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降伏/ジェダイ/恨み言/皮膚の内側/期待

全体公開 アナオビ 12 5257文字
2022-05-29 22:53:51

オビドラマの次の話を見る前にいきおいのまま出力しておく幻覚置き場 6/20更新

Posted by @syuu_29

次の話を見る前に書いた幻覚をひとまとめに格納していくことにした

☆三話観る前
降伏 2≫ ベイルとレイア(5/29)
ジェダイ 3≫ オーウェンとオビ=ワン(6/1)

☆四話観る前
恨み言 4≫ オビ=ワンとベイダー(6/4)

☆五話観る前
皮膚の内側 5≫ オビ=ワンと火傷(6/13)

期待 6≫ 3話のベイダー卿(6/20)


「だって彼、あんなにくたびれたおじいさんなんですもの!」
自室に戻るなり言い切った娘の言葉に妻ブレアの顔が引きつり、ベイルはとうとう堪えきれずにむせた。
本人に自覚はないことだろうが、この十年の間で彼女が身につけたことのあるどの肌着の一枚より安いに違いないレイアは、たしかに今なら農家の娘と言って通らなくもないかもしれない。なにしろ上質な服を覆い隠す緑のケープは見るからに安物であるうえに、オルデラン風に編み込んでいる髪の毛はいくらかほつれて乱れている。それに常日頃の聡明さを欠いて、いまや熱を帯びた頬は赤く膨れてさえ見えた。だが何よりも、座っていられないとばかりに立ち上がってぐるぐると同じ場所を歩き回りながら、身振り手振りを交えながら初めて出会った本物のジェダイについて両親に語る姿ときたら、年相応の幼さを彼女に与えていた。次期女王とは思えない落ち着きのなさはいつものお転婆ともまた少し違っており、ベイルの胸の内には“いつもより手が付けられない”という感想さえ浮かぶほどだ。
羽織っているフードつきの緑のケープも、フィンガーレスの皮手袋もオビ=ワンが買い与えたのだという。きっと普段着とはいえ上質な布地の服を着た子供は目立つからだろうが、オビ=ワンがうんざりした顔でこれを羽織らせたのがベイルには目に浮かぶようだった。ケープは明らかに娘の趣味ではないし、わざわざ革手袋なんて自主的には買い与えないだろうことも想像がついたからだ。そういう無駄に気を配れる男ではない。勝手に手に取り身につけるレイアにため息でもつきながら「あれも頼む」とクレジットを支払っただろう姿が想像さえできる。
そもそもレイアは十歳とは信じがたいほど弁が立つ子供だ。さぞオビ=ワンも手を焼いたことだろう。彼女は今、それこそ自分の無知の責を問うべく両親を責めているので、その気まずさもよくわかる。オビ=ワンに何歳か聞かれたとも言うのだから、十中八九この調子で彼をやりこめさえしたに違いない。彼女の未来を思えば安心だが、痛いところをつくのに長けた娘はまだ政治的手腕を知らず、ただ無遠慮なところがある。
だが、だからこそよく胸に響きもする。
たしかに、レイアにはジェダイのことは多くは語らずに済ませてきた。古い友であるどころか、知り合いだったとさえ彼女には知らせていなかった。
そのような状況でオビ=ワンが娘の信用を勝ち取るのに苦労したことはタトゥイーンに戻っていった本人の背中からも薄々想像できていたが、いまやレイア本人の説明でより明確に理解できた。
たしかに、ジェダイの騎士のことは教えた。それこそ一般的に知られる姿――それ以上は隠してさえきた。滅んだのだと皆が信じるように彼女も信じればいいと思っていたぐらいだ。
それは彼女のためでもあったが、オビ=ワンが名を捨てながらもルークを側で見守る一方で、託してそれきりのレイアを忘れているのではないかと疑っていた影響がないとも言いきれなかった。
もちろん、彼女の出自はあまりにも大きな秘密だ。繋がりは薄ければ薄い方がいい。救出の依頼をしようと夫婦で話し合い、通信回線をつなげる時には無事に繋がるのかさえ不安があったぐらいだった。繋がりが薄いままであるように気を配ってきた。
だが今回の誘拐事件でその疑念ははっきりと不満として現れた。胸のうちにわだかまっていた疑念は十年ぶりに顔を合わせた友の胸を切り裂く言葉になってしまったし、こうしてレイアがいかにオビ=ワンを不審に思ったかの話を聞くと胸がすくようだとも自覚できてしまったほどだ。
だが笑っている間に娘がオビ=ワンを信用できなかった理由を十個は並べそうなので、ベイルは額を抱えるようにしてどうにか手のひらのなかに忍び笑いを飲み込み、ヒートアップしていく娘をなんとか宥めた。
それからジェダイ・キラーに狙われたからには自分にも知る権利があるはずだという彼女の主張を受け入れて、オビ=ワンという古い友人について語って聞かせる約束をした。


