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第三話 太陽郷と最強の双子

全体公開 私たちの太陽郷 2
2024-03-27 13:16:21

あなたにも、今まで生きてきた歴史があって。

 黄緑は生。
 桃は夢。
 赤は、無。
 それは呪い。
 何物にも属さず、脅威となる。
 赤は、呪い。



第三話 太陽郷と最強の双子


 僕の小さい頃の記憶は、霧がかったような暗い灰色でできている。
 僕が育ったのは、お金のない人が暮らす、申し訳程度の家が立ち並ぶ町。……いわゆるスラムだ。
 そこは厳密に言うと太陽郷ではなくて、隣にある月華郷だった。月華郷は太陽郷と正反対で太陽が昇らない。そこで少しでも太陽の光を得ようとそのスラム街は太陽郷の側に作られていた。でも太陽光は弱い光しか届かないし、そもそも雨が多くて空はいつもどんより曇っている。もちろんそれだけでは生活できないので、太陽光を模したランプが所々に灯っていたけれど、それはあくまで太陽光の成分を摂るためのもので灯りには少し足りず、だからいつも街は暗い灰色だった。
「ねぇスフラ! 今夜は晴れるって!」
 僕の隣で、1人の少女が自然妖精に囲まれながら僕に微笑んだ。僕らと同じ大きさで、僕らと同じ言葉を使う「妖精」とは違って、小さな「自然妖精」の声は僕には全く聞こえない。でもこの少女は、何の苦もなく自然妖精と会話ができるのだ。
 僕と同じ金髪、同じ顔。そんな彼女はいつも僕の隣で、一緒に雨に濡れて、同じ灰色の中に居た。
「そう……久しぶりだね。……明日は?」
 そう僕が聞くと、彼女はほんの少し暗い顔をして
「明日は…………
 と言う。けれどすぐに「だけど!」と瞳を輝かせて、仏頂面をしているであろう僕に向かって再び笑って見せた。
「大丈夫。僕たちは最強の双子だから!」
 これが、姉のスクリの口癖だ。
 見た目は僕とそっくりなのに、性格は僕とは正反対。ひねくれている僕と違って、明るくてポジティブ。自然妖精と話せるのも、きっとこの明るい性格のおかげだ。
 でも、性格の他に僕と違うところがもう1つあった。
「忌み子だわ……
「近づかないで。呪われるわよ……
 聞き慣れた言葉。通り過ぎていく人が、向こうの建物にいる人が、僕らを見ながら呟くひそひそ声。でも、これは僕ではなくてスクリを見て言っていた。
 僕の瞳は黄緑なのに対して、スクリの瞳はざくろのように真っ赤だった。赤い瞳には対応する魔法がなく、代わりに呪いを使うと言われて恐れられていた。スクリが呪いなんて使うはずがないのに。
 でもスクリは全く気にしていなかった。
「スフラとお母さんとお父さんが僕を嫌わないでいてくれるから、僕はそれでいいんだ」
 そう言っていつも笑っていた。
 この薄暗い街で、スクリが僕の太陽だった。
 
 お金があれば、お母さんもお父さんもスクリも、もっと楽に幸せに暮らせるのに。ずっとそう思っていた。
 僕も、家族の役に立てたら。
 スクリが僕の救いになってくれるように、僕もスクリを助けられたら。
 ある日、僕はお金を手に入れる方法を思いついて、スラムの隅に住んでいるお医者さんの所へ行った。スラムの貧しい人々を安く診てくれるお医者さんで、特に子供はタダで診てくれた。
 最初はお医者さんに反対された。でも何度も僕は頼んだ。それがどんなに大変なことか説明されても、他に道はあると言われても、僕の心は揺るがなかった。とうとうお医者さんは折れて、僕の頼みを聞いてくれた。
 僕は、右目を売った。
 僕の瞳は綺麗な色で、宝石のようだとよく褒められた。瞳がとっても大切なこの世界で、綺麗な色の瞳は高く売れると思ったのだ。
 僕が小さな病院から出ると、雨が降っていた。僕は右目に眼帯をして、手にはお金の入った袋を持って家へと向かった。
 家の前に、スクリが立っていた。雨の中びしょ濡れで、僕のことを見ていた。
「スクリ、僕……
 僕はスクリに、お金を見せようとした。
「なんで」
 スクリの口から言葉が漏れた。僕は立ち止まった。
「何してきたの」
 聞いたことのない、冷たい声だった。
……目を、売ってきた」
「なんで」
「お金を……
「どんなに大変なことか、わかってるの」
「視力を補佐する魔法は、教えてもらった」
「そういう問題じゃないでしょ」
 スクリの真っ赤な瞳から、ぼろぼろと涙が溢れ出した。
……あんなに綺麗だったのに……
 雨と涙で、スクリの顔はべしょべしょに濡れている。
「そんなだったら、僕が目を売ったよ……! 何で、何でそんなことするの……何でスフラがそんなことしなくちゃいけないの……
 スクリは大声で泣き始めた。僕は、スクリに袋を見せた。
「でも、これで、もっと、生活が楽に……
「いらないよ! スフラの目は、お金になんか変えられないんだよ!!」
 僕は何も言えなくて、黙り込んだ。つられて涙がこぼれ落ちた。
「ごめんなさい……
 ずっと、2人で泣いていた。

