自キャラ「月下風兎」と「雪凪花」の物語まとめ。
@KurashikiRyo
■月下風兎

■雪凪花

※「物語2」にはCoCシナリオ「キャンディ・レイン」のネタバレがあるのでご注意を※
関連:キャンディ・レインのプレイと感想 https://privatter.net/p/9743065
※恋愛要素あるので苦手な方はご注意を※
・「月下風兎」のキャラ設定 2≫
・「雪凪花」のキャラ設定 3≫
・物語1 とある日常 4≫
・物語2 気付いた想い 5≫
・物語3 決意 6≫
・物語4 ふたり 7≫
・物語2の某シーンに対する作者の解釈 8≫
・風兎の友人「トシ」から見たお話 9≫
・風兎と雪凪のバレンタイン 10≫

■両腕に力が入らない
風兎は小学生の頃に地震の被災者となった。その時、崩れて落ちてきた瓦礫によって両腕に大怪我を負う。
両腕は大人になっても力があまり入らず、そのせいで通常より細めの腕なのが目立つ特徴となってしまったが、幸いにもその他の症状は出ずに済んだ。医者によれば、腎臓などに影響が出て死ぬ可能性もあったらしい。一応、定期的に健康診断に行くようにしてる。
トラウマは僅かに残っており、地震が起こると恐怖で体が少し震えてしまう。
■苦悩と救いの中学時代
中学生になると筋力の差が如実に現れ、自分の非力さに思い悩み始めた。無理して腕を鍛えようとしたこともあったが、医者から厳しく止められてしまう。
根深いコンプレックスとなりかけていたが、家族や友人、先生たちの優しさやサポートのおかげでいつしか割り切りできるようになり、「助け合い」「人生を楽しむこと」を信条とするようになる。
ただ、それでも風兎にとって“男として”力で活躍したいという叶わない欲求がずっと残っている。
■雪凪との出会い
大学卒業後、就職して会社員となるも風兎が「上司がめちゃくちゃ嫌いなタイプだった」とにこやかに語るような環境だったので退職。
そこで友人に誘われ、家庭教師をやってみることに。友人が「めちゃくちゃ頼れる先輩がいる」と紹介してくれたのが、学生時代から家庭教師を始めていた雪凪だった。
初対面から毒舌を隠さない雪凪(年下)に面食らいつつも、接客のうまさ、段取りの良さ、学力の高さ、着眼点の鋭さなど、話していくうちに深い尊敬を抱くようになる。
■陽の者
中学時代に恵まれた人間関係の中で育った影響から、思い悩みはしても前向きに生きていける明るさを手に入れた。自己肯定力が高く、また「助け合い」のために自分の長所と向き合うクセが付いたことで、強みを最大限活かす生き方を好む。
それは能力や性格だけでなく自分の風貌の「活かし方」にも表れており、彼は意図的に自分のかっこよさ、かわいさ、美しさを強調できるファッションを好んでいる。ちなみに明らかに細めの腕は特に隠そうとしてない。人によっては不気味がられるが、彼は持ち前のコミュ力でだいたいなんとかする。
流石に仕事では大人しい服装を着るが、それでも気に入ってる髪色は変えてない。雪凪からは「好きにすれば。損するのはあんただし。まぁ、あんたなら人当たりの良さでなんとかなるでしょ」と言われてる。
■言語能力の高さ
父親が中国人の俳優、母親が日本人の翻訳家という特殊な家庭環境から、日本語や中国語、英語、フランス語など、様々な言語を得意としている。そのため、家庭教師の仕事でもその辺りを重点的に頼まれることが多い。
■意外に超健康
両腕の件から「弱い体」の印象を持たれがちだが、実際は幼い頃から超健康児でむしろ強い体を持っている。むしろ両腕の弱さを体全体で補う生活が常なため、体全体がそこそこ鍛えられている。
■感情豊か←→感情ブレブレ
風兎は感情豊かで、そこが親しまれやすいところ。基本的には笑顔が多く明るいが、感動物には涙するし、嫌なことがあると拗ねるし、残念なことがあると落ち込み、そしてわりとすぐに立ち直る。友人からは「百変化」とからかわれることもある。

■口が悪い父娘
雪凪家の父は口が悪い。性格はむしろ優しいのに、なぜか言語センスは容赦が無い。母はそんな父の口の悪さに、日々……楽しんで生きている。「めっちゃ他人想いなのに口から出る言葉は切れ味抜群なのが面白すぎる」とは母の言葉。
そんな環境に生きた雪凪花は、父の口の悪さと母のスルー力を両方引き継いだ。父と真っ向から毒舌を交わす“平和な日常”で育った彼女にとって、毒舌などただの日常会話である。
■性格の強さ
雪凪を語るにおいて外せないのが「性格の強さ」だ。他人からの口撃を物ともせず冷静に言い返す、初対面で毒舌を隠さない、困ってる人を見返りなく助けるのを嫌がるなど、交流してみるとその“強さ”に驚かされること必至。
雪凪は外見がおとなしそうに見えるため、ギャップも手伝って非常に印象的だ。そのせいで妙なファンが生まれるとかなんとか。
一方。雪凪が望む見返りがあれば責任持って取り組んでくれる。仕事は丁寧かつ速い、分析能力が高くアドバイス上手、他人の能力に見合った役割分担ができるなど、付き合い方さえ理解すれば非常に頼れる人間でもある。
■学力お化け
雪凪はめちゃくちゃ頭が良い。同年代で上位を必ず獲る学力があり、苦手ジャンルを持たないオールマイティで、要領も良い。しかも他人の性格や能力を理解・分析して教えられるため、指導する側としてもかなり優秀。
その強みを活かして大学に通いながら家庭教師を始めて以降、若いにも関わらず周囲から絶大な信頼と畏れを抱かれている。
■剣道を習っている
見た目がおとなしそうに見えるためナメられやすいが、性格も強ければ武術も備えている。なにせ父が剣術の師範であるため、剣道ガチ勢である。
■後輩「月下風兎」
