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【番外編】目が覚めたらエツィオに生まれ変わっていたので、家族生存を目指します!

全体公開 7127文字
2021-10-26 17:18:22

ジョバンニの憂鬱(後編)

Posted by @acbh_dmc4

ジルベルトからジョバンニ宛に封書が届いた。
盗賊団の長から直接こうして手紙が届くとは、よっぽど緊急事態か、テンプル騎士団の情報でも掴んだかだ。
急いで封を開け、内容を確認する。
すると、予想の斜め上を行くことがそこには記されていた。

『エツィオ・アウディトーレが狐を知っていた。また、俺の正体も知っているようだ』

何の冗談かと思ったが、いくら掴みどころのない人物と言えど、悪戯にこんな事を言う人物ではない。直接確認を取る必要がありそうだ。
ジョバンニは早めに銀行を後にすると、一旦家に戻り、部屋から鳩を飛ばした。
その直後、ジョバンニの帰りを知ったマリアから、フェデリコが倒れた事を聞かされた。
エツィオの事があってから一月程しか経っていない事もあり、マリアは蒼白な顔をして、酷く不安がっているようだった。
マリアを宥め、急いでフェデリコの部屋へと行けば、罰が悪そうな顔をしてアネッタに寝かし付けられている、困り顔の長男の姿があった。
医者にも見てもらったそうだが、頭の瘤以外には特に怪我もなく、いたって健康と太鼓判を押されたと聞き安堵した。

何があったのかを聞けば、フェデリコが言い辛そうに、エツィオとの喧嘩で返り討ちにあったと告げられた。
その報告に目を丸くしていると、秘書のジュリオに来客を告げられ、後でまた様子を見に来ると断ってから書斎へと戻った。

書斎には既にジルベルトの姿があり、ジョバンニは挨拶もそこそこに本題に入った。

「早速だが、あの手紙に書いてあった内容はどういうことだ?」
「どうもこうもない。街中で派手に飛び回る小鳥たちがいるってんで、暇つぶしがてら見に行ったら、お前の長男がパンチ一発で伸されて、倒した張本人が俺の顔を見て“狐か?”と問うてきた」
……一体、どういう経緯でそんな事に?」
「さあな。ただ確かなのは、俺はエツィオ坊ちゃんに正体を知られているらしい」

その状況を思い出したのか、狐は好奇心と情報が漏れていたことに関する危機感とで複雑な顔をしていた。
ジルベルト曰く、彼に向けられたエツィオの眼差しは、まるで既知を前にしている者のようであったという。
それに日記の内容が脳裏を掠め、ジョバンニは両手で顔を覆った。

「おい、随分疲れた顔をしているようだが大丈夫か?」
「あ、ああ……お前なら知っているかもしれないが、ここ最近、エツィオに関して悩みが多くてな」
「そうだな。この後あの坊ちゃんに事情を聞くんだろ?俺も一緒に聞いても良いか?噂の出どころは押さえておきたいんでね」

ジルベルトを巻き込む事に一瞬だけ躊躇したが、聡明なこの男は口も堅く信頼できる。
どの道断った所で一度感じた不信感を払拭するため、探りを入れられるのは必須だ。
もし、エツィオの口からとんでもないことが飛び出したとしても、強めに言い含めればこちらの悪いようにはしないだろう。
ジョバンニはこの後の事実確認にジルベルトの同席を認めると、部屋の外に待機していたジュリオにエツィオを呼ぶように申し付けた。


数分の後、弱々しいノックの音とともに、随分委縮したエツィオが顔を出した。
目が泳ぎ、必死にどう言い訳したものか考えている息子に書斎に入るよう言うと、諦めたようにジョバンニの前へと進み出た。
所在無げに佇み、何を言われるか固唾をのんで見上げるエツィオに、確認するように問いかけた。

「エツィオ、何故呼ばれたのかは分かっているな?」

上目遣いで罰が悪そうに「フェデリコ兄さん、の事で?」と精一杯惚けようとするエツィオに否と答える。
怯えた様な、不安な顔をする息子が可哀想にも思えたが、ここではっきりさせておかねば、その後の処遇を決められない。
なるべく怯えさせぬよう、諭す様にさらに問いかける。

