嫌を取ろうと必死だった。

フランチェスコはアウディトーレ家の者をボルジアが支持したことが気に食わないのか、始終エツィオへの悪口やヴィエリが関わりを持ったことを論って文句を言った。
そうかと思えば、ヴィエリがエツィオとの関係を壊した事すらも詰まり、叱責する。
そもそも、フランチェスコがあの晩餐に無理矢理エツィオを招待した事で、全てが狂ってしまったのだ。
あの前夜にロドリゴ・ボルジアに呼び出され、指示を受けてエツィオをテンプル騎士団側につけるよう言われていた。
当初はヴィエリにエツィオとの友情を築かせて、ゆっくり説得する手はずだったのをぶち壊したのは、他でもない、フランチェスコ自身だ。
その責任をヴィエリに被せて、フィレンツェから追い出す様にサン・ジェミニャーノへと追いやられた横暴は、父への反発心を買った。

(それにしたってロドリゴ・ボルジアは、何故エツィオに拘るんだ。モンテリジョーニを発展に導いた?だからなんだというんだ!)

悪態をついてみるが、ヴィエリ自身、サンジェミニャーノの指揮を任され、街を支配する難しさはここ数ヶ月で嫌と言うほど理解した。
エツィオは上手くやったというのに、自分には出来ない事を突き付けられたようで、心の中は嫉妬と悔しさで荒れ狂っていた。
それなのに何故だか、ヴィエリの要求に仕方なさそうに笑い、時には窘めたり、楽しそうに突っ込みをしてくるエツィオの姿を思い出す。
そんな時、もし今ここに彼が居たら、どんなふうに己に助言を寄越すのだろうと考える事がある。
彼との掛け合いは、腹が立ったり、釈然としない思いをしたりもしたが、しかしそのどれも不快ではなく、素直に正しい事のように思えた。
かなり短い時間ではあったが、エツィオとの交流は、ヴィエリに大きく影響を与えていたのだ。

だが、エツィオが現れてから、フランチェスコのヴィエリに対する当たりはきつくなったし、理不尽な言いがかりも増えた。
他の家族間の関係は良好になったが、より一層父親との距離は離れていった。
父親に認められたい一心で今まで行動していたヴィエリにとって、それは最悪な変化だ。
それでも、心の底からエツィオを憎めない自分が居る。

ボルジアが襲撃されたあの日、襲ったのはアウディトーレのアサシンだと断言する騎士団幹部達の話を聞いて、居てもたってもいられず、エツィオの元に警告に走った。
ヴィエリがアウディトーレ家に訪れると、エツィオは心底驚き話を聞いて、そして寂しそうに友人になれると思ったと言ったのだ。

(端から友人になどなれる訳がない……

いくら考えてもそう思うのに、あの日に言われたエツィオの言葉が頭から離れない。

「ヴィエリ!聞いているのか!」

大きな怒鳴り声に、ヴィエリはハッとして対面に座る父親に顔を向けた。
あまりにも心ここに在らずであったのか、思いがけずフランチェスコの逆鱗に触れてしまったようだ。
ヴィエリはうんざりとした気持ちを押し止めて、フランチェスコへと顔を向けると、努めて冷静に言葉を返した。

「申し訳ありません、父上。本日の会合について、足りない物がないか考えておりました。不足はないと思いますが」
……そうか。しかし、モンテリジョーニに兵を差し向けて、少しでも奴らの勢力を弱めてやろうとしたのに、成果がない。兵への訓練はどうなっている?」
「モンテリジョーニの護りは強固です。もっと兵を増強するか、教皇とボルジア枢機卿に頼んで兵器を揃えてから当たるべきです。ちまちま攻めていたんじゃ、返り討ちに合うだけです」
「忌々しい!」

ため息を吐きたいのをグッと堪える。
冷静を欠いている今の父親よりは、ヴィエリの方がまともな指揮が出来ていた。
フランチェスコが周囲に当たり散らす為、ヴィエリはなんとか父を宥めようと奮闘していた。
そんな折、見兼ねたようにロベルトがヴィエリの相談役として傍に居る事が増えた。ロベルトはどんな些細なことでも親身になり、また彼の部下も辛抱強く、的確でさりげないフォローをしてくれる。
この者たちはどことなくエツィオを思い起こさせ、ささくれ立ったヴィエリの気持ちを落ち着けてくれた。

「今一度、最終確認して参ります」
「フン、何度も何度も確認しなければいけない程お粗末な仕事しか出来なかったというのか?お前はどうしてそうなのだ。アウディトーレの小僧程度が出来る事をどうして出来ない!」