月下風兎は家庭教師としての“後輩”だ。持ち前のコミュ力と前向きさにより雪凪と気兼ねなく会話できる上、風兎が雪凪を敬っているため、何気に交流機会が多い。雪凪も自分の話を聞いて真面目に対応してくれる風兎を接しやすく思っている。
雪凪は風兎を「いいやつだから悪く言いづらい」と思ってるが、はたから見れば十分に毒を吐いている。風兎はまったく気にしてない。
雪凪「おーい、軟弱者が無理して荷物運ぶなー」
風兎「が、頑張ればこ、このくらいの荷物……あっ、あ、あぶなっ」
雪凪「あんた竹刀より弱そうな腕してんだからそういうのは周りに頼みなさい」
風兎「すみません……お願いしていいですか?」
雪凪「はいはい、元から力を見込んで大片付けに抜擢したんじゃないから大人しくしとく。あなたは整理担当。今やらんでいいから、段ボールは後回し。先に“報酬”、家庭教師講座やっちゃうから座りな」
風兎(文字通り“力”になりたかったなぁ)
雪凪「月下。あなた“教員”と“家庭教師”で心がけることの違いってわかる?」
風兎「え、学校で教える人とお家で教える人、とかですか?」
雪凪「そうね。教える場所が違うし、教える相手の人数も違う。なんで家庭教師が必要とされるのかって話よ」
風兎「お父さんお母さんが子供にもっと勉強させたいから……?」
雪凪「学校での教育だけじゃ不安だからよ。教員は、子供ひとりひとりのことをずっと細かには見てあげれないから。家庭教師はね、教えてる時間はずっと生徒ひとりを見てあげれる。だから私たちに求められてる心がけは、生徒個人と向き合って、その子の得意分野をどう伸ばせば成績に繋がるのかを常に考えることなの」
風兎「……」
雪凪「あなたも家庭教師やるなら、どんなに上手くいかない時もそこだけはずっと意識してなさい。それが家庭教師の第一歩で、失っちゃいけない心がけなの」
風兎「は、はい! 僕、頑張ります!」
雪凪「いちいち返事うるさい!ったく……」
風兎(先輩すごいなぁ……)
雪凪(この子相手だとなんか毒吐きづらいんだよなぁ)
不思議な体験をした。ほとんど覚えてないけど、なぜか、忘れていない感覚がある。
(僕は、助けられた)
でも、助けてくれたのは、誰だったっけ。大事な存在……だった気がする。だけど、どうしてそう感じるのか、わからなかった。
ずっと不思議な感覚が続いて。変わらない日常の中に戻っても、心のすみに何かが残る。僕は、言いようのない引っ掛かりを忘れられずにいる。
「片想いしたての中学男子みたいな顔してんじゃないわよ」
ふいに聞こえたその言葉は、家庭教師としての先輩、雪凪さんからかけられたものだった。声色が力強いせいで、言葉の毒が心にずんと響いてくる。
「ふぇ? か、片想い? ……って、違いますよ! そういうのじゃないです!」
慌てて首と手を横に振って否定する。……いや、わからないけど。そういう感情とは違う気がするってだけだ。
「じゃあ何? 仕事を説明してる私を前にして、そんなボケっとしてられた理由は」
……先輩との関わりはまだ数ヶ月だけど、わかってきた。先輩は怒ってるんじゃない。本当に“理由”を聞いてるんだ。
どう答えようか迷った。自分でもよくわかってないから、説明するのも難しい。他人から見れば、寝ぼけた人が全然覚えてない夢の話をしてるようにしか見えない気がする。
言葉が出なくて、沈黙が続いてしまった。
「そう」
正直、今度こそ怒られると思ってた僕に、先輩は意外な反応をした。
「無理に説明しろとは言わない。世の中、“説明できないこと”だってある。ただ、それはそれとして仕事はちゃんとしなさい」
……こんな時に、いつもは気にしない“年齢”が気になった。先輩は大学を卒業したてだから、僕より2歳下のはずだ。だけど、僕なんかよりよっぽど大人で、すぐに何かを理解してくれる。どうしてそんなに……そんなに……
「どうしてそんなに熟女っぽいんですか……?」
「ああ"???」
やばい、失言した。
「違うんですごめんなさい! そういうつもりじゃなかったんです!」
「ババアに見えるってことよね? ねぇ?」
「違います! ただすごく落ち着いててすごいなってすごく思っただけで!」
自分でも語彙力どこに置いてきたんだって思うレベルだけど、せめて悪意が無いことは伝えないと。いやでも殺気がやばいぞ逃げた方がいいかもしれない。いや逃げたらどうなるんだこれ。
あたふたしてたら、1発頬をはたかれました。
「次、“言葉を間違えたら”覚悟しとけよ」
「……はい……すみません……」
その時は何をされるのだろう、とちょっと好奇心も出てしまいつつ、あまりにもあんまりな失言してしまった自分が恥ずかしい。本当にごめんなさい先輩。
「はぁー……」
怒気のこもったため息を吐く先輩がマジで怖い。毒を吐いてる時の方がよっぽど安心する。
びくびくしていると、先輩は落ち着いた顔で僕を見た。
「苦労してんのよ。私はなめられやすいし、絡まれやすいし、ヒンシュク買いやすいし、妬まれやすい。いろんな変な男が寄ってくるし、伊達に鍛えられてないから小さい頃は男とガチで殴り合いもしたし。そら老けるわ」
…………そっか。先輩は人柄が強いな、とは思ってた。だけどその強さは、必要だったから身に付いたんだ。
「大変なんですね、先輩……」
「人をババア扱いする後輩も居るしね」
ぐぅ。
「本当にすみませんでした」
「……お返しはこれくらいにしとく。で、どうなの。ぶっちゃけあんたにどんな事情があってもどうでもいいんだけどさ。私の仕事が進まないのは嫌なのよ。話した方が楽なら話せ。話せないなら集中しろ」
……先輩は本当にすごい人だ。いま僕は「どうでもいい」って言われてるのに、先輩になら……話したい、と思えた。
ほとんど自分でも“よくわからない”話を、なんとか説明する。呆れられても仕方ないと思ってたけど、先輩はちゃんと最後まで聞いてくれた。
「……ふーん……そんなことがあったのね。なんとなくわかった」
