銀座の宝石商にくるちょっと変な客の話
赤い石のおまけ
@syuu_29
銀座の宝石商には時折一本の電話がかかってくる。それは決まって雨の朝であり、ちょうど電話をかけようかと店主が思っているときにかかってくる奇妙な電話である。おかげでベルが鳴るだけで予感さえ授けてくるほどだ。それは必ず注文の条件を満たす石が入ったかの確認である。催促をしてすまないと詫びられながらとんでもございません・もちろんご用意ができましたと答えれば、薄暗い空の下、雨で客足の遠のいた夕方にその男はやってくる。大きな蝙蝠傘の下、目深く被った帽子もインバネスコートも革靴も黒の真っ黒な装いの異人だ。この背の高い鷲鼻の男は襟元にいつもスカーフを巻いていて、肌を出さぬよう気を遣っているらしい。そういえば白い手袋の下を見たことはない。
帽子を取れば青白い頬に古そうな傷跡のある白髪の老人だが、背が曲がったり、杖をつくような衰えなどはまるでなく、髪と同じく色素の抜けた眼差しもどちらかといえば鋭い。そしてコートを預かればいつも古くも良い仕立ての洋服を着ている。そしてそれがたいそう似合っていて、無理がない。背伸びをして宝石を買うような客ではないことは佇まいからも明らかだった。
電話にはどこか薄気味悪いところはあるが、対面時の印象どおりに金払いはよく、また、新しいものほど欲しがる客だった。一度など質のいいサファイアのブローチが質屋から流れてきたタイミングで見せたことがあるが、古いものに興味はないと一蹴されたことがあった。質でいえば条件を満たしているので食い下がれば、彼はコートの下にいつも着込んでいるクラシックな洋装に自分で目を落とし、「骨董好みに見えるかね」と皮肉っぽく笑ったものだ。そして「それはそれで使い道もあるが、扱いにくい。余計な台座もいらん。毎回言っているとおり我が輩は裸石が欲しいのだ。複雑なカットにも興味はない」とばっさり切り捨てて「今日はその右端のルビーだけでいい」とあっさりしたものだった。
知らせをくれと頼まれる条件はいつも変わらず、新しく、透明度の高い裸石であること。カラットの目安の指定はあっても、予算の目安を言われたことはない――時折悩むような素振りをみせることはあるが――まあ相場だなと納得して金を払っていく。少し欲を出して値付けをすれば「高すぎるだろう」と渋い顔で相場の値段を指摘するので目利きでもある。だがわかっているのはそれぐらいで、実のところ男が何をしているのかはまるで知らない。筑土町で業魔殿という店をやっていると聞くが、筑土町を散策した折に辿り着けた試しはない。人に聞いても正体は定かではない。確かにつながるものは電話だけだ。それもほとんどこちらからかけた試しはない。
「お足元の悪いなか、いつもありがとうございます」
ジュエリーケースを包み、渡すころには男は来たときのようにすっかり着込んでいる。電灯の下ならともかく、暗闇に溶け込んでいく姿を見送ろうとするのだが、頭を下げればいつも見失ってしまう。
だが支払われた金が木の葉に変わったりなどはしていない。いまのところは一度たりとも。
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赤い石のおまけ
https://privatter.net/p/7214181
自分で使う宝石は自分で仕入れるヴィクトルという補足妄想なのであった
業魔殿には呼べないから(デビルサマナー以外の表用の応接室がある妄想はあるが、宝石商なんか定期的に呼んだら金王屋がうるさそうなので呼ばないと思う)自分で買いつけにいくんすよ…