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【番外編】目が覚めたらエツィオに生まれ変わっていたので、家族生存を目指します!

全体公開 4598文字
2021-09-09 17:37:51

ジョバンニの憂鬱(前編)
 ★家族生存目指す方のプロローグからのジョバンニ視点

Posted by @acbh_dmc4

ジョバンニは帰ってきてすぐにエツィオが塀から落ちて頭を強く打ち、怪我をした事件を伝えられた。
急いでエツィオの部屋へと向かい、愛しい息子のあどけない寝顔を見て安堵のため息を吐く。
こんな日に限って教団の任務があり、帰ってくるのが遅くなってしまった。任務自体は恙無く終えたが、息子の一大事に早く帰ってやりたかった。

まだまだ小さいエツィオの頭に撒かれた包帯と、口の端を覆う布に僅かに血が滲み出ているのを見て、ジョバンニは心の底が冷たくなるのを感じた。
そっと小さな唇の傷を覆う布を取る。
口を縫われた痛々しい跡と、軟膏が混ざり合って酷い傷のように見えた。

エツィオの不注意での傷であると聞いたが、血の匂いに今夜屠った命を思い出し、これは報いだろうかと思い、首を振った。
いくら民の為に平和に仇成す者を討っているとは言え、己が屠っているのは同じ人の命だ。
恨みを買うのは必然で、それがいつ己や家族に牙を剥くか分からない。
ささくれ立った神経がジョバンニの心を黒く塗り潰さんとしている中、ううん、と小さく可愛らしい唸り声が現実へと引き戻した。

もぞもぞと寝返りを打つエツィオの姿に笑みを零し、そして新しい布で傷を覆ってやった。
明日はロレンツォに言って、休みを貰おうと決意し、ジョバンニはそっと息子の部屋から退出した。


***


息子の大事に休みを取ったジョバンニは、目を覚ましたエツィオを前にして頭を抱えたくなってしまった。

エツィオの様子が明らかにおかしいのだ。
酷く混乱していて、記憶にもムラがあり、息子の突拍子もない質問に答えてやったり、時折漏らされる聞きなれない言語に困惑した。
もう一度医者に来てもらい、子供の様子について確認を取ったが、頭を強く打ったことに寄る意識の混濁だろうと説明された。
確かに混乱している様子ではあったが、いささか異常なのではないかと皆心配した。
最も異常に思えたのはエツィオが眠った後で、酷い悪夢に魘され、苦し気に家族の名前を呼ぶようになった事だ。
一日様子がおかしかったため、ジョバンニが深夜に様子を見に部屋を訪ねると、眠りながら苦し気に顔を歪め、目じりから大粒の涙がこぼれて枕に染みを作っていた。
そして早い呼吸の合間に「やめろ!兄さんから離れろ!」と悲痛な言葉が吐き出された。
尋常じゃないその姿に、ジョバンニは居ても立ってもいられなかった。
尚も魘されるエツィオを抱きしめて、エツィオの名を呼び目を覚まさせた。

「父上!」

悪夢から目覚めたエツィオの瞳は、底の知れない深淵を覗くような、昏く濁った色をしていた。
ゾクリと鳥肌が立つ。
その目は、まるで死んだ者のようだった。

「エツィオ、エツィオ……大丈夫か?酷く魘されていた。私はここに居る。何も怖い事など無い」
「ち、父上父上が……フェデリコ、ペトルチオも……なんて、なんて酷い……

さめざめと泣くエツィオを抱きしめ、その背をひたすら擦ってやる。
すすり泣きが暗く静かな部屋に響いた。
闇を恐れる幼子をどうにか安心させたくて思案する。
ただ単に塀から転げ落ちたくらいで、これほどまでに恐慌状態になるものだろうか?
確かに死を覚悟したかもしれない。だが、今のエツィオは己の命の危機を嘆いているようには見えなかった。
落ち着くまで確り抱きしめて背中を擦る。
すすり泣きが徐々に収まり、規則正しい寝息を立てはじめたのを確認して、ジョバンニはエツィオをそっとベッドに横たえた。
また直ぐにでも悪夢に魘されるのではと、赤くなった目元を優しく擦って確かめる。
だが、安心したような寝顔が、再び悲しみに歪む事はなかった。
肩までシーツをかけてやり、ジョバンニは心配で胸が張り裂けそうになりながらエツィオを見つめた。



日が経つにつれてエツィオの様子は徐々に落ち着きを取り戻していった。
自分の生い立ちに関する質問をしなくなり、時折口から出る異国の言葉のような単語は話さなくなった。
そして落ち着くと同時に、エツィオの態度に違和感を覚えるようになった。
至極聞き分けが良くなり、つい数日前までは“パパ、マンマ”と呼んでいたのに、今では自然に“パーデレ、マーデレ”と正式な呼び方をするようになった。
フェデリコやクラウディアを相手にするときも、まるで年の離れた幼子をあやす様に接するようになった。
兄妹たちもその事に戸惑っているようだが、事故の後遺症だと思い、言及する事はない。だが、違和感はずっとついて回った。

まるで悪霊にでも憑りつかれたような変貌ぶりに、祈る神などはいないが、我が子を助けてくれと情けなく懇願してしまいそうだった。
それともこれは、己が屠り続けて来たテンプル騎士達の呪いだろうか?
あり得ない事を思い悩むほど、ジョバンニも徐々に追い詰められていた。



そんなある日、ジョバンニが仕事から帰ると、エツィオが玄関先でアネッタを伴い出迎えてくれた。
可愛らしくはにかみながら、コテンと首をかしげてお帰りと、お願い事があるのだと言った。
些かあざとさを感じつつも、エツィオの目線に合わせるように屈み、愛し子の要求を聞くことにした。