「え、わかるんですか!?」
「私も“不思議な体験”はしたことあるからね」
え……。
「先輩も、ですか?」
「私もほとんど覚えてないけど、忘れたってことはろくでもなかったんでしょうね。きっとあんたのも、ろくでもない話なのよ」
「……そう、なんですかね」
「そうよ。助けられた気がするんでしょ? だったら、そうね。あんたは死にかけて、でも“助かったから忘れた”。そんなとこなんじゃない?」
助かったから、忘れた……そんな風に考えたことがなくて、頭の中のもやが、ぱっと晴れたような感覚になった。
「理屈なんて後付けするしかない。私の勝手な理屈なのは前提として言わせてもらうけど」
先輩は、まっすぐに僕を見て言ってくれた。
「事故で死ぬかもしれないあなたがいて。月下を助けたい何かがいて。あんたを助けるために何かがあって。その何かのせいで忘れた。だからあんたは助かった。……あんたが正しいなら、そういうことよ」
どうして、だろう。先輩の言ってることが正しいのかは、わからない。わからないけれど、僕は、なぜだか泣いていた。
……本当のことはわからないけど。だけど。
忘れたことが悔しくて。
忘れてしまった自分にムカついて。
助かったことがいまさら嬉しくて。
助けてくれた何かへの感謝があふれて。
「あ、あ……あぁ……」
僕は、声をあげて、泣いてしまった。
……。
……。
先輩は、泣きじゃくる僕に向けて言った。
「目の前でガチで泣くなアホ! どうしろっての!!!」
顔を見上げると……涙でぼやけた視界でも、先輩がすごく困った顔してるのがわかった。
「泣くならお手洗いででも泣いてこい! ウザイ! ここで泣かれるのは本当にウザイ!」
……先輩は、こんな僕を見ても先輩だ。涙は止まってないのに、なんか。
「ふふ。ぐす、ふふふ」
笑ってしまった。そんな自分がおかしくて、余計に笑えてくる。
「気持ち悪いっつーの! どういう感情よ! やめろ!」
頭をぺしぺしと軽くはたかれながら、僕はだんだんと、泣くより笑ってしまって、いつの間にか悲しい気持ちがどこか行ってしまった。
「ふふ、先輩、ごめん……ふふ。ふふふ」
「なに笑ってんのよ、ほんと……あんたという人間がよくわからんわ……」
そうは言っても、先輩は僕を嫌悪の目では見ないじゃないか。めちゃくちゃ困って、めちゃくちゃ呆れてて。でも、それだけだ。
「僕、先輩好きです」
……あ。やばい。失言した。この流れは怒られる。全身に危険を感じて、笑うどころじゃなくなってしまった。
「せ、先輩! これはふざけて言ったんじゃなくて!」
いや待て、ふざけて言ってないとしたらガチ告白になるのでは? それもやばい。
「いや、これはその、先輩後輩としてその」
言い訳の言葉がうまく出てこなくて、あちこちに目が泳ぎながら焦り倒す。混乱してしまって、助けを求めたくて、でもここにいるのは先輩だけで、僕はその先輩に失言しちゃっていて……。
……。
あれ、先輩、何も言ってこない……?
ふと、先輩を見た。
「…………」
口をぽかんと開けて絶句してた。あ……先輩のこんな顔は、初めて見たぞ。
いやそんな冷静なこと考えてる場合じゃない。
「せ、先輩…?」
声をかけると先輩は、ギギギ……と音でも立ちそうなくらい少しずつ顔と口を動かして、真顔に戻っていく。そして今度は、両手で顔を覆い隠した。
な、何が起きてるのこれ。やばい。とにかくやばいことが起きてる。初めて見た様子に気が動転してやまない。
どうしたらいいのかわからなくて立ち尽くしていると、先輩の声がかすかに聞こえた。小声で何かを言った……?
「な、なんですか?」
耳を近付けて聞いてみる……すると。
「ふざっっけんな!!! バカっっっ!!!」
鼓膜を貫いて三途の川の向こうまで届くような大声が耳に響き渡った。意識が飛ぶかと思った。なんなら死んだかと思った。
死ぬほど耳がキンキンする。さっきとは違う涙が目から流れるのがわかる。え、何が起きた? どうした?
困惑する僕を置いて、先輩は走り去ってしまった。もう……何がなんだか、わからない。
翌日。予定では今日も先輩から仕事について教えてもらうことがある。そもそも、昨日も説明の途中だったし……。
昨晩、謝罪と釈明のメッセージは送ったのだけど、既読も付かなかった。……本気で怒らせちゃったかもしれない。
せめて向き合って謝りたくて、僕は待ち合わせ場所に向かった。
先輩は、先に来ていた。昨日は付けてなかったマスクをしている。あれ、体調悪いのかな……。
「先輩……」
気まずいけど声をかける。先輩は僕を一瞬だけ横目で見て、そっぽ向いてしまった。やっぱり、怒らせてしまったんだ。
「あの、昨日は本当にごめんなさい! 言い方が悪くて……先輩は話を聞いてくれたのに、変なこと言ってしまって……すみませんでした!」
……先輩はそっぽ向いたまま。だけど。
「……別に」
と、返してくれた。よかった、会話はできるかもしーー
「別に気にしてないもん。びっくりしただけ。何もなかったでしょ。大丈夫よ」
……先輩?
「むしろ私が謝らなきゃね。ごめん。いきなり……逃げちゃって」
そっぽ向いたまま謝る先輩。
「先輩は悪くないです。僕が……」
「月下は悪くない。月下は……」
先輩がやっと、僕を見る。
「悪くないの」
その眼差しが、いつもの先輩とは全然……違って。
……かわいい。
……あ、え。僕はいま何を思った!?
「月下」
「ひゃい!?」
我ながら情けない返事が出た。やばいやばいやばい。なんだこれ。
「仕事、するぞ」
そう言って歩き出した先輩の声色は、いつもの力強さがなくて。
なんていうか……そう……“22歳の女の子”で。
……自覚してしまった。
僕は先輩が……本当に、好きなんだ。
私は、なぜだか男運も女運もない。一体なぜでしょう?
