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トロンvs三兄弟(遊戯王ゼアル4th)

全体公開 遊戯王ZEXAL(Pixiv未UP) 2 12 42400文字
2021-06-13 11:16:35

遊戯王ZEXALアフターストーリー
遊馬たちの新たな冒険
散らばった新たなナンバーズ
ナンバーズの力、再襲!!!

ストーリー(@furerera)
デュエル構成(@IDyUYI_30)

始まり→https://privatter.net/p/7342997

『トロンVS三兄弟!
 覚醒、No.18紋章祖プレインコート‼︎』



海外リーグから帰国したⅣが、「どうにもキナくさいぜ」と資料をテーブルにばらまいた。
そこには、海外で起きたあらゆるデュエル絡みのトラブルが細かく記載されていたが、どれも赤い文字で大きくN/A(該当せず)と記載されていた。

同業 プロの連中にも探りを入れてみたが、ナンバーズの関与を疑わせるような事件は、どいつも心当たりがねえみてえだった。あの頃とはどうにも勝手が違え」
「アストラルがいた頃は、ナンバーズは世界中に現れていたはずだが……

Ⅴが資料を手にひどく難しい顔をした。
以前は、世界中に現れたナンバーズ。世界中からデュエリストが集まるWDCが開催されたのも、国外に散らばるナンバーズを回収するためだった。

「やはり妙だ。あまりにも出現がハートランドに集中しすぎている」

凌牙とカイトの前に、同時に現れた新たなナンバーズ。
存在しないはずのナンバーズを持つ新たな敵。目的の見えない黒幕。ナンバーズは全て、アストラルが回収し、無害化したはずだった。
だというのに、ハートランドでナンバーズ絡みの事件は絶えない。大きな事件もあれば、些細なトラブルで済むこともある。傾向は一貫せず、不明瞭だった。

共通しているのは、各地のナンバーズの事件が、すべてこのハートランドで起こっているということだった。
Ⅲが、Vの前に紅茶を置いて、トレイをギュッと抱きしめたまま、不安げに兄たちを見上げた。

「なぜでしょう。なぜ、ハートランドに……
「さあな。だが、偶然にしちゃあ出来過ぎだ」
「仮説は二つに一つだ」

Vが、紅茶を一口、喉を潤して、顔を上げた。

「一つ、誘因。ナンバーズを呼び寄せる何かがここに在る。二つ、元凶。ナンバーズ出現の原因がハートランドに潜んでいる」

始まりは、Ⅳの前に現れたMr.ハートランドだった。
空白のブランク。黒い白紙のナンバーズ。
それを手にしたⅣが行方不明になった。思い返せば、あの事件が全ての皮きりだった。Ⅳが苦々しく舌打ちする。

「兄さま……
「これまでの傾向を見るに、心の闇を増幅する力は、以前よりも強化されているかもしれない」

Vが顎に指を置いて、眉間に皺を寄せた。

紋章に護られていたとはいえ、カオスナンバーズ三枚を完全に御してみせたⅣの精神力は本物だ。ナンバーズ耐性だけでいえば、兄弟の中ではⅣが最も高い。
そのⅣが、たった一枚のナンバーズで、ああも簡単に敵の手に落ちるとは。

「我々も気を引き締めなければならない。特に、トーマス、お前は一度、未知のナンバーズに操られているのだから」
「わーってる」



Ⅳは苦々しく手を見つめ、握ったり開いたりした。

黒い空白 ブランクのナンバーズ。刻印の数字だけが浮かび上がり、Ⅳを瞬く間に支配したカードは、ナンバーズ51。

四枚目のギミックパペット。
まるで黒炎に触れたような、異様な熱と異常な苦痛は、解放されてもしばらくⅣを苛んだ。

禍々しく、異様な力だった。
言葉にしろと言われると、言葉にしようがない。だが、ひとつだけ言えることがある。

あれは、人間の手に負えるような代物じゃあ、ない。



「クリス兄さま、アストラルとのコンタクトは?」
「カイトが試みているが、上手くいっていない」

Vが眉間に皺を寄せたまま、思案げにこめかみをノックした。

「新たなナンバーズについて、アストラルが情報を握っているのは間違いない。だが、連絡を取ろうとすると酷いエラーノイズの嵐だ。何者かによる妨害か、あるいは、まるでアストラル自身が接触を故意に絶っているかのようだ」

謎は深まるばかりだった。

アストラルが全て回収したはずの、新たなナンバーズの出現。
周囲を害したかと思えば、持ち主を明確に守ったりもする、危険性にバラツキのあるカードたち。
かつてベクターがばらまいた、ドンサウザンドの『偽のナンバーズ』とも異なる。
だが、そんなものは『存在しない』はずなのだ。ナンバーズは全て、あの戦いで全て回収されたはずなのだから。

絶体絶命の遊馬を助けに現れたきり、連絡が付かないアストラル。
ハートランドに異様に集まる、ナンバーズ絡みの事件。

情報が足りない。

「敵の正体が見えんな。せめてアストラルとコンタクトが取れれば……
「なぜでしょう、遊馬が危険にさらされているのに、アストラルはどうして……?」

遊馬を何より大切に思うアストラルならば、どんな手段を使っても、必要な情報をこちらに渡そうとするはずだった。
カイトやフェイカーは、それを回収しうる技術を持っている。なのに、アストラルにその素振りが無いのは、一体どうしてなのか。

「ナンバーズはアストラルの記憶なんだから、無関係なはず無いのに……
「無関係……?」


Ⅳが、ピタリと動きを止めた。
「逆なんじゃねえか?」
「何?」

「着眼点が違うんだ」

Ⅳは、テーブルに散った資料を、今までと逆に広げた。

「そうだ、ナンバーズは、何でバラまかれた?」
「ナンバーズはアストラルの記憶で……
Ⅳの言いたいことを察して、はた、とⅢも動きを止めた。
「そうだ。ナンバーズは記憶なんだろ。アストラルが人間界にやってきた時に散らばった。けどよ」

Ⅳが投げ込んだ一石は、鋭く波紋を広げた。

「アストラルの記憶は、何でバラバラになったんだ? 理由を誰も知らねえじゃねえか」

今までとは違う切り口に、IIIは大きく目を見開いた。Ⅳは資料を手繰った。


「アストラル、ナンバーズのオリジナル。遊馬に取り憑いて、ナンバーズが人間界に散らばった。遊馬に取り憑いた時に、だ」

指摘するⅣは、鋭く核心に迫った。

「原因がアストラルじゃねえなら、遊馬の側にあるんじゃねえか?」






その時だった。
三人の思考を邪魔するような、威圧的な空気が、急に部屋を強く押し潰した。

「帰ったよ」

ざわ、と空気が変わった。

「と、……トロン」

父さん、と言いかけた呼びかけをⅣが修正したのは、纏う空気があまりに、柔和な穏やかさとかけ離れていたからだった。

三人は反射的にすぐさま凍り付いて、この家の絶対君主の一挙手一投足を息を呑んで見つめた。

カツン、カツン、と足を進めるトロンに、三人が反射的にザッと退いて道を開ける。


Ⅳが広げた資料を、ぺらりと一枚、トロンは手にとって、無関心な声を出した。
「よく調べたね」

ぞわ、と背中が粟立った。

「ナンバーズはハートランドに集中している。それってさ、裏を返せば、国外に出てしまえば、無関係でいられると証明されたようなものだよね?」
「な、にが言いたい?」

Ⅳは、向けられる重圧に、必死に抗いながら、反抗的にそう言い縋った。
トロンは嘲笑うみたいに「ふふ」と、物覚えの悪い犬を見るみたいな冷たい目を向けた。

「言わないと分からない? 僕はね、キミたちに、この国を出ろって言ってるんだ」

「な」
「えっ」
「そんなっ」

三人を国外に追いやろうとするトロンに、三人とも蒼白で混乱を呈した。

「と、父さま、なぜ今……!? だって、今、今こそ、遊馬たちには仲間が必要で……!」
「キミたちが力不足だから」

無情な一刀両断に、IIIが、喉をヒクッと鳴らして黙り込んだ。

「アストラルがいた頃は、復讐という明確な目的があったから、リスクを取って渦中に飛び込みもしたけどね。今、そこまでする必要ある?」

ドサッと椅子に座ったトロンは、脚を組んだ。

「Ⅳ、キミは一度、出所不明のナンバーズにすっかり操られちゃったよねぇ? ああ、そんな顔しないで、褒めてるんだよ? カオスナンバーズを三枚御してみせたキミの精神力は本物さ! で、その点だけで言えば、ナンバーズ耐性に劣るIIIやVが、キミの二の舞にならない保証、ある?」

トロンはめんどくさそうに三つ編みを弄って、後ろに流した。

「実験の観測は、安全な外側からの観察が基本だろう? 半分人間じゃない僕ならともかく、キミたちを持っていかれたら戦況が悪くなる。キミたちの投入は、時期を見て僕が決めるよ」
「ま、待って、待ってください……! そ、それは……!」

潜水艇を安全な避難所として機能させるために国外で動いていた、あの時とは違う。

トロンは、些事を捨てろと言っている。一見すると合理的だが、その実、今まさに火中にいる遊馬や凌牙やカイトたち、それにハートランドに生きる非力な小鳥たちは、状況がハッキリするまで捨て駒や囮にしても構わないと言っているに等しい。

そのようなことは、断じて受け入れられない。IIIも、Ⅳも、Vもだった。

「オイ、トロンッ!」
ガタッといきり立ったⅣの肩を、Vがグッと掴み、押さえ込んだ。
Ⅳが「オイ、Vッ!」とカッと声を荒げたが、Vは前を睨んだまま微動だにしなかった。
トロンを見つめたまま弟を後ろに追いやって、Vが、一歩前に出た。

「貴方は、我らを試しておられる」

それを聞いたトロンに、ふふ、と人の悪い笑みが向けられる。
「なぁんだ、騙されてくれないんだぁ?」



トロンは意地の悪い笑みで、道化じみた仕草でパッと両手を広げた。
「半分は本気だよ。ここで素直に言うコト聞く程度の覚悟なら、さっさと戦線離脱した方がずっとマシさ。サンプルを見てきたけど、アレはヤバイね。僕らの紋章科学でカバーできる範囲を超えてる」
……!」

平然と述べられた内容は、戦況がかなり悪いことを示していた。
つまり、フェイカーやトロンが、バリアンたちが協力しても、ナンバーズの洗脳を防げないという意味だからだ。

「そんな……
「先手を打たれたら負けるね。下手をすれば総崩れだ」

トロンは目を細めて、青い顔をした三人を見回した。

「下手を打てば、ハートランドそのものが壊滅……なぁんてことも、あるかも」
……っ」

「命がけになる。 キミの時、凌牙が無事だったのは、本当にただ運が良かっただけ。僕の計算では、の手を使った凌牙が無事に済む保証はなかった」

コツ、コツ、とトロンの指先が、こめかみをノックする。

「最悪の想定は、いつでもしておくべきだ。リスクは分散すべきだよ。国内が壊滅した時、外部から取り返せるメンツがいた方がいいのもホントさ」

Vが、冷たい空気に息を呑みながら、慎重に進言した。

「戦力の分散は危険かと。敵の目的が見えない中では……
「そう? 僕は少し分かる気がするけどね。花一匁さ」

トロンは膝の上で、ゆっくりと、一本ずつ擦り合わせるように、指を組んだ。

「あの子が欲しい。敵はこちらの駒を欲しがってる。少なくとも、 キミでない誰かをね」

トロンは冷たい目をした。

「また来るよ、間違いなく。今度こそ、本命を取りにね」

トロンの目が、スッと何かを見据えて、闇を孕む。

「僕の勘では、遠くない内に、誰かが欠ける」


三人とも息を呑んだ。


「だ、誰が……?」
「さぁ、そこまでは。遊馬かもしれないし、凌牙かもしれないし、カイトかもしれないね。あるいは、キミたちか、バリアンか、他の子たちかも」

トロンは肩をすくめながら首を横に振った。

「だったら、選択肢は絞った方が、まだ防ぎやすい。キミたちを離脱させれば、少なくとも罠は張りやすくなる。問題は誰を囮にするかだけさ」

Ⅳが、ザワッと毛を逆立てた猫のように、全身に怒りを纏って低く唸った。

「それを聞いて、ハイソウデスカって、オレたちが言うと思ってんのか……!?」

トロンがかつて、神代凌牙と神代璃緒を、互いを餌にどんなふうに罠に嵌めたか、Ⅳは知っている。
Ⅳの傷は、撒き餌にされた証だ。それを諾とするなど、できるはずがない。トロンは間違いなく、それを承知で煽っているのだ。

