@bk__at
2/26(金)19時
『今日中にお前を越える』
情報屋への宣戦布告。
メッセージの送信を終えて夕闇に染まるビルの店舗へと乗り込む。
脱法的な売買が黙認されたクラブ内、奥の個室。
久々に訪れたその部屋は、爆音のEDMが遠くBGMとなり、心地よい会話を誘う。
対面でソファに座った胡散臭い男が話し出す。スタッフの面をした護衛が周りに数人立っていた。
「早速ですが、例のモノは?」
と問われればポケットから紫色の飴を出して見せる。
「よかった、困ってたんです。それを使うと数字がいいのに手に入らなくなってしまって…、人気あるんですよ。媚薬キャンディシリーズ。」
監督だという男は心底嬉しそうに眉を下げた。
続いて配信用アダルト動画の撮影手順、報酬、注意事項…。
書類上は、合法の動画配信出演契約。
キャンディの情報集めをしていた一週間ほど前、家出JKからこんな話を聞いた。
『ヤバい動画配信グループがえっちな飴使って撮影してたけどー、最近手に入らなくなって困ってるらしいよぉ。ササダってヤツから買ってたんだって。飴ちゃん持ってるなら売り込んでいっそ男優として出演しちゃえばぁ?今、飴キメてガチレイプする男優探してるらしいから…好きにヤれちゃうかもよぉ』
「宜しければこれにサインを」
白い無骨な指、汚い字でサインを終えれば男がほくそ笑んだ。
しっかり水分を取っておけと勧められたドリンクを飲む。
転売先だ、と言う噂を聞いていた眼前の男には辿り着いた。
あとは違法動画である証拠と、スタッフを多少動けなくして依頼人に引き渡し。
それでミッションはハナマルの筈だ。
場を和ませるように軽快な談笑を聞いていれば、ふわと浮いた意識。
──まずい、ドリンクに薬を盛られてたのか…!?でも店側の人間しか触っていないはず…ックソ…、店もグルか…………。
「…おや、効くのがお早い。ふふ、気持ちいいことでビッグマネーを掴みましょうね」
その言葉を聞くが最後、思考は途切れた。
同日 21時
目を覚ませば広い倉庫の地面に転がされていた。半裸。普通に寒い。
後手に縄で縛られており、着々と撮影準備が進められていた。
倉庫の周囲に人による音はない。潮の匂い。港の端の方だろうか。
体が重い。…寒い。
「…おはよう、寒いかな?…ふふ、驚いたよ。君はいい体をしているね」
監督が細めた双眸で両腕の火傷痕を流し見る。
いい体、と言うのは己の腕と、背中の残忍な傷跡を指しているのだろう。
イカれた視聴者にはきっといい見世物だ。
「そう怖い顔をしないで。報酬はちゃあんと支払う。僕らは仲間だ」
声が不自然に優しくなる。
「今回の撮影が上手くいけば、君にはまた飴と共に出演して欲しい。協力してくれるよね。…映像を、表のルートに、流されたくはないだろう?」
こうやって落としていったのだろうよくある手口。
白髪は普通に、まぁ、それは困るという顔を浮かべた。
「今日は好きにハメてくれちゃっていいから。生の欲望を取らせてほしいんだ、僕たちは」
眼前にしゃがんだ監督が笑って、パン、と手を打った。
「よし、始めよう。今日はおっきなワンワンが媚薬漬けにされてちっちゃいニャンニャンとずっぷり生ハメ交尾するよ!」
スタッフたちのハイ!と言う威勢のいい声。
ここは地獄か。
まず自分に薬を盛って拉致ったこと。アウト。
契約段階でレイプとは聞いていない。それもガチ。アウト。
避妊具は用意されていないようだ。アウト。
明らかに18歳未満だろう少女たちはアダルト動画への出演、アウト。
契約とは明らかに相違のある犯罪具合。これは大当たりだ。
動画の趣旨としては「飼っている人間同士のレイプを高みの見物で楽しもう」というものらしい。
倒錯具合にドン引きのアルビノ。
自分名義のスマホ、情報屋から渡されている仕事用のキッズ携帯、どちらも手元にはないようだ。連絡の取りようがない。
まずはスタッフを動けないよう痛めつけてから探すか…。
ポケットから3個の紫の飴が取り出され、緊迫する空気。
カメラが回され始める。
撮影、スタート。
着衣のまま壁に繋がれた三人の少女たち。数歩離れて不自然に用意された薄汚いベッド。
体格のいいモブ男優が飼い主顔で白髪を掴む。
「いい格好だな。…ほら、オイシイ飴だ。舐めろ」
甘ったるいぶどうの香り。
口の中に紫の飴が3つ押し込まれ、力強い掌で塞がれる。甘い。
「どうだ、美味いか?これはよくキマるぞ。…はは、獣姦みたいになりそうだな」
女の子の怯える様子は、演技ではなさそうだ。
鼻を抜ける香りが変わった。震える己の肩。
「…お、我慢できなくなって来たか?…飴を見せろ。口からは出すなよ」
男がカメラに向けてアルビノを起こし、顎を向けさせる。
素直に開いた口唇。
赤い着色料に染まった口内には、三つの、「水色」の飴。
「……は?水色って………」
演技ではない男優の呆気に取られた声。
押さえきれなかった震えはにたりと瞳を歪ませる。
ガリッ!と尖った歯牙で偽装キャンディを噛み潰し、後ろ手の縄を引き千切る。
水色。
疲労感を麻痺させ、精神状態をハイへと強制的に引き上げるアッパー系。
市販薬すらも慣れていない体には効果は絶大すぎた。
目の前の男優を殴り倒し、監督を蹴り飛ばし、スタッフからナイフ等での反撃を受けながらも掴み掛かり、頭突き、噛み付き、蹴り転がす。
意識があったのは序盤だけだった。
痛い、熱い、鉄の匂い。
荒れ狂う獣のように逃げる背中を追っては動けなくなるまでボコ殴り。
回ったカメラに映るのはスナッフフィルムばりの地獄絵図。
周囲は血みどろ、スタッフは全員半殺し。
己も鼻血に切傷に返り血で紅く染まり、少女の悲鳴や気絶も仕方のない状況。
止まらないアドレナリンにオーバーヒート。
煩い、と混濁した意識で少女に掴みかかろうとした所だった。
倉庫の扉が開き、眩しい光の中に二人の男の影が見えた。
──懐かしく感じる声色。
振り向いた真っ赤なバーサーカー。
相手の方から見えた己はどんなに惨酷な愚者に見えてしまっただろう。
秋月視点へ続く>>
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