心無いフランチェスコの言葉に、今度こそ頭に血が登りかけた。
咄嗟に反論しそうになった時、父親の暴言を遮るようにノックの音が部屋に響いた。

「ヴィエリ様、ボルジア枢機卿より伝令です。フランチェスコ様、指示内容の変更の相談をさせていただくので、申し訳ありませんが、ヴィエリ様のお時間をいただきます」

ロベルトがフランチェスコからヴィエリを庇うように出て、要件を言う。
ヴィエリは一瞬だけ怪訝な顔をしたが、直ぐに取り繕ってロベルトと口裏を合わせる様に頷くと、彼について食堂を後にした。
扉を閉め、上階のヴィエリの私室へと警護するように送り届けられる。
数階上がった所でロベルトが小声で「ヴィエリ様は努力しておいでです」と励ましの言葉をかけた。

「最近は思慮深くなられ、私の部下もヴィエリ様を慕っております」

ヴィエリは一見不機嫌そうにロベルトを見やるが、それがヴィエリなりの不器用な照れ隠しだと理解していた。
ロベルトは穏やかに笑みを見せ、励ますように言葉をつづけた。

「ヴィエリ様は少しずつですが、変わられました。いつか、お父上も認めてくれる日が来るはずです」
「心にもない事を言うな。……俺の変化は、おそらく父上の望むものではないだろう」
「ですが、我々は良い事だと思っていますよ」

ヴィエリは部屋の前まで送られると、ドアの前に待機している見張りの兵を見て顔を顰めた。

「今日はお前の部下ではないのか?」
「ええ、フランチェスコ様から雑務を言いつけられまして。半刻ほどすれば戻ると思いますが」
「フン……ボルジアが来たら呼びに来い」

納得いかない顔をしながらも、そっけなくそう指示を出してから自室に入っていった。




*****




サン・ジェミニャーノに侵入するに当たり、エツィオはロベルトと連携して、南門近くの警備を薄くするように取り計らってもらっていた。
調度その日にボルジアが会合を開くとは想定外であったが、ボルジアを相手取る為の準備はまだ出来ていない。それに、エツィオ自身、思う所があった。
奴を討つ前に、交渉しなければならないことがある。上手くいけばだが、デズモンドが生まれる時代までに、アサシンとテンプル騎士団の対立を止められるかもしれない。
今はボルジアの事を考えないこととし、エツィオはロベルトの部下達を街の郊外に集め、侵入の手筈を再度確認した。

ロベルトのお陰でヴィエリが滞在する教会付近の人気は全くと言って良い程に無い。
見張りの兵はこちらの手の者で固めてある為、ある程度雑に動いたところで気付く者はない。
ヴィエリの部屋の扉の位置をロベルトに確認してから、エツィオは塔の壁をスルスルと器用に登って行った。
窓の淵に掴まり、白く曇って見にくい窓の中をそっと覗く。
すると、部屋の奥のベッドにやる気無さそうに寝そべっているヴィエリを見つけた。

ロベルトから扉の外に彼の護衛の兵が居る事を聞いていた為、念のため控えめに窓を叩いてヴィエリの気を引いた。
コンコンと、あり得ない場所からノックの音が聞こえた為、ヴィエリは怪訝な顔をして窓辺に視線を投げた。
警戒心をあらわに、近くに立てかけてある剣を取り、窓辺にゆっくりと近づいてくる。
エツィオはひょいっと窓へ顔を出して、再度ノックをした。

「ヴィエリ!入れてくれ。いつまでもここにしがみ付いてるのはちょっと辛い」
「エッ、エツィオ?!……貴様、何故ここに?!」

エツィオの登場に酷く驚いたヴィエリが声を上げると、外に控えていた番兵がノックをした。
ヴィエリは咄嗟に「何でもない!ここから失せろ!」と怒鳴りつけ、ドアを蹴りつけると、外の番兵はその場から去っていったようだ。
遠のいていく足音が聞こえなくなるまで待ち、窓を開けてやると、エツィオは颯爽と窓から部屋へと入り込んだ。
まるでちょっと寄ってみたと言わんばかりの態で「助かった」と笑いかけるエツィオに、ヴィエリは些か迷惑そうな顔をしてからつっけんどんに問いただした。

「何しに来た。俺を殺すためにここに来たのか?」
「俺が声をかけた時点でそうじゃないこと位分かってるだろ?だから番兵を追い払ってくれたんだろうし」

エツィオは軽い調子で、しかしヴィエリの動向を注意深く観察してから答える。
まるで喧嘩など無かったかのようなエツィオの態度に舌打ちが返り、ドアに寄りかかり腕を組んで見下すようなポーズを取った。

