四宮くんバージョンの、ぜろつーくんと和泉さんの話です。
@aricosyyim
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00. サムデイインザレイン
その日は酷い雨で、全ての痕跡を雨音と泥と水が消してくれるような、そんな日だった。
(零、一、二……零、一、ニ)
白夜零兎の脳内は、全てが二秒の繰り返しでできている。
能力名『心に零、そして二と数えよ ー カウントゼロトゥツー ー』
この能力は、「ニ秒先の起こりえる未来」を映し出して、その中から「自分が求めた未来」を手繰り寄せる。
路地裏に転がる空のペットボトルを蹴飛ばして、白夜零兎は雨に濡れて重くなった前髪を指先で弾いた。
(五人ってとこか……)
追ってくるのは、裏社会にて名を馳せる「使徒ーイスカリオテー」の手の者だろう。自分たちが封じていた存在が、自分たちの手に負えなくなったから排除するとは愉快な話だ。
零兎はくつくつと喉の奥で笑う。
腹の底から込み上げる愉悦は、彼らを心底愚かだと嘲る心と、自らをもう誰も止めることはできないという自負がもたらすものだ。
二秒先の未来を映さずとも分かりきっている。彼らはここで終わるのだと。
人間が、時間という枠組みから超越でもしない限り、何人もこの能力から逃れることはできないのだから。
(零、一、二。零、一、二)
「追い詰めたぞ……死ねっ! コード00」
——来たな。タイミングは完璧……まぁ、狂うわけがないんだけど。
現れた追手は、この後、零兎によって選ばれた通りの未来を歩むこととなるのだ。
「殺せ!」
物騒な言葉を皮切りに、全員が銃口を向けるのを、隠されていない方の目で見遣り、そして細める。
死神のようにうっそりと笑んだ白い男は、ゆっくりと薄い唇を開いた。
「ようこそ。そして、じゃあな」
乾いた音を立てて、最期の二秒を迎えた追手の眉間に穴が空いた。左手に持った小型拳銃の弾が、零兎が手繰り寄せた通りの未来へと導く。
それからも、零、一、二、零、一、二、と数えながら二秒先の未来を映して選ぶ。だった数秒ほどの間に五つの命が散っていった。
この場には、ただザァザァと地面に打ち付ける雨の音が響くばかりだ。
二秒先の未来を手繰り寄せる能力とは、すなわち、誰かの二秒先の未来を奪う能力だ。
枝分かれする二秒を、自らの基準で剪定する——剪定し続ける能力である。だから、白夜零兎は、零と一と二を続け、分かりきっている未来の上を歩んでいく、そんな存在なのだ。
「へっくしゅん!」
酷い雨だ。だが、痕跡を消すにはちょうどいい。五つの死体を横目に見ながら鼻を啜る。
「この後はどうするかなー……」
今回追ってきたのは下の連中だったが、使徒どもに居場所を知られたことは確かだろう。であれば、この街に長居するわけにもいかない。
この路地裏を後にするべく、踵を返そうとすると。
——男が立っていた。
「っ——!?」
「どうも、こんにちは。いいバトルだったじゃないか」
その男はジャージ姿で、芯の曲がった透明なビニール傘をさしていた。どことなくぼんやりとした目を細めて、小首をかしげる様があまりにもこの場に似つかわしくない。
(何故だ? どうして俺は気づけなかった)
「どうして気づけなかったのかって顔してるね。そりゃあ、気づかれないようにしたからだよ」
「そんなこと、簡単にできるわけないだろう。……お前、何者だ?」
「困るなぁ。人に何かを聞くときは自分から話すもんだっていう常套句を言わなきゃならなくなるだろ?」
そう言いながら、男は格好に似つかわしくない分厚い黒い手袋をゆっくりとはずした。
「……、おい、動くな」
拳銃を向けるが、男は少しも物怖じしない。
それどころか、「まぁまぁ、落ち着きなさいって」と気の抜けた声を出し、何故か待っていたビニール傘をその場に捨てた。
そしてゆっくりと歩みを進め、気がつけば零兎の目の前にいた。自らよりも高い位置にある顔を見ながら、二秒先の未来を手繰り寄せるべく能力を使うが、映し出されるのは目の前の男以外の事象のみ。
男は何を考えているのかわからない表情で、手袋を外した右手で自らの顎を撫でていたが、おもむろに反対の手を零兎の方に伸ばし、拳銃を持つ手に触れる。迷うことなく引き金を引くが、銃弾が男を貫くことはなかった。
「……なっ」