「できるの? あんな強力なナンバーズの洗脳を跳ね除けて、仲間を守れる?」

トロンは冷たい目を向けた。

「下手をしたら、操られた仲間にトドメを刺すのは、キミたちになるかもよ?」

「そんなことは、させませんっ!」
Ⅲが声を上げた。真剣な翡翠の瞳が、必死にトロンに訴える。
「僕らは遊馬に救われた! なのに、ここで僕らが安全な場所に逃げて、万が一、そんな一番辛い役目を遊馬にやらせることにでもなったら……! 僕は自分が許せない!」

「我らはいつまでも、無力な子供ではない!」

Vは、復讐に走るトロンをその手で止められなかった事を悔いている。
それを煽るような火の付け方をしたのは、試しているからだ。覚悟を、意思を、決意を、そして、心の強さを。

ナンバーズは心を映す鏡。

「そこまで言うなら、デュエルする?」

トロンは、パッと両手を広げた。

「キミたちが、僕に潰されないって言うなら、考え直してあげる。もう止めないよ。……でもね」


ざわ、と重い闇の気配が広がる。



「キミたち、僕に勝てたこと、あったっけ?」





ブワッと強烈な寒気が、三人を襲う。
汗が吹き出して、ボタッと床に落ちる。息を呑む音は、IIIか、Ⅳか、Vか、その全員か。

だが、三人とも引かなかった。


……トロン、貴方には考えがあるのでしょう。貴方がいかに偽ろうとも、我らは貴方を信じている」

ジリ、と緊張の糸を引き絞ったまま、Vが、弟二人を庇うように片腕で制した。

「だが、それでも、我らにも譲れないものがある」


限界まで引き絞られた糸のような緊迫感の中
ザッ、と最初に前に出たのは、Ⅳだった。


……やってやる。自分 てめえ失態 ケツは、てめえで拭くさ」
「トロン、貴方は、我らを試している。求める水準に達しているか測っている。期待に沿わなければ、本当に我らをここから遠ざける気だ。だが、それは断固受け入れられない。決して」
「トロン、僕らは決めたんです……! 僕らは今度こそ、大切な仲間の力になると……!」

翡翠の瞳が、鋭く光を宿して、煌めいた。

「そのためなら、貴方だって超えてみせる!」



ぶわりと広がった覇気に身をさらしながら、トロンは口元だけでニィッと笑った。


「いいね、そう来なくっちゃ」


うっとり首を傾げるように目を細めて、子供たちの本気の覇気を受け止めたトロンは、満足げに頷いた。
その仕草に、ここまでの全てが、トロンの計算 てのひらの上にあることを、IIIもⅣもVも瞬時に悟った。
……っ!」



「成長した姿を見せておくれ。期待はずれだと、思わせないでおくれよ?」






カタ、とトロンは席を立った。
「場所を移そうか。ここは四人でやるには狭すぎる」





◇ ◇ ◇


場所を移した先は、ハートの塔の研究区域だった。
真っ白で四角い閉鎖的な、広い広いデュエル場は、かつてクリスがカイトを不眠不休デュエルで鍛えた場所だ。

ここは上から降り注ぐセンサーで、デュエル中の反応の全てを観測している。
かつてはカイトの限界を見極めるために使用した設備だが、常にフル稼働しているはずのその設備が、今日に限って何の予定もなく開放されていることに、強い作為を感じる。

Ⅳが真っ白なフィールドを見回して、唸るように「ずいぶん用意がいいじゃねえか」と吐き捨てた。

デュエルディスクを用意しながら、トロンが意地悪く笑って「わざわざ言葉にして欲しい?」と、作為を隠そうともしなかった。


「さて、始めようか」


展開したデュエルディスクに、トロンが素早くデッキをセットする。


Vも、Ⅳも、IIIも、油断なく構えた。
……兄さま」
「ああ、わかってる」
「そう、我らは証明せねばならない」

スラリと立つトロンが、対側で笑った。
それだけで、重いプレッシャーがずしりと圧をかける。

「我らの決意は、あの方を超えると」






トロンは悠然と微笑んだ。
「先行は譲るよ。兄弟順にミハエルからね」



―――ターン1―――

Ⅲが、大きくカードを振り上げた。

「僕は《先史遺産 オーパーツ ネブラ・ディスク》を召喚します! このカードが召喚に成功した時、デッキから《先史遺産 オーパーツ》カード1枚を手札に加えます。そして手札に加えた《 先史遺産の共鳴 オーパーツ・レゾナンス》の効果! フィールドの《先史遺産 オーパーツ》モンスターよりレベルが1つ高い 《先史遺産 オーパーツ》モンスターを手札から特殊召喚! 現れろ、《先史遺産 オーパーツ モアイ》!」

ずらりと並ぶ《先史遺産 オーパーツ》。場にはレベル4とレベル5のモンスターが一体ずつ。Ⅲは手札を一枚抜き取ると、パッと掲げた。

「さらに、フィールドに《先史遺産 オーパーツ》モンスターがいるとき、 このカードを手札から特殊召喚! 出でよ、《先史遺産 オーパーツウィングス・スフィンクス》! レベル5、先史遺産 オーパーツ モアイとウィングス・スフィンクスでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れろ、ナンバーズ33!」

闇色の渦に吸い込まれていくモンスター。浮かび上がる数字。
顕現する、天空に浮かぶ巨大な要塞。

先史遺産 オーパーツ超兵器マシュ=マック!」

顕現したナンバーズ。状況次第でワンターンキルも狙える強力なカード。
それを見ても、トロンは微笑むだけで動かなかった。

「カードを一枚セットして、ターンエンド! トーマス兄さま!」

弟の呼びかけに、Ⅳが頷いて「オレのターン、ドローッ!」と声を張り上げた。

―――ターン2―――

Ⅳは伏せられたカードに素早く目を通し、口角を吊り上げた。

「オレは魔法《闇の誘惑》を発動! 2枚ドローし、《ギミックパペット─ネクロドール》を除外する! さらにオレは魔法 《D・D・R》 ディファレント・ディメンション・リバイバルを発動し、除外したネクロドールを特殊召喚するぜ!」

宙空に裂け目が現れ、中から片目人形が転がり出る。
不気味な笑い声を上げながら、地獄人形はカタカタ揺れた。

「さらに《ギミック・パペット-ギア・チェンジャー》を召喚! こいつは場にいるギミックパペットと同じレベルになる! さあ、ギアアップだ、ギアチェンジャー!」
ひしゃげた関節人形が、頭に付いたレバーをガコンと下ろす。レベル8のモンスターが、二体並んだ。
「まだだ、装備魔法《オーバーレイ・サテライト》! こいつを装備したモンスターは二体分のエクシーズ素材となる! レベル8となったギアチェンジャーと、二体分となったネクロドールでオーバーレイ! 三体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
光の渦が巻き起こり、中から金色の獅子が顕現する。

「地獄の底に君臨する獅子の王よ、立ちはだかる闇を切り裂け! これがオレの最強の切り札! ナンバーズ88──ギミック・パペット-デステニー・レオ!」

金色の獅子が大剣を地面に突き刺し、玉座に君臨した。Ⅳは手を突き出した。
「《オーバーレイ・サテライト》で召喚したモンスターは攻撃できない。だがな、それで充分だ!デステニーレオ!」

まとった三つのオーバーレイユニットの内、ひとつが金色の獅子に吸収されていく。

「効果でオーバーレイ・ユニットを一つ取り除く! そして、このカードのオーバーレイ・ユニットを三つとも使い切ったとき、デュエルに勝利する!」
三つのカウントの内、残りは二つ。Ⅲが兄に向けて声を張った。
「トーマス兄さま!」
「さて、家族サービスといこうか。オレは《おろかな副葬》を発動し、デッキから《マーシャリング・フィールド》を墓地へ送る!」
伏せられたカードにちらりと視線をやって、Ⅳはニィッと口角をつりあげた。
「さぁて、オレとミハエルがここまでお膳立てしたんだ。しくじんなよ? ターンエンドだ」

―――ターン3―――

「私のターン、ドロー!」
Vが素早くカードを引く。味方の場には、攻撃表示のまま残ったⅢのネブラ・ディスクと、マシュマック、デステニーレオ。そしてⅢが残した伏せカード。これらに目を通し、Vが最初に手札から選んだのは、魔法カードだった。
「魔法発動、《トランスターン》! フィールドのモンスターを墓地へ送って、そのモンスターと種族・属性が同じでレベルが1つ高いモンスターをデッキから特殊召喚する」
「クリス兄さま、僕のカードを!」
「ああ、私は場の《先史遺産 オーパーツ ネブラ・ディスク》を墓地へ送って効果発動! 来い、《サテライト・キャノン》!」
人工衛星型のモンスターが、デッキから呼び出される。Vは素早く次の手を打った。
「さらに魔法《機械複製術》を発動し、デッキからさらなる《サテライト・キャノン》を特殊召喚!」
ずらりと並んだ三体のサテライトキャノン。レベルは5。Vはフィールドと墓地に残された弟たちのカードに素早く目を走らせ、弟たちと目配せした。静かに頷いた弟たちに、Vは声を張り上げた。
「Ⅲ、Ⅳ、使わせてもらう。私はこの瞬間、《ブービートラップE》を発動! このカードは、墓地の永続トラップの発動を、可能にする!」

選択したのは、先ほどⅣが墓地に送ったトラップだ。
地面に複数の紋章が輝き、複雑な光を放つ。

「発動、《マーシャリング・フィールド》! このカードの効果で、機械族モンスターは全て、5から9の宣言したレベルに変更できる! 私はレベル9を選択! レベル9となったサテライト・キャノン2体でオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

闇色の渦がうずまいて、光が爆発する。

「現れろ!ナンバーズ9! 天蓋星ダイソン・スフィア!」

マシュマック、デステニーレオ、ダイソンスフィア。エースが揃い踏みとなった。

「兄貴、使え!」
「デステニーレオのモンスター効果を発動! 二つ目のオーバーレイユニットを使用する!」

これは3対1の変則タッグデュエル。すべてのモンスターが、味方のデュエリストの手足となる。
金色の獅子の周囲を飛ぶ光球がまたひとつ、吸収された。

「これで、デステニーレオのオーバーレイユニットはあとひとつ。カードを一枚セットしてターンエンド!」

パチパチパチ、とトロンが道化のように楽しそうに手を叩いてみせた。
「ふふ、素晴らしいよ。実に美しいデュエルだ。Ⅲ、キミはⅤに託すためにわざと隙だらけのネブラ・ディスクを攻撃表示のまま残したね? Ⅳ、キミはそれを見て、Ⅲが残したトラップを最大限生かすカードを墓地へ送った。Ⅴ、キミもⅢとⅣの期待に見事に応えている。パズルを組み上げるような美しいデュエルだ。キミたち兄弟が力を合わせれば、確かに並のデュエリストでは歯が立たないだろう」

並んだのは、マシュマックに、デステニーレオに、ダイソンスフィア。各々のエースがずらりと並び、互いのカードが無駄なく調和している。

「しかも、デステニーレオのオーバーレイユニットはあとひとつ。僕がターンを終えれば、次の瞬間に敗北は決する。ふふ、まだ何もしてないのに王手、チェックメイトだ。味方にターンが渡る3対1の変則デュエルの特性を実によく活かしている。Ⅳ、キミをデュエルチャンピオンに『選んだ』僕の目は狂ってなかったってところかな?」

Ⅳは眉をピクリと動かした。
トロンの言い様には、わざと込められた明確な毒があった。

「けど、忘れてないかい? ────キミたちにデュエルを教えたのは、僕だってことをね」



―――ターン4―――

「僕のターン、ドロー! 手札の《紋章獣バシリスク》を召喚し、魔法カード《顕現する紋章》を発動!」

カッと輝く魔法カードが、トロンの紋章をはらんで妖しく光る。

「場のバシリスクをリリースして、デッキから《紋章獣アバコーンウェイ》を二体特殊召喚するよ」

並んだ二体の赤い竜。
さらにトロンは、手札をピッと指先で表にしてみせた。

「さらに手札の《紋章獣 アンフィスバエナ》の効果! 紋章獣を墓地に捨てることで、このカードを特殊召喚」

トロンが手札から滑らかに墓地に送ったのは、三枚目の紋章獣アバコーンウェイだった。

「これで僕の場にはレベル4モンスターが3体」
「来るか……!?」

トロンが悠然と笑った。
「三体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

「今ここに怒りを開放する!ナンバーズ69!紋章神 ゴッド・メダリオンコート・オブ・アームズ!!」

強烈な風が巻き起こり、三人に襲いかかる。
「ぐあっ!」
「うわあ!」
「くっ!」
まるで子どもと遊ぶように、平然とトロンはそれを従え、暴風の中に立っている。トロンは小さく呟いた。

