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不老不死凌牙の話《プロローグ》①

全体公開 遊戯王ZEXAL(Pixiv未UP) 2 3587文字
2015-05-29 21:54:57

───『コレ』は
あったかもしれない、バットエンドの話

「凌牙……
「ハッ、何だよⅣ、神妙なツラしやがって」

あの日、何かが掛け違ってしまった
取り残された未来の話

……凌牙……そろそろ4年になるよな……。オレとお前が、この交差点でデュエルしてから……
「何だよ、わざわざ呼び出して思い出話か?」

誰もがボタンを掛け違ったまま
精一杯に力を尽くして

「俺もヒマじゃねえんだ、Ⅳ、たいした用じゃねえなら帰るぜ」
……凌牙」
「それとも再戦でもしようってのか? だったら、」
「話を逸らすな……何でオレが呼び出したのか、とっくに分かってんだろ……

崩壊が忍び寄る音に、誰も気付かないまま

……なんだ、てめえにもバレたのか。うまく隠してたつもりなんだがな」
……分からない方がどうかしてる……

バットエンドが加速する、物語。

「てめえもう18だってのにッ成長出来ねえんだろッ!ヌメロンコードで帰って来た、あの日からッ!」

《不老不死凌牙と余命幾許のⅣの話》




気付いたのは一年ぐらい前だな。
確信に変わったのは、半年ぐらい前か。

最初は目線の変化だったんだ。
璃緒の視線が、前よりぐっと高くなった気がして
璃緒との身長差がどんどん縮まってるのにやっと気付いた。
メジャーと学校の身体測定の記録引っ張り出して来てよ。それまでじわじわ伸びてた身長が、中二の夏からピタリと止まってることにようやく気付いた。まったく、一ミリも、変わってなかったんだ。

単なる伸び悩みなら良かったんだがな。
最近よ、時間の感覚が前と違うんだ。
どんどん周りの感覚が加速しててってやがる。俺だけ取り残されたみてえに。
ああ……そうか、てめえと顔合わせんの、半年ぶりか……そんなに経ってたか。気付かなかった。つい一週間くらい前な感覚なんだがな……まだ、慣れねえな。

Ⅳ、どうやら俺の時間は止まっちまったみてえだ。

気付いたのが高校入ってからだったのがまずかったな。
その前に気付いてりゃ、バレる前に、上手いこと消えてたんだが。
あと半年……高校出るまでは、誤魔化せると思ったんだが。

だが、てめえに最初に気付かれるとは思わなかったな。

仕方ねえ。構えろよ。

なにをほうけてやがる。デュエルディスク構えてんだ、デュエルやるに決まってるだろ

簡単な事だ。俺が勝ったら、黙っててもらうぜ。

あと半年で高校卒業なんだ。
周りの奴らには海外に出るっつってある。ここさえ乗り切りゃ、後は上手いこと雲隠れするさ。
電話だのメールだの手紙だの、顔さえ合わせなけりゃ誤魔化し切れる自信はあんだよ
実際てめえだって、この四年は誤魔化されてくれたじゃねえか。

んな顔してんじゃねえよ。

そうだな
てめえがもし勝ったら
何でも一つ、言うこと聞いてやるよ。
土下座させるでも、靴舐めさせるでも好きにしろ
まあ、勝てたらの話だがな。
どうだ、少しはやる気になったかよ?

そうだ。そう来なくっちゃな



ライフポイントが終わりを告げる。
緑の数字が降り注ぎ、全てが消え行く中
静かに笑って目を閉じた凌牙の前で、
ひたすらに唇を噛み締めて、俯くⅣの肩は震えていた。
「は。なんて顔してんだよ」
凌牙はそう言ってデュエルディスクを下ろした。自らに表示された『loser』の文字に目を細めて、俯く勝者へと足を進める。
「勝ったやつが、ンな顔してんじゃねえよ」
勝っ、気、無かっ、癖に!!」
しゃくり上げたⅣの両眼からは、とめどなく涙があふれていた。
地面に吸い込まれて行く純度の高い雫を、凌牙は見送り続けた。
「これだからデュエルってのは嫌だよな。どんなムカつく野郎でも、カードを交わせば思いが分かっちまう」
っそりゃ、こっちのッ」
胸の痛みに耐えかねて
空気を吸い損ねたまま、Ⅳは喘ぐように喉を鳴らした。
「結局ッ!てめえは、止まらねえんじゃねえか!」
「ああ。これは俺の罰だ」
全てを受け入れ諦めたその声に
Ⅳは頭を振って泣き叫んだ。
「てめえは本当に、思い通りにならねぇ!!」
慟哭じみた声は、凌牙に一つ片眉を下げられて受け止められた。
けれど、凌牙がそれで道を変える事は無い。もう決めてしまったからだ。
「だから、気まぐれに、一度ぐらいテメェの思い通りになってやろうって言ってんだろ。あいにく、俺は餞別にやれるモンなんてねえからな」