「聖女だ!」
「ステュリ様の生まれ変わりだ……!!」
 僕が11歳のとき、スラムを通りかかった教会の人達によって、僕は教会に連れて行かれた。
 理由は、僕の姿が100年程前の厄災のときに太陽郷を救った聖女にそっくりだったからだ。
 僕は家族と切り離された。最強の双子は、離れ離れになってしまった。僕よりもよっぽど聖女に向いている姉は、見向きもされなかった。
 僕は聖女が名乗っていたヴァレッタの姓を貰い、治癒魔法や再生魔法を教わって聖女の教育を受けた。
 綺麗な服。豪華な食事。聖女としての待遇は決して悪くはなかったけれど、でも僕はこの生活が心底嫌いだった。
 聖女というのは、皆を助けるヒロインだ。それは、見返りなんて求めない、崇拝と傷ついた心の受け皿だった。僕はそれが損にしか思えず、誰にも助けてもらえなかった僕が皆を助けなければならないということが、理解できなかった。
 それに、僕は決して完璧な聖女ではなかった。ステュリほど強い治癒魔法は使えなかった。教会の人は魔力が宿る器官である瞳が半分しかないからだと言っていたけれど、どちらにせよ僕に聖女なんか務まらないとずっと思っていた。
 だから何度も隙を見て、教会を抜け出して家族の元へと戻っていた。
 スクリは本当に凄くて、僕が教会にいる間に仕事を手にしていた。それはアクセサリーデザイナーで、自然妖精に助けを借りて材料を安く仕入れて技師に売ったり試作品を作ったりできることが強みだった。仕事を通じて、小さいけれど自分の住居も兼ねた作業場を太陽郷の森の中に持って、スラムから脱することができていた。
 スクリは会う度に僕のことを心底心配してくれた。自分だって仕事で大変なはずなのに。……自分が忌み子であることは、気にしている様子を見せなかったのに。
 そんな教会での生活が、4年ほど続いた。そして半年前、僕は教会から本格的に逃げ出して、月華郷と太陽郷を歩き回る旅を始めた。フードを深く被ってあちこちに移動して、教会からずっと逃げている。教会はどうやら僕が昔売った右目を探すことの方に気を取られているらしく、あまり僕を探すことに人員を割かなかったので助かっている。
「ねぇ、スフラ」
 スクリの作業場の前で、スクリが僕に話しかけた。
「ここに居なよ。あちこち逃げ回ったりしなくたってきっと見つからないよ」
 僕は首を振るとスクリに背を向け、歩き始めた。
「皆に迷惑がかかったら嫌だから」
 僕の後ろで、スクリが僕をずっと見つめているのを感じた。
 これからも、出来るだけ長くこの生活を続けるつもりだ。僕を救ってくれた家族を、僕が巻き込んでどうする?
 僕は、ひとりでいるべきなんだ。





「スフラ、僕は……
 小さくなるスフラの背中を見つめながら、スクリが小さく呟く。
「君が居たから、君が宝石だったから、デザイナーになれたのに……
 誰にも聞こえない独り言は、森の木漏れ日に溶けて消えた。


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第二話 あなたの太陽郷 https://privatter.net/p/10694238
2024-03-27 17:29:48
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2024-03-31 19:25:41

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