「我らにこうして再びナンバーズがもたらされたとき、アストラルの手で多くのナンバーズは無害化され、害意を持たない純粋な力の塊となった」

怒りの感情を蓄えずとも召喚が可能になった、強力なナンバーズ。
コート・オブ・アームズが巻き起こした暴風に態勢を崩された三人は、だが、すぐ立ち上がって、果敢に立ち向かってみせた。

「ならば今回の騒動、散らばった新たなナンバーズは、同じくアストラルから人間界にもたらされたものだろうか? いいや、それにしては『別の意図』を感じる」

トロンの視線の先で、必死になってコート・オブ・アームズの覇気に立ち向かおうとする子どもたち。その子どもたちのデッキが、わずかに光って、明滅して消える。

トロンは、自らのデッキに目をやった。
そこには、同じくわずかに光を放つカード。

「さあ、コート・オブ・アームズの効果! このカード以外のフィールドのすべてのモンスターの効果を無効にして、その効果を奪い取り、僕のものにする! いけ、ゴッド・メダリオン・ハンド!」
「ちっ、兄貴!」
「わかっている! この瞬間、トラップ発動、《ドメイン・ウォール》! 場にダイソンスフィアが存在する限り、コート・オブ・アームズの効果を無効にし、攻撃を封じる!」

トラップから鎖が飛び出し、紋章神に巻き付く。なすすべなく封じられたナンバーズに、Ⅳがガッツポーズをした。
「っしゃあ!」
「コート・オブ・アームズが効果を発揮する直前、効果を封じてしまえば、こちらも効果を奪われることはない。我々も無策で貴方に立ち向かうほど愚かではない」
「ふふ、そうこなくっちゃね。なら、これはどう? 魔法発動、エクシーズトレジャー」
トロンの手の中のカードが光り輝いた。
「しまった、こっちの場には三体のナンバーズが!」
「特性を利用できるのはキミたちだけじゃない。3対1は、必ずしもキミたちに有利には働かない──4枚ドロー!」

トロンは、手札からカードをピッと一枚抜き去った。

「魔法発動、《高等紋章術 ハイ・メダリオン・アーツ》! 墓地の《紋章獣》二体を使って、エクシーズ召喚する!」
「墓地のモンスターでエクシーズ召喚を!」
「墓地の二体のアバコーンウェイで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

ぶわり、紫の光の渦が巻き起こる。
三人とも、光から目を庇った。

「トロンのナンバーズは、69のコート・オブ・アームズと8のゲノムへリター!」
「大丈夫だ。ゲノムヘリターでいくらデステニーレオやダイソンスフィアの効果を奪っても、攻撃力が変化した瞬間、マシュマックで5000以上のバーンダメージ。ライフが消し飛ぶ。ゲノムヘリターじゃデステニーレオは奪えねえ!」

「甘いよ。そんなんじゃ、僕を潰せない」


その瞬間。
白い光が、トロンから迸った。
「なんだ!?」
三人とも、思わず目を覆う。
トロンは、まるで最初から分かっていたかのように、視線を落とした。
先ほどまで明滅していたエクストラデッキは、今や閃光を放つほどに眩く光り輝いていた。

「科学者は仮説を確かめないと気が済まない人種でね。さあ、いこうか。僕の新たなナンバーズ!」

トロンは、強く光を放つカードを手にし、勢いよく抜き去った。

「現れろ、ナンバーズ18!!」


「なっ!? ナンバーズ18、だと!?」
「そんな、新たなナンバーズ!?」
「トロン、いったいなぜ!?」

トロンの指先で、白く輝く白紙のカードが、姿を、現す。

「現れろ、紋章祖プレイン・コート!!」

蒼い結晶体が、姿を変えていく。
蒼い三日月が輝き、その中央で、紅い光が目玉のように光を放った。
結晶体の中央に位置する紅い光は、どこかバリアン世界を思わせた。

トロンは、手にしたナンバーズを、満足げに見下ろした。カードを包んでいた白い光は消え失せ、白紙のカードは今や鮮やかな色彩を保っていた。

当主の証プレイン・コート……うん、なかなか悪くないカードだ。それに、この感覚は、やはりむしろ──」

「トロン!? そのナンバーズは!?」
「トロン、大丈夫なのですか!? ナンバーズは、心の闇を増殖させて──!」
「ああ。心配いらないよ。それより、人の心配をしてる余裕があるのかい?」
手を後ろで組んで、トロンは恐ろしいほどうっそりと笑った。
「マシュマックも、デステニーレオも、ダイソンスフィアも。僕が与えた。そんな想定内で、僕を倒せるの?」

想像だにしない展開に、三人に動揺が走ったのを感じる。
トロンは、まるで闇に溶け込むように、静かに笑った。それに、三人の背筋が泡立つ。

「本当の奇襲っていうのは、こうやるんだよ。見せてあげる。さあ、解放しろ、怒りを!」

トロンが高らかと掲げた、その魔法カード。Ⅲに、Ⅳに、Ⅴに。激震が、走った。

「な……!」
「えっ!?」
「まさか、それは!!」


トロンの手にあったのは。
RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース

「一体のモンスターで、オーバーレイネットワークを再構築! カオスエクシーズチェンジ!!」


鎖に封じられていた最強級のナンバーズ
コート・オブ・アームズが、鎖を引きちぎる。

壊れていく封印。
コート・オブ・アームズの体が、闇色に染まっていく。

「現れろ、カオスナンバーズ69!! 紋章死神 デスメダリオン──カオス・オブ・アームズッ!!」









《RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース》は、かつてベクターから──厳密には『真月零』から遊馬に渡されたカードだ。
副作用をほとんど伴わない形まで限定リミテッドされたバリアンの力は、そう、かつて。遊馬以外にも、与えられたことがある。

トロンに力を与えたバリアンは
ベクターだ。





「バトルだ! 攻撃力4000のカオス・オブ・アームズで、デステニーレオを破壊!」
「ぐ、ああ!」

Ⅳ LP4000→3200

「トーマス兄さま!」
「大丈夫だ、くそっ、デステニーレオが!」
「残念でした。これで特殊勝利はできないね。そっちも邪魔だなあ。プレイン・コートでサテライト・キャノンを攻撃!」
ナンバーズによって容易く潰され破壊されるモンスターたち。
鉄壁だったはずの布陣は破られた。

「くそっ、なんだありゃ。ありゃバリアンのカードだろ!」
「父さまを次元の狭間から拾い上げたのはベクターだったはず……ならば、答えはひとつしか」
「ピンポーン! 大正解。これはかつてベクターと取引して手に入れた力のひとつ。あいにく、僕以外には扱えないけどね。キミたちには無理さ」
「なんだよそれ、聞いてねえぞ……!」
「だって言ってないもの。敵を欺くには味方から。そうだろう?」

トロンの思考を理解させられて、Ⅳは悔しさが湧き起こった。
あの頃のトロンは、家族すら信用していなかった。切り札を隠しておくのは当然だ。自分たちは駒だった。その証をまざまざと見せつけられて、行き場のない悔しさにただ歯噛みするしかない。
トロンにぶつけられない怒りを、結局Ⅳは「あの野郎、危ねえもん寄越しやがって!」と毒づいてベクターにぶつけることしかできなかった。
「それに、復讐が終わった時点で、オレたちにも教えてくれたって!」
「使えないものをアテにしてもしょうがないじゃないか。第一、R U Mアージェントカオスフォースだって、僕がこのカードを解析して理論化した紋章科学を利用して作られてるんだよ? これは僕にしか扱えない。キミたちにも扱えるランクアップマジックを作ろうって、最初にクリスに言ったのは僕なんだから」

その時点で、完全にⅣは沈黙するしかなかった。アージェントカオスフォースがなければ、バリアンとの戦いは一方的な敗北になっていただろう。トロンは何も無為に黙っていたわけではない。強力すぎる力を伏せて、自分たちにも扱えるよう工夫を重ねたのだと言われれば黙るしかなかった。やり場のない感情に、Ⅳは奥歯を噛み締めた。

「まったく、キミはすぐ感情が顔に出るねぇ。これだからキミは──いやいや、ちょっと待とうか僕。思ったより感情が復讐時代あのころに引っ張られてる。なんにも影響ないと思ってたけど、これけっこう厄介かも。嗜虐心や加虐心の歯止めを効かなくする作用がある? ちょっとアテられたかな
……トロン?」

Ⅳは戸惑ったように声を上げた。
眉間を抑えたまま、小さな声でひとり呟いていたトロンは、平静さを取り戻すように何度か首を横に振って、今度はまっすぐ、家族を見た。

「トーマス。クリス、ミハエル」
「!」
「成長した姿を見せてくれるんだろう? この程度の壁で挫けるほど、キミたちの決意は軽かったっけ?」

トロンの和らいだ視線に、三人とも自然と姿勢を正した。
そうだ。このぐらいで、自分たちは止まれない。父を越える、と誓ったのだ。

「そう、そうこなくっちゃね。カードを三枚セットして、ターンエンド。さあ、見せておくれ、可愛い僕の子どもたち。そう簡単に、この父はやられはしないよ」


―――ターン5―――


「僕のターン、ドロー! 魔法《先史遺産技術オーパーツ・テクノロジー》を発動! 墓地のモアイを除外した後、デッキから二枚ドローして、一枚を墓地へ送る!」

手札に加えたのは、先史遺産都市バビロン。墓地に送ったのはマッドゴーレム-シャコウキだ。

「フィールド魔法、《先史遺産都市 オーパーツ・シティバビロン》発動! このカードは、墓地の《先史遺産 オーパーツ》モンスター1体をゲームから除外し、 そのモンスターと同じレベルの《先史遺産 オーパーツ》モンスターを、墓地から表側守備表示で特殊召喚できる! 僕が召喚するのは、ネブラ・ディスク!」
「じゃあ、リバースカードオープン。永続トラップ《召喚制限-猛突するモンスター》!」
白い手袋の指をパチンと鳴らすようにして、トラップカードを立ち上げる。
守備表示で召喚されたはずのネブラ・ディスクの表示形式が変わる。
「! ネブラ・ディスクが攻撃表示に!」
「特殊召喚したモンスターは攻撃表示になり、攻撃可能な場合は攻撃しなければならない」

トロンは悠然と微笑んで、手のひらを上に向けてそう言った。
(攻撃を誘ってる……?)

「さあ、どうする?」
「僕は、《先史遺産 オーパーツ ゴールデン・シャトル》を召喚! そして永続トラップ《マーシャリング・フィールド》の効果発動! 自分フィールドの全てのレベル5以上の機械族モンスターは、宣言したレベルになる。僕は6を選択!」

ネブラ・ディスクとゴールデン・シャトルが揃ってレベル6になる。
Ⅲは腕を高く振り上げた。

「二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

激しい光の渦が巻き起こり、ドロリと灼熱の溶岩から、岩の巨神が姿を現した。

「現れろ、ナンバーズ6! 《先史遺産オーパーツアトランタル》!」



宙空に浮かび上がる、ナンバーズの刻印。
かつてⅢに多大な負担をかけたモンスターは、今はもう異常性を失い、ただ純粋な力の塊としてそこにあった。

(トロンは明らかに攻撃を誘ってる。なら、攻撃する前に、勝負をつけられれば!)

