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アニメ『平家物語』第一話「平家にあらざれば人にあらず」びわが歌っている言葉、原作を交えた解説・感想的なものなど。

全体公開 2 3 4788文字
2021-12-12 16:48:41
Posted by @sirasu810

 
やっと!TV放送ほか配信が! き ま し た ね !
こちらの解説・感想は、放送まで我慢しきれずにFODで全話を先行視聴したしらすが書き殴ったものです。「あの部分はそうだったのかー」的なナルホド読みものとしてお気軽にお楽しみいただければ嬉しいです。一話以降の解説・感想も順次あげていきます。コメントフリーですので、みなさまのアニメ感想や「ここがよかった〜」な推しポイントがあれば、ぜひ教えてください。お気軽に、ぜひ。



平家物語は、古典作品・歴史物語、かつ〈語りもの〉です。史実を脚色した物語でもあり、全十二巻+灌頂巻かんじょうのまきからなるとされていますが、内容・構成には多くの種類があります。関連作のバリエーションも豊富で、時代・地域・語り手・本によっては、登場人物が全く別の描かれ方をすることがあります。多くの人々が書いて語って繋げてきた物語です。

アニメ平家物語は、古川日出男 訳の『平家物語』を原作としています。こちらは現代語訳された平家物語なのでさらさらと読めます(原典は和漢混交文)。紙の本では1082Pだそうです。Kindleには無料特製試し読み版があります。

 平家物語 特製試し読み版
 https://www.amazon.co.jp/dp/B01MZ1S0ZJ/

電子派の私は電子版で読みました。訳本は古語をどのように解釈・表現するのかという部分に訳者の味が出るので面白いです。全編が現代語で書いてあると、物語が読み解きやすいのもいいところ。


アニメの第一話タイトルは「平家にあらざれば人にあらず」非常に有名な言葉です。びわの登場と、びわと平家の出会いの回。そして『平家物語』において最も有名な、

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祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。

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が語られて、OPに入ります。一巻の『祇園精舎』にある文章です。物語の冒頭だけあって、洗練された言葉遣いがたまらないですね。〈琵琶とともに語られてきた物語〉であることも平家物語の重要な特徴の一つなので、これらがアニメで美しい映像と音楽と一緒になって、全部ひっくるめて見ることができて嬉しいかぎり。なおアニメ第一話のこのシーンは、最終話を見たあとにぜひとも見返してください。

びわは平家の良心と評される、義を重んじ礼に篤い平重盛たいらのしげもりと出会います。先のことを見通す目をもつびわに対し、重盛は行き場のない亡き者たちの姿が見える目を持っていました。このことはびわの存在と同じく、アニメオリジナルの要素です。

びわは重盛の子供たちと対面します。彼らは今後でっかくなっていきますが、成長しても着物はほぼ同じ色合いで描かれますので「どれがだれモリだよ……」の目印にもなります。以下ご紹介。なお一話だけでなく、今後も次々ともりもりもりもりもりもりが出てきてややこしいので、重盛のことは小松殿こまつどのと書きます。小松は地名からとった重盛の呼び名の一つで、小松の内大臣などと呼ばれていました。

 小松殿こまつどの重盛しげもり)の子供たち
 長男:薄紫:維盛これもり 礼儀正しくて気弱、怖がり
 次男:黄:資盛すけもり 生意気でいじわる、お調子者
 三男:緑:清経きよつね おっとりしていて優しい
 四男:桃:有盛ありもり ※あまり出番はない

小松殿の家族とともに、穏やかに暮らすびわ。このシーンに出てくる桜吹雪をはじめ、アニメ平家物語の花の表現は、とてもきれいで印象的です。

びわは徳子とくことも出会います。清盛の娘です。小松殿とは母親違いの兄妹。「どうして男の子の格好をしているの?」「その方がいいかも知れないわ。女なんて……」という言葉は、徳子をはじめ、当時の女性たちのあり方を思うと切ない。

そして殿下乗合てんがののりあい事件が起こります。
摂政殿下せっしょうでんかと呼ぶときはデンカなのですが、殿下乗合についてはテンガとも。意味は同じです。殿下は摂政の藤原基房ふじわらのもとふさを指します。

ある日、次男:資盛すけもり一行は、摂政とばったり行き合います。資盛が清盛(太政大臣)の孫であるとはいえ、天皇の補佐である摂政基房もとふさの方が格上です。アニメでは出ませんでしたが「殿下のお出かけである、乗物より降りよ!」と下馬するように促されます。しかし資盛は礼をとらなかったため、馬から引きずり降ろされ、暴行されました。

FGOぐだぐだイベント(昭和キ神)で、ナガオカゲトラさんが「挨拶の時に馬から下りない奴とかボコりますし、私!ガチのグーパンで!」と言っていましたが、そのとおり。次男はとんだ無礼をしてボコられたわけです。

先に無礼を働いたのは資盛一行だったのですが、ボコボコにされた孫の話を聞き、清盛は兵に命じて摂政に報復を目論みます。

六波羅ろくはらつわものたちの、腕の見せ所よの!」

ここでびわが歌うのは『平家物語』一巻にある『殿下乗合』を引用抜粋したもの。びわが琵琶と共に歌う言葉は、現代語訳の原作ではなく、古典から引用して構成を調整してあり、聞きやすくなっています。

 六波羅の兵ども、 
 混甲ひたかぶと三百余騎 待ち受け奉り、
 殿下てんがを中に取籠とりこめ参らせて、
 前後より一度にときをどっとつくりける。
 そこに追っかけ、ここに追っつめ、
 馬よりとって引き落とし、
 もとどりを、切る。
 これこそ平家悪行の、はじめなれ。

