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アースガルズへようこそ!

全体公開 2132文字
2021-05-18 16:47:30

プロローグ

Posted by @acbh_dmc4

ユグドラシルの大部屋での戦闘の最中、突如としてエイヴォルとバシムは宙に投げ出され、空中を自由落下していた。
淀んだ深い水の中のような薄暗い空間を、いつまでもいつまでも落ちてゆく。
終いには下からただ風を受けているだけのような気さえするほどただ只管風に煽られ、翻弄されていた。

このままでは確実に命を落とすとパニックになっているエイヴォルを視界の端に納め、バシムは無意識のうちに彼女に手を伸ばした。
少しだけ距離が開いていたその空間を、まるで泳ぐように空を掻き、彼女の傍へと寄る。
死の恐怖に顔を歪めきつく目を閉じ、青ざめた彼女の顔を見ると、バシムは今まで感じていた前世での恨みつらみが解けていくような気がして必死に引き寄せた。

このままいつまでも見えてこない地面に激突し、潰れた肉塊と化すとしても、彼女を腕に抱き、混ざり合うように死ねるならそれでも良いとすら思えた。
だがその前に、彼女の美しく澄んだ青く煌めく瞳が見たい。
バシムは華奢なエイヴォルの腰を強く抱き寄せると、それに反応するように、ゆっくりと長い睫毛に飾りつけられた瞼が開き、青の瞳がバシムを見つめた。

刹那、バシムとエイヴォルは高くそびえる扉の前に立って居た。
緑豊かな美しい大地と虹の橋を見下ろす高台に二人きりで、まるで愛を誓いあった恋人同士の様に抱擁しながら佇んでいる。
まだ体は、落下の恐怖から固まり、まるで石像になってしまったかのように動かない。
既に肉体は滅び、魂だけで存在しているというのか。着地をした記憶もなく、地面に激突するの直前に気を失い、苦痛を味わう前に死したのだろうかと、ぼんやり考えた。


「な、何者だ?!貴様ら……い、一体どこから現れた?!」

急に背後から人の声が掛けられた。
そこで漸く呪縛から解かれたように、バシムとエイヴォルの体の緊張が取れ、同時にその場にへたり込んだ。
足の感覚がまるでない。
あまりの恐怖に精神は異常に消耗して、体に力が入らなかった。
それでもバシムはエイヴォルの体を抱きしめ続け、腕の中の彼女は、その細い身体を震わせていた。


「おい、何か答えないか、不審者め!」

尚も詰問する男の声とともに、エイヴォルとバシムの顔の合間を縫うように剣が割り込み突き付けられた。
視線だけでその剣の先を辿り、柄を掴む手と、その先にある持ち主の顔を見て、バシムは再度驚きに息を飲んだ。

己よりも幾分か年若いが、まるで己と同じ顔で、特徴的な髪型をした男が不審げに二人を睨みつけている。
何かを言わなければ攻撃されるかもしれないが、ついさっき二人に襲い掛かった恐ろしい体験に、バシムの口は強張り固まったままだった。

「どんな魔術を使ったか知れんが、悪だくみに失敗して顔色を無くしているのか?ここに現れる予定ではなかったとか?ひとまず、お前たちはハーヴィの元へ連れてゆく!そこで洗いざらい罪の告白をするのだな」

男が言いざま、二人を引き裂く様に、剣をそのままゆっくりと振り下ろした。
このままでは二人の腕や胸が刃に引き裂かれるが、やはり体は石のように動かない。
懸念通りにバシムとエイヴォルの腕が、僅かに切り裂かれたところで、乱入者の男が小さく悲鳴を上げた。

「痛っ!?な、何をした!貴様……っ!?」

固まり震える首をゆっくりと男の方に向ける。すると、男の腕には、バシムと同じ位置に小さな切り傷が出来ていた。
ますます不審に男が顔を顰め、きつく二人を睨みつける。
そして、一先ず剣は収め、エイヴォルの頬を抓り上げた。

…………
……
「別に何ともないな。じゃあ、こっちか?」

バシムはエイヴォルに触れる男の手を切り落としてやりたい衝動に駆られたが、それが今度は己に伸びて、同じように強く頬を抓られた。

……痛い。成程、俺の顔をした方が原因でこの傷が俺に出来たのか。どんな魔術を使ったんだ?変身の術はお粗末だが、こっちは見事なものだ」

不機嫌そうに男が感想を述べると同時に、ガクンと腕が重くなった。
もう一度前を向けばエイヴォルの緊張が極限に達した為か、気を失い、目を瞑って凭れかかっていた。
そんな彼女の無防備な顔を見てバシムはようやく体に力が入るようになってきた。

深く重いため息を吐き、自らを落ち着けるようにエイヴォルの体を抱きしめる。
男は、ようやく動きを見せたバシムを不機嫌そうに睨みつけると、また詰問を始めた。

「女は気を失ったようだな。面倒だ。お前、その女を運べ」
……い、いいや、無理だ。……腰が抜けている。先ほど、まで……物凄い高さから落下した……と思った。それに、何故我々がここに居るのか……分からない」
「何?来たくて来た訳じゃないとでも言うつもりか?それを信じろと?」
「信じる必要はない。だが、彼女は……どこかで休ませたい」

げっそりとした顔で、厚かましい願いを口にすると、目の前の男―――ロキは疑い深くバシムを睨めつけてからどこかに合図を送った。

次の話


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