「アトランタルの効果! オーバーレイユニットを使い、相手のライフを半分にする! オリハルコン・ゲートッ!」
「いいよ、受けよう」
トロンは悠然として動かず、トロンのライフが大幅に削られて、4000から2000に急落する。初めて通った効果に、Ⅳが横で「っしゃ!」と拳を握った。

「さらに、アトランタルの効果発動! 墓地のナンバーズを装備カードとして装備し、その攻撃力分、アトランタルの攻撃力はアップする!」
Ⅲは勢いよく腕を振り上げた。Ⅳが合わせて指を突き出した。
「Ⅲ! いけ!」
「はい、兄さま! 墓地のギミック・パペットーデステニーレオを装備!」

合体する二体のナンバーズ。
アトランタルの攻撃力は3200アップして、5800となる。

「この瞬間、マシュマックの効果発動! オーバーレイユニットをひとつ使い、変化した攻撃力分──3200のダメージを、相手に与える!」

トロンのライフは残り2000だ。つまり。
「これが通れば、オレたちの勝ちだ!」
「なかなか良い連携だ。けど、カウンタートラップ発動、《紋章の記録メダリオン・レコード》。オーバーレイユニットを取り除いて発動するカードの効果を、すべて無効にする」

マシュマックから発射された、デステニーレオの幻影は、トロンの手で簡単にかき消されてしまう。
トロンは焦った様子もなく、ただ最初から予測していたように静かに構えていた。

「さて、ここでトラップ、《裁きの天秤》を使わせてもらうよ。自分の手札、場のカードと相手の場のカードの差だけドローする」

手札の無いトロンの手に、滑らかに3枚のカードが舞い込む。デステニーレオが装備されて場にカードが増えた今が、最も効果的だ。やはりこちらの動きは読まれているようだった。Ⅲは、何もかも見透かされているようなプレッシャーに、じり、と汗をひとつ落とした。

「さあ、永続トラップ、《召喚制限》の効果で、必ず攻撃してもらうよ」
「っ! バトル! デステニーレオと合体したアトランタルで、紋章死神 デスメダリオンカオス・オブ・アームズを攻撃!」
アトランタルが巨体を起こし、腕を振り上げた。
背後にデステニーレオの影を背負って、アトランタルがデステニーレオの剣を振り上げる。
「行けッ! デステニー・クロス・アトランタル・カラミティ!」

トロンが、唇をゆったり引き上げた。
「カオス・オブ・アームズの効果! 相手の攻撃宣言時、オーバーレイユニットをひとつ使い……相手のカードを、全て破壊する!」
「なに!?」
「全て破壊だと!?」

突如、凄まじい砂吹雪が巻き起こった。
「ぐあっ」
「うっ」
「ああっ」
暴風に呑まれ、三人とも腕で顔を庇って、片膝を折る。
やがて砂吹雪が消えた後、そこには荒野だけが残された。
アトランタルも、マシュマックも、デステニーレオも、ダイソンスフィアも、永続トラップもフィールド魔法も、何もかもだ。
「そんな、たった一回で、こんな!」

「残念だったね。確かにマーシャリングフィールドは、機械族のモンスターエクシーズが破壊されると、身代わりになる効果があるけど……全部いっぺんに破壊されちゃ、効果を発動できない、でしょ?」

効果のわずかな隙を付いた弱点を指摘されて、Ⅲは唇を噛み締めた。
何もかもトロンの手のひらの上だ。

「さあ、またモンスターを特殊召喚してごらん。召喚制限の効果でまた餌食になるだけだけどね」
「くそ、中途半端に特殊召喚したらこっちがやられちまう」
「だがモンスターを揃えなければ、あの攻撃力の餌食だ」
「いったいどうすれば……!」


―――ターン6―――

Ⅳは唇を噛み締めた。
(くそ、こっちはモンスターも伏せカードも全滅……圧倒的に有利だったはずが、全部ひっくり返されちまった。しかも、カオス・オブ・アームズがいる限り、攻撃した瞬間にまた全部破壊されちまう)

Ⅳは焦りを指先に乗せて何度もデュエルディスクをノックした。

(なら、攻撃以外の方法で突破するしかねえ。カオス・オブ・アームズの攻撃力は4000。なら、ジャイアントキラーさえ出せれば、勝てる!)

「墓地のネクロドールの効果! このカードは、墓地のもう一体のネクロドールを除外することで、特殊召喚できる!」

再び墓地から現れた地獄人形。糸に操られ、カタカタと笑っている。
「二枚目のネクロドールが除外されたこの瞬間、速攻魔法、《バニッシュ・リアクター》発動! カードが除外されたとき発動し、墓地から魔法カードを手札に加える。オレは再び《D・D・R》を手札に加え、発動! 手札の《ギミックパペット─シャドーフィーラー》を墓地へ送って、除外した二枚目のネクロドールを特殊召喚!」
並んだ二体の傀儡人形に、Ⅲの表情が明るくなる。
「ネクロドールが二枚揃った! これでジャイアントキラーが出れば!」
「ざぁ〜んねん!《No.18 紋章祖プレイン・コート》のモンスター効果発動!」
「なに!?」
「同じモンスターが二体以上いる場合、一体以外はすべて破壊するよ!」

片目の包帯人形は破壊され、破片が舞い上がった。Ⅳは腕で破片から目を庇った。
「くそっ、ネクロドールが! なんとかもう一度ネクロドールを召喚して、っ!?」
墓地に送られた二枚目のネクロドールに触れた瞬間、空中に赤いバツ印が浮かんだ。
「!? なんだ!?」
「プレイン・コートの効果で選ばれたモンスターは、このカードがいる限り召喚も特殊召喚もできなくなる」
「なんだと!?」

宙に表示された赤いバツ印。もうネクロドールは召喚できない。
場には、強制的に攻撃表示にされたネクロドールが一体だけ。

「くそっ!」
「残ったネクロドールは召喚制限の効果で必ず攻撃しなければならない。ああ、カオス・オブ・アームズの効果は使わないから安心して攻撃していいよ?」
「ふ……ふざけやがって……!」
ネクロドールが、まるで糸に操られたように立ち上がって、走り出す。Ⅳは舌打ちした。
「くそっ、ネクロドールでプレイン・コートを攻撃!」

攻撃力ゼロのネクロドールが、攻撃力2200のプレイン・コートに突撃する。
返り討ちにあったネクロドールに、Ⅳのライフが吹き飛ばされる。

「ぐああ!」
「兄さま!」

IV LP 3200→1000

「くそっ、何もかもお見通しってわけかよ!」
「このままではトロンの手のひらの上だ。なんとかしなければ!」

―――ターン7―――

張り詰めた空気。流れ落ちる汗。Vは平静を保ちながら、ごくりと息を呑んだ。

「下手にモンスターを出せば、罠に嵌められる……
「さあ、どうする?」
「ならば、私は《成金ゴブリン》を発動。1枚ドローし、相手は1000ライフ回復する!」
「いいのかい? 僕を回復させて?」
「このデュエル、"相手"は三人の中から指定できる。私はⅣを指定し、ライフを1000回復だ」

Ⅳ LP1000→2000

「へっ、余計な真似しやがって」
ふらりとよろけたⅣの足取りが、心なしかしっかりする。それを見届けて、Ⅴは眼前を睨んだ。

「我々には数の利がある。ならばここですべきは、確実に次のターンを凌ぐこと! 私は《一時休戦》を発動! 互いのプレイヤーは1枚ドローし、次のターン終了時まで、全てのダメージは0になる!」

Ⅲが、Ⅳが、Ⅴが、トロンが。それぞれドローする。トロン側のドローが一枚で、こちらが合計三枚なことを踏まえれば、圧倒的にアドバンテージがあった。
「これで貴方のターンで、戦闘ダメージも効果ダメージも発生しない。ターンエンド」
「ダメージは発生しない、か……確かにそうだね」

……?」
「でも、ライフを削る方法ってそれだけじゃないんだよねぇ。僕のターン!ドロー!」

―――ターン8―――

「魔法《エクシーズ・ギフト》を発動して2枚ドローし、魔法カード《不等価交換》を発動! 相手の墓地から、相手の場にモンスターを特殊召喚する!」
「オレたちの場に特殊召喚だと!?」
「これで、Ⅲのアトランタルを復活させるよ!」

強制的に呼び出されたナンバーズ。
Ⅴがハッと顔を上げた。
「まずい、カオス・オブ・アームズがコート・オブ・アームズの効果を受け継いでいるとしたら、これは!」
「まさか!?」
「その通り! カオス・オブ・アームズの効果! オーバーレイユニットを1つ使い、次の僕のターンまで、アトランタルの攻撃力と効果を奪い取る!」

カオス・オブ・アームズの攻撃力が、アトランタルの攻撃力を吸収して急上昇する。
「攻撃力、6600だと!」
「おい、アトランタルの効果って……!」
「相手のライフを……半分にする、、、、、……
「これはライフを操作する効果。ダメージじゃないから防げない、でしょ? 僕が与えた力だ。当然、知り尽くしている。アトランタルの効果を得たカオス・オブ・アームズの効果! オリハルコン・ゲート!」

V LP 4000→2000

「ぐっ!」
「さらに装備魔法、《リボーンリボン》をアトランタルに装備! 装備モンスターは破壊されたあと、復活できる!」
「相手を復活? サンドバッグにでもするつもりか!?」
「キミじゃあるまいし、そこまで悪趣味じゃないさ。バトル! カオス・オブ・アームズでアトランタルを攻撃!」

CNo.69 ATK 6600 VS No.6 ATK2600

「くっ、ダメージ4000! だが、《一時休戦》の効果でダメージは受けない!」
「狙いはそこじゃないんだよねえ。カードを3枚セットして、ターンエンド。さあ、破壊された《リボーンリボン》の効果! 破壊されたアトランタルを──"僕の"フィールドに復活させる!」
「ッ!? なっ……

「さあ、現れよ! ナンバーズ6! 先史遺産アトランタル!」

敵として再召喚されたナンバーズに、Ⅲは絶句した。
「そんな!」
「アトランタルを奪いやがった……!」

―――ターン9―――

目の前に君臨する自分のナンバーズに、絶望感が漂う。
オーバーレイユニットを持たないアトランタル。本来、ナンバーズといえどオーバーレイユニットを持たなければ脅威ではない。
だが、アトランタルは違う。
(アトランタルには、オーバーレイユニットがない時だけ発生する効果がある。互いのライフを半分まで削る強制効果が!)
首筋を汗が伝う。Ⅲはゴクリと息を呑んだ。
(しかも、この効果でライフが1000以下になると、アトランタルは破壊されなくなる。戦闘ダメージも受けなくなる。倒すのがどんどん難しくなる!)

トロンのライフはピッタリ2000。効果が発動すれば、ちょうど発動条件を満たすのだ。
トロンはⅢの視線に、余裕たっぷりに微笑んだ。
背筋が泡立った。まるで、先ほど効果を甘んじて受けたのも、ここまで計算してのことのように思えてくる。

(違う、しっかりしろ! トロンはプレッシャーをかけてるんだ。アトランタルはトロンにもリスクがある。わざわざ奪ったのは、僕らの心を折るためだ! 勝つためには、兄さまに繋がなくちゃ。トーマス兄さまはプレインコートの封印で動けない。ここで僕がなんとかしなきゃ……!)
冷静さを欠いた瞬間に負ける。Ⅲは必死に思考を巡らして、勝機を探った。
目の前には、奪われたアトランタル。これ以上ナンバーズには頼れない。でも、ナンバーズを使わずに、どうやって?
(カオスオブアームズのオーバーレイユニットはあとひとつ。これを消費できれば、まだ勝機はある。効果を使わざるを得ない状況に持っていけば!)

「僕のターンドロー!」
祈るように引いたカードに目を走らせ、Ⅲは指先に力を込めた。
(これなら!)

「相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、《先史遺産 オーパーツ クリスタル・スカル》を特殊召喚! この効果で、デッキから《先史遺産 オーパーツ クリスタル・ボーン》を特殊召喚する!」

水晶髑髏と水晶骸骨が並び、一体の人体模型が完成する。瞬く間に二つの光球となって舞い上がった。

「二体のモンスターでオーバレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! ランク3!《先史遺産 オーパーツ クリスタル・エイリアン》!」

現れたモンスターに、トロンは仮面の下でゆったりと目を細めた。
「忘れてないよねぇ? 召喚制限の効果で、強制的に攻撃してもらうことになるよ」

Ⅲは、汗ばんだ手のひらにグッと力を込めた。
バッと手を振りかざす。

「僕は《パレンケの石棺》を発動! 場に先史遺跡がいるとき、カードを二枚ドロー! そしてオーバーレイユニットを使い、《クリスタル・エイリアン》の効果発動! このカードは戦闘で破壊されず、受けるダメージを代わりに相手に与える!」
「いける! カオス・オブ・アームズの攻撃力は6600、クリスタルエイリアンは2100だから……!」
「僕が受けるはずの4500のダメージを、トロンに跳ね返す! クリスタル・エイリアンでカオス・オブ・アームズに攻撃!」

「上手い、これなら!」
「カオスオブアームズの効果を使わざるをえない!」

トロンは微笑んで動かなかった。
「えっ!?」

煙があがる。視界が途切れる。

「どういうことだ? どうしてオーバーレイユニットを使わないんだ!?」
「なるほど? オーバーレイユニットを消費させるために、自爆覚悟の特攻ってわけだね」

Ⅲはハッと顔を上げた。
煙が晴れたとき、そこには光のバリアで守られ、無傷で笑うトロンが立っていた。

「僕が最後のオーバーレイユニットを使うよう仕向けたかったみたいだけど、残念! 永続トラップ発動!《スピリット・バリア》! 僕の場にモンスターがいる限り、僕が受ける戦闘ダメージは全て0になる!」
「なんだと!?」
「4500のダメージは、無効にさせてもらったよ」
「そんな! カオス・オブ・アームズのオーバレイユニットを奪えなかった! これじゃあ!」

―――ターン10―――

(あれもこれもトロンの方が一枚上手! くそっ、遊ばれてるような気がしてくるぜ)

Ⅳは内心で毒づいた。
トロンはどう見てもこちらを弄んでいる。高い攻撃力と強力な効果で一気に勝負を決めればいいものを、わざわざ強制的に攻撃させたり、ナンバーズを奪ってみせたりと、必要以上に撹乱して追い詰めるようなデュエルだった。
いいように操られ、攻撃力ゼロのネクロドールで自爆特攻させられたことを思い、悔しさがつのる。

復讐時代 あのころ、トロンはよく、こんなふうに、Ⅳに無力感を与えてきた。何もかも手のひらの上で、敵わないのだと思い知らされて、そのたびにⅣはそれを否定したくて躍起になっていた。トロンは、自分たちにあの時と同じ、無力な子供だと突きつけたいのか?