詳細が分かるよう、この出来事の前後が含まれている古典原文の訳を置いておきます。しらす訳なのであしからずです。

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 (無礼をした資盛を打ち据えた)殿下でんか藤原基房ふじわらのもとふさ)は、清盛の報復があるなど夢にもご存知なく、主上しゅじょうが明くる年に行う元服げんぷく加冠かかん拝官はいかんの手配のために、しばらく直蘆ちょくろ(摂政の執務室)におとどまりになろうと、いつものお出かけよりも改まった身だしなみで、今回は待賢門たいけんもんからお入りになり、中御門なかみかどを西へと向かった。すると猪熊・堀川の辺りで、六波羅の兵(平家の武士)たちが、みな甲冑をつけて三百騎あまりで待ち伏せしており、殿下を中に閉じ込め、前後から一度に鬨の声をどっと上げた。
 前駆ぜんく御随身みずいじん(従者)たちが、参内さんだいする今日を晴れの日として着飾っているのを、あそこに追いかけて、ここに追いつめて、散々に侮辱し、一人ずつもとどりを切った。随身十人のうち、右近衛の府生の武基たけもとの髻も切られてしまった。蔵人くろうど大夫たいふ藤原隆教ふじわらのたかのりの髻を切るときに、
「これをお前の髻と思うな。あるじ(摂政)のものと思え」
と言い含めて切った。
 その後は摂政の乗る御車の中にも、弓を突き入れたり、すだれをかなぐり落としたり、牛のしりがいむながい(牛車の紐)を切り離すなど、ひどい目に遭わせて、よろこびの鬨の声を上げて六波羅へ帰って申し上げたところ、入道(清盛)は
「神妙なり(よくやった)」
とおっしゃった。

................

訳文にある主上は君主、つまり帝、天皇のことです。シュジョウまたはオカミとも読みます。摂政は、年明けに行う天皇の元服などの儀式の準備のために参内さんだいしようとしており、そこを待ち伏せされ襲われました。

もとどりは、頭上で髪を束ねたところです。髻切もとどりきりは大変な侮辱にあたります。朝廷に属する男子にとって、頭のてっぺんを他者に晒すのは恥という文化がありました。被り物(冠・烏帽子など)は身分を示しています。身分を引き剥がされ、人に見せない部分である髪が引っ掴まれ、ぶつんと断ち落とされた、ということです。なお元服げんぷくの儀式には髻を結ぶことが含まれます。以降は成人として髻をつくり、人前では隠している状態。出家するときには髻を断ち落とします。

「よくやった」の部分は、アニメ清盛が言うなら「おもしろいのう!」ですが、摂政家に手を出したことは、平家一門にとっては悪手でした。藤原は名実ともにエリート、根っからの貴族です。対して平家は成り上がりの一門というのが当時の殿上人てんじょうびとからの認識です。ついこの間まで宮中に、天皇のおそばにはべることも許されなかった一門、貴族に使われる〈武士〉だったので、反感が強いわけです。平家が初めて殿上を許されたのは清盛の父:忠盛ただもりの代からで、その場面は少し登場しました。忠盛もなかなか肝の据わった人物です。

襲われ髻を切られた人々は、当分のあいだ人前に出ることなどできないので、天皇のための儀式は滞ることになります。この点も貴族たち、そして天皇家にとっては非常に不愉快なところ。『平家物語』において殿下乗合事件は「藤原鎌足ふじわらのかまたり藤原不比等ふじわらのふひとのことは特に言うまでもなく(略)摂政関白殿がこのような目におあいになったことなど聞いたことがない」と表現されています。後白河法皇ごしらかわほうおうもお怒りです。

「これでは朝廷の面目がまるで立たん。天皇の摂政があれほど、馬鹿にされたのだからのう……!」

一話はここまで。
「これこそ平家悪行のはじめなれ」とびわが語ったとおり、これから平家は数々の悪行により滅びていくことになります。次回はびわや徳子、そして白拍子しらびょうしたちの姿が描かれます!



——以下雑談——

アニメの冒頭で揚羽蝶あげはちょうが飛んでいます。蝶は、卵→幼虫→サナギ→成虫、と様を変えていく生き物で、東洋でも西洋でも死・再生・復活といったイメージを持つものとして描かれます。仏教的にも〈蝶は死者を浄土へ運ぶ〉とされており、平家の家紋は揚羽蝶だったとも。東大寺大仏殿には蝶を模した造形物があり、これが八本足です。八本足の理由は謎。

殿下乗合てんがののりあい事件において、摂政への報復を命じたのは清盛ではなく小松殿の方で、事をおさめようとしたのが清盛だったという語り方もあります。
「いやいや小松殿はそんなことしません」
「小松殿は礼儀を弁えてはいるけど、ここは子どものためにこそ仕返したんだ」
「当時の情勢を考えると、これこれこういう勢力関係であったからして、より史実に近いのは……
など、歴史を元にしたフィクションは展開が膨大。解釈の数だけ本は生まれるもの。アニメでは一貫して〈横紙破りの清盛〉〈人徳者の重盛〉が描かれます。私はアニメの小松殿が大変にすきです。過労の苦労人、よき。

最後のシーンで後白河法皇の酌をしているのは平滋子たいらのしげこです。建春門院けんしゅんもんいんともいいます。平時子たいらのときこ(清盛の妻)とは姉妹ですが、清盛側の人間ではありません。滋子は非常に美しく聡明で、天皇家と平家の調整役だったとされています。



二話の感想・解説はこちら▶︎
https://privatter.net/p/8264514
※FOD以外での放送・配信はまだなので(1/13時点)、ネタバレしたくない方はご注意ください。



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