派手な服や色が好きじゃない。目立ってもいいことなんて無いし。落ち着いたファッションが好きだ。その結果、高圧的な連中のターゲットにされがち。
顔立ちが儚くかわいい。第一印象では、強気で押せばそのまま流されそうに見えるらしい。だから、押すしか脳の無いバカに目をつけられやすい。
身長が156cmと低い。体を大きく見せるファッションもしない。そのせいで、力づくで強引に攻めれば大人しくなるタイプだと思われてしまう。
……だけど、それだけならまだマシだった。弱いなら弱いなりの生き方というのもあったはずだから。でも私は、「強い」。
言葉の“毒”をよく吐く。しかも相手の毒が効かない。悪口や弱点を挙げれば口喧嘩に勝てると勘違いしてるガキ相手なら、私は眉ひとつ動かさずにすべて言い返せる。
“弱者ムーブ”が嫌いだ。リターンも無く何かを捧げるなんてもってのほか。私に無償の労働や愛を求めるような、プライドが高いだけで価値という概念を間違って理解してるような能無しが大嫌いだ。
父が剣道道場の師範で、私は物心着いた頃にはもう竹刀を振っていた。そして、「悪い虫は叩き潰せるように」との父の方針により、ある程度素手でも戦えるように年齢に合わせた筋トレと戦い方も教えられた。力だけが自慢のど素人相手なら、体格差があっても簡単には負けない。
“できる女”だ。知性が求められるものならたいてい上手にできるし、勉強を得意中の得意としていて同学年トップ層の常連、個人個人の得意不得意に対する理解もあって連携力も高い。自分以外が無能でないと困る大無能どもからすれば、それはそれは妬ましいことでしょう。
弱い風貌で、実は強い。すると、賢さを生まれる前に捨て去ったチンパンたちは、どうにも私に、力で、言葉で、態度で、「お前より自分の方が強い」と示したくなるらしい。男も女もそう。やり方が違うだけ。
あ"ー、イライラしてきたから叫ぶわ。
「てめーの頭が弱いのが悪いんだろうがよっっっ!!!」
……私の日常にはチンパンからの絡みがあまりにも多すぎて、正直、生きるのに疲れを感じてる。死にたいとまでは言わないけど、どうして生きてきたんだっけ、なんて思いながら、ふと高いところに足を運ぶ自分が居てさ。気付いたら死んでました、なんて結末もありえてしまう。
まぁ、私にも悪いところはある。仕事なら割り切って相手のチンパン力(ちんぱんりょく)に合わせた対応もしてあげられる。その先に賃金があるからね。でもプライベートだとそこまでの労力に見合う対価なんて無い。一方的に損させようとしてくる悪徳業者「チンパンジー」相手に無償で屈する理由なんて無い。と考えてしまう私は、絶対に自分を曲げない。
あ、ちなみに「愛」は0円だから。愛してるように振る舞えば対価になると思ってる節穴どもは論外。まだ金で従わせようとする方が数ミリは可愛げがある。私の価値に見合った金を積めたヤツは居ないけどね。
私は自分の生き方が間違ってると思わない。ただ、私はどこ行ってもそのうち「女」ではなく「強者」として扱われる。……傷付かない存在だと誤解されていく。
今年、家庭教師としての後輩が増えた。月下風兎。今時珍しいくらい“いいやつ”で、さすがの私も毒を吐きづらいレベルの善人。
私はこの後輩が大好きだ。たまに大馬鹿発言はかますけど、私を見下す気持ちが無いのは伝わってくる。月下はまっすぐ、ありのままの私を見てくれる。話していてこんなに楽なのはいつぶりだろう。
普通、私と接する人は多かれ少なかれ“無意識なトゲ”を向けてくる。嫌なことは嫌と言ってるのに。やりたくないことはやりたくないと言ってるのに。「私にも辛いときはある」と、言ってるのに。みんな、私になら気持ちや欲求を吐露しても受け止めきれると、心のどこかで勝手に決め付けている。
泣きたくなる日だってたくさんある。泣くもんか。人前で泣くなんて絶対にしない。そう歯を食いしばって乗り切る日々がある。
けれど、月下は違う。この憎いほど笑顔の可愛い年上男子は、私の気持ちを当たり前に慮ってくれる。私のことを、「便利な存在」じゃなく「頼れる1人の人間」として扱ってくれる。寄りかかりすぎず、自分でもしっかり立とうとしてくれる。
たったそれだけで、どれだけ気持ちが軽くなるか。誰にもわからないでしょうけど、私は月下に救われている。泣きたくなる日もある。でも人前では泣きたくないから、夜まで我慢して、枕を濡らす。
……月下にこの気持ちを伝える気は無い。気付かせたくなくて、隠してる。もともと私は感情が顔に出ないタイプだし、月下はたぶん、知らずにいる。
それでいいの。月下が私を「先輩」として慕ってくれてる、この距離感が心地いい。先輩後輩でいい。きっとこの関係だけで、私は幸せを感じて生きていける。
そう、思ってたんだよ、月下。
ある日、月下から変な相談されて。泣かせてしまって、なんか笑われて。私が混乱している中でふいに、月下に「僕、先輩好きです」と言われて。逃げ出してしまった。自分が何を言ったのか。どう反応したのか。全然覚えてない。何か変なこと言っちゃってないよね。変な反応してないよね。……逃げてる時点で、変だったわ。ダメじゃん、私。
気が付いたら家にいて。涙がぽろぽろ流れて。止まらなくて。
わかってる。月下は、告白で言ったんじゃない。「ライク」を伝えてくれたんだ。わかってる。わかってる、のに。
私は。好きと言われて。本当に、どうしようもなく……
月下を、抱きしめたくて、キスしたくて、独占したくて、たまらなかった。
自分にそんな衝動があったなんて。初めてで。
……。
泣き疲れて、動けなくなった頃。やっと、少しは落ち着いた。
私ってこんなに恋愛脳あったか……なんて考える余裕が生まれる。
あの場で月下を押し倒さなかったのを褒めてほしい。なんてね。そんなの無理だったでしょ、私。自分の気持ちでいっぱいいっぱい。あの時、身体中が熱くて、自分の鼓動が鳴り響いて、逃げ出すことしかできなかった。
……弱かったな、私。
弱かった。
私って、こんなに弱かったんだ。
もっと強いと思ってた。強く振る舞ってた。あんな、たった一言で崩れてしまうなんて。女らしいとこあるじゃんね。
……月下に謝らなきゃな。……げ、スマホにメッセ来てんじゃん。無理。今は無理。あんたと会話なんて無理。ごめん。
……明日……明日も仕事で会う予定だよね。月下……来るよね。自分が悪いことしたと思って、謝ってくれるんだ。知ってる。私が「傷付いた」って、本気で考えてくれるんだ、月下は。
好きだ。うん。私は、月下が好きだ。愛してる、と思う。彼氏になってほしい。彼女になりたい。結婚して、子供を産みたい。
月下が好きだ。あの笑顔も、ころころ変わる表情も。助けになりたいって心から思ってくれるのも。自分の良いとこを知っててあざとく見せつけてくるのも。全身で力いっぱい頑張ってるところも。
月下が好き。好き。優しくて、明るくて、ちょっと馬鹿で、でも努力家で、頭良くて、可愛くて、かっこよくて。
あれも、これも……好きなところを挙げたら、キリが無い。
……重い。おっっっもい。私、こんな重い女だったか。月下の先輩でしかないのに、こんなに重い感情を持ってたのか。
「……やだなぁ」
でも。いつもの私じゃいられない今が、今までの人生で一番幸せだって、感じた。
翌朝。結局、ほとんど寝れなかった。しかも月下にどんな顔して会えばいいのかわかんない。ていうかどんな顔するかわかんない。
八つ当たりでムスッとするのも嫌だ。でも、にやけてしまってもそれはそれで嫌だ。案外無表情でいられるかもしれないけど、今はそれも、嫌だ。あぁぁ、逃げ道が無い!!!
