X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

喜びとは目的を暖め続け、知性を輝かせ続ける神聖な炎である。6

全体公開 アークナイツ 7782文字
2023-08-17 23:41:23

アークナイツ エイヤフィヤトラ二次創作その6
←・→

Posted by @Alpha_arpA

 数日後。
 ロドス本艦はウルサスとリターニアの国境地帯を抜け、カジミエーシュの南方辺境、ヴィクトリアとの国境線沿いから数十キロ地点へと差し掛かるところだった。
 途中、ウルサスの降雪地帯を進んできたことで凍結した装軌のメンテナンス作業のために半日ほど停止し、艦はさらに西へ。ヴィクトリアを横目に抜け、クルビアへと向けて移動を続ける。
 数千人から一万人までの収容を可能とし、内部に医療施設は勿論のこと研究施設、また居住区画や商業区画、工業区画と農業区画までもを備えるロドス本艦は、小~中規模の移動都市と比べても全く見劣りしないほどに巨大な船だった。
 数百メートルを数えようかという広さの基礎を支える装軌は、航行経路上の小さな岩や瓦礫などといった小さな障害物を砕き、もうもうと土煙を上げながらその巨体を進めていく。艦内に伝わる微細な振動や源石動力エンジンの唸りは、そこに乗艦する者たちにとっては既に慣れたもの。自らの立つ地面が多少揺れたところで気にも留めず、いつも通りの生活を送っている。
 もっとも近頃は、航路上の障害物がロドスに接触する前に細かく破砕する技術が実用化の目をみたとのことで、むしろ人々の生活に根付いていた騒音が軽減され、静音性の格段に増した生活に若干の違和感を覚える者も少なくはないようだった。
 源石病による重度の難聴を抱えるエイヤフィヤトラも、そんな違和から来るちょっとした問題に悩まされる者の一人だ。

 遮光カーテンの間隙から朝日の光が零れだし、羽獣の羽を詰めた掛け布団に無機質な直線のラインを形成している。光は床に敷かれた伝統的なリターニア様式の模様のラグを通り、直射日光が当たらないよう気をつけて配置された大きめの本棚を避け、ラグに合わせてリターニア様式の意匠があしらわれた暖色の壁紙に反射し、そして窓際に据えられた木造の書き物机の上にある便箋と封筒に光を投げかけている。
 そこにたどり着く頃には、無機質だった光は部屋を舞う微細な塵などに散乱してプリズムになり、柔らかな環境光となって未だ暗い部屋の中へと広がり、厳かな朝の訪れを告げた。
 机に備え付けの棚に置かれた小さな多肉植物と、そこから生えた細かな透明の棘に光が当たり、きらりきらりとベッドの中に居る若い研究者の滑らかな頬を暖める。
 静かな部屋には、未だ小さく穏やかな寝息がすうすうと響いている。熟睡するエイヤフィヤトラは、しかし未だ目を開く様子を見せない。小さく開いた薄い色の唇が、甘い眠りを享受して穏やかな笑みの形を象っている。まるで、幸せな夢を見続ける子供のように。
 小さな置き時計型のアナログ時計が、秒針の音を規則正しく響かせている。短針はそろそろ、文字盤の9に差し掛かろうかというところだ。
 脇に置かれた通信端末が断続的に振動し、何者かからの着信を告げている。履歴には同じ番号からの着信が、ここ一時間で数件。

「ん。んぅ……


 小さな声と共に暖かなベッドの中で身じろぎ。ローズグレイの瞳がゆっくりと開いていき、緩慢な瞬きを繰り返す。掛け布団の蠱惑的な重みになんとか抗い、上半身を起こしてカーテンの隙間から射す光を浴びた。 一つ伸びをして寝ている間に凝った身体をほぐせば、背や首、指先に新鮮な血液が流れ込んでいって、もうろうとしていた意識がスイッチを一つずつ入れるように覚醒していくのを感じる。
 視線を動かして、時計を一瞥。しばらくそれが示す時刻をエイヤフィヤトラはぼんやりと見つめた。視覚情報が齎すシンプルな事実を脳が理解し受け入れるまで、なぜか若干の労力を要する。