一日ぶりの町は変わりなかった。仕事も同じだ。だが、自分を認識したオーウェンの厳めしい面差しが一瞬いつもより警戒心もあらわに強ばった。はてと思って首を傾げれば、素早く目をそらしたオーウェンはなにげなくすれ違うようなふりをしながら不在にしていたのかを問うた。それで反射的に何かあったのかと聞き返せば、何もないと言う。ただ、オビ=ワンがこぎれいになったと彼は評した。それはレイアに会うために多少は気を使ったせいだろう――まあそれでもジェダイを偽る詐欺師のほうがよほど信用できそうに見えただろうと思えなくはなかったが。
何もなかったならいいと胸をなで下ろし、背を向けたオーウェンに「そうか」とだけ返した。肉をゆっくり食むイオピーの小さな頭を撫でてやる。
オビ=ワンがタトゥイーンを離れたのは、たかが一日だ。十年のなかのたったの一日。だが途方もなく長い一日だった。
今日になっていつも通りにイオピーに乗って荒野を出て、乗り合いのスピーダーで町と工場を行き来する繰り返しのなかに身を置けば、すでに遠い夢だったような気さえする。
だが事実だ。赤ん坊の姿しか見たことのなかった幼いレイアはルークと同じようにすくすく育っていた。賢しくて気高く頑固で、やはり彼女も政治家になるだろうと予感させた。
だいたい話したことすらないルークにすらその父の影を観ているぐらいだ。彼女に会えば、やはり無意識にその両親の面影を拾い上げもしてしまった――ああまったく夢のようだ。夢ならとも思う。夢だったらよかった。
尋問官の言葉が胸につかえる。嘘だと思いたい気持ちと真実だと判断する頭がぐるぐると渦を巻いている。夢ならよかった。夢だったらいい。
唾液を飲み込むのすら苦しく思いながら暗く底に落ちていく思考を遮るようにオーウェンが言った。
「あいつが来るのが早くてよかったな」
「何」
「いまのあんたは来たばかりの頃と同じ顔だ」
その言葉に振り返るが、彼はさっさと歩き出していて、もうオビ=ワンを振り返りはしなかった。


火に炙られる肉体の痛みより、向けられた言葉のほうがよほど堪えた。
炎の向こうにいるはずのベイダーはもうオビ=ワンには見えない。見えるのは燃える地面と炎だけだ。
今度はお前が苦しむ番だと呪ったベイダーにはもう、先ほど罪もない市民を殺し、聖堂で子供達を殺したほどの残酷さは感じられなかった。ただ、ムスタファで憎いと吐き捨てた瞬間と地続きの幼さがあった。まるで聞き分けのない子どもの頃のような。母を喪ってからは緩やかに鳴りを潜めていった彼の幼さが今更感じられて、オビ=ワンから抵抗の意志を奪う。だが痛みに身体がもがき、喉が呻く。
自分の喉が焼けていない事が自覚できると、まるで足りないとわかってしまった。こんな火はあの溶岩の惑星とはまるで違う。土手に落ちたお前が味わった痛みなどまるで遠いものだろう。
オビ=ワンはそう思うのに、フォースの見えざる手はもう感じられない。だが、満足して立ち去ったのではないこともわかった。今では目に見えずともわかる。炎の向こうで動かずにこちらを見ているベイダーがもう手を緩めていることが。
それこそ、覚悟がないのはお互い様ではないか。
それにあの時、助けてとお前が言ったなら、見捨てたりしなかった。できるわけなかった。だがそうしなかったのはお前じゃないか。私を選ばなかったのはお前じゃないか。
今更な恨み言が思考を占めていくのに、オビ=ワンは勝手に呻く唇の端で微かに笑みを浮かべた。アナキン、と口に出せたならきっと今は柔らかな音になるだろう。
だが口に出せたところで届くとはとても思えない。燃え盛る火の向こうに聞こえるだろう苦悶の声ばかりが喉からは溢れている。お前のようには叫べもしない。


