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嵐のような日

全体公開 1 6871文字
2021-02-27 01:38:26

25日夜~26日夜

Posted by @Alcod_s

2月25日 午前二時頃 一通の報告メールが入った。
寄せられた情報によると、とある男が変わった飴の注文と買い付けをしていった。という話。

"飴"とは、近頃後暗い連中の界隈を騒がせている薬物混入が疑われる物だ。
多種多様の効果と、それに合わせた多種多様の色と味。
薬効成分の含まれた甘いソレは、老若男女年齢問わずに受け入れられ、幅広い層に粛々と展開していっている。
摂取しすぎればいずれも反動で体に害が及ぶ代物。飴とはいえ、錠剤と同じで摂りすぎれば毒となる。

前年の年の暮れに自社の若手社員が起こした不祥事がきっかけとなったわけだが、そこに浮上してきた飴の売人は、年若くやせ細った、見るからに弱者と取れる青年だった。彼には危険なものを売っている自覚はなく、また本人もそれらを摂取しているため、便利使いの良い甘いおやつ、とでも認識されていたらしい。
女子大生やサラリーマン、果ては暴力団といった様々な団体のお客も揃えたひとつ対応を間違えば彼が消されかねない状況にあることを確認。彼から件の部下の情報を聞き出すこともあり、保護と庇護の契約を結んだ。

当然、情報を寄せた者――飴の売人である彼を野放しにしておくことはできず、監視する者が配置されて居る。
監視役と売人、彼らから寄せられたのは、“白髪”で“赤眼”の男が買い物をしていったという話。
飴に関する話で、アルビノに該当するのは一人だけだった。


『監視より報告。25日、夜半10時頃、飴を受け取りに来た白髪の男が、26日夕刻7時、都内某所のクラブへ入店するのを確認。店内には入らず様子を見ていたところ、裏口より怪しい連中が意識不明状態の対象を担ぎ出すのを確認した。追跡を開始する』

「了解、追跡はできるところまでで構わない」

『了解、監視を続行する』

2月26日夕の刻、売人につけていた監視二人の片割れのひとりから一報が入った。
クラブの名前と店舗の場所、表と裏の写真が遅れて送付されてくる。
 
最近ちょっと暇を持て余しているだろう裏方班に繋ぎを取った。
件のクラブの情報や口コミを集めてもらうためだ。


情報を探る間に、夕食を用意して置く。
社長とその他警護課の連中が少々遠出をしているために、人員は避けない。
駄菓子屋の店主も帰ってくるかは分からないが、まあいい。


追って報告があるまでに情報屋に連絡を取ろう。






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―――というわけなんだけど、何か知らない?」

友人という括りから、新たに会社との契約という形で関係を結んだ情報屋に電話で話を聞く。
彼自身の身の安全を担保に、協力を要請したので嘘を吐くことは不可能だ。

『あー、キッズ携帯持たせてっからーGPSわかるよー』

「キッズ携帯反応は追えそう?」

『任せとけー!』

情報屋の彼との通話を一度切り上げて、監視についている男からの着信を取った。

「もしもし、状況はどうか」

『追跡を続行、移動する車は様々な道を辿りつつ数人の男達を拾って港の倉庫街へ入って行くのを確認。車の通りが少ないためこれ以上の追跡は不可能と判断した。現在は倉庫街入口にて待機中。指示があれば』

聞く限りでは怪しい取引のネタに連れ去られたのか
メールで送られてくる詳細の限りでは、黒いハイエースに乗って居るのは男が四人、そして対象者と、その後乗り合わせた二人の計7人。
倉庫の持ち主以外が立ち入れば目立つことこの上なく、追尾も不可に。
こうなると情報屋の言った、キッズ携帯のGPSだけが頼りとなる。

「わかった、引き続き待機を。なるべく早くそちらへ行く」

了解。
短い返答とともに切れる通話。
GPSが追えるかどうかは、電源や電波の入り具合にも寄るもの。
海沿いに妨害電波を出す電子機器がなければ幸いだが

トゥルル
電話の着信音、次がなる前に受話をスライドする。

「もしもし、どうだった?」

『見っけた!都内海沿い、倉庫街だなー何してんだろ』

「アイコンは地図上のどこらへんにある?」

『え?あー、倉庫街全部がでけー塊になっててー、なんか真ん中らへんー』

真ん中らへん、というと入り組んだあまたの倉庫の中のひとつということ。
工業系やらの工場の資材置き場が主になるが、人気のなさ故に何かをするにはもってこいの場所だとも言えた。