会わないのが一番嫌なので、もうマスクで口元を隠そう。不自然よ。えぇ不自然よ。仕方ないのよ! そう、自分に言い聞かせる。
何を伝えればいいのかな。何を伝えられるのかな。考えるだけで心臓の音が大きくなるのがわかる。何一つ決められない。混乱してしまう。それでも出かける準備は進めてる。会わなきゃ、って気持ちが強いから…………だけじゃ、ないな、これ。
会いたいんだ。私。
あぁぁぁぁぁ! 怖くて鏡が見れない。どんな顔してるのか見たくない。いまどういう感情で準備進めてるの私!? でも知らずに行くのもこわい!!!
……結局、一回も鏡をまともに見れないまま出かける準備が終わり、私は家を出ていた。
あ"ー。月下に会ったら私どうなるんだろう。もはや公衆の前で押し倒さないことだけ願うわ。自分がわからなすぎる。なんでこんな状態で待ち合わせ場所に向かえてるの私。それすらわからないわ。
心は暴れ散らしてるのに、体は急ぐようにせかせかと動く。会いたくないのに、それ以上に、会いたくて。まるで自分じゃない何かに乗っ取られたような私を、どこか冷静に眺めてる私もいた。
……早く着いてしまった。あ、待つと思うと心がしんどい。月下が来るのを待つの? 月下に今の私を見られるの? 月下が来る姿を見るの? 月下に声かけるの? なんて? でも、月下に声かけられるのも考えたくない。詰んでる。
一瞬も落ち着かないまま、声をかけられた。
「先輩……」
その声色に、イラついてしまった。そんな気まずそうに声かけるんじゃない。反射的に文句を言おうとして、月下に視線が向く。
うわ月下だ。
一瞬しか見ることができなかった。月下を見た途端、体が勝手に、顔を背けてしまう。月下、どんな顔してた? わからない。あぁでも、申し訳なさそうな顔してるんだろうな。違うの。あんたはそんな顔しなくていいの。
「あの、昨日は本当にごめんなさい! 言い方が悪くて……先輩は話を聞いてくれたのに、変なこと言ってしまって……すみませんでした!」
……ちょっと、落ち着く自分がいた。月下の声を聞いたからかもしれない。月下の優しさに触れたからかもしれない。精一杯の謝罪が、なんだかんだ私を楽にしたのかもしれない。
まだ顔は見れないけど。一生開けないかと思った口が、自然と開いた。
「……別に」
すると、そこからは流れるように言葉が続く。
「別に気にしてないもん。びっくりしただけ。何もなかったでしょ。大丈夫よ。むしろ私が謝らなきゃね。ごめん。いきなり……逃げちゃって」
だからさ、謝らないで。お願い。だけど、月下はまだ私に気を遣ってくれる。
「先輩は悪くないです。僕が……」
その月下の言葉を、私は遮った。そう、これを伝えたかったから。
「月下は悪くないの。月下は……」
やっと……あなたを見れた。
「悪くないの」
……ダメだ。もう今の私が、どんな私なのかわからない。でも、もういい。
「月下」
「ひゃい!?」
そんな可愛い反応するな。押し倒したらどうする。
「仕事、するぞ」
頬が熱い。絶対真っ赤になってる。それがバレたくなくて、私は歩き出した。
……これからどうするのか、自分でもわからないけど。
……もう、隠そうなんて思わない。
月下、覚悟しろ。あんたは今から、重い女に狙われるぞ。
……心の中で精一杯の虚勢を張りながら、私はこれからも生きていく。もう、高いところに行こうとする私はいない。
だって私がいたいのは、あなたの傍なんだから。
■風兎
……先輩は淡々と、僕に仕事を教えてくれている。いつも通りわかりやすくて、僕の理解に合わせた言葉を選んでくれる。なのに、全然頭に入ってこない。
いつもの力強い声じゃない、柔らかさを感じる声にドキドキしてしまう。今までは気にしてなかった、先輩の仕草ひとつひとつが気になってしまう。せっかく教えてくれているのに、僕は……どうしても、先輩を意識してしまう。
先輩の顔を見れない。視線を感じると絶対にそっちに目を向けられない。やばい……やばいぞ。どうしたらいいんだ、これ。
中学生の時に彼女は居た。あの時も確かにドキドキしたけど。こんなに、何もできなくなるような気持ちじゃなかった。あの時は……そう、友達の延長みたいな関係だった。
……まぁあの子には、もっと好きな人ができたってフラれたんだけどね……あ、ちょっと悲しい。いや今はそれはいい。
先輩は、もちろん友達じゃない。今までだって、一緒にいる時はちょっと緊張する相手だった。その人を……僕は、好きになった。
わかんない。どうしたらいいんだ。声のかけ方も見つからない。顔が熱くなってる気がする。やだな、バレてないかな。何もできない自分が男として恥ずかしい。先輩にはどうか、気付かれてませんように……!!!