「昼間お前を手伝った男についてだが、お前はいつその男の事を知ったのだ?」
ええと、狐、についてですか?」

きょとんとした顔をして尋ね返してくる。それの何が問題なのかまるで分っていない風で、ジョバンニはため息を吐きたくなった。
エツィオから決定的な言葉を聞きたくない。少なくとも、今はっきりさせなくても、エツィオが成長してからでも良いのではないか。
そんな思いが去来したが、ジルベルトから先を続けるようにと無言の圧力を感じてさらに問いかけた。

「その狐についてお前の知っている事を全て話せ。誰から聞いて、彼が何をしている者なのか」

思わず緊張し、咎めるような声音になり、エツィオが怯むのが分かる。
だが、やはり答えを聞きたくなくて、敢えて雰囲気を和らげることはしなかった。
ここで何も聞かなければ、普通の子供として平穏に暮らす事も出来るのだから。

だが、エツィオは真っ直ぐジョバンニの目を見つめたまま、己の中で葛藤するように沈黙した。
真実を言うのを迷う様な、だが、いくらもしない内に決意した顔つきになった。
これはいけない。エツィオが核心を話してしまう。もしこの子が予言者であれば、その時点で自由が奪われてしまう。

「エツィオ、別に叱責しようという訳ではない。お前は好奇心の強い子だから、余計な事に首を突っ込んでいないか心配しているのだ。街での噂を聞いて、適当に答えたのだろう?そうだな?」

エツィオの前に屈み、目線を合わせ余計な事を話さぬよう、先回りして言うべき言葉を紡ぐ。
祈るように目を見て聞けば、小さな息子は言葉に詰まり、まるで絶望したような表情になった。
その顔は、酷く魘されて夢から覚めた時に見せる、昏いものだった。
ぎゅっと握られたエツィオの小さな拳は、恐怖からか僅かに震えていた。
そして、ジョバンニの願いを打ち砕く、決定的な予言が齎された。

「『二つのエデンの欠片が揃うとき、予言者が現れる』父上は、ご存知でしょう?」

エツィオからアルタイルの写本に書かれていた一文が言い放たれた。
モンテリジョーニのマリオの執務室の隠された壁に張り出されているそれは、エツィオが知るべくもないものだ。
そもそもヴィラに立ち寄った事があるのは、エツィオがまだ文字の読み書きも出来ない、やっとヨチヨチ歩きが出来るようになったばかりの頃しかない。
決定的過ぎるエツィオの発言に、まるで脳が麻痺したようにジョバンニは思考が止まった。
そして語尾こそ疑問形ではあったが「父上はアサシンなのでしょう?」とほぼ断定するように確認された。

ジョバンニが率いているアサシンの協力者たちの名前、そして他の支部の仲間の情報や、果てはテンプル騎士団の長が誰なのか。
スペインから来た枢機卿の名前を出し、それ以外にも更なる秘密を暴露しそうなエツィオの言葉を咄嗟に止め、そしてチラリとジルベルトが隠れている窓辺を確認した。
怒鳴り声を浴びせたのに、エツィオを見れば最初のオドオドとした態度はなくなり、なんとか悲劇を回避しようと足掻く必死な姿があった。
思わず視線を外し、冷静になるよう息を吐いて、エツィオに処遇を言い渡した。

「エツィオ。今夜はもういい。だが、暫く謹慎していなさい」

父上、フェデリコは何も話していません。きっとアサシンの修業を行っているのでしょうけれど、その事については何も聞いていません。だから


急に心配そうにフェデリコの事を話しだしたので面食らう。
どうやらアサシンの事を話したのがフェデリコだと思われたら困ると考えたのだろう。
こんな重要な情報を最近アサシンとして訓練を始めたばかりの長男が知りえる筈もない。思わず子供らしい心配をするエツィオに苦笑を零し、退室を促した。

アネッタを呼び、監視がてら部屋に送り出す。
これからジルベルトにエツィオの秘密を黙っているよう説得しなければならない。そして、今後の対応に頭を痛めた。
元々、エツィオについてはアサシンとしてよりも、表向きの家業を継いでもらうつもりだった。
人懐っこく人を惹き付ける才能のあるエツィオは、アウディトーレの表の顔としてフェデリコの隠れ蓑となって貰いたかった。
将来的にはロレンツォ・デ・メディチの許、治世を学ばせ、政界にも影響力を持ってくれれば、テンプル騎士団への牽制にもなる。
その上で護身術程度の戦闘指導をするつもりはあったが、今回のエツィオの言動が漏れればエツィオをアサシンにと誰もが望む事になるだろう。