「情報の提供に感謝を。このまま現場に向かいたいんだけど、君いま何処にいるかな」

『倉庫街に向かってんよー、ぜってーやべーわこれ。いま国道沿い電話ボックスんとこ!』

「国道沿いの電話ボックス、灰色のアレか。わかった、拾いに行くからそこで待ってて」

『りょ!』

急いで来てね!
なんて、茶目っ気溢れる声も追って聞こえた。
切れた電話の画面をしばし眺めたあと、知り合いの警察官に連絡を。

プップップ

「もしもし、耳寄りの情報を差し上げよう。大捕物には持って来いのとくダネだ」


都内某所のクラブで危ないものを取り扱っているとのタレコミを元に、警察が動き出す。
今まで尻尾を掴むことがなかなかできず、囮捜査しようにも、佇まいで警察官だとばれてしまうために捜査に乗り出せないのだという。
情報を専門に取り扱う外部の連中と、自社裏方班から差し出された情報を纏めて精査し、匿名メールにて警察へと譲渡。これで付近の警察官は概ねそちらに気をやってくれることだろう。

会社を後にする際、比較的同居人と仲のいい部下に声を掛けておいた。
食事は用意してあるから帰ってきたなら好きに食べるように伝えろと。
帰ってくることがないようならば、それはそれで構わない、と。

社用車で出ると身バレも含まれるため、バイクを駆って街へと降りた。
国道沿い灰色の電話ボックス前にそれらしい金髪を見つければ、いつかの如くフルフェイスメットを投げ渡して後部座席にご案内。スマホを拝借してメーター横に固定、表示されるGPSを追って最短距離を走り出す。
倉庫街の入口につく頃には、待機中の車両とも合流を果たすことが出来るだろう。




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倉庫街に潜入を開始
待機していた監視役に声を掛け、バイクで徐行ながらに先行する。
GPSのアイコンに近づくように少しずつ、時折足を止めて。
ようやくそれっぽいところにたどり着いたが、大きな扉も通用口らしき小さな扉も鍵が掛かっていて開く様子はない。ゆっくりと静かに着いてきた車のライトの助けを借りて扉を照らし。

「光が漏れてるから居るのは居る筈なんだけどなァ」

「こじ開けちまおーぜー」

待って」

強行突破を提案する若い声に静止の手。大きな鉄の扉に顔をそっと寄り添わせて耳を澄ます。
少しの間を持って、駆け寄ってくる足音らしき音の後、バァン!!と鉄の扉が内側から弾かれた。
中から何かが勢いよくぶつかったのか、扉から体を離し

「中で何か起きてるなぁ」

とりあえず様子見てみる?なんて隣の彼と顔を合わせた。
ひとつ頷いてみてしばらく、バンバン音がしていたと思ったらガチャ、と閂が外される音。
ギギギと重たい扉が横に引き開けられていく。

扉のあいた先が眩しかったのか、顔を覆う男が一人。
小柄で、臆病そうな、体格的には中肉中背のだらしのなさそうな外見だ。

―――っは、ビンゴ♪」

さてさて、中はどうなってるかな。
と、恐れ慄いて逃げ出してきたような表情の男を後ろの監視員に背を叩いて任せ。
中を覗いたら、見えたのは一面赤い世界でした。

「っわぁ♡」

「うっわ

ひくわー
という声が聞こえた。
まあ、見慣れなければそうなるだろう。

「修さん、あれはちょい見たことない。我失ってる、より上。完全イってる」

「あ、ほんとォ?えーじゃあ、アレ止めるからさ、ゆうくんはあっちの女の子達、おねがいね?」

保護できたら、監視の一人に引き渡してもいいし、気絶している子もいるから手首をガムテープで縛ってしまってもいい。トマト戦争の被害者かとも思える男の狂喜乱舞な様子に、意識のある彼女も正直ドン引きしている様なので、なんなら気絶させてくれた方が記憶にも残りにくいかと思われるが
そこは現場の判断、頭も回るし状況的なことを考えれば彼も出方がわかるだろう。

