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追えば遠雷、殴れば嵐

全体公開 1 3462文字
2021-02-27 01:33:16

26日(夜)〜27日(早朝)

Posted by @uppe___

閉め切られたカーテンの隙間から、眩い朝日が零れている。

「湯川平八」宛の荷物が、少し受け渡しをサボっている間に部屋の空きスペースを占領してしまった室内。
敷きっぱなしで寝心地の悪さばかり年数とともに積み重なった布団の上、金髪の男が膝の上にノートPCを開いている。背を丸めて画面へと目を凝らし、ぱちり、キーを叩いてウィンドウを閉じた。

はい、終了ー

疲弊に掠れた声は誰にも届かない。とっくに吸い終わり、咥えたままになっていた煙草を足元に置いた缶の中へ押し込んだ。欠伸を噛み殺しながらPCを膝から床へやって、数時間画面を眺め続けた眉間を揉み、布団の上へ丸まる。

やっと眠れる。あのバカ、どうしようもないバカ、無事で、よかった。
数分と経たないうちに意識は眠りへと落ちていく。


◇◇◇


ある日の夕飯時。喫茶店、通りに面したカウンター席。ぶ、とテーブルに置かれたスマホが震える。いくつも通知の並ぶ画面に新たにバナーが増えた。
ずここ、ストローから珈琲を啜る音と共に端末を持ち上げロックを解除。今しがた届いた通知は親しい者に教えるアカウント宛だったか、文面は──……『今日中にお前を超える』。

……はあ?」

送り主は先天的に色素の欠乏した容姿を持つ相棒。性格はがさつ、すぐキレる。突如届いた青臭い台詞。何か対抗心を燃やしていることと、空回りしていそうな熱量だけは伝わる。
ああ、いよいよ何かやらかすわけだ。好きにすればいい、知れぬようフォローするのが大人の役目。
GPS追跡用に持たせてあるキッズ携帯、その信号をマメに追いつかず離れずの位置を保とう。あの聞かん坊、こういうことしてるの知ったら怒るから。
小さな溜息。現在地を確認し、空になった容器を手に席を立つ。

……一時間ほどが経った頃、“だるまさんがころんだ”は別の男からの連絡により中断する。


◇◇◇


最近懇意になった、一回りほど年上の男と相棒について話したのはいつだったか。「やる気になっている」、「何かやらかしかねない雰囲気だ」。
頭を使うのは情報屋の自分の仕事で、相棒にはいつどこで腕力を振るうか、それを伝えていれば十分だった。多少の衝突はあれ、それでうまくやってきたつもりだ。
──あの日、潜入先で不覚にも捕らえられ酷い怪我を負って帰るまでは。

まともに動かない身体を容赦なく痛めつけ罵った白髪。あれは不器用だから、「俺を連れていけばお前はそんな目に遭わなかったのに」とは言葉にできないのだ。
それから調査対象の飴を見たがったり、挙げ句自分で独自に転売先を探していたらしい。バレていないつもり、なのだろうが、そういうところが若くてバカ、視野が狭い、頭も悪い、それがいいところでもあるわけで。

―――というわけなんだけど、何か知らない?』
「あー、キッズ携帯持たせてっからーGPSわかるよー」

先んじて相棒の行動を握られたのに何も感じないわけではなかったが、伝え聞いた情報からして良好とは言えない状況にそれは意識外へ追いやられた。

相棒の居場所を示すマーカーは明らかに徒歩ではない速度で海側へと移動していた。電話の応答はいつもどおりの口調で、その周辺が何であるかを確認するや否や動き出す。


◇◇◇


「うっわ」(ひくわー。あ、やべ声に出た。)

辿り着いたのは倉庫街。
男と共に相棒が連れ込まれた倉庫へと入ればあまり見ない数の血痕、血溜まり、極めつけは──……

「修さん、あれはちょい見たことない。我失ってる、よりも上。完全イってる」

キレて我を失い暴れる様子なら何度も見た。が、今血まみれになっている相棒からはそのいずれとも違う違和感と殺意を感じて素早く男へと伝える。あれを自分の力でねじ伏せることは不可能だ。
連れ立って来て正解だった、と思わざるを得ない──「さあ、お遊びの時間だ」などと、楽しげな声すら聞こえた。

戦闘はそちらへ任せ、うまいこと白髪を利用するつもりだったのだろうその辺に転がっている大人は無視、哀れにも性的に搾取をされようとしていた三名、いずれも痩せ細った女子──恐らく、確実に、未成年──たちの元へ駆け寄った。