■雪凪
……ちょっと安心した。月下は私を女として見てくれてる。てか可愛いな、顔赤くなってる。めちゃくちゃ意識してんじゃんか。
……今まで「先輩」でしかなかったから、怖かった。今更「女」っぽく接したところで、受け入れられないんじゃないかって。でも、月下は……私のこと、意識するくらいには女として見てくれてるんだ。嬉しいな。幸せだ。
月下。イジワル、していいかな。
「月下。また話、聞いてないね」
「ひっ、はい! ご、ごめんなさい」
謝るな。
「謝ってもダメ。話、聞いて?」
……いま気付いたけど、私なんか言い方いつもと違う? 違和感が心地悪くて、でも、ふわふわした気持ちが幸せで。もっと近付きたいけど、不安で。自分の弱さを痛感する。情けないな、私。
「……き、聞きます」
月下は、目を合わせられないままそう答えてくれた。ありがとう。勇気が、少し出た。
「月下。私ね…………」
次の言葉を喉から出そうとして、出なかった。たった一言なのに。こんなに、言えないものなの? これが、好きってことなの?
私は、恋をしたことが無い。する前に幻滅してたというか、諦めてたというか。小さい頃から、私には縁が無いものと思って生きてきた。
月下と出会って、ふとした時に「好きだな」って気付いた。でも、私は先輩でいようとして、気持ちに蓋をした。いま思えば、私は楽な方に逃げてたのかもしれない。この気持ちに従おうとすれば、たくさんの怖さや不安と向き合わなきゃいけない。私は……本当は弱くて。ずっと逃げてたんだ。
だけど、もう。逃げたくないから。言うんだ。
「私ね……月下が好きなんだ」
■風兎
一瞬、頭が真っ白になった。先輩……いま、なんて言ったの?
好きって……言った?
…………。
いろんな気持ちと、いろんな言葉が、胸を、頭を、いっぱいにする。その中で、最初に生まれた強い思いが、僕を困惑させた。
……“言わせてしまった”。
そんな風に思った僕に驚いた。僕が……僕が先に伝えるべきことだっただろ、って、思ったんだ。どうして先輩に……先輩に歩み寄ってもらおうとしてるんだ、僕は。僕が。
僕が、ぶつかるべきだろう。
そう思った時、僕の視線は先輩に向いていた。
「先輩!」
ごめんなさい、先輩。ちゃんと、伝えます。
「僕も。先輩が好きです!」
■雪凪
……今度は、違う。恋愛の「好き」を……伝えてくれた。
……思ってもみなかった。嘘だ、と、思った。でも。月下が言うんだ。嘘なわけ、ないんだ。月下は、私のことを……好きなんだ。
涙がぽろぽろこぼれた。いま、私は自分のことが、それしかわからない。私がいまどうなっているのか、感じる余裕が無い。何も言えない。言葉にならない。
だから。したいことを、した。
マスクを外して。
抱きしめて。
キスをした。
そしたら、月下が、抱きしめ返してくれた。
あったかい。月下、こんなにあったかいんだ。このぬくもりも、好きだ。
私たちは、しばらくそのまま抱きしめ合った。キスは……最初の一度だけで、その後は恥ずかしさが勝ってしまって。抱きしめてるのをいいことに、顔を見せないようにしてしまった。
■風兎
……今は、先輩の想いがすべて伝わってくる気がした。泣いていて、力いっぱい抱きしめてくれて。僕は抱きしめる力が弱いけど、それでも精一杯、離れないように力を入れた。
お互い、今は何も言えない。きっと同じような気持ちだ。それどころじゃなくて、この感触にひたりたくて。……恥ずかしくて。
離しちゃうと、自分たちのことを客観的に見てしまいそうで、いまこの瞬間を、永遠に続けたくて。僕たちは、ずっと抱き合った。
……どれくらい時間が経ったのかわからない。先輩が口を開いた。
「月下、私、たぶん重いよ」
「いいですよ。受け止めます」
「いっぱい困らせると思う」
「困りまくって、先輩との幸せ掴みます」
「私、弱いよ」
「僕もです。だけど、先輩と僕ならきっと大丈夫です」
「……月下。花って、呼んでくれる?」
……深呼吸をした。緊張するけど。
「花、さん」
「花」
「……花」
「よし」
「じゃあ、風兎って呼んでください」
「うん……風兎」
「はい。花、好き、だよ」
「好き、風兎」
■雪凪
月下……ううん、風兎は、こんなに、大きい体してたんだね。小さい自分が、もっと小さく感じる。それに、風兎は……暖かくて、安心する。私の弱さを受け止めて、包んでくれる。強いなぁ……。
私のわがまま、全部聞いてくれた。すぐ返事してくれた。いいのか、本当に。私だぞ。雪凪花だぞ。
……言葉で確認するまでもない。弱っちい両腕で必死に抱きしめてくれてることに、風兎の気持ちが表れていた。それが、本当に幸せで。私はいま、自分がこの上なくにやけてることに気付いた。
あー、見せらんない。こんな顔、見せられない。離すなよ絶対。見たら覚悟しろよ。なんて、思いもするけど。
見られたい、って思ってる自分もいる。それが一番恥ずかしくて。抱きしめる力を緩められなかった。
■風兎
結局その日は、終わりの時間まで抱きしめ合ったままだった。花がちょっと喋って、僕が返事をする。それを繰り返して。冷静になってみると、こんなにずっと抱きしめてることに意識が向いて、またドキドキしたり。現実じゃないかのような時間だった。
「……帰らなきゃね」
花が、ぽつりと言った。そう……永遠には続かない。離れなきゃいけない時間は、来る。
「花、あの……」
言い淀むな僕。言い切れ。ちゃんと、僕から言わなきゃ。
「僕と付き合って、くれますか?」
「当たり前でしょ、ばか」
文句のような言い方で、嬉しそうな声で、花は答えた。よかった。これで胸を張って、花の彼氏になれた。僕が両腕を開くと、花は顔を見せないように俯いて体を離す。やっと、今日あまり顔を見せてくれなかった理由がわかった。鈍いな、僕……。