「ムダだよ。さっきの見てたけど、アレだろ。君の能力っていうのは、未来が見えるタイプ、もしくは選べるタイプのやつだろう? だったらそれは俺には通用しない何故なら、未来を操作できるのは君だけじゃないからだ」
「……ってことはつまり、お前は何かしらの能力を使って俺の未来に干渉する能力を無効化した……てことか」
「七割くらいは当たってるね。俺の能力は確率の操作。ものの確率を操作できる。よって、君の異能力が俺に及ぶ確率を下げたり、その拳銃の故障率を上げたり、なんなら君の突然死の確率を上げることもできるってワケだ」
「…………」
君の能力とはべらぼうに相性が悪そうだと見込んで目の前に現れてみた! とヘラリと笑んだ男に、底知れないものを感じて盛大な舌打ちをこぼす。せっかく使徒の追手を殺したというのに、もっと厄介なものが出てきてしまった。
そんな零兎の考えを知ってか知らずか、男はまるで一人演劇でもするかのように続ける。
「君の能力は確かに素晴らしいけれども! 神様って奴がいるんだとしたら、そんなヤバイ能力を野放しにしてるわけはないだろう? メタカードを用意するなり、禁止カードにするなりするはずだ。どんな馬だって衰えは来る。フネだってチャリだって番狂わせは必ずある。当たりの台だって、そこに座れなければ意味はない……て、これは少し違うかぁ。つまり、そういうことさ」
「いや、わかんねーって……」
「ああ、話の主旨が見えないって? ごめんごめん!」
まぁ、言い出しにくいことってあってさ。と、何故か申し訳なさそうに頭を掻きながら前置きをした男は、零兎の片目を見つめながら口を開く。
「あー……。あのさ」
今日は雨、全ての痕跡を消してくれるような酷い雨だ。そんな雨の路地裏で、五つの死体もそのままに、邂逅を果たしたびしょ濡れの男二人が向き合っていた。
「悪いんだけど、お金、貸してくんない?」
「……」
「あれ? 聞こえなかったかな」
「……お前ふざけてんのか?」
「いやいや、待ってくれ俺はこれっぽっちもふざけちゃいない。金がないんだ。だから、金を貸してくれそうな奴を探してたそこで! 君と出会った」
相も変わらずこの場所には雨が降っていて、地面に叩きつけるそれは、勢いを増しているように思える。
「……はぁ……。残念ながら俺も金は持っちゃいないぞ」
「え……そうなの?」
零兎が無言で頷くと、男はあからさまに落胆したようにガックリと肩を落とした。そして天を仰ぐと、きっと信じてはいないであろう神に向かって「神様ってさ、不条理だよね」などという言葉を吐き出している。
「つか、金が欲しけりゃ、そこの死体から持ってったらいいだろ? どうせ死んでるんだから」
「でもさ、それは君の取り分だろ? 俺に譲ってくれるってんならもちろんありがたーくいただきますけどね」
「……はぁ。なるほど、お前も真っ当な奴じゃないってことね。まっ、異能力使う奴にまともなのはいねーか……」
死体を見て『取り分』などと言う人間がまともなはずがない。つまり、死体=金だと思うような生活をしているということだろう。
「いやぁ、参ったよ。今日こそは絶対勝てると思ったんだけど、勝てなかったんだ」
男は、転がっている死体のそばにしゃがみ込むと「さーて……」と言いながら、男たちの衣服を脱がせている。
「おっ、あったあった。金とカードと……あとは、あ、この時計とかなら売れるな。来週の馬券くらいにはなりそうか?」
「つか、確率操作できるってんなら、ギャンブルの勝率上げりゃいいだろうが」
「バカを言うなよ。そんなことしたらギャンブルがつまらなくなるだろ?」
なるほどわからない。首を傾げつつ、零兎はこの場から去ろうと踵を返す。
「君、名前はなんて言うんだい?」
「人に何かを聞くときは自分からだとかなんだとか、さっき言ってなかったか?」
「あれ、そうだっけ?」
「とぼけた野郎だな、お前……」
男はアハハと悪びれることなく笑うと、立ち上がる。そして、びしょ濡れのジャージの裾を絞ると零兎を見つめて目を細める。
「初めまして。俺の名前は和泉。さっきも言ったけど確率を操作するタイプの異能力者だ」
「零兎だ。能力は、まぁ見てたんならわかるだろ。それで、これからどうするんだよ」
「どうするって、金は手に入ったし、この街からサヨナラーって感じかな」
「別に金が手に入ったならこの街にいたっていいんじゃないのか?」
「あれ、ひょっとして零兎くん、ご存じない?」
「なにを」
「この街、狼が犯罪者狩りしてるの」
——は?