浴びせられた炎はオビ=ワンの皮膚を焼き肉を焼いた。身動きひとつ自分ではとれなかった。意識だって手放した。それこそ程度で言うのなら、十分に重度の火傷ではあったのかもしれない。
まだタンクの中にいろというもっともな静止を無視してオビ=ワンはバクタタンクからあがった。再生したての皮膚を破らぬようにとは気を払いつつも身体を拭き、新しく用意された服を羽織る。
バクタタンクの治療は肉体が本来持っている代謝を促し、再生サイクルを早めるものだ。だから表面の傷が癒えても、まだ皮膚の下は治りきっているとは限らない。だが、逆に言えば表面はほとんど治ったはずだった。
それは鏡を見なくてもわかる。顔や首の傷はきっともう残っていない。なにしろ皮膚が空気に触れて痛むことはない。
ただ、肩口や胸元ばかりは身動きに伴って引き攣れを感じた。走る痛みに思わず眉間に皺が寄る。だが彼はやはりそれも無視をした。
なにしろ所詮はバクタタンクで癒えてしまう傷だ。手足を失い、あの土手の上で燃え上がったアナキンはこんな痛みでは済まなかっただろう。
あの装甲服からも、歪な呼吸音まじりのあの声からもわかる。あのムスタファーのマグマはあの子のすべてを焼いてしまったのだと改めて思い知らされた。
最後にローブを羽織る仕草ひとつにさえ皮膚が悲鳴を上げた。粗末な布地が癒えきらない皮膚をこするじくじくとした痛み。
だがオビ=ワンは五体満足で声だってまるで掠れもしていない。何もかも残っている。癒えていないのはただ、皮膚の内側、見えない傷だけ。


夢に観ていた男がそこにいた。
口先ばかりは憎たらしく、しかし狼狽え、傷ついたその顔ときたら!
いつかよりは短い、けれど整えられないまま伸びたぱさぱさの髪には苦労が滲んで感じられた。それにくたびれた雰囲気の彼が身につけている粗末な服装はジェダイ装束ではなかったが、それでも彼は、オビ=ワンは、かつての面影をありありと残していた。十年前の手配写真ですぐにそれとわかるだろう。歳月は感じられたが、それでも想像より年老いてはいなかった。目の前に星すら散ったと錯覚するほどそのことに驚いた。変わっていない!直感的にもそう感じる。それはフォースの囁きというにはあまりにも鮮烈な瞬間だった。そうして身体の芯が熱くなるような感覚はずいぶんと味わっていなかった。装甲服と神経の接続をショートさせるのではないかと頭をよぎるほどの昂り。興奮。
屈辱とも怒りとも違う。怒りなら、馴染みのあるものだ。ダース・ベイダーを動かす原動力といっていい。フォースへの感覚を研ぎ澄ませる砥石のように、あるいは炉を燃やす薪のように無くてはならないもの。
「オビ=ワン」
本人を目の前に「ケノービ」などと呼ぶ気にはなれなかった。ずっと呼びたかった名前だ。だが呼吸器ごしの歪な呼吸音の間にこぼれたその声は自分にしたって耳馴染みのないものだった。
姿にも、声にも、それこそ我が身の存在すべてに目の前の男が傷ついているのがわかる。伝わってくる。それで心臓が弾む。それはもはやいつぶりだかわからないことだった。
痛みを与えたかった。苦しめてやりたい。それはまぎれもない願いだった。
それなのにセーバーの触れ合いに、返される鈍い太刀筋に、彼がフォースとの繋がりを断ってきたことがわかる。ジェダイのくせに。四肢を切り落としたかつての弟子を殺さず、ジェダイであることを選んだくせに、それを捨てたのか。あんたは。
斬り合うごとに、対峙してこみ上げた喜びが冷えていく。
いまや火に包まれるオビ=ワンはまるで無力だ。このままひと思いに殺すことだってできるだろう。無力なただの老人のように。
フォースを支配する指先を、その意識を緩める。ベイダーは手を下げる。燃える炎を眺める。
すぐにでも消えてしまいそうな火だ。ムスタファーの土手で互いに感じたほどの熱さはきっとないだろう。それこそベイダーの皮膚を、髪を、すべてを焼いたほどの高温にはなりえない。きっとオビ=ワンもわかっているだろう。
しかし幸いなことに、オビ=ワンには仲間がいる。きっと誰かがくる。助けに来る。
追いついてきた部下が炎に右往左往するのを尻目に、ベイダーは終わるなと願う。早く助けが来るようにとけっして口には出せない願いが叶うことを今か今かと期待する。彼の苦しみを長引かせてくれるだろうその誰かの到着を。


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