「ジョバンニ、あの坊やはとんでもない爆弾を投下したもんだな。まさか予言者の事を持ち出し、挙句アサシンについて、名前まで言い当てるとはアンタがそこまで情報を筒抜けにさせるとは思えんし、写本に書かれていた『予言者』が本当に現れたのかもしれないな」

誰もが先程のエツィオの言葉を聞けば『予言者である』と断言しただろう。
ジョバンニ自身、日記の件でもしやと思い、この告発めいたエツィオの予言で確信を得てしまった。
そして勝機を得たりと浮足立ったようなジルベルトは、エツィオの予言を確かめてみるべきだと進言した。また、早々にエツィオの実力を確かめるべきだと言う。
予言は置いておくとしても、天性のアサシンだとまで言われ、ジョバンニは苦虫を噛み潰したような顔になった。
この男はエツィオ自身の人生の事など何も考えてはいない。

ジョバンニはジルベルトを牽制するようにエツィオの予言を否定した。
食い下がられる事は承知していた。だが、一度冷静になって貰いたかった。
頑なな態度で冷たく「狐、これは私の判断だ」と告げると、不満を顔に出しつつも、フィレンツェの長であるジョバンニの命に従うように口を噤んだ。
キツく口止めをして追い出す様に退出を命じる。
だが退出する間際に駄目押しで再度エツィオに話を聞く様にと進言された。

「無理にとは言わないさ。あと、関わるなって言うなら今まで通り俺はそれに従うよ。マスターアサシン殿」

狐はそれだけ言うと、直ぐに窓から街の宵闇へと姿を消した。


****


翌日、仕事から帰ると、フェデリコが話があると言って書斎に訪れた。
何事かと話を聞けば、どうやらエツィオにアサシンとしての訓練を頼まれたという事だった。

「父上!エツィオは凄いんです!俺が本気で殴り掛かってもちっとも当たらなくて、それに父上みたいに手で受け止められて、こうやって、ぽいって転ばせてしまうんです!」

フェデリコは昨日のエツィオの体術に心底感銘を受けたようで、興奮したようにその凄さを伝えようとしていた。
如何にエツィオと共に修練に励めば、どれだけ早く一人前のアサシンになれるのか、そして一流の腕を磨けるかと語る。
ジョバンニは言い募るフェデリコの話を途中で遮り、そして一言「否」を伝えた。

「どうしてですか?父上!理由を教えてください!」
「フェデリコ、何もアサシンは戦闘技術だけで選ばれる訳ではない。特にアウディトーレ家は代々アサシンを稼業として継いできた。そして、その多くは長の座に就く」
「はい。それでしたら尚の事エツィオはアサシンに向いていると思います!」
「私はそうは思わない。アサシンになるという事は、辛い決断も必要となる。エツィオはアサシンになるには心根が優し過ぎるのだ。それに、エツィオから何か言われたのだろうが、もしその言葉が正しければ、エツィオはより危うい立場になる。テンプル騎士団だけではない、教団内部から危険視されかねん」

ジョバンニが諭す様に言えば、フェデリコは昨夜エツィオが予言した事を思い出し、言葉に詰まった。
エツィオ自身、自分が言ったことが本当になるのかを知りたがっている。
そしてその為に己も修業をしてアサシンにならなければと言っていた。

「父上、エツィオが狙われるかもしれないって、エツィオが予言者だからですか?」
「フェデリコ、特にその事は口外してはならない。それが、テンプル騎士団はおろか、我々の教団すら分断しかねないのだ」

ジョバンニは怒気をはらみ、キツく余所に漏らさないように言い含めた。
予言者にしろそうでないにしろ、エツィオの件は慎重にならざる負えない。そして、出来る事ならばこの手で護りたい。
これは親としての我が儘であることはジョバンニ自身も分かっていた。
そんな親心をまだ理解していない長男もまた、なんとか可愛い弟の力になりたいと必死だった。

