X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

③ η枚目の織地

全体公開 1 3087文字
2026-06-07 21:26:13

王子たちに腹いせをしてみる織地

Posted by @KouSyuuka

《ローゼマイン》

「不敬であろう!!」

バンッと机を叩いてアナスタージウスが立ち上がった。貴族の頂点、模範となるべき王族の一人として、感情丸出しのその態度は如何なものかと思う。私は溜息をついてから、「シュタープ、グルトリスハイト」と唱えた。『グルトリスハイト』の言葉と共に私の手の中に現れたそれを、王子たちは目の色を変えて凝視する。少し見た目がおかしくても、藁にもすがる思いだったのだろう、アナスタージウスは立ち上がっていたこともあってすぐにこちらに手を伸ばしてきた。物品のやりとりは側仕えを介すのが普通だというのに。今回のこの呼び出しの段階から、王子たちの対応には突っ込み所がもう幾つあったことやら。
私が今日何度目かの溜息をついたのと、アナスタージウスが風の盾に阻まれたのはほぼ同時だった。

「うわっ!?」
……ローゼマイン?どういうことです?」
「さぁ?シュツェーリア様がグルトリスハイトを得た真のツェントを護ろうとしてくださっているだけでは?わたくしに対して害意がなければ問題はないはずです。ハルトムート、お茶を淹れ直してちょうだい?」
「はい、ローゼマイン様」

私が頼むと、壁際に下がっていたハルトムートは難なく私の側にやってきてお茶を淹れ直してくれた。側仕えコースも修了しているだけあって、フランの腕には及ばないけど、なかなか美味しい。
アナスタージウスが自分たちの側近を睨み「其方たち、何をしているのだ!」と怒鳴ると、王族の側近たちが恐る恐るグルトリスハイトを奪おうとこちらににじり寄ってくる。でもハルトムート以外の誰も半球状の盾の中には入って来られなかった。
言ってなかったけど、そもそも武器を構えている人は盾の中に入れないし、今展開しているこの盾は私が敵意を持っている人のことも弾いてくれる。トルーク漬けの中央騎士団や、王族の側近なんかが入れるわけない。叫び声がそこかしこで上がる中、私とハルトムートだけどこかの庭園にでも居るような気持ちでしばしの優雅なティータイムだ。

「ローゼマイン、グルトリスハイトを渡しなさい。先程の言葉は聞かなかったことにします」

ようやく側近に任せても埒が明かないとわかったのか。ジギスヴァルトがニッコリと微笑んで、交渉の価値もない取引を持ちかける。今なら『真のツェント』という不敬発言を不問にしてあげますよ?という恩着せがましい笑顔を向けられ、もう溜息を吐く気もおきない。私は一文字ずつがわかりやすく聞き取れるようにゆっくりハッキリ発音しながら「リューケン」と唱えてグルトリスハイトをただのシュタープの形に戻した。

「なっ」
「真のグルトリスハイトはメスティオノーラの英知をシュタープに写し取るものです。他人に譲渡できるものではありません」

王子たちも始まりの庭に行って写し取ってくれば良いのですよ。あぁでも、始まりの庭へは全属性のシュタープを持つ者にしか入れないんですけどね。

「それとも、譲渡できるか試してみますか?」

私はそう言って再びグルトリスハイトを出してから席を立ち、ゆっくりと王子たちの方へ歩み寄る。もちろん、私を中心とした半球状の盾が展開されたままだから、私の移動にあわせて盾の範囲も移動する。アナスタージウスも、座っていたままのジギスヴァルトも弾かれて、椅子ごと後方に吹き飛ばされた。随分と格好悪い倒れ方をしたから思わず笑ってしまいそうになったけど、ハルトムートはいつもの爽やかな笑顔を崩していないから、そういうところは根っからの上級貴族だなぁと感心する。

「どうしたのです?早く受け取りに来てくださいませ」
「やっ、めろ……ローゼマイン」

じりじりと部屋の隅の壁際に追いつめられ、王子たちが顔色を変える。シュタープを出してゲッティルトで盾を構えるけど、私の魔力に押し勝てるわけもない。
半球状の盾の反対側で、護衛騎士たちが王子を守りに行きたがっているが、悉く盾に弾かれて吹き飛ばされていっている。
王子たちの方には既に逃げ場はなくなっていて、これ以上私が近づけば盾と壁に挟まれて潰されるだろう。打開策としては、この盾が半球状だから上にはまだ逃げ道があること。だけど騎獣用の魔石を取り出そうとしたところで腕が風の盾に触れてアナスタージウスは「うわっ!」と悲鳴を上げて魔石を取り落とした。コン、コン、コンとアナスタージウスの騎獣用の魔石が私の足下に転がってくる。だけど淑女が屈んで床に落ちた物を拾うわけにはいかない。

「ハルトムート、拾ってさしあげて」
「は」

ハルトムートは私の足下に転がる魔石を拾い上げると、アナスタージウスの方へ歩み寄って、人の良い声色で「どうぞ」と魔石を差し出した。盾のギリギリの範囲内で、だろう。アナスタージウスが何度も風の盾に腕を弾かれる音が聞こえる。というのも、私の位置からはハルトムートの背中で王子たちの姿が見えなくなっていた。きっとハルトムートは意図的にそうしているのだろう。私が血を見るのが苦手だから、と。

「ひ、引きなさい、ローゼマイン、」
………

この期に及んで上位の立場から命令するジギスヴァルトに呆れ果てて、私はもう一歩前に足を進めた。

「うあぁあああっ!!」
「やめっ、ろ!ローゼマイン!!」
「わたくしを止められるのはフェルディナンド様だけ。そのフェルディナンド様をわたくしから奪ったのは貴方方ではないですか」

このまま盾と壁にぺしゃんこに擦り潰してしまおうかな?そんな考えが過ぎったけど、ハルトムートが返り血を浴びた姿でもにこやかに微笑んでこちらに戻ってきた。

「ローゼマイン様が手を下すような者たちではありません」

その言葉に、不思議とスッと怒りが静まって冷静に戻れた。

「そう……それもそうですわね」

どうせフェルディナンド様を喪って『失敗』となった時点で、もうこの織地は諦めようと思っていた。その前に少し溜飲を下げていきたかっただけだ。けれど記憶を引き継いで戻る以上、私が人を殺した記憶なんて持ち越さない方が良いとハルトムートは案じてくれている。それなら、と私は返り血を浴びているハルトムートにヴァッシェンをかけてあげた。ハルトムートは「光栄です」と、嬉しそうに微笑んだ。それもどうなんだろうね?とちょっとだけ苦笑する。

「少しは気が済みました。そろそろ終わる頃合いですけど、何もこんな所で最期を迎える必要もありませんわね、帰りましょうか」

踵を返し、部屋の扉に向かおうとすれば、盾が退いたことで王子たちがその場に倒れ込んだ。盾に擦り潰された前面は床に伏せられ、背面はかろうじて綺麗なままだ。グロ映像を見なくて済んだ。

「あらあら、王族が跪くものではありませんわ」
「ローゼマイン様、グルトリスハイトを持つローゼマイン様こそ真のツェントなのですから、跪くのは当然です。ですが、床に寝るのはいただけませんね。無礼のない正しい姿勢で跪いてほしいものです」

まったく、元王族は不敬ですよね。なんてハルトムートが笑うから、つられて笑いそうになる。

「次に期待……するだけ無駄でしょうけど。それでは、ごきげんよう、王子様方。また、ドレッファングーアの糸が重なれば……





次の織地へ
目次に戻る



投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.