「帰ろうか、花」
「……ん」
お互いに荷物を整理して、帰るために歩き出そうとした時。僕は花に、手を差し伸べた。花はその手を見て、照れながら、握ってくれた。手を繋いで、駅まで歩く。
歩きながら、昨日のことを思い出して。なんとなく、花の気持ちが理解できて。自分の失言を後悔する。なんだ、あの告白。あれが最初に伝えた「好き」だなんて。しかもあの時は、こんな気持ちで伝えてなかった。失礼じゃんか。
謝りたい気持ちをぐっとこらえる。「月下は悪くない」って、花は言ってた。だから、僕は謝るべきじゃない。それより僕は、花の彼氏として堂々としてるべきだ。
……今は、この手のぬくもりだけでいい。この温度が、僕たちの気持ちを繋げてくれてる。きっと、花も、そう感じてる。
■雪凪
手を繋いで歩く帰り道、私はさっきまでのことを何も考えられなかった。ずっと風兎に頼りっきりだ。腕は細いけど、手はおっきいな……。風兎って、年上の、男の子、なんだな……。当たり前のことを、いまさら感じた。
これからどうなるのかわからない。自信なんて無いし、不安だらけだ。だけど。
風兎がこんなにぬくもりをくれるから。私の気持ちを受け止めてくれるから。私も、頑張ろう。
あなたの傍で、笑い合えるように。
何かを忘れてしまった風兎が、雪凪に悩みを打ち明けたシーン。雪凪の言葉によって風兎が泣いてしまってから、雪凪が逃げるあたりの展開が、かなり込み入った心理から成り立ってるから解釈難しいなぁと書いた俺自身が思った。
ので、俺の解釈を書こうかなと。でも読む人によっては違って見えるかもしれないし、違う解釈も見てみたいかも。俺はキャラ本人ではないから「これが正解」と言い切れないんよね。
まず、風兎はずっとモヤモヤして向き合い方がわからなかったことに、雪凪のおかげでやっと向き合えた。そして感情がどっと溢れて、泣いてしまう。
風兎という、好きな人のガチ泣きを初めて見た雪凪。しかも泣かせたのは自分。めっちゃ焦る。せめて目の前で泣かないでほしくて、毒舌ですらない暴言を吐いている。ただ、風兎が泣いてる理由自体はなんとなく理解していて、泣くのをやめろと言う気は無い。
風兎から見たその雪凪の姿は、すごく困ってはいても、そして相変わらず口は悪くても、泣いてることを決して悪く感じてないのが表れていて。風兎はかつてない“情けない姿”を見せているのに、雪凪はそんな自分を嫌わない。それが伝わって、安心感と、潜在的な雪凪への想いから来る幸福感で、笑ってしまう。
笑われた雪凪としては、焦ってる上に笑われてる理由がわからなくて、非常に混乱している。この状況で笑い出す風兎に呆れてしまうが、ただ、風兎のそういう感情豊かなところも含めて好きだから、嫌悪しない。
風兎は幸福感から思わず、無自覚な想いが「好きです」という形で出る。この時、風兎は自分の想いを自覚してないので「言葉を間違えた」と感じて、慌てた。
告白された雪凪は、頭が真っ白になる。そしてやがて、風兎へのとても強い想いと、そんな強い想いを持っていた自分自身への戸惑いと、風兎への欲求が渦巻いて、顔を見られたくなくて、風兎を見てられなくて、顔を隠す。
この時、聞こえないほど小さな声で言ってたのは、言葉になってない「あぁ、うぅ……」みたいなうめき。そして風兎が近付いてきたから、耐えきれず思わず暴言が出て、逃げてしまう……。
って感じかなぁ。2人とも、弱さと強さ、すれ違いとお互いへの理解、コンプレックスと想いなどなど、いろんな感情が巡り巡ってるので、書いてて楽しく、読み返しても楽しい物語になったと思ってます。
2人のことを応援してくれる人、本当にありがとう。
はじめまして。月下風兎の友人やらせてもらってます、「トシ」こと佐々木利彦(ささきとしひこ)です。誰だよって感じっすよね。
実は俺、会社員やめた風兎にカテキョー勧めて、雪凪花を紹介したやつです。知ってます? あいつら付き合いはじめたそうなんです。驚くでしょ? 俺も驚きましたとも。
でもね、実は「そうなったらいいな」とはちょっと思ってたんです。聞きます? 理由。
まず月下風兎なんですけど、あいつめっっっっちゃいいやつなんですよ。みんなが楽しい方が良いって堂々と言えるタイプ。の割りに、よく泣いたり拗ねたりして、でもすぐ笑顔に戻って。その百変化がクッッッッソおもろいんすよ。
そんなやつだから、高校卒業しても俺らはたまに連絡取り合って遊んでたんすよね。月下風兎は特に、男女問わずいろんなやつにモテモテで。
でも、俺は心配もしてたんです。
あいつ、高校から1人も彼女居ないんですよ。モテるのに。そういう遊びはしない真面目なやつなのもあるけど、何より、あいつの中にまだ……「男らしさ」への強い未練みたいなもんがあるのを感じてたんです。
月下風兎を相手にするとですね、みんな“優しくなる”んです。わかります? 月下風兎が、非力だとか、メンタルブレブレだったりしても、それが風兎だからっつって、慰めたり、助けたり。まぁ、つい甘やかしちまうって言うんすかね。
でも、あいつ……男として強いやつでいたいって願望、強いと思うんすよ。なのに周りから「男」としては期待されてない……いや実際はそんなことはないんですけど、月下風兎はどこかそういう感じ方をして、心のどこかで気にしてんなぁ……って、俺は思ってたんです。
だから、たぶんなんすけどモテるのに彼女作らないのは、自分が「男」になれる相手が見つからないから、なんじゃねーかなって。本人は「今はそんな気じゃないだけだよ」って言ってたんすけど、あれは自覚無いだけだと考えたんです。