 が、次第に何が起きているのかを理解しはじめたエイヤフィヤトラの睫毛が、ぴくりと震えた。
 さっと一気に顔が青ざめていく彼女は、横で振動を続ける端末に気が付き……

「ぁ痛ぁっ!」

 端末に飛びつこうとして、ごとんっ! と鈍い音を立てながらベッドから落ちた。
 今日はエイヤフィヤトラの定期検診日。指定された時刻は午前八時半。現在時刻、午前九時。
 慌てて電話に出ると、案の定担当医のワルファリン先生が今にも受話器越しに噛みついてきそうな剣幕でぐるる……と獰猛に唸っていた。

 ロドス・アイランド製薬の社員用居住区画36-22F-8。それが今の彼女の在住地であり、帰る家だ。
 家とはいっても、沢山の階層に分かれた広大なフロアにいくつもの廊下と個室が並ぶ、例えるなら大規模な集合住宅地のような住まいだ。職員のそれはある程度まとまって位置しており、内勤業務を割り当てられたオペレーターたちが自らの職場に出勤する際には不都合にならないよう、ある程度距離的な便宜が図られている。
 エイヤフィヤトラも研究の傍ら、皆からは一般に“事務室”と呼ばれる場所で働いていた。
 天災トランスポーターが提供する艦外の周辺状況を基に航行ルートに存在する危険がロドスの定めた規定を超えるものでないか、ルートの修正が必要か否かを判断し、総務へと連絡する重要な仕事だ。
 彼女が担当する業務の殆どはデスクワークのため、フィールドに出て調査を行うのは本職のトランスポーター、プロヴァンスやレオンハルト、ツキノギたちの役目。本当はエイヤフィヤトラ自身も彼女らに同行し、実地で調査を行いたいところではあったが……それについては医療部の方からNGが出され、現在のポストに到る。
 本来ならその事務室へと向かうはずのエイヤフィヤトラの通勤は、今日ばかりは慌ただしく通院と名を変えて別のルート、ロドスアイランド医療研究区画へと足を向けることになった。

▼△


 指定された病院のロビーで受付を済ませてから上がった息をなんとか整え、整理番号が呼ばれるのを待って定例の検査をいくつか従順にこなしていく。健康診断も兼ねたそれはお決まりの身長体重測定から始まり、血圧測定、レントゲン、採尿、採血、源石共鳴画像検査法(Originium Resonance Imaging)、視聴力検査、呼吸機能検査、またエイヤフィヤトラの場合は婦人科検診も受診して最後にワルファリン医師の内科検診と、ほぼ丸一日掛けて行われる。
 足首に装着していたサーベイランスマシンを看護師に預け、検査着に着替えてしまえば、あとは何も考えずに流れに任せるまま。もう何度もこういった定期検診をこなしているエイヤフィヤトラは初めこそ大遅刻をやらかした後ろめたさで心なしか縮こまっていたが、次第にそれも無くなり、つつがなく検診のプログラムをこなしていった。

「──なるほどな。そういった事情ともあれば妾も強くは責められん。ま、あまり気にするな。生死のかかった作戦ならともかく、定期検診に遅刻した程度でそう心をすり減らすこともなかろう」
「ありがとうございます、ワルファリン先生……
 スクリーン型の医療用バーテーションで仕切られたスペースに、医師用のデスクを左にしてエイヤフィヤトラとワルファリンはそれぞれ椅子に腰掛け、対面して座っていた。
 朝のことを平謝りする彼女に、ルビーのような瞳を細めるブラッドブルードの医師は手を振りながら応えた。けらけらと笑いつつ、カルテに目線を向ける。
「確かに、近頃のロドスは静音化が著しいからな。航行時の振動を目覚ましのアラーム代わりにしていたそなたが寝坊をかますのも無理からぬこと。ちと気の毒だが、どうにか他の方法を見つけることだ。さて、とはいえそなたのお陰で後はつかえている。雑談はこの程度にして、取り急ぎ伝えられる検査結果だが」
 吐息を一つ。エイヤフィヤトラは心の中で軽く身構えて、医師の宣告を待つ。
 良い結果でないことは既に理解している。これまでの全ての検診で、エイヤフィヤトラの病状は毎回必ず悪化していたからだ。今回もきっと例外ではないだろう。故に、医師の言葉を受け止める為の心構え。
 で、あったのだが。