「さあ、お遊びの時間だ」

金髪の青年が聞いたのは、至極楽しそうに弾む声だった――






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場面的に見れば、白いベッドマットに、セット調の壁に繋がれた女の子が三人、カメラ機材とマイク、モニター、キャンプ用の洒落た椅子に、ガタイのいい男達。地面に倒れふしているところを見る限りでは間違いなく、彼にやられたのだろうが。

白色という清潔感と、赤色という血の共演。
白いシーツに血液がある、というのはスキモノには良い演出だ。だがそうじゃない。
ほんのちょっとの赤い跡、ではなく、わりと大量の夥しい血液の跡だ。

何をどうしたらこうなるのか、現場に散らばる死体。ああ失礼、まだ生きてるな。適度に痛めつけて立てなくなってしまっている状態の人間たち、その中に複数転がるナイフやバールといった凶器。血まみれの頭部や、見覚えのあるギザ歯の痕跡もある。
扉が開いた時から彼はこちらを向いていただろうか、掴みかかっていた未成年ぽい女子から手を離し、多少半狂乱な様子で向かってくる赤白お化け。血まみれになったシーツのようなそんな配色の。


「おっ。と、……ああこれは、」


相手の認識ができていない瞳孔の開き方だ。
水色の飴を紫の飴に加工し直したと言っていたか。
水色、疲労減退、アドレナリン過剰排出、テンションアップ効果が期待され。
その実、続けて摂取をしてしまうと薬効が切れたときに蓄積した肉体疲労が全て反動でその身に降りかかる。

殴りかかってくる姿勢は、狂戦士の如く。意識的な誘導も通じず、こちらの声も届かない。
身体能力の向上も多少含まれるのか、無駄な力の入っていない拳は何度か受けたときよりも速度が増していた。
彼の繰り出してくる無意識的且つ戦闘意欲に長けた攻撃をかわしながら、ベッドから徐々に離れるよう誘導を。
その間に、もうひとりがなんとかあちらの被害者を相手取ってくれるだろう。


「返り血では、ないな」


皮膚が薄いのか、出血がしやすい様子。頭部からは血が出やすいから、このまま血流豊かに暴れさせていればそのうち気絶するのだろうが、身体に影響を及ぼしかねないのでそれは却下、と思考する。
足場が安定したところで、猪突猛進、掴みかかろうと上半身を乗り出してくる動きが見えた。
両手を前に、柔道で奥襟を掴もうとする姿勢。
スーツの襟元が掴まれるのも構わず、上半身裸で血まみれの男の首をガッッと掴んだ。
ぐぐ、と指先と腕に力を込めて、何時かの二の轍は踏まぬ様、顔を寄せようとするのを片手で押さえ込む。
これから行なうべきは、闘うというよりは組み敷くといった考えの方が近いものか。

ここは本能の方が強い様子。気道を絞められるのがわかったのか、襟を掴んでいた両手が全力で首を掴むこちらの腕を剥がしに掛かろうとする。生存本能が強い様で助かったと、ひと呼吸。体が自由に動かせるのを確認し、首を絞める指の力をそっと抜きながら、男の右足が勢いよく彼の膝裏を蹴り抜いた。

ガクンッ と下がる姿勢。
同時に右手が彼の頭部を支え、左手で上から力任せに押し倒す。
精神的に虚をつくことは叶わぬだろうから、すかさず背後に回り込み、左腕を首の下に、右腕を頭の上に添え、胸元に抱き寄せる形で強く強く首を絞め上げた。
脇をしめ、腕の筋肉をこれでもかと使い、狂戦士の意識が堕ちるまであと十数秒

しばらくはジタバタともがいていた手足が、抵抗むなしくパタリと動かなくなった。
暴れっぷりがすごかったら危うく首をへし折るモーションに入りそうだったが、首周りの筋肉がそこまで発達していなかったのが救いかもしれない。絞め落とすのは可能だとわかったので、これもひとつ収穫か。