「やっほー♡大丈夫、大丈夫だよー逃げよーなー」

にっこりと笑みを見せながら近寄れば、恐怖のあまりか既に二名は気を失っている。残り一名に軽く手を振るが、怯えきって言葉を発することもない。
辛うじて服は着ている彼女らを壁へ縛り付ける器具を確認する。捕らわれた側は自力では抜けられないだろうが、鍵の類もなく外すのは容易い型だ。

そこへ手を伸ばしかけると同時、彼女らが目にしたもの、ここから目にするかもしれないものについて思考を巡らせる。心的外傷になりかねない、か。とうに手遅れかもしれないが。意識を保っている一人の少女の顔を眺め、「ごめんな」と口の中で呟く。次の瞬間には細首へ手刀が打ち込まれ、かくりと彼女の身体から力が抜けた。

拘束具を解いては血の飛び散っていない床へ回復体位で寝かせていく。憎たらしい関西弁の看護師に教わった知識も少しは役に立つようだ。気に食わないが。

「ゆうくーん、てっしゅー!」
「うぇーい!」

いつの間にか背後では相棒が見事鎮められ背広が被せられている。信頼はしていたが、気絶させた、と分かれば戦闘の腕に感心するより他にない。

撤収する間際、撮影機材をすべて確かめるのはこちらの仕事だ。カメラ本体はもちろん、付属品と思しきものはすべて一度至近へ寄り確かめる。
……大掛かりな仕掛けは何もない。ネットワークを構築する機械の無いこと、それに類する機能を持つものとカメラの型番が一致しないことを用心深く確認した。
転がっているハンディカメラを拾い上げ、記録媒体の小さなカードを吐かせる。

「ゆうくーん、いくよー」

電話を終えた男の声が再び背中にかけられる。へーい、と返事をしてカメラを手にそちらへ踵を返す。
車へと乗り込む前に本体は波止場から思い切り海へと投げ捨てた。

……あとはこのカードのデータさえ消し飛ばせば、万事問題はないはずだ。団体の摘発、現場の証拠隠滅、少女らの保護、その他諸々は言わずともやってくれる。それだけの力がある男と、企業と連携している。

確信はあっても胸糞の悪さは拭えない。相棒が巻き込まれたのはまあ、彼自ら足を突っ込んだことにしても、奴らの取っていた手段方法が下劣だ。くそったれ。
車の中、行き先を尋ねる男は相棒の介抱を手伝ってほしそうでもあったが、自宅付近で車を降りた。データをいち早く始末するためと、あんな大口をたたいておいて救出されたとあっては相棒の立つ瀬がないだろう。説教だって、きっと男のほうが上手だ。

「じゃー修さん、わりーけどあとよろしくなー」

笑う顔。ひらひらと振った手。
あんただから任せるんだ、なんて言葉は浮かびもしない。言葉にするには青臭すぎて、そもそも言葉として浮かぶより前に振る舞いに内包されているから。


◇◇◇


正午近く、自宅へ入るなりまず煙草に火を付ける。玄関で立ったまま暫く煙を燻らせ、やがて動き出した。

PCへカードを読み込ませデータを確認もせず端から消去する。端末上で消去を完了してから取り出し、復元不可能なようにカードを粉砕した。

念には念を、安心材料は多いほうが良い。
開いたままのPCで数時間インターネットの海を彷徨うが、件の違法動画集団の情報こそあれ先程の顛末については些かの情報も転がってはいない。

本当か?今日辿った経路を地図上視線でなぞる。秘密裏に仕掛けている僅かな数のカメラの録画を早回しに確かめていく。使える手足は使う、そのための道具だ。不安要素をひとつひとつ、潰していく。

……ああ、よし、これで何も、問題はない。


◇◇◇


「いって!用があんならふつーに言えよなー?」

あいつ、いつもいきなり頭突きしてきやがる。
そんでいっつも、「仕事よこせ」なんだよな。

あ、これ、夢だな。

はいはい、次はこいつ。メモを渡してやる。
ついでに下世話で間抜けな話。

ごち、今度はこめかみ。

バアカ」

この頭突きは痛くねえんだ。いつもそれくらいで頼む、マジで。
つーかさあ、バカはおまえなんだよ、嵐士。


◇◇◇


続き(後日談・白髪の相棒視点)
https://privatter.net/p/7125731


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