……正直言って、ちと驚いたぞ。僅かではあるが、血中源石濃度が減少。源石融合の度合いや、聴力・視力の目立った悪化なし。そのほか目立った合併症の兆しなし。多少寝不足なようだが、まあ研究者ならこれくらいは見逃してやってもよかろう。どうせ言っても聞かんだろうし」

「へ……? 悪化、なし?」
 エイヤフィヤトラは瞬きを何度か。首を傾げ、怪訝そうな顔でワルファリンの言葉を聞き返した。まさかそんな、またいつものごとく自分の耳が重要なところを聞き取り間違えたのでは? と。
「おう。言っておくが聞き間違いではないぞ。経過は良好! ふふ、やるではないか」
 聞き間違いではない。楽しげな医師の言葉を口の中で反芻しても、エイヤフィヤトラの裡は喜びよりも困惑の方が割合多く占められていた。
 悪化なし。むしろ病状は快方に向かっている。
 その事実はたっぷりと時間を掛けてエイヤフィヤトラに染みこんでいき、若い研究者の表情にもようやく春の陽光のような笑みがゆっくりと拡がっていく。感極まるように両手を胸の前で組み合わせるように握って、小さく言葉を零す。
「ワルファリン先生、私……!」
「うむ。だが油断はするなよ。今は喜んでもよい、が浮かれてはならん。この結果を受けても、そなたが依然鉱石病の重病人であることに変わりは無い。前に申請していたようなフィールドワークなども当然許可できんので、そのつもりでいるように」
「あはは……分かりました。でも、それでも良いんです。今はこの希望を持って、病気の怖さとまたしばらく闘っていけると思いますから」

 その言葉を聞いた瞬間、医師のまぶたがぴくりと動いた。
 ワルファリンは目の前の研究者が発した言葉に初めてカルテから顔を上げ、紅玉の瞳で彼女へと視線を向けた。その瞳の中にきらりと灯る興味が、老獪な医者に口を開かせたようだった。


「ほう……? で、その心は?」
「え?」
「恐怖を隠さなくなった。以前のそなたは“そう”ではなかったはずだろうが。何があった? どれ、ちとこの妾に教えてみよ」

「え、あ、えっと」
 狼狽えるエイヤフィヤトラに、ワルファリンは言葉を挟まずただじっと待つ。その沈黙がいかにも『話さなければ帰さないぞ』という圧力を孕んでいて、若いキャプリニーは恥ずかしさに視線を泳がせた。
 おずおずと、口を開く。できれば自分の心の内に留めておきたいな、と、これはよこしまな気持ちだ。ドクターの横顔が不意に思い出されて、頬が熱くなった気がした。
「あのぅ、これは全然、病気とは関係ないと思うんですけど」
 にんまり。先に相手に口を開かせた医者は、有利を取ったとばかりに用意していた答えをつらつらと並べ立てた。おろおろと圧倒されるエイヤフィヤトラに構わず、医者の威厳もたっぷりに。
 たぶん、興味の半分以上は野次馬根性である。
「そんなことが在るものか。病は躯のみならず精神を冒すのだぞ? 炎国の辺境には“病は気から”などという愉快な故事が在ると聞く。精神的な状態の変化は時に、人体に医学では説明の付かない事象を引き起こすものだ。それが鉱石病なら尚更な。ゆえ、関係ないなどということはない。いいから話してみよ」
「うぅ~。それはまあ、そうかもしれないですけど~」