「じゃあ俺をアサシンにでも勧誘しに来たか?」
「いいや、お前が父親を裏切るとも思えないし、交渉しに来たんだ。アサシンに勧誘したりはしない。その代わり、俺達に保護されてくれ」

エツィオの発言にヴィエリはうんざりしたような顔をすると忌々しそうに「二度と俺の目の前に現れるなと言ったはずだ」と吐き捨てた。
互いに、次に出会うときは敵同士だと分かっていた。その言葉は拒否の様にも取れるが、ヴィエリなりにエツィオとは戦いたくはないと言っているようなものだった。

「お前の家族が、我が教団に保護されているのは知っているな?」
「なんだ。今度は人質を取って脅すつもりか?」
「ああ、お前の母親と妹の殺生与奪はアサシン教団が握っている。ただ、彼女たちは何の罪もない者達だから、お前がテンプル騎士団に在籍し続けようが殺すつもりはない。これでお前がこちらについて、人質の振りをする理由にはならないか?」

言い訳なら用意した。あとはヴィエリがこちらの提案に頷いてくれればいいだけだ。
そう暗に伝えれば、より一層影を落とした瞳が思案気に揺れた。

「俺がここを出れば、次は本当にお前とは敵同士だ。友人だから殺したくない等と言えなくなる」
「自分は全てを諦める気はないくせに、俺には家族を諦めろという。随分ご大層な言い分だな!お前達アサシン教団はいつも綺麗事ばかり並べて、その上子供の様に自分たちの思い通りにしたがる!何が自由意思だ、笑わせるな!」
「でも、お前自身はテンプル騎士団のやり方に心から賛同している訳じゃないんだろう?父親の為に母と妹を諦めるのか?」
「フン、女なんてお荷物だ。自分はただ要求するだけで、財も情も食いつぶす。クリスティーナの件でよぉく理解したよ」

強がって言ってはみたものの、罰が悪そうにしている姿を見る限り、今の言葉は本心ではないだろう。
ヴィエリの言葉を否定もせず、ただ気まずそうな顔をして視線を落とす。それはエツィオの常套のポーズだが、ヴィエリが動揺を見せたので効果があるようだ。

「俺の手の内にあれば安全は保障する。でも、彼女たちは常にお前の身を案じているんだ。お前がこちらに来てくれれば、きっととても安心すると思う」
…………

駄目押しで上目遣いでそう続ければ、ヴィエリは葛藤し、厳しい顔つきで俯いた。
しばしの沈黙が部屋に落ちる。視線を足元に落としたまま、ヴィエリは微動だにしない。
本当ならこんな問いは、もっと考える余地を与えてやりたいのだが、なにぶん互いに時間がない。
エツィオはヴィエリに近づこうと一歩を踏み出すと、弾かれたように顔を上げ、行動を阻止するように凄まれた。

「近寄るな!無理にでも俺を拉致しようもんなら、今すぐ番兵を呼んでお前を殺す!」
「ヴィエリ、俺は無理を言ってお前の元に来たんだ。次は、ないんだよ」
……なら、半刻待て。今日はこれからボルジアが来る。その時に俺が居なければ父上が今すぐにでも殺される。それに、ボルジアに指示を受けた後、父上はここを発つ。その後に話しをしたい」

フランチェスコがここを今日にも立つというのは想定外だった。出来ればヴィエリを確保、もしくは暗殺した後に処理したいと考えていた。
それにボルジアと会われては、ヴィエリが裏切り、エツィオの事を密告しないとも限らない。
そう考えたのが分かったのか、ヴィエリは鼻で嗤うと、最後通告の様に言い放った。

「お前の事を俺が告げ口したのなら、それが答えだ」

互いの視線が交差する。
どちらも逸らすことなく、しかし、そこに腹を探り合う様な気配はなかった。
今は、ここに偵察に来ただけだ。マリオやジョバンニがエツィオの意思を尊重してくれて、ただヴィエリを説得する為だけに居る。
大きな魚を逃す事にはなるが、欲張れば結局は何も得られない。
特にヴィエリはプライドが高く、エツィオが他に気をやれば、たちまちこちらに背を向けるだろう。

エツィオは神妙に頷き、ヴィエリの要求を飲んだ。
そして南門の上の高見塔を待ち合わせ場所に指定すると、無言で部屋を出て行った。


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