零兎は、この街について詳しくはない。何故なら、使徒の奴らに追われながらたどり着いて潜んでいた場所だからだ。それに使徒に居場所がばれてしまった今、この街にいるのは危険だとも思っている。
だから、当然この狼のことについては知らなかった。
「なんだって?」
「だから、狼だよ。二匹の狼が犯罪者を食うんだ」
「……その狼って、まさか異能力じゃないだろうな?」
「さぁ。俺は会ったことがないからなぁ。遭遇確率を下げまくってるからね」
「便利だな、その異能力……」
「だろう? でも、五人も殺しちゃった君と、死体から金をむしり取った俺は世間的には犯罪者だ」
「つまり?」
「現状確率自体が跳ね上がってる。だからさっさととんずらした方がいいってこと」
和泉は先ほど捨てたビニール傘を拾うと、零兎を見てニヤリと笑った。
「零兎くん。君は何かに追われていた。そいつらは君的には殺していい」
「おい、何が言いたいんだ?」
「俺はギャンブルができればいい。つまり金が必要。金を手に入れる手段は問わない」
「あーー、大体わかった」
「だから、一緒に行こうじゃないか」
相変わらず雨の音がする路地裏で、再び手袋をはめた男は零兎に手を差し出す。零兎が眉を寄せても気に留めず、握手を求めるように小首を傾げて微笑む。
「俺は確率の操作ができる。君は細かいことは知らないが未来の操作ができる。きっと組んだらでかいカジノで豪遊できるぞ」
「俺はカジノには興味ねぇよ」
「そうかい? でも、行くあてもないんだろう? なんか、君、所在ないって言うか死神みたいでふわふわしてる感じがするし」
「はっ、なんだよ、それ」
「イメージの話だよ。まぁ、互いにとって都合がいいなら手を組んでもいいと思うんだけど、どうだい? 君の逃亡をこの便利な能力でサポートする。そのかわり君の追手の財布は俺がもらう」
「……まっ、俺としても、お前のその能力は魅力的ではある」
「よし来た。そうと決まれば、雨が止む前にさっさと移動しようか」
握手をすると、和泉が思いのほか嬉しそうに笑った。それを見て、同行者がいるのも悪くはないと思う自分に少しばかり驚いた。
本日は雨。全ての痕跡を消すような、ひどい雨だ。
これは、未来を選ぶ力を持つ男と、未来の確立を操作することができる男が出会った瞬間の話だ。
どこかで狼の遠吠えが聞こえた気がした。
◆
身包みを剥いだ五つの死体をそのままに、男二人は土砂降りの街を駆けていた。この街から出て、どこか雨宿りのできる場所を探すべく、人通りのない街中を、水たまりを踏みつけながら走る。
「え、待て待て、足遅くないか?」
「いや、君がっ、早すぎるんだって……っ」
「つったって、逃げたほうがいいって言ったのはお前……あー、和泉さんだろ」
「確かに早いとこ街から出たほうがいいんだけどさ……、俺の能力もどこまで頑張れるかわかんないし」
数分前、零兎は和泉から「この街には犯罪者を食らう狼がいる」という話を聞いていた。この和泉という男は非常におどけていて食えないところがあるが、必要以上の嘘をつくような類の人間ではないと思われる。
ゆえに、この話も冗談などではないということは理解できた。
確率を操作できる、という曖昧な能力に関しては、零兎自身が目の当たりにしているのだが、その条件に関しては教えられていない。
「そだ。一緒に行動するなら聞いておきてぇんだけどさ。和泉さんのその能力、条件ってのはあるのか?」
「うーん、あるにはある。一瞬でも相手に触らなきゃダメだ。右手は確率を下げる、左手は確率を上げる。あ、言っておくけど、手で上げ下げするのは下ネタじゃあないから」
「ああ、まあよくわかんないけど、わかったわ」
「そうかい? なら良かった」
「聞いといて自分が喋らないってのもフェアじゃないから俺も喋っとくな」
零兎が口を開くと、和泉は「別にいいのに」と微笑を浮かべるが、聞く姿勢は持っているようだ。
「二秒先で分岐してる未来が見える。そんで、その分岐してる、いくつもの二秒先から、俺にとって都合のいいものを選べる」
「なるほど? 未来が見えるだけじゃなくてやっぱり多少操作できるのか。ということは、君も、思い通りに行かないギャンブルが好きなタイプだろ?」
「さあな。追われてる身なもんでな、そういうのはやったことねぇよ」
「もったいない! て話は、まぁまた今度するとして。ええと、つまり、君が映す未来は『選べる』だけで『変えられる』わけではない。合ってるかい?」