 これはもう話さない限り意地でも逃がしてもらえないだろう。結局エイヤフィヤトラはロドス古参のサルカズに押し負け、数日前のドクターとの一幕をワルファリンに余さず打ち明けることになったのだった。



「──はぁ、成る程な。あの痴れ者、また背負ったか」

 白い肌の医師の感想と吐き出したため息は、エイヤフィヤトラが想像していたよりも重たいものだった。てっきり若い自分のちょっとした懸想を見抜かれて散々おちょくられるものと身構えていた彼女は、その想像よりも大分シリアスな返しに困惑し、その形の良い眉をひそめる。
「えと、先生? “背負う”って?」
「ん、ああ。まあ……自分に慕情を寄せる可愛らしい後輩を曇らせたとあっては、さしものあやつも多少は堪えるかな」
「ぼっ、ぼじょっ!?」
 殆ど独り言のようにぽろりと零したワルファリンにエイヤフィヤトラが慌てていると、刹那。
 カルテをデスクに置き、システムチェアを軽く軋ませ、ワルファリンは言い放った。

















「よいかエイヤフィヤトラ。そなた、現時点で自分の余命が幾ばく残っていると思う?」
……え?」

















 白を基調とした診察室からは、いつの間にかエイヤフィヤトラとワルファリンを残し、スタッフや患者の影が消え失せていた。
 大きな窓から射し込む陽光が、外の常緑樹を透かした光の粒になって室内に差し込み、様々な医療器具を有機的な木漏れ日で柔らかく照らしている。
 そこは沢山の医師や看護師、また患者でごった返す病院の筈なのに、エイヤフィヤトラの耳には殆ど何の音も入っては来てくれない。水が鼓膜を押しているかのような静寂に包まれていて、まるで二人だけが別世界に隔離されてしまったかのようだ。
 髪も肌も常人離れして白いワルファリンの真っ直ぐに伸びた背を陽光が照らし、できた影が白衣の上に白と黒のコントラストを造り出している。ゆるい逆光の中でルビーのごとき赤い瞳だけが、真っ直ぐにエイヤフィヤトラのローズグレイを射抜いていた。
 つん、と消毒液の臭いがエイヤフィヤトラの鼻を衝いた。あまりにも唐突な問いに、言葉がつかえる。

「ど、どうして」
「よい、応えよ。妾は今そなたを試している。ここからの応え如何で妾はそなたに、ドクターに関する非常に重要な事柄を教えるつもりで居る。またはそれを教えず、この診察を終わりにしてそなたを帰す。そうなれば、もはや何も知ることは許さぬ。そう思え」
……

 医師の口調は静かだった。そして、これまでの彼女の態度はまるで幻か何かであったかのように重く、真剣だった。エイヤフィヤトラはそこに、初めてワルファリンという一人のサルカズの心を見る。
 彼女は何か、自らが抱える重大なものをエイヤフィヤトラに託そうとしているようだった。そのためにこれから彼女は“試される”。
 自然と居住まいを正し、背筋を伸ばして、エイヤフィヤトラは毅然と応える。
 恐怖を隠さない。だが、希望を抱くこともやめない。
 ドクターのこと。目の前の人物はロドスの三首脳ではないが、此処に古くから在る重鎮だ。
 そんな彼女が、エイヤフィヤトラに何かを伝えようとしている。
 それがドクターのことであるのなら、エイヤフィヤトラは知りたかった。

「──あと、数年だと思い、ます」
「そうか。ならばエイヤフィヤトラよ。“あと何年研究者でいられるか”というそなたの問いに、あやつは何故。なぜそなたですらおおよそ想像のついている当然の事実について、その場で言及しなかったのだ?」