────……さあ、見せておくれ、可愛い僕の子どもたち……

(違う!そうじゃない。トロンは、父さんは帰ってきたんだ!)

かぶりを振って、胸に巣食う疑心を振り払う。

(オレたちが父さんを信じなくてどうする! 見失うな、オレたちは、トロンを超えると決めたんだ。オレたちならできると、きっと父さんだって信じてくれている)

急に現れた新たな謎のナンバーズ。今まで隠していたRUMの発動。
トロンは壁を演じている。トロンには何か目的があるはずだ。

隣でⅢが、歯噛みするようにターンを終える。目的を達せなかったⅢは、必要以上に焦っているように見えた。奪われたアトランタルが理由だろう。Ⅲがその脅威を最も肌に感じているはずだ。Ⅲのデッキが、一瞬明滅して、消える。

(待てよ? なんだ、この既視感……? 前にも、あんなふうにトロンが、誰かを必要以上に追い詰めて、何かを誘ってたことがあったような……?)

その瞬間、Ⅳの脳裏で光が弾けた。

(!! そうだ、凌牙! WDC、マグマフィールド!)

絶体絶命まで追い詰められた凌牙が、赤い光を身に纏い、シャークドレイクバイスを呼び出す。
あの瞬間の記憶が、Ⅳの中で、鮮やかに蘇った。

(そうだ、あの時トロンは、オレと凌牙をわざと追い詰めて、凌牙がカオスナンバーズを出すよう仕向けていた! 凌牙の覚醒を誘っていたんだ。あの時と同じだ)

凌牙の追い詰められた表情と、Ⅲの表情が重なる。Ⅳは訝しんだ。

(どういうことだ? トロンは、オレたちに何かさせようとしている?)

だとすれば。

(父さんは何を期待して、何を待ってるんだ?)

「集中しろトーマス!」
ハッとⅣは顔を上げた。
思考の渦に溺れかけていたⅣは、ドローの手を止めたまま動きを停止していた。
慌てて思考の渦から手を切って、Ⅳは「ドロー!」と宣言した。
(ネクロドールを封じられた今、使える手は少ねぇ。デッキに賭けるしかねえ!)

「オレは《ギミック・パペットテラー・ベビー》を召喚!その効果で、墓地のシャドー・フィーラーを守備表示で復活させる!」
「《召喚制限》の効果は分かっているね? 特殊召喚されたシャドー・フィーラーは強制的に攻撃表示となり、攻撃しなければならない。さぁ、どう対処してくれるのかな? それとも、もう一度自爆特攻してみる?」
「二度とゴメンだっ! オレは魔法《アドバンスドロー》を発動! レベル8のシャドー・フィーラーをリリースして、2枚ドローする!」

……! 地獄の扉越し銃、これなら……

「オレはカードを1枚セットして、ターンエンド!」

―――ターン11―――

「私のターン、ドロー!」
「さて、キミのデッキには、破壊されたダイソンスフィアを超えるモンスターはいないね。さあ、どうする?」
「ならばこうするまで。魔法カード《貪欲な壺》を発動!墓地のダイソン・スフィア、デステニーレオ、マシュ=マック、サテライト・キャノン2枚をデッキに戻し、2枚ドローする!」
「そう、あくまでダイソンスフィアで押し通す気だね」
「魔法カード《エクシーズの宝札》! クリスタル・エイリアンのランクと同じ数だけドローする! さらにレベル5、《太陽風帆船ソーラー・ウィンドジャマー》を特殊召喚! 魔法カード《タンホイザー・ゲート》により、レベル4の《テラー・ベビー》と、レベル5の《太陽風帆船ソーラー・ウィンドジャマー》のレベルを、それぞれのレベルの合計と同じにする!」

二体のモンスターのレベルが9となる。Vは腕を空高く振り上げた。

「エクシーズ召喚、No.9! 再び我の天空に現れ、勝利の光を照らせ! 天蓋星ダイソン・スフィア!」

「ダイソンスフィアの最も厄介な性能はダイレクトアタックだ。けど、攻撃した瞬間、カオスオブアームズに破壊される。仮に攻撃が通っても、スピリット・バリアの効果でダメージはゼロになるけどね。この盤面を、どう攻略するのかな?」
「発動、《スペース・サイクロン》! このカードで、カオスオブアームズの最後のオーバーレイ・ユニットを取り除く!」

オーバーレイ・ユニットを強制的に排除する魔法カード。
Ⅲが除去に失敗した、最後のカオスオブアームズのオーバーレイユニットが、かき消える。

「よし! これでカオスオブアームズの破壊効果は使えねえ! 今なら攻撃できる!」
「天蓋星ダイソン・スフィアで、No.18 紋章祖プレイン・コートを攻撃!」

破壊されたプレインコート。破片がキラキラと輝き、墓地に吸い込まれる。

「さらに私は魔法《恵みの雨》を発動!全てのプレイヤーのライフを1000回復する!」

Ⅲ LP 4000→5000
IV LP 2000→3000
V  LP 2000→3000
トロン LP 2000→3000

「ふーん、なるほどね。あえて僕を回復させて、アトランタルの効果を回避しようってところかな?弟たちのライフも回復して、確実に次を凌ごうってわけだね。慎重なキミらしい戦略だ」
「クリスタル・エイリアンを守備表示に変更し、カードを一枚伏せてターンエンド!」

―――ターン12―――

「さあ、僕のターン、ドロー!この瞬間、先史遺産 オーパーツアトランタルの効果発動!」
「来る!」
「さあ、効果は分かってるね?このカードにオーバレイユニットが存在しない場合に発動し、互いのライフを強制的に半分にする!」

「くっ」
「ぐうっ!」
「ぐあっ!」

III LP2500
IV LP1500
V LP1500
トロン LP1500

「これで終わるとは思ってないよね? 墓地の《紋章獣 ツインヘッド・イーグル》の効果!」
「! あのカード、いつの間に!?」
「破壊されたとき、プレインコートのもう一つの効果を発動していたのさ。このカードが墓地に送られたとき、デッキから紋章獣二体を墓地に送ることができる」
トロンは唇をゆったりと引き上げた。無条件に背筋が泡立った。
「ツインヘッド・イーグルの効果! このカードを除外することで、墓地の紋章獣二体を、カオス・オブ・アームズのオーバーレイユニットにする!」
「なに!?」
「そんな!?」
「やっと使わせたオーバーレイユニットが、元通りに!」
「さあ、これで逆戻りだね?」

仮面の下から見せたのは意地の悪い表情だった。無邪気な子供のようでいて決定的に毒々しく、「ど〜れ〜に〜し〜ようかな〜」と順番にモンスターたちを指差して遊んでいる。

指先が兄弟を順に巡り、Ⅲの前で止まった瞬間、Ⅲに緊張が走った。

「きぃ〜めた。Ⅲ、キミのクリスタル・エイリアンを攻撃だ」
!!」

カオス・オブ・アームズの巨体が、虫でも潰すようにⅢのモンスターを押しつぶす。破壊されたカードの破片が、Ⅲに向かって降り注いだ。

「ぐっ!」
「さあ、キミの奥の手は破壊した。どうする?」


妙だ。やはり、トロンは執拗にⅢを狙っているような……


Ⅳは眉間に皺を寄せた。
トロンは読めない表情で髪先をくるくる弄んで、軽やかにターンエンドを宣言した。

「期待はずれかな? カードを2枚セットしてターンエンド!」


―――ターン13―――

Ⅴが重ねた防御はもう限界だ。次にトロンにターンが渡ってしまえば、きっとたやすく潰されてしまう。
ダイソンスフィアのダイレクトアタックは、永続トラップ一枚で完全に封じられている。先を見越していたとしか思えない。

恐らく次が、自分たちに許された最後のターン。

「あらゆる戦法が見破られてる......このままじゃ、勝ち目は......」
「ねえ、Ⅲ。お兄ちゃん二人に守られている気分はどう?」

ぴたっ。
ドローしようとした指先が、止まった。

「どういう、意味ですか」
「うーん、さっきのクリスタル・エイリアンの4500のダメージはなかなか悪くなかったよ? でも、キミはその後を考えていたかな?」

Ⅲの表情がこわばる。
Ⅳは違和感をはっきり突きつけられて表情を険しくした。
トロンは、三つ編みの先をくるくる弄んで、関心に乏しい声を出した。

「連携は確かに重要だ。けど、キミの戦術はさっきから、最初からⅣやⅤが動くのが前提な、隙の大きいものばかりだよね?」

……っ!!」

「僕を超えるんじゃなかったっけ? それって、お兄ちゃんたちにおんぶに抱っこで叶えられるものなのかな?」

「オイ、トロン!そりゃ言い過ぎじゃ!」
口を開きかけた所で、鋭い静止が入る。Ⅳを止めたⅤの腕に、Ⅳは「なんで!」と兄に食ってかかったが、Ⅴは厳しい表情を変えなかった。

Ⅴの視線の先で、Ⅲのデッキが明滅した。
Ⅳもそれに気付いて息をのんだ。

Ⅲの背中は、微動だにしなかった。
トロンの言葉に打たれて、動かない。

「ねえ、Ⅲ、キミも欲しいんじゃないのかい? 僕みたいに、何もかも一方的に壊せる力が」

トロンは喉をみせるように嗤って、煽るように両手を大きく広げた。

「キミ自身の手で僕の喉を掻き切れる、強力な力が!」




「違います!!!」

Ⅲは叫んだ。
肩を震わせ、俯いたまま出した大声は、周囲をシンと無言にさせた。

「僕がしたいのは、壊すためのデュエルじゃない。遊馬は教えてくれました。デュエルは復讐の道具じゃない。デュエルをしたらみんな仲間。デュエルで僕らは分かり合える。僕らはそれに救われた!!」

キッと鋭く睨み上げた視線は、ヒスイ色に美しく煌めいた。

「遊馬は、僕の大切な友達は、窮地に立たされています。助けたい。もう悲しませたくないんです。護りたい、僕は『遊馬が護りたいもの』を護りたい!」

その瞬間、デッキがまばゆく光り輝いた。

「どんな厳しいデュエルだって、遊馬なら絶対に諦めない!!」





閃光。
目を覆うほどの光に、Ⅳが、Ⅴが目を覆った。
「ぐっ!」
「なんだ!?」
トロンは光から目を庇いながら、満足げに微笑んで、唇だけで呟いた。

ようやく来たか。


「これは……

Ⅲはこぼれそうに目を見開いて、自分のデッキを見つめた。
ゆっくり引いた、まぶしく輝く白紙のカード。そこに一瞬にして刻み込まれていく、鮮やかな数字の刻印。

「この力は……!!」


Ⅲは大きく目を見開いて、キッと前を見た。
視線を受けて立って、トロンの唇が吊り上がった。

「僕は《先史遺産 モアイキャリア》を特殊召喚!さらに召喚した《先史遺産 ゴルディアス・ユナイト》の効果で、《先史遺産 コロッサルヘッド》を特殊召喚し、ゴルディアス・ユナイトのレベルを4に変更する!」