膝から座り込んだⅣを見下ろしながら、凌牙はついと、ビルのスクリーンを見上げた。
輝かしい映像の中で、プロとしての顔をしたⅣが、アナウンサーに賞賛されながら海外トップユース入りを明かしていた。
繰り返し流れて消えるデュエルのニュースと広告は、ここ一週間ひっきりなしに目に付いていた。

下の学年にいるⅢから、海外行きの話は聞いていた。長い不在になるだろう。仕事の運びによっては、一生。
しっかりと余所行きの外ヅラを整えたインタビューと、視線を戻した先で座り込んで顔をぐしゃぐしゃにしたⅣは、似ても似つかない。
凌牙はそれに喉の奥でハッと笑って、見栄もへったくれもなく泣いて座り込んだⅣに近付いた。

凌牙は、知っている。
この男は、運命を嘆いて涙を流して座り込むような、脆さも可愛げも持ち合わせちゃいない。そんな男であるならば、あの日あの交差点で、とうの昔に凌牙はこの男の心を折る事に成功していたはずだった。

慟哭し、怒り、泣き叫ぶのは
とっくに心が麻痺して泣くことも無くなった、凌牙の代わりであることを

凌牙のその在り方が哀しくてたまらないのだと

「馬鹿だな、てめえは」



友情に気付かないでいられるなら
最初から心を交わしなどしなかった



凌牙は首一つ横に振って未練を振り払い
肩を広げて偽悪的に先を促した。

「さあ、いつまでもファンを待たせるんじゃねえよ。お得意のファンサービスはどうした。さっさと決めな。土下座か?はいつくばって腹でも見せるか?好きにしろよ」

崩れ落ちたⅣを見下ろす凌牙の偽悪的な声音は、それでも、よく知る者で無ければそうと気付かぬほど微かに柔らかく
瞼を少し落として細めた目は、何もかも受け入れて
そうして、自分のプライドと引き換えに、何かの終わりを受け入れようとするから。
その引き鉄をⅣに引けと促すから、Ⅳは、
歯を噛み締めて、声にならない嗚咽を抑えながら
地獄からの怨嗟のように、低い声を出した。

「ふざけんな

ガッと立ち上がって、胸倉を掴み上げた。
けれど凌牙は、目を伏せて視線を逸らした。
お前と向き合う気は無いとばかりに。

それに腹の底から怒りをたぎらせて
頭に血が上ったまま、叫ぶ。

「ああ、分かった、言ってやるッ」

泣き崩れて充血した目で
ギラギラ強い視線を叩き付けても、凌牙は無感動な平坦な目を向けただけ。


「てめえは負けたんだ、オレの言う事なら何でも聞く、そうだな!?」


凌牙は「ああ」としか言わない。
無造作に自分を投げ出して、切り捨てられるのを望んでいる。
「だったら!」
嗚咽の混じる喉を抑えつけて
Ⅳは、叫んだ
腹の底から
血を吐くように、叫んだ。

「逃げねえで、幸せになれよッ!!」


Ⅳの絶叫は、
そのとき初めて顔を上げた凌牙に、目を見開かれて受け止められて

少しの間言葉を忘れたように目を見開いていた凌牙は、
ゆるり、
ゆるりと、視線に苦い笑みを、乗せた。
「難しいこと言いやがるなてめえは」





困ったような
憎まれたくて失敗した、そんな幼い表情は



もう、どうしようもないのだと



言葉よりも雄弁に突き付けて、
Ⅳは再び膝から泣き崩れた。



「う……




そんな、そんな。
俺もお前らと幸せに生きたかった、みたいに
眩しそうに、取り繕いそびれた本音を
そんなふうに零されたら

「う……あああ!」

もう、なんにも言えないじゃないか







服の襟を掴んで縋るように、
凌牙の前で慟哭したⅣをさせたままに見下ろして

凌牙は、胸に重すぎるものを空に逃がすように
空を仰いで、ため息を流した。

「なんでてめえが泣くんだよ」

曇り出した黒い雲から、遠い雷鳴が聞こえる。

ゴロゴロ、と、雷鳴が泣いて
ポツン、と
凌牙の頬に、雫が落ちてきた。



頬を伝った雫は、
滑り落ちて
けれど、凌牙の瞳は、乾いたまま



次第に降り出した豪雨が
耳を刺す重過ぎる慟哭を覆って

一人と独りが、
ザァァァァと降る雨の中を、
重なったまま立ち尽くして



やがて
雨に紛れて何も聞こえなくなった







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