なんか、月下風兎って一緒にいてめっちゃ楽しいし、周りの幸せ真剣に考えてくれるやつなんで。あいつだって幸せ掴まなきゃおかしいだろって、俺は密かに熱意燃やしてたんです。
そこに、カテキョーの先輩であり若くして大御所の貫禄を見せる雪凪花なんすよ。正直あの人のことはよくわからんです。見た目はタイプなんすけど、口を開けば俺の心が「あっ」って萎縮しちまう。ただ、とんでもなく仕事できる人で、とにかく「強い」。
なんか、月下風兎って甘やかされるとダメ……にはならないけど、本人の願望が叶わない気がして。だから、雪凪花をぶつければ、コミュ強の月下風兎ならなんか奇跡が起こって「男らしさ」を発揮できる機会も多くなるんじゃねーかって、考えたんすよ。
雪凪花も、あったかい心は無いけど冷たい人間じゃねーのは間違いないんで、月下風兎に影響されてあったかい心が芽生えたりして。
なんなら、付き合ってお互いに刺激されてうまくいっちゃえばいい。そんな思惑があって、2人を半ば強引に引き合わせたんです。無許可でお互いの連絡先教えたり、雪凪花に「あいつ伸びしろあるんでたくさん教えてやってください!」って言ったり。
……で、今日の話。会わせてまだ数ヶ月。さすが月下風兎、あの雪凪花が相手でも怯まずよく話したり会ったりしてんな、と感心してたんです。雪凪花も、たぶん月下風兎を気に入ってんだろうなーって感じだったし。
仕事の関係で2人と会ったら、なんか雪凪花の雰囲気が全然ちげーじゃないですか。
は? あんた、なにその女っぽさ。そそる。
……で、月下風兎に聞いたんすよ。「え、なに、まさか付き合った?」って。一瞬で返事をしたのは雪凪花。
「付き合ってるわよ」
はいいい??? ちょっと待ちなさい。ほんの先週まで、そんな気配無かったよね? 雪凪花、なんだその変わりよう。くっ、友人の彼女に言うことじゃねーんだけど、すげぇかわいい。好き。
「おい、何したんだよ」
ちょっと詰め気味に月下風兎へ尋ねると、なんかあやふやな態度で「いや、その……告白?」との返事。
本当に? 告白だけで“あの”雪凪花がこうなる?
「あんた失礼なこと考えてる顔してるわよ、佐々木」
ぐっ。この鋭さはさすが雪凪花と言うべきだ。
「だって雪凪サン、そんな……甘い感じ、イメージ無いっすよ」
「ま、それはそうね。私だって知らなかったわ」
……なんか、わかった気がする。奇跡っつーか、天変地異が起きたんだ、この2人。例えるなら、地割れが起きて、山と平地の高さが逆転してしまったような……。今は2人の視界が変わりすぎて、慣れてないからこのふわふわな雰囲気なんだな?
それにしても雪凪花。女らしい雰囲気っつっても、メンタリティはやはり雪凪花。俺程度のメンタルではやはりモノにできそうにない。くそ、月下風兎……羨ましい。
「……ともあれ。中学以来の彼女か? おめでとう、風兎クン」
羨ましいのでちょっと意地悪なこと言ってやった。わざとらしくクン付けするサービス。月下風兎が目に見えて慌て出す。
「ちょ、トシ! そんないきなり言うもんじゃないでしょそういうの!」
うははは、おもしれー。焦ってる焦ってる。俺が楽しんでると、雪凪花は冷静にこう返した。
「元カノくらいで焦るんじゃないわよ。ま、居なきゃおかしいくらいでしょ、風兎なら」
ふ・う・と・な・ら?
おい月下風兎てめーこないだまで「月下」って呼ばれてたよなぁ! 誰に断って名前呼びされてんだ、あぁん?? 俺に断る義理はなんも無いけど羨ましいぞこらぁ!!
「花……あ、ありがとう……でいいのかな」
は・な??? おい月下風兎てめー誰に断って名前呼びしてんだ、おぉん??? 俺に断る道理はなんも無いけど泣くぞこらぁ!!!
「元カノがいる程度のことでどうこう言う気は無いもの」
雰囲気違うくせにめちゃくちゃ冷静なんだよな……。なんか、面白くない。もっかい意地悪してやる。
「雪凪サンって元カレいるんすか?」
「居ないけど?」
なんかそんな気はしてたんすけどね。月下風兎よ、お前は……
「え、ほ、ほんと!? 僕が初めてなの!?」
おーおー、「ぼ」で声裏返るほど動揺しとるわ。がはは。楽しいねぇ!
「それも大したことじゃないでしょ」
「いや、大したことだよ! だって、女の子のハジメテって大事じゃん!」
やったわ。こいつやったわ。案の定、雪凪花に頭すぱーんって叩かれた。なんで語学とか大得意なくせにこういうウカツ発言多いんだろうな。不思議だ。
「言い方ってもんを考えなさい、ばか」
「うぅー、だって……」
……あぁ、でも。いいな。呆れながら、少し恥ずかしそうな雪凪花と。やっと相手を見つけて、「恋」で幸せそうな月下風兎。お似合いじゃんか。よかったな、2人とも。
こんなに良い結果になるとは思ってなかったけど、引き合わせてよかった。なぁ、月下風兎。お前はその人が相手なら、「男」でいられるんだな? 応援してやるよ。ぜったい、離すんじゃないぞ。その人は、お前の「奇跡の人」なんだからな。
「風兎」
「あっ、花! これどうぞ!」
「え……あっ」
「へへ、可愛いチョコ見つけたからあげたくて」
「……はい」
「え、これ」
「私も、チョコ。市販品だけど。先に渡されちゃうの……ちょっと悔しかった」
「花……ありがとう!」
「こちらこそ」
○花
……確かにこのチョコ、デザイン可愛いわね。……「私」にこれをあげようって思ってくれたの……嬉しいな。良いセンスしてるじゃん、風兎。
○風兎
花がチョコくれたの嬉しいけど、何より……よっし先に渡せたぁー! 花には悪いけど、どうしても先に渡したかったからよかった。花は気に入ってくれるかな、どうかな。……あ、気に入ってそう。よかった……結構不安でめっちゃドキドキした。よし、僕もチョコ食べよっ。
そうして2人は、一緒にお互いから渡されたチョコを食べて感想を言い合うのでした。