並んだレベル4のモンスター。舞い上がった二つの光球に、Ⅳが驚愕した。
「レベル4!? アイツのデッキに、ランク4はいねえはずじゃ!?」
「これは!」

「レベル4の《先史遺産 コロッサルヘッド》と、レベル4となった《先史遺産 ゴルディアス・ユナイト》でオーバーレイ!」


光の渦が爆発する。
閃光の中に、数字の刻印が。
新たな数字、【36】が顕現する。

「現れろ‼︎ No36──《先史遺産超機関フォーク=ヒューク》ッ!!!」


複雑な文様を刻んだ蒼い石が、どくん、鳴動した。
ぶわりと広がったのは、丸い結界と宙に浮かぶ巨大な要塞都市。
結界に刻まれた【36】が、どくんと脈動して光を放った。



「新たなナンバーズ!? Ⅲまで!?」
……これは、この力は、まさか」



「そして、永続魔法《オリハルコン・チェーン》発動ッ!! エクシーズ召喚の素材をひとつ減らしてエクシーズ召喚できる! レベル5の《先史遺産モアイキャリア》でオーバーレイ! 来い、No.33!《先史遺産超兵器マシュ=マック》!」

光の中から再び現れた空中要塞。
並んだ二つのナンバーズは、まるで鏡で写し取ったように良く似ていた。

「フォーク=ヒュークの効果! オーバーレイユニットをひとつ使い、カオス・オブ・アームズの攻撃力を……ゼロにする! くらえ、ゼロ・キャノン!」
「何っ!」

要塞都市から放たれた蒼い閃光が、カオスオブアームズに降り注ぎ、手足を貫く。
攻撃力4000が、急落する。
トロンの顔色が、ここに来て初めて変わった。

「マズイ、これは!」
「この瞬間、マシュ=マックの効果! 攻撃力が変動したこの瞬間、その分のダメージを相手に与える!」

攻撃力4000を吸収した砲台が、バチバチと雷をまとって噴出した。

「行け、インフィニティ・キャノン!」

トロンのライフは残り1500。迫るダメージは4000。
「いっけー!!」
「すげえ、これが決まれば勝ちだ!」
「くっ、トラップ《生贄の祭壇》! 僕のカオス・オブ・アームズを墓地へ送り、その元々の攻撃力分、ライフを回復する!」

トロンLP 1500 → 5500

雷の砲撃が、トロンを掠って消える。
腕で顔を庇ったトロンが、慌てたように顔を上げた。

「かわされた!」
「だが、カオスナンバーズがフィールドから離れた!」
「でも、召喚制限の効果は生きている!」

アトランタル  ATK 2600
マシュ=マック ATK 2400
フォーク=ヒューク ATK 2000

「あいにくだったね。さあ、アトランタルに突っ込んで、自爆しちゃいな!」
「僕は墓地の《先史遺跡 コロッサルヘッド》の効果!このカードを除外して、フォーク=ヒュークを守備表示に変更する!」
「新たなナンバーズを守ったか。なら、アトランタル! マシュ=マックを迎え撃て!」


III LP 2500→2300


自爆し破壊されたマシュ=マック、破片が空から降り注ぎ、Ⅲを傷付けた。
だが、その眼は鋭く、顔を庇った腕の下から、鋭くトロンを見ていた。

「やられたよ、僕としたことがヒヤッとしちゃった。そう、それがキミの力キミの、新たなナンバーズか」
「僕の、新しい力

Ⅲは、手に残されたカードを見つめた。
キラキラと光の粒子をまとって、新たなナンバーズが、Ⅲの手の中で光を弾いた。

「温かい……力強くて、目が離せない……まるで……


まぶたをよぎる、遊馬の笑顔。
指先から伝わる熱に、Ⅲは大きく目を見開いた。

「これって、もしかして」


―――ターン14―――

(くそっ、意味わからねえ! トロンもⅢも、どうしてココで新しいナンバーズが出てくる? しかも、なんで今の状況にあつらえたみてえにピッタリな効果ばかりいや、むしろ)

場には、弟が身を呈して残した、新たなナンバーズ。
弟の横顔は明るく、目の中にはデュエルへの興奮だけがあった。

(むしろ、まるで今カードを創ったみてえ 、、、、、、に)

Ⅲの新たなナンバーズ。オーバーレイユニットはあとひとつ。静かに脈打つ数字の刻印は、さあ使えと言わんばかりに、Ⅳに訴えかけてくる。

(オレはコイツを、使うべきか? 出所も分からねえ、素性も知れねえ、弟を害するかもしれねえ未知のコイツを!?)

「兄さま?」
弟が、動きを止めたⅣに対して怪訝そうに見上げた。
Ⅳは眉間にグッと皺を寄せた。
(最悪、オレのジャイアントキラーかヘブンズストリングスの破壊に巻き込んで処理しちまえば!)

どくん。ナンバーズの刻印が光を放つ。Ⅳは吸い込まれるように息を呑んだ。
理屈では危険だと分かっているのに、直感が告げた。
強力な効果と裏腹に、まるでⅢを守っているような。

(そうだ。ナンバーズは、持ち主の心を反映する)

Ⅳは腹を決めて、勢いよくデッキからカードを抜いた。

(弟が信じたカードだ。兄貴 オレが信じてやらねえで、どうする!)

「オレのターン! プレイン・コートが消えたことで、ネクロドールの封印も解ける! さあ蘇れ、ネクロドール!」

みたび現れ出でる棺桶人形。カタカタと手足を鳴らした。

「さらにオレは《傀儡儀式パペット・リチューアル》を発動! 墓地から復活しろ、シャドー・フィーラー!」

これで、レベル8のモンスターが二体。瞬時に光球が舞い上がった。

「二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

光の渦の中から、鋭利な肩翼の翼が顕現する。

「さあ、出番だ! No.40 ギミック・パペットヘブンズ・ストリングス!」

現れた攻撃力3000のモンスター。今なら攻撃がトロンに届く。今、新たなナンバーズがいるこの場なら。

Ⅳは真剣な表情で左腕をバッと広げ、Ⅲの新たなナンバーズに手を掲げた。

「オレはコイツのフォーク=ヒュークの効果を発動! オーバーレイユニットを取り除き、トロン、あんたの場のアトランタルの攻撃力をゼロにする!」

トロンを護る唯一のモンスターの攻撃力が急落する。
ヘブンズストリングの攻撃力は3000、フォークヒュークは2000。今なら5000の攻撃が届く。

「さあ行け、ヘブンズ・ストリングス! ヘブンズブレード!」
迫った鋭い切っ先に、トロンが伏せカードを立ち上げる。
「トラップ発動、《亜空間物質転送装置》! アトランタルを除外する!」
「それで守ったつもりか!? ガラ空きだ!」
切っ先がトロンに迫る。
「ひるむな! ヘブンズ・ストリングスでダイレクトアタック!」

追い詰められたかに見えたトロンが、口角の端を引き上げた。
「惜しいな。キミはいつも、あと一歩、詰めが甘い」

トロンが腕を振り上げ、罠が立ち上がった。
「トラップ発動!《ナンバーズ・リフト》! このカードで、墓地のナンバーズを効果を無効にして、復活させる!」
「!? なっ!」
「兄さま!」
「不味い、これは!」
「さあ、よみがえれ......カオス・オブ・アームズ!」

「しまった!カオス・オブ・アームズの攻撃力は!」
「そう、4000。返り討ちにしちゃいな!カオス・オブ・アームズッ!」

トラップの効果で、ヘブンズ・ストリングスは止まれない。
機械仕掛けの胸を貫かれて、爆散した。

「ぐあああああっ!」

Ⅳ LP1500→500

「兄さま!?」
「構うんじゃねえ!……くそっ、まだ届かねえのか! カードを1枚セットして、ターンエンド!」

―――ターン15―――


Vは、背中を流れ落ちる冷や汗に、ごくりと息を呑んだ。

カオス・オブ・アームズの正面突破は困難だ。いや、できたとしても ・・・・・・・、こんなにも攻撃を誘って、それを返り討ちにし続けるトロンが、次の手を隠していないはずがない。
ならばここは、攻撃しないのが『正解』のはず。
「私のターンッ!」
ドローしたカードから導き出される、わずかな勝利への道。Vの答えは決まった。

「魔法カード《オーバレイ・リジェネート》!フィールドの全てのモンスターエクシーズの、オーバーレイユニットを一つ回復する!」

場にいるのは、トロンの《カオス・オブ・アームズ》と奪われた《アトランタル》、そしてⅢの新たなナンバーズ《フォーク=ヒューク》と、Vの《ダイソンスフィア》だった。
四つの光球が、ナンバーズたちに宿る。

「僕のナンバーズのオーバーレイユニットまで回復させちゃって。次の手は考えてるんだろうね?」
「こうするのです、魔法発動、《エクシーズ・リベンジ》ッ!」
発動した魔法カードが光を放つ。
「このカードは相手のオーバーレイユニットを奪い、墓地のナンバーズを復活させる! よみがえれ、《ギミック・パペットヘブンズ・ストリングス》!」

カオス・オブ・アームズのオーバーレイユニットを奪い取り、復活したヘブンズ・ストリングス。

Ⅳが、Vの目的をいち早く察して目を見開いた。
ヘブンズ・ストリングスには、フィールドのすべてのモンスターに『爆弾』を抱かせる効果がある。

「ヘブンズ・ストリングスの効果! このカード以外のすべてのモンスターに、ストリングカウンターを乗せる! そして次の相手のターンの終わりに、ストリングカウンターの乗ったすべてのモンスターは破壊され、コントローラーはその攻撃力分のダメージを受けるッ!」

ヘブンズストリングスが、手にした剣と上半身の弦を使って、ハープのように不気味な不協和音を奏でる。
その場にいるすべてのモンスターに、天から大量の赤い糸が降り注いだ。

「行ける!」

Ⅳが声を上げた。トロンの場には、攻撃力4000のカオスオブアームズと、奪った攻撃力2600のアトランタル。
合計6600の大ダメージ。この二体が破壊された瞬間、トロンの残りライフは一撃で消し飛ぶ。

攻撃を封じられた自分たちに残された可能性。
だが、このままではダイソンスフィアも、フォーク=ヒュークも破壊され、その攻撃力分のダメージを受けてしまえば、VもⅢもライフを失う。だから。

「私は、トラップカード《ハイレート・ドロー》を発動!このカードは、自分のモンスター二体を破壊することで、1枚ドローする!」



破裂したダイソンスフィアとフォーク=ヒューク。破片が飛び散って煌めき空を覆う。
その中で、トロンが、そら恐ろしい静かに呟いた。

「そう、ダイソンスフィアとフォーク=ヒュークを切ったの……




「攻撃を誘っているなら、攻撃せずに勝利を掴むだけのこと! 私は《貪欲で無欲な壺》を発動! 墓地のマシュ=マック、クリスタル・エイリアン、ウィングス・スフィンクスの三種類をデッキに戻し、2枚ドロー!この効果を使用したターン、 バトルフェイズを行うことができない ・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
「そうか、強制攻撃は攻撃が可能な場合しか適用されないから!」

Ⅲがそう言って目を見開いた。

ハイレートドローに、貪欲で無欲な壺。
ドローソースのデメリットをすべてメリットに変える手腕。無駄のない動きだった。

「カードを二枚セット!さらに装備魔法、《ミスト・ボディ》をヘブンズストリングスに装備!ヘブンズストリングスは戦闘で破壊されない!」
「行ける!次のターンまでヘブンズストリングスさえ守り抜けば、カオスオブアームズとアトランタルが破壊されて──」
「合計6600のダメージで、我々の勝ちだ」



―――ファイナル・ターン―――




Vは常に冷静で、合理的だった。

勝利への道が二つあるなら、より合理的な方を選ぶ。例外はない。
合理的で、プログラミング的で、無駄のない思考。

そう、Vの前には、二つの道があった。

ひとつは、ヘブンズストリングスを守り切り、効果ダメージで一気に勝利する道。
もうひとつは。

「キミが『危険』と判断して切り捨てた、フォーク=ヒュークを使う道」


下からじっとりと睨め上げるように、トロンの金眼が、Vを値踏みする。
トロンが、手袋に覆われた指で、コツコツと、デュエルディスクを叩いた。


「オーバーレイユニットが回復したフォーク=ヒュークは、もう一度だけ相手の攻撃力をゼロにできた。だからヘブンズストリングスじゃなく、マシュ=マックを復活させ、カオスオブアームズの攻撃力4000分の効果ダメージと、ダイソンスフィアとマシュ=マックとフォーク=ヒュークの攻撃で押し切れば……

爆発 ボン、を示すように片手を、パッと開いたトロン。

「けどね、キミは絶対にその道を選ばない。理由のひとつはこの永続トラップ、《召喚制限-猛突するモンスター》。このカードのせいで、Ⅳは二度も突撃を強いられて、大ダメージを受けた。僕が攻撃を誘っているのは明らかだ。慎重なキミは、決して三度目のギャンブルを行わない──」