「ああ、合ってる。絶対に死ぬ奴は救えない。だが、俺が見る無数の未来の中で、一つでもその命を救える未来があるなら、選べる」
「てことは、俺の確率操作と非常に相性が良いわけだ。なるほどなぁ!」
「まっ、だからこそ、その二秒先の未来の確立をゼロにされちまうと、俺の能力は使えない。だから俺にとってはアンタほど相手にしたくねぇ奴も珍しいよ」
「俺が味方でよかっただろ?」
「そーだな……さて、そろそろまた走るか」
そう言うと、嫌だなぁと言う声が聞こえたが無視をする。追ってくるものが、使徒にしても狼にしても面倒なことには変わりない。そもそも狼などというものに追い回された段階で、逃げ切れる確率などないも同然なのだから、見つからないうちに去ってしまうに限る。
土砂降りの街を少しばかり走ったところで、ふと雨が弱まっていることに気づく。ここは街外れの倉庫街であり、ここを抜ければ隣町へと抜けることができる。
そんな時だ。視界の端が白くぼやけた。
(いや、これは、端だけじゃねえか……)
「零兎くん……まずいことになった」
「何が」
「霧が出てきただろ? 例の狼は、霧の中から現れるって言われてるんだよ」
「…………追いつかれたってことか」
「たぶん」
(零、一、二……………零、一、二)
「っ——和泉さん、後ろに飛べ」
「どわっ⁉︎」
和泉が後方に飛んだ瞬間、その場所を鋭い刃物のようなものが掠める。そして、それはコンクリートの地面を抉り、仕留め損ねた獲物に再び狙いを定める。
霧が集まり、そして二つの形に集約する。そこにいたのは。
「二匹の青い狼……」
その獣は、合計四つの瞳で二人を睨みつけると遠吠えを上げる。まるでそれは、これから獲物を殺すための、鬨の声のようだと思った。
「ちっ、追いつかれたか」
「……ごめんよ零兎くん。もともとバカ高だった確率を下げ切ることはできなかったみたいだ……」
「いや、むしろここまで見つからなかったのはアンタのおかげだろ。だが、見つかっちまったんだったらやるしかないってことだよな」
狼を相手にしたことは当然ないし、和泉の能力がどう仕えるのかはわからない。だが、せっかく使徒のところから抜け出したのだからこんな場所で殺されてやるわけには行かないのだ。
二匹の狼たちは代わる代わるに刃物のような爪と牙を剥け襲いかかってくる。
「右っ、次は左だ」
零兎が放つ銃弾は、狼の脚を掠めるばかりで致命傷を与えることができない。実態を消すことができるらしい彼らに物理攻撃は効かないのだろう。
「どうすりゃいいんだよ!」
「狼の実態がないってことは、十中八九異能力によるものだ。つまり、使役してる奴がいるってことだと俺は思う」
「つまりは、そいつを叩かない限り無理ってことか」
(零、一、二……零、一、二)
起こり得る未来を無数に映していく。その中で、何か、手がかりがあれば——っ⁉︎
「和泉ッッッ‼︎」
咄嗟に体を屈めて、和泉の腕を引く。
その刹那だ。地面を銃弾が抉った。
その弾道は、先ほどまで零兎と和泉の頭部があった場所を綺麗に通過している。
「狙撃かっ! こんな時に」
「弾道的にそんなに高い場所じゃない。もしそいつが狼のご主人様ならそっちからなんとかしなきゃなんないな」
「つっても、狼とライフルかわしながら向かうのは、未来が見えててもなかなか……っ」
「狼はともかく、ライフルくらいならお任せあれ。命中率を三十パーセントくらいにならできると思う」
「……アンタのその能力、ほんと嫌だわ。けど、今は心強いな。そんくらいの確率ならなんとかなるか。で? ご主人様はどっちだ?」
「あっちだと思う。あっ、これも今、そいつが見つかる確率を上げたから多分あってる。弾道的にも間違いないだろう」
「オッケー。そんじゃ、ヘッドを潰しに行きますか」
一方その後——
「やっべぇ、これ見つかったわ。どうする? いおりん」
「……どうしよっかーー。つうか、普通あそこで外すか? 絶対当たるって雰囲気やったやろ⁉︎」
「せやかて! あんなチートみたいな能力使われたら無理だって。狼に襲わせてるけどあいつらだって万能じゃないしさぁ」
「うーん。だったらしゃーないわな。こっちで迎えがてら、狼くんたちで挟み撃ちにするか」
つづきました↓
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このあと、伊織くん、すりっぷさんと合流して、あしこしでチーム組むことになったら胸熱なんだが!