「それは……それは」
「私のことを、思いやってくださって」

「違う」
「というのはあまりに酷で、正しくもないな。三割はその理由であったとしようか。これは蛇足だが、あやつはそなたを本当に大切に思っているぞ。今の自分を研究者として慕ってくれるたった一人の“後輩”なのだと、あやつは顔を合わせる度に実に楽しげに妾に自慢する。全く毎度毎度飽きもせずにな」

 若い研究者は驚愕に目を見開いた。自分の知らない所で、自分がどれだけドクターから気に掛けられていたのかを知って。
 あの日あの時、あの図書館で自分の人生を変えてくれた人もまた、エイヤフィヤトラの存在によって彼女が知らない、分からない欠けを埋めていたのだろうか。
 そしてエイヤフィヤトラはふと、本当に突然気が付いた。
 今から自分は、ドクターが抱えるその欠落が何なのかを知ることになるのだと。だがそうだとして、尚更ワルファリンの話は不可解でもあった。

「な、なら、残りの七割は。私、ドクターに希望も絶望も貰ったんです。怖がることも、立ち向かうことも教えてもらったんです。余命のこと、教えてもらえなかったのは……どうして、ですか?」
「うむ。では最後の問いだ。本当にこの先を知りたいか?・・・・・・・・・・・・・

「この先を知れば、そなたは戻れなくなる。あのドクターという狂った愚か者を知り、そしてその患者であるというだけの甘く優しい関係ではいられなくなる。あやつのしようとしていることを知れば、そなたは決断せねばならなくなる。知った上で“どうするのか”を」

「あやつを止めるもよし、止めぬもよし。だが確実に、今まで通りでは居られない。今まではあやつを止められるものはおらなんだ。ケルシーも、アーミヤでさえな」

「だがそなたなら、選べば止めてしまえるやもしれぬ。そなたが声を発すれば、あやつは歩みを止めるやもしれぬ。
そなたは鍵だ。故に慎重に選ばねばならぬ。それでも進むか? ナウマン夫妻の忘れ形見……いや。

ドクターの、たった一人の後輩よ」

 そこまで言い終えて、ワルファリンは言葉を切った。沈黙し、赤い瞳がエイヤフィヤトラを真っすぐに見据えた。
 きっと、此処が分水嶺だった。
 ここで踏み出さなければ、エイヤフィヤトラは今まで通り彼女のままで居られるだろう。両親の研究を受け継ぎ、ロドスで働き、希望を以て絶望しながら病と闘う、いずれは死にゆく只の鉱石病感染者。そんな、ありふれたひとりで居られる。ドクターとの関係も、きっとこれまで通りだ。 
 自らの手を強く握り、唇を引き結び、目を閉じてエイヤフィヤトラは一瞬迷った。
 捨てることになるかも知れない。何かを。もしかしたらそれは、本当に大切にしたかったものを。そうでなくとも、きっとなにがしかの変化は避けられない。
 少なくとも、そう感じられるだけの気迫が、目の前の医者からは漂っている。それだけの覚悟を以て望めと、言外に伝えられているのだ。

──『私は此処に居るよ。エイヤフィヤトラ。
ええと……だから、泣き止むんだ。アデル』

 ドクターの表情と、あの言葉が思い出された。エイヤフィヤトラは閉じていた目を開く。ワルファリンの目線に、ひるむことなく返した。
 それでも。
 今此処であなたに背を向けたら。


 私は、きっとこの短い生を後悔することになるだろう。あなたから目をそむけたことを、死ぬまで後悔するだろう。それだけは。
 それだけは、死んでも嫌だ。






「ワルファリン先生」
「うむ。決めたか?」

「はい。教えてください。ドクターのこと」


 サルカズの医師が吐いたため息は、安堵のそれのようにも聴こえた。
 いつの間にか、診察室には音が戻ってきていた。
……踏み出すか。まあ、あやつの後輩ならな。
では、妾の知る全てを教えよう。いいかエイヤフィヤトラ。ドクターはな──」



「──ライン生命と結託し、“クライオニクス”を鉱石病患者の終末医療に導入しようとしておる」 


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.