「はー……、疲れた」

腕を離しても暴れだしたりはしないから、騙しの演技ではなさそうで。

制圧完了。
上裸で血まみれの彼の身体。
背中の古い傷に、いくつかの小さな新しい刺傷痕。腕にも何箇所か見られるが、縫うほどの深いものではないか。きちんと止血をして消毒と治療を施せば傷跡も残さず治癒が可能となるだろう。


騙されて連れて来られたか、金を儲けるために自ら来たか、経緯は分からないが、救助を任せた彼女たちは大丈夫だろうか、と振り返れば、回復体位意識障害のある要救護者の生命の安全を図るためのものを取らされているのが確認できた。災害時講習でも受けたのか、身近に医療に携わる者が居るのか、ひとまずは任せて安心だったな、と安堵の息。
加害者であり被害者である彼らについては、今でさえ動けないわけだから暫くは放っておいて構わないだろう。
あたりを一通り確認した後に自らの体を起こし、脱いだ背広を気絶した彼の体へと掛けておいた。
ひとまずはこの倉庫に物的証拠を何も残さぬ様にしなければ。
スマホを取り出し、電話を掛ける。ピルルルル、音がすれば、そちらへと歩いて行こう。
彼から奪われた服と携帯端末がふたつ。衣類とそれらを回収して、彼の元へ。

血みどろついでだ、彼にはそのまま背広を着てもらって移動としよう。


「ゆうくーん、てっしゅー!」


うぇーい!
気の抜ける返事
彼が彼女たちを安全な場所に纏めてくれたなら
気絶した血みどろ狂戦士を肩に担ぎ上げて、電話を掛けよう。


プップップ

『はい、山形です』

「はい、秋月です」

本日はどうされましたか』

「ひとつ片付けて貰いたい現場があるんだ」

クラブ○○の一斉摘発の話は聞いた?
あれの関係で、違法で児童だったり未成年だったりのAV撮影している奴らが居てね
知り合いが攫われてしまったから迎えに来たんだけど―――
 カクカクシカジカ
わりと血まみれで物騒な感じになってます
と、説明をした。電話のむこうで渋い低音が困惑の声を上げたのがわかった。

わかりました、お手伝い致します。今回、尾上さんは』

「ありがとう。ああ、社長は別件でお仕事中なんだ、報酬なり何なりは奮発してもらうから」

『いえ。では、現場の地図と必要そうなものの提示をお願いします』

「話が早くて助かる。組長には言っても良いけど現場には来ないよう伝えて?めんどくさそうだから」

『はい。その旨しっかりと伝えておきます。片付け終了次第また一報を』

「了解、またね」


血まみれの現場の清掃
倒れた半殺しのスタッフと監督と思しき10人の片付け
保護してやりたいけれど手を出せない素人娘3人
そして、さっき駆け出てきた男がひとり。合計14名。
仕事を任せるのは都内駅周辺から手広く場を収めている「山吹組」
暴力団にしては潔さも持ち合わせ、組長は酒好き飲兵衛なことがその界隈では有名である。
懇意にさせてもらっている事務所なので、面倒なことは相談込みで、こうして協力してもらっている次第だ。

あとは帰る際だ。彼をそのまま人手に渡すことはできないので、駆って来たバイクと監視役の車を交換こ。
交換したのは4WDの白い車。後部座席にけが人を乗せる。多少シートが血まみれになるが、何かあったときはけが人を救急搬送したため、とでも言えばまかり通るのではないか。

現場の後片付けを全て、山吹組に任せ、緊急救出班は各々家へ―――





○○警備保障の所有する拠点アパートに、血みどろの彼を運び混んだのが夜中の12時を回ったころ。

これといった目撃者もなく、傷口だけ先に洗浄、消毒、保湿と治療を施し、防水テープで保護。
その後血まみれの彼の頭を洗ったり体を洗ったりと段階を踏んで後処理に追われた。

件の飴をどれだけ摂取したのかわからないが、意識が途切れていても持続効果はそこそこあったはずだ。
蓄積疲労による身体への反動効果もある、もう少し様子見に寝かせておくのが懸命だろう。




ゆっぺ視点へ続く>>
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