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寒さの話

全体公開 アナオビ 12 1129文字
2022-09-25 20:41:55

宇宙は寒い話 ドラマのタトゥイーン出ていくところで想像したもの EP1のやりとりの話でもある

Posted by @syuu_29

モス・アイズリーはこの十年の間で栄えた大きな宇宙港だ。いまも拡張を続けていて、ハンガーが増築されている。だが船の往来は多くても、船を持たない民間人がタトゥイーンを出る手段は限られる。それこそ詮索しあわないのが暗黙の了解になるような船に乗り込むか、危険を承知で交渉したならず者に自分を運ばせるかだ。幸いにもオビ=ワンは前者に乗り込むことができた。
どうにかその日の最終便にすべりこんだオビ=ワンの目に留まったのは、少し離れた座席に並んで座る、姉妹らしい二人組だ。ちょうど歳の離れた姉がぐずる妹に上着を羽織らせようとしているところだった。もちろん、妹に着せるぐらいだ。彼女のほうはすでに上着を羽織っている。
「ぐずるほど暑くならないでしょ。ほら宇宙に出たらすぐ寒くなるんだから、羽織っておきなって」と妹を宥めるその姿に、オビ=ワンは思わず目を細めた。
薔薇色の頬であの子が分け与えてくれたのは、つやつやの飴玉のような思い出ひとつ。それはタトゥイーンから始めて宇宙に出た時の事だとあの子は言った。なんのことはない、ただ、宇宙は寒いと訴えた彼にパドメが躊躇なく荷物から美しい布を取り出して自分を包んでくれたという暖かくささやかな思い出だ。
それを聞いたのは師弟関係になってはじめて、コルサントを出た時のことだ。凍てつく氷の惑星に向かうので、防寒で着膨れしたアナキンはコルサントを飛び立った船のなかでこう切り出したのだ。
「宇宙が寒いってマスターは知ってた?」
同じ船の中でそんなやりとりが交わされていたとは当時のオビ=ワンはまるで知らなかったし、素敵な思い出を分け与えてくれたことにどこか安堵した気持ちのほうが強く意識に残ったものだった。
なにせそんなのはスター・ファイターで飛び回っていた頃にはまるで認識に残りもしないような当たり前のことで、そして体感できるほどのことでもなかった。
だが、いまやオビ=ワンは十年もタトゥイーンを出ていなかった。大気圏を抜けることさえ遠い記憶だ。
そしてタトゥイーンの気候に慣れた身体は確かに宇宙空間を寒いと認識した。それこそアナキンが語って聞かせた思い出をなぞるように。
しかしオビ=ワンは一人だ。冷える身体からそれ以上体温が逃げないようにと誰かが布をかけてくれたりはしない。暖かい星だったからと教えてくれはしない。
羽織ったローブの襟を合わせ直し、影を落とすフードの下で瞼を下ろし、瞑想に身を預ける。肉体の感覚はあるが遠い。思考が解けていく感覚は慣れたものだ。心地よくさえ感じられる。そしてそれはいつも何かを手放すときに似ている。
オビ=ワンには安堵の息が零れる自覚があった。慣れたものだ。それでもいつも、ほんの少し、さみしい。


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