「何か書くものと、日記帳が欲しいのです」
「ああ、構わんよ。使っていない物があった筈だ。後で書斎に取りに来なさい」
「はい!有難うございます。父上」

ぱあっと花が綻ぶ様な笑顔ではしゃぐように抱き着いてくる。
その顔のどこにも憂いはなく、少しだけホッとした。
エツィオが落ち着くまでは何でも叶えてやりたい。そう思い小さな頭を撫でると、エツィオは嬉しそうにニッコリ笑ってジョバンニを見上げた。


日記を与えてからエツィオはフェデリコの誘いにも乗らず、部屋に籠って熱心に机に向かっているらしい。
寝る間も惜しんで急き立てられるように羽ペンを走らせ、時折悪態をつきながらインク壺に羽ペンを浸して文字を書く。
どうやら使用している羽ペンが書きにくいようで、もっと良い物をと強請られたが、一番良いものを渡しているというと、遠い目をしていた。
フェデリコがそんなエツィオを心配半分、遊んでもらえない鬱憤半分でちょっかいをかければ、物凄い剣幕で怒られ、泣きつくことが増えた。

日課となった眠るエツィオの様子見の際、机の上に無造作に開かれていた日記を確認することにした。
もしエツィオが何事かに悩み、苦しんでいるとしたら、それを少しでも取り除いてやりたい一心だった。
だが、開かれた日記の一ページを確認して、ジョバンニは目を見開いた。
使われているアルファベットはこの国のモノと同じようであったが、そこに書かれている言語は所謂“イタリア語”ではないようだった。
出鱈目に書いたにしては規則性があり、外国語であると言われた方がしっくりくる。
記入がされているページ全てが同じ文体で書かれており、強いて言うならイングランドの言語のようにも見えた。

日記を閉じてスヤスヤ寝ているエツィオを見下ろす。
思ったよりも事態は深刻だとジョバンニは気付いた。
この子の存在はアサシン教団やテンプル騎士団―――いいや、もしかしたら世界に影響を及ぼすかもしれない。

―――予言者


頭の中に浮かんだのは写本に記されたその記述だった。
もし、息子が予言者であれば、恐らく今後平穏な人生は望めない。
テンプル騎士団に生涯狙われるのは勿論、アサシン教団内でもエツィオの取り合いに発展するかもしれない。
あどけなく眠るエツィオを見下ろし、ジョバンニは頭を振って重いため息を吐いた。
アサシンの家系である為に、必然子供たちには辛い道を歩かせることになる。それに予言者と言う余計な称号がつけば、エツィオは生涯アサシン教団に縛り付けられるだろう。
自由意思を貴ぶ教団とは言え、教団の教えは厳しく、自由はない。

パタンとエツィオの日記を閉じる。今度イングランド地方の語学に関する本を取り寄せ、解読を試みると決める。
もし、解読する必要のない出鱈目な文章であるならそれで良い。何らかの意味のある文章ならば、エツィオの不安を取り除く鍵になるだろう。
とにかく、愛しい子供の助けになりたい。
ジョバンニはそっと日記を机に戻し、エツィオの部屋から出ていった。

***


エツィオの日記についてはそれからさらに数週間の後、落ち着いたようだ。
まるですべて書き終えたというように、日記に一切興味を失った様子だ。
その証拠にフェデリコが日記を読もうとしても、ただ汚したり破いたりしないように軽く注意しただけで後は好きにさせていた。
だが日記の内容が読めない為、ジョバンニに日記を差し出し読むよう強請られると、途端に不安そうな顔をして日記とジョバンニの顔を交互に見つめた。
安心させるように「フェデリコの興味が無くなるまで隠しておこう」と耳打ちすれば、安堵したように日記を手渡した。
読まれても良いと思っているのか、それとも読めないと思っているのか。
早速その夜から日記の解読に取り掛かった。目星をつけたイングランド地方の言語というのはどうやら当たりのようで、更にジョバンニを焦らせた。
ついこの間まで本を読むのすらたどたどしく、文字を書くのも多少は他の子たちよりも進んではいたが、普通の貴族の子供達と大差なかった筈だ。
しかもイングランド地方の言語は習わせていないどころか、フィレンツェにそれらしい人物がいる話も聞いた事がない。
文法や単語が所々で合わなく、意味不明な箇所が多いが、おおよその意味は分かった。

「8年後に、家族の処刑が行われる……と言いたいのだろうか。それに、見知った大物貴族や修道士の名前まである。しかも、私やロレンツォ殿の仕事を手伝っている者の名も……これは、予言の書か?」

およそエツィオの知りえる情報ではない筈だ。表立ってここに記載されている人物と会う事はない。
そもそも見られる筈もないのだ。ここに記載されている一部の修道士は、地下道を行った先にある拷問部屋や会合場で秘密裏にやり取りを交わすのだから。
そしてこの日記には恐らく、その者たちの裏切りについて書かれている。
名簿のようになっているページが複数あり、詳細な時期などの記載はないが、何らかの事件が何年後に起こるというような事が書き連ねられている。
全頁がそういった犯罪や裏切りに関する記述で、また暗殺すべき者達の罪状が書き連ねてあった。
教えてもいない言語で記載されているし、子供にしては恐ろしい発想ではあるが、妄想の類であると言った方が現実味がある。
頭を打って別人のように性格が変化する事はあるというし、攻撃的な性格になってしまっただけかもしれない。
それならば今後エツィオが道を踏み外す事がないよう、目を光らせなければ。

ジョバンニはエツィオの日記を閉じると、人知れず重いため息を零すのだった。


もくじ    後編


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