「でも、エツィオも自分の持っている情報が本当になるのか知りたいようなのです。父上、エツィオの話を聞いてやってください!」
……いずれな」

無駄口は終了とばかりにフェデリコを執務室から出す。
それからも暇を見ては父親の説得を試みるフェデリコだったが、エツィオの謹慎が解けるまで、何の進展もなかった。


***


ジョバンニは3日間のエツィオの謹慎中に、何とか息子の気を逸らす為、あらゆる家庭教師を雇った。
外で鍛錬する暇も与えない程日中の予定を詰め込み、マリアにも事情は濁してエツィオを良く見ておくよう言い含めた。
恐らくこれも長く持つ作戦ではないが、それでもほんの少しの間でも余所事に囚われていてくれればいい。

案の定数日もしない内からエツィオから苦情を申し立てられたが、フェデリコを怪我させた罰だと言えば、口を噤んで渋々引き下がった。
しかし、敵も誰に似たのか反骨精神旺盛で、興味のない授業に関してはさっさと抜けるようになってしまった。
家庭教師が来るまで、部屋の前に監視を立てても窓から逃げ出し、ならば部屋にアネッタと共に待機させれば家庭教師を迎え入れた隙を伺い部屋を抜け出した。
また頭の痛い事に、逐一ジルベルトが家から出た後のエツィオの状況を報告してくる。
アサシンの修業を断られたエツィオは自分で出来る鍛錬を課しているようで、人気のない空き家などを見つけては、壁登りの練習や筋力トレーニングを行っているらしい。
だが、ジルベルトから齎される情報は、肝心のそのトレーニング場所についてはのらりくらりと交わされている。
盗賊達には上手く言い訳をしているようで、エツィオの監視については暇つぶしと言っているようだが、早々に息子をつけ回すのは止めるように言い渡した。
口ではジョバンニに従いつつも、エツィオをアサシンとして育てたいと態度が示していた。

そして、ジルベルトが勝ち誇った顔でエツィオを連れてジョバンニの前に現れると、いよいよ覚悟を決めねばならないと悟った。
何が何でも我が子をこの茨の道に引き摺り込もうとするジルベルトが憎くすら思える。
指摘されたように無理矢理大人しくさせようとしても、この聡い子供は難なく大人の手をすり抜けてしまう。
ジルベルトも今は純粋にこの危うい子供をきちんと管理するべきだと言っていた。面白がっている部分が大半だろうが、その懸念は尤もらしい。
渋々ジョバンニはエツィオのアサシンとしての実力をテストする事を許可した。


エツィオのアサシン試験は予想以上のものだった。
相対する敵に合わせて武器を使い分ける状況判断の鋭さや、的確な攻撃の仕方。油断のなく、自信に満ち溢れた戦い方は完成されていた。
これで成長し、肉体が出来上がっていればエツィオの右に出る者は居ないだろう。
そして、ジルベルトのエツィオへの興味の殆どが、予言者としての素質ではなく、純粋にアサシンとしての能力の高さに重きを置いている事も分かった。
実力主義の世界に身を置いている彼らしい基準に、ジョバンニは苦笑を禁じ得ない。
だが問題はアサシンの資質よりも「予言者」にある、そうジョバンニは考えていた。

「あの子は『予言者』だと思うか?」
「そもそも、盗賊ギルドで話したときに『予言者』についてさえ、何かを知っているような感じだった」

最早ため息も出なかった。
息子の真の価値が知られれば常に危険が降りかかる。ならば、誰からもどんな組織からもエツィオを護れるようにならなければ。
ただ隠すだけでは真の安全は得られない。どの道この秘密は遅かれ早かれ破られるのだから。

だが、この人目の多い都市で、エツィオのような完成されたアサシンに修業をつけるのは少々難しい。
今はまだ彼の特異な能力は隠しておきたい。
ならばジョバンニの兄、マリオが治めているモンテリジョーニの長閑な環境で思い切り指導をつけて貰えばいい。
そしていつかアサシンの長となるのは確定するだろうから、集団を率いる術も身に付ければ一石二鳥だ。

「あの子は私の兄に任せようと思う」

ジョバンニ自ら愛しい息子に稽古をつけられないのは寂しくも思ったが、マリオならばうまくやってくれるだろうという確信はあった。
その間に、自らもこの地での影響力を確固たるものにしなければならない。
それから将来エツィオを補佐するために、フェデリコの育成も急務となる。
そうと決まれば悠長にしてはいられない。ジョバンニは早速マリオに依頼するために、羊皮紙を取り出し手紙を書くのだった。


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