トロンの声は、理路整然とした科学者のようでもあり、同時に、恐ろしい預言者のようでもあった。

「キミは合理的だ。ただ勝利できる道と、『未知で危険なナンバーズを処理して』勝利できる道があるのなら、迷わず後者を選ぶ。合理的、実に合理的だ。だが」


スッと顔を上げたトロンの眼が、冷たくVを射抜いた。


「その合理的な思考が、キミの勝利を阻む」




トロンが一閃、ドローした。




「そう、キミは強いよ、V。兄弟でデュエルすれば、99.9%勝つのはまずキミだろう。手の内を知り尽くした相手を、一分の隙もなく、完膚なきまでに叩き潰す、正確無比で冷酷な一手。キミに『偶然』は通用しない」

デュエリストの勝ち負けに最も寄与する最大の偶然、運がキミに通用しないのだから、実力が劣る者がキミに勝ち越すなどあり得ないんだ。
トロンはそう、重々しく言葉を継いだ。

「けどね、それでもデュエルの表舞台に選んだのはⅣだ。なぜだか分かるかい。キミに致命的な弱点があるからだ」

牙を剥いた言葉が、Vを凍り付かせる。

「1000回やって1000回勝てるはずのデュエルで、キミがなぜ負けたのか。『バグ』だよ、正確すぎる、合理的すぎるのさ。ねえ、キミはなぜカイトに負けたの?」

「わた、しは」
「カイトの手の内は知り尽くしていた。すべての可能性を潰したはずだ。万に一つもキミの負けは無かった。そう、カイトが『憎んでいるはずの父親から貰ったカード』を大切にデッキに入れている、なんて、非合理的な計算外さえ無かったら」

ドクン、と心臓が脈動して、ヒュッ、と息が止まった。

「どんな強運すら排せるのに、非合理的なデュエルに勝てないんだ、キミは。運命の女神はキミに微笑まない。女神は偶然と理不尽と奇跡を愛するから」

あまりにも無慈悲な言葉だった。

「僕が選んだⅣはね、すべてを賭けた絶対に負けられない戦いで、それなのにギャンブルを、リスクを取れるんだよ。後でデュエルログを解析して、あっぱれ過ぎて逆にあきれたよね。引ける保証も無いのに三回もRUMを使い回すわ、凌牙のオーバーレイユニットを奪う二択で保証のないギャンブルを当てに行くわ、マグマフィールドでは僕が悪い方向に誘導したけど、絶望的な状況をひっくり返すことに関してだけ言えば、キミはⅣに勝てないよ」

ねえ、とトロンがずい、と前に出た。
Ⅴが無意識に足を引いた。

「新しいナンバーズを手にしたⅢに、キミたちの対応は正反対だ。突如出現した、出所不明の未知で危険なナンバーズ。 いつⅢに牙を剥くともしれないのに、Ⅳはフォーク=ヒュークの効果を最大限生かして前に出た。 V、キミはこのカードを『処理』した。『正しい』のは間違いなくキミだ、Ⅴ」

ニッ、とトロンが子どものようにニッコリ笑った。
ゾワッとVの背中が粟立った。

「けどね、だから勝機を逃すんだよ」






……ッ!!」
「さて、オーバーレイユニットを補充されてしまった ・・・・・・・アトランタルは、全員のライフを強制的に半分にする効果が発動しない。だから正規の効果だ」

パチン、と指が鳴る。

「アトランタルの効果発動! オーバーレイユニットをひとつ取り除き、相手のライフを半分にする。対象はⅢ!」
「っ、させん! 罠カード、《ブレイクスルー・スキル》! 相手モンスターの効果を無効にする!」

Vの伏せカードが一枚消費される。
トロンがうっそりと「あと三枚」と呟いた。Vはゾワッと悪寒が走った。
こちらの魔法罠ゾーンには、伏せカードが三枚と装備魔法。

「墓地の《紋章獣アバコーンウェイ》の効果! 墓地からもう一枚の《アバコーンウェイ》を除外して手札に加える!」
滑らかに循環する手札。手札に加えたアバコーンウェイがすかさず召喚される。
「装備魔法、《破滅の紋章》をアバコーンウェイに装備! このカードは紋章と名のついたモンスターにしか装備できず、場の表側モンスターの数×300ダメージを互いに与える!」
「! しまった、また全体ダメージ!」

フィールドにはヘブンズ・ストリングスと、カオス・オブ・アームズと、アトランタルと、今呼び出されたアバコーンウェイ。四体分、1200ダメージだった。

「僕のライフは5200、ミハエルは2300、クリスは1500。でもトーマスは500! アハハッ! さあ、退場してもらおうか!」
「くっ……! 思い通りになってたまるか! トラップカード……《地獄の扉越し銃》! オレが喰らうダメージを、あんたに跳ね返す! ファンサービスだ!」



Ⅲ LP 2300→1100
IV LP 500
V  LP 1500→ 300

トロン LP 5500→4300→3100

「ぐうっ……!」
「くっ」
「わっ」

Vのライフは残り300。
もし、ダイソンスフィアかフォーク=ヒュークを残していたら、返しの手を持たないVは脱落していた。

最もダメージを受けたのはトロンであるのに、土煙の中でうっそりと「あと二枚」と呟くので、Ⅳがゾワッと総毛立った。

「ふふ、痛いなぁ、ファンサービスされちゃった。でもね、バトルだ!」
「だが、ヘブンズストリングスは装備魔法の効果で破壊されない……! この攻撃さえ凌げば、我々の勝利だ……!」

「それはどうかな! ふふ……トラップカード、《バトル・テレポーテーション》! 自分のサイキック族が一体のみの場合、そのモンスターはダイレクトアタックできる!」
「なに!?」
「行け、カオス・オブ・アームズ! ダイレクトアタック!」

攻撃力4000のダイレクトアタックがⅢに迫る。Ⅲのライフは残り1100しかない。
土煙の中、Ⅳが迷わず弟の前に出た。

「させねぇ! 永続トラップ、《ギミック・ボックス》! 戦闘ダメージを無効にし、攻撃力4000を吸収するぜ!」
「兄さま!」

現れた攻撃力4000のギミックボックス。
トロンは唇を舐めて「あと一枚!」と呟いて、三人ともゾッとした。

「やるじゃないか。なら、これでバトルを終了だ」
………勝った……!?」

バトルを終え、場には4000ダメージの爆弾を抱えたカオスオブアームズと、2600ダメージの爆弾を抱えたアトランタル。
そして起爆装置であるヘブンズストリングスが無事に立っている。
トロンがターンを終えれば、トロンに6600のダメージがいって、終わり。

「甘いよ、《バトル・テレポーション》のさらなる効果。バトル終了と共に、そのモンスターのコントロールは相手に移る ・・・・・
「!?」

三人とも、絶句した。

「なっ」
「まさか」
「そんな!」


ダメージ4000を抱え込んだままのカオスオブアームズが、三人の前にずいっと顔を寄せた。
爆弾を抱えたカオス・オブ・アームズが、Vたちのフィールドに、現れる。

「ぐあ!!」

カオスエクシーズの数字が、三人の手の甲に浮かび上がった。

「しまった、これは……!!」

Ⅲはかつて、トロンの指示で凌牙にナンバーズを奪わせた。
心の闇を広げられた凌牙は、ナンバーズに取りつかれ、トロンの操り人形と化した。

「さあ、僕から、最後の試練 ラスト・クエスチョンだ」

身体に浮かび上がる、ナンバーズの刻印。
その強烈な負のエネルギーに、三人が「ぐあああッ」と苦痛の声を上げた。

「あっ……ぐうっ!」
「ぐあっ、かはっ」
「う、ああ!!」

「強制的に与えられた ナンバーズに、キミたちはどう立ち向かう?」

強大なカオスナンバーズに支配された三人が
がくり、と膝を折って、ごぽりと力の海に溺れた。


ど、ぷん











真っ暗だった。

ごぼり、と水音が弾ける。
石油のように重く苦しい液体に、体を捕らわれて動けない。

ごぽっ




真っ黒で重たい水に
からだを縛られておぼれるみたいに

体が、火で炙られたように、熱い。
痛い。苦しい。




(か、はっ)



肺になだれこむ闇が、凍り付くみたいに冷たい






胃の中の呼吸が
喉を圧迫して破裂しそうだ


(くる、しい、だめだ)



ごぽっ
息が、抜ける


空気の抜けた体が
いっとう重くなって

水に沈んでふわりと浮くのを、感じた



(あ、れ……


苦しくてたまらなかったはずなのに
なにもかも遠くて、何も考えられない


上と下がわからない
でぐちは どっちだっけ

泥のような眠気に引きずり込まれて
何も、わからない





──── 我を 受け入れろ




ごぽっ



──── 我を 受け入れろ









なんだっけ





──── 我を 受け入れろ





どうして 抵抗したんだっけ




──── 我を 受け入れろ




なんで





──── 我を 受け入れろ



























「悪く思わないでおくれ」

ガクリと膝を折ったⅢ、Ⅳ、Vの三人に
トロンがそう声をかけた。

三人の瞳は闇に呑まれて、目の前に立つトロンにも気付かない。

「どちらにせよ、これを乗り越えられなきゃ、キミたちはこの戦いで生き残れない」

崩れ落ちたⅢ
手足を床に投げ出したⅣ
這いつくばったVの
頬に輝く、【69】の刻印


ナンバーズに支配されて、三人の瞳は闇色に濡れて明滅した。



くたりと力なく投げ出された、三人のデュエルディスクから
赤い警告が鳴って、ビーッ、ビーッとタイムリミットを告げる。

トロンは、腕のデュエルディスクを引き上げた。
(あと、三十秒)

警告タイマーのカウントダウンが作動する。
相手の伏せカードが作動してから、一定の時間、処理に応じなければ、警告が鳴るデュエルディスクのシステムが、三人に対応を促している。

チェーン処理の優先権が残った状態で、三人は動かなくなった。
時間切れになればトロンに手番が移り、トロンがターン終了を宣言した瞬間、彼らの敗北は決定する。

フィールドには、4000のバーンダメージを抱えたカオスオブアームズと、その起爆装置であるヘブンズストリングス。
自分たちが仕掛けた一撃必殺で、彼らは敗北する。

(あと、二十秒)

トロンはカツ、と靴のかかとを揃え、両手を静かに背中に回した。

(ここまでか)


タイムリミットが迫っている。
あまり長い時間、カオスナンバーズにおぼれさせておくのもまずい。戻れなくなる。
無駄に長引かせず、ここで敗北に導いてやるのが、せめてもの情けだった。


10・9・8・7
カウントダウンが迫る


(残念、タイムリミットだ)



6・5・4



(僕を負かすキミたちを、見てみたかったよ)



3・2………



くるり、と背を向けたトロンの



背後で
パンッ、と何かが破裂する音がした。


「────っ!!」


トロンは、大きく目を見開いた。
肩越しに振り返ったトロンが見たのは




「げほっ、ごほっ!」
「かはっ……!」
「ゼィゼィ!」

破裂した水球から出てきたみたいな


勝利を諦めていない、ギラついた眼をした
子どもたちだった。


「がはっ、ごほっ! し、ぬかと思った……!」

Ⅳが、むせ込みながら、必死に膝を立てて立ち上がる。

フィールドには、最後の伏せカードが発動していて


……トラップ、カード」

Vが、乱れた髪の下から、前を睨んで

「《エクシーズ・リバーサル》────ッ!!」

腕を前に、突き出していた。

「このカードは、自分と相手のモンスターエクシーズの……コントロールを、反転させるッ!!」
……!」


押し付けられたカオスエクシーズ。
爆弾を抱えたカオスオブアームズと、トロンが奪ったアトランタルの

コントロールが、ぐるん、と入れ替わった。


「カオスオブアームズが僕のもとに!」
「この瞬間ッ! ヘブンズストリングスの時限爆弾が作動するッ!」


カオスオブアームズが抱えた爆弾は、4000ダメージ
戻ったアトランタルが抱えた爆弾は、2600ダメージ


「我らは屈しはしない……っ! トロン、たとえ貴方が与えたカードでも……っ!」
「力が欲しけりゃ、自分で掴むさ!」
「その カオスナンバーズは要らない、僕らは、前に進みます! 今度こそ、自分の意志で!」


二体のモンスターが
カッ、と閃光を放つ。






「ぐっ!」
「ああっ!」
「ぐあっ!」




巻き起こる閃光の嵐に

トロンが、瞳を、まぶしげに細めて、笑った。






全デュエリストのライフが、同時にゼロになったことを示すアラートが
引き分け ドローを宣言した。





Ⅲ LP1100→0
Ⅳ LP500→0
V LP300→0

トロン LP3100→0

















閃光が消えていく。
空から降り注ぐ緑の数字が消える頃




トロンが、ブルブルと肩を震わせて、笑い声が爆発した。




「あはははー!! やられちゃったぁ!」
トロンが手を叩いて笑った。

「びーっくりした! やるねえ! 三人がかりとはいえ、リミテッドバリアンズフォースで強化されたカオスエクシーズの誘惑をやぶるなんて! あの時は凌牙 バリアンですら誘惑を断ち切れなかったのに!」

あはははははははは!と響き渡る笑い声に

気が抜けたⅣたちは、三人とも、ヘナヘナと座り込んだ。

「は、はは……引き分け……
「あれだけ遊ばれて、三人がかりで引き分けがやっとかよ……?」
「僕、腰が抜けました……


座り込んだまま、カタカタ震える脚。
わずかにけいれんする指先。
立たない腰。


気が抜けて、三人が三人とも、動けないでいると、頭上からふっと影が差した。


顔を上げた瞬間。頭にそっと手が乗せられて


ぽふぽふ、と頭を撫でられた。

「ミハエル。トーマス、クリス」




優しく、包み込むような、愛情深い呼びかけだった。



「強く、なったねえ」






誇らしげな声だった。

胸に沁み入るその声が、目尻をじわっと熱くする。

「父さま
「父さん



「ミハエル。誰よりも早く覚醒したナンバーズを掴み取ったね。キミの心の強さが未来を作る。新たなナンバーズ。それは間違いなくキミの力になるよ」

「トーマス。未知の ものに賭ける力。それはキミの未来を切り開く斧だ。キミのその力で、掴みたい道を走り抜きなさい」

「クリス。計算外だったよ。最後の最後で、僕の予想を狂わせたね。自分の殻を打ち破ったキミを、誇らしく思うよ。キミなら、計算できない未来も大丈夫」



すう、と息を吸う音が
鮮明に聞こえた。


「さすが、僕の息子たちだ」











誇らしげな言葉が
父の愛あるまなざしが
どんな勲章よりも、胸を熱くした。






距離を取って、トロンがモニター室で指示を飛ばす。新たなナンバーズの解析とミハエルの検査だろう。

その背中を見つめながら、Ⅳが目を片手で覆った。
指先の隙間に、キラリと光るものを隠しながら。




「は、はは。どうせなら勝って送り出されたかったぜ」
「いや、我らは今日ようやく届いたのだ」

Ⅴが、ふっと顔を上げて、まぶしく目を細めた。

「我らの父さまの背中に」
















陽の沈む頃。
トロンは、腕の通信機をONにした。
コール音が響いて、プツ、と途切れる。相手が通信に応じた。

「やあ、デュエルログは届いたかい」
『ああ、とっくに照合済みだぜ』
「結果は」
『予想通りだよ、クソ』

通話の向こうで、ジジ、とノイズが歪む。
パッと通信が鮮明になり、相手の姿が明確になった。

「そう、やはりね」

トロンは視線を流した。
通信機の画面の中に、爆睡している遊馬がいた。ハンモックの上でいびきをかいている。

ぼうっと、体が蒼く燐光を放った。
それは、まるで。
アストラル世界の蒼のように。

『間違いねえ。新たなナンバーズ、出処は遊馬 コイツだ』

爆睡する遊馬の隣で
ベクターが忌々しげに、舌を打った。


遊馬 サンプルは」
「アホほど睡眠薬盛ってやったからな、ゾウでも起きねえぜ」


ハンモックがゆらゆら揺れる。間の抜けた遊馬の寝顔は、よだれまで垂れている。
シャツがめくれ上がって腹まで出ていた。誰がどう見ても平穏そのものの寝顔だった。だが。

「意識を完全に落としたのは正解だな。そっちでナンバーズが出たのと寸分 たがわねえタイミングで、ガッツリ蒼く光りやがった。計測器の反応も予想通り。間違いねえ」
「こちらは二枚分のデータがあと少しで取り終わるよ。新たなナンバーズ。途中経過だけ見てもほぼ間違いない。そっちの計測器のデータとピッタリ合致するだろう」
「厄介だな」
「ああ。外的要因なら話は早かったが、無意識となると──」

ベクターは苦々しく舌打ちした。

「理由は想像つく。無意識に守ってやがるんだよ」
「ああ。僕も手にしてみて感じた」

No.18 紋章祖プレイン・コート。
新たなナンバーズを、トロンはピッとめくった。

強力な守護の力。
温かく、真っ直ぐすぎる意志の力。

これは、街を騒がす邪悪なカードとは、別物だ。

「なら、ベクター。街を騒がす邪悪なナンバーズは、どう説明するんだい?」
「はっ、俺サマを試そうってか? とっくに気付いてるんだろ」

ふっ、とトロンが口角を引き上げた。

「そうだね、ナンバーズは記憶。かつてばら撒かれた100枚は、二種類あった ・・・・・・
「No.96、偽のナンバーズ、遺跡のナンバーズ、オーバーハンドレッド。アストラルの記憶に混じって、ドンサウザンドの記憶が混ざってやがった」

「だから今回も、ナンバーズの出どころは二つある」

ベクターは、窓の外を見上げ、剣呑に睨んだ。
「この街に、ナンバーズをばら撒いてやがる黒幕がいる。遊馬 コイツはソイツから無意識に俺たちを守ってやがるんだ。自分の記憶を対価にな」
「潜在記憶──無意識の前世の記憶 パスト・ライフ・ビジョン……その中身も気になるところだけど」

トロンは、スッと遠くを見た。

「かつて、アストラルが集めたナンバーズは、63枚」
「その内、ドンサウザンドの記憶が13枚。残り50枚の行方は庸として知れず、てかぁ?」

頭をガシガシ搔きながら、ベクターは忌々しそうにぼやいた。

「いくら探しても見つからねえわけだ。100枚のはずのナンバーズ、残り50枚がコイツの中ってんだから」

「どうする、ベクター?」
「決まってんだろ」

ベクターは眼光鋭く前を睨んだ。

「今はいい。だがな、コイツの中の50枚、全部使い切っちまったら ・・・・・・・・・・・何が起きる? コイツが今のままな保証があんのか?」

親指をカリカリ噛みながら、ベクターが神経質にぶつぶつとつぶやいた。

「下手に自覚させたらどうなる? 火を見るより明らかだろうが! 限界まで与え続けるに決まってる、コイツのお人好しには際限ってもんがねえんだ」 

「キミがいちばん知ってるものねぇ」とトロンがからかうように言うのを、ギンッとベクターが睨みつけた。
「笑いごとじゃねえんだよ……」とベクターが地を這うような低音でうなった。
遊馬が高いびきを搔いたまま、むにゃむにゃと寝言を言った。

「このまま隠し通す。そして、コイツが 使い果たす ・・・・・より早く黒幕を叩く。結局、選択肢なんざ無えんだよ」







ピッと通信を切ったベクターが
夕陽の差し込む屋根裏部屋で、静かに佇んだ。

遊馬はむにゃむにゃと幸せそうに寝ている。


夕暮れの橙色に染まった部屋の中で
ベクターが、一本の金色の鍵を、掲げた。



黄金の鍵。
昆虫の羽根のような意匠をまとった
大きく、派手な、マスターキー。


「ナンバーズ66───《マスター・キー・ビートル》」




かつて、ベクターが最優先で自ら回収した、重要なナンバーズ。あの時は、真月零を餌にサルガッソに誘い込むために使った。

皇の鍵の飛行艇を動かしたこの鍵は
文字通り、あらゆる鍵を開ける ・・・・・・・・・ことができる。


たとえそれが、固く封印された心の部屋でも。



キラッ、と夕陽の橙色を反射して
ベクターの掲げた金の鍵が、煌めく。


鍵を眉間にかざして、ベクターはひどく真剣で難しい顔をしていた。


ベクターがこの鍵を持っていることを知っている者は誰もいない。このカードの真の使い方を、知っているのはベクターだけだ。

このカードを、再びベクターに与えた存在 ヤツ以外は。




「アストラルの思い通りってとこが気に食わねえが」




ベクターは、鍵をかざした。
平和に寝こけた、遊馬の眉間へと



「今は、コレが、最善手だ」



鍵を回す。
カチ、と手ごたえがあった。



ぶわっ、と光と風が巻き起こる。



「────この扉を開く者、新たなる力を得る」


ベクターの詠唱に鍵が光り輝く。



「我、扉を開きし者。我の前に、あらゆる道を開けよ」





ぶわっ、と緑の閃光が全てを覆い尽くし
ベクターの体が、ぐるんっと重力を失った。













翠の閃光が消えた頃。
逆さにふわりと浮いたベクターの前に広がった光景は



黄金でできた、膨大な書庫を抱える
幾何学的な空間だった。



「こりゃあ……




丸い本棚が、ふよふよといくつも浮いている。

円柱状に広がった
上も下も底が見えない図書館は

すべて、アストラル文字で描かれている。





「何だ? これが遊馬 あのバカの心の部屋だってのか……? それにしちゃあ……



ふよふよと浮く、黄金のアストラル文字で書かれた書物の一冊に触れると


その瞬間、本が風もないのにぶわっと開き
バラバラバラバラとページがめくれた。


「────ッ!」



ベクターの脳裏に、鮮明な光景がフラッシュした。







────笑うなぁ!
────だから、シャークのデュエルは、本物なんだ!

────やるよ、そのカード
────へぼデュエリストが。少しは成長したみてえだな






「今のは……



ベクターが鮮明な光景から我に帰ると
目の前の本には、数字が刻まれていた。


No.61 ヴォルカザウルス
今の光景の中で、遊馬とナッシュの野郎が戦った相手が、持っていたカードだった。




「そうか、記憶の図書館 ナンバーズ・アーカイブ────ここは、遊馬 ヤツ遊馬 ヤツが回収したナンバーズの記憶を収納した空間 ライブラリなのか」



ベクターは、淡い翠の光に包まれた、その不思議で幾何学的な空間を見渡した。





「こんな空間が、アイツの中に……? いや、コイツがあるから、他人の記憶 ナンバーズに影響されねえで済むのか……?」



ベクターは、重力を失った空間で、腕を組んでぶつぶつと呟いた。


「アイツはナンバーズをばら撒いてる自覚がない。ってことは、この場所の意味を認識できてはいないはずだ。つまり、ここが、遊馬が自覚できねえ ・・・・・・ような記憶の保管庫なら」


ベクターは、答えを弾き出して、顔を上げた。



「ここに、『残り50枚』の元になる、アイツが産まれる前の記憶が────アストラルの半身だった頃の記憶が、あるはず」




目的を見定めて、ベクターは無重力の空間を、滑るように潜り始めた。



(────深い。どこまで行っても先がねえ。帰り道がわからなくなりそうだ。潜れば潜るほどグラグラする)



くらくらする頭。眩暈を抑えつけながら、ベクターは潜り続けた。



(どこだ。どこだ。どこだ)






明るすぎるほど、金と翠の光にあふれた世界が
突然、ふっとブラックアウトした。




(ここか)





真っ暗な空間

重力も光も無い世界で
バチッ、と、遠くで、雷が弾けた。





「────なんだ、アレ」









おぞましい何かが
闇の中でこちらを見ていた









まるで、黒い希望皇ホープに似た
だが、決定的に違う、恐ろしい何かが
















「────────ッ!!! かはっ







ベクターが目を覚ますと
そこは、夕陽が沈み切った、薄闇の屋根裏だった。


「はあっ、はあっ、はあっ……


汗でびっしょりと濡れた背中
薄闇に覆われた部屋に、すう、すう、と呑気な寝息が響いていた。


「はっ……



ベクターは、顎を流れ落ちる汗を拭って
埃っぽい床から、立ち上がった。


深く眠ったまま起きない遊馬が
くう、くう、と呑気に寝ている。



「あれは、なんだ」



ベクターは、息を整えながら、しばらくじっと遊馬を見つめていたが、やがて、黄金の鍵を、再び遊馬にかざした。


ベクターは再び鍵を回したが
鍵は手ごたえのないまま、スッとすり抜けるだけだった。




「テメーが抱えてる、あれは、何だ」








《No.18 紋章祖 プレインコート‼︎ トロンVS三兄弟‼︎  End.》




◼︎ボイスドラマ


前作→ https://privatter.net/p/5617520


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