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④ Δ文字枚目の織地

全体公開 1 2643文字
2026-06-07 21:33:59

ハルトムートのストレスが限界っぽくなる織地

Posted by @KouSyuuka

《ローゼマイン》

フェルディナンド様の手にかけられて『ゲームオーバー』した回数はそこそこ多い。
大抵は「エーレンフェストの害になる」と判断されて、苦々しい表情で『処分』されるケース。
中でも、あの時が一番良かった。
私が「痛いのも苦しいのも嫌だな」と零したら、寝ている間に苦しまずに逝けるようにと、睡眠薬と毒をそれぞれ処方してくれて、私が眠りに落ちるまで手を繋いでいてくれた時……とてもとても穏やかな気持ちで眠りに落ちてそのまま逝けて、もういっそあのまま永遠に終わっても良いとさえ思えた。
少し笑っちゃったのが、回復薬は毒かと思うほど苦いのに、本物の毒がとても甘くて美味しくて優しい味がしたことだった。口にした時に正直にそう告げると「対象者に気付かれずに盛る必要があるのだから大抵の毒は味が誤魔化されていて当然だ」と真面目に返答された。毒の原料自体は不味いかもしれないけど、他者に飲ませるつもりで調合された毒なら無味無臭にされているか甘さや匂いを強くして誤魔化すかされている、と。

「前者においては、食べられないほど不味いものを毒と表現する逆説的なものもあるのだろうな」
「向こうの世界には『良薬は口に苦し』という諺もあるのですが、『甘い言葉には裏がある』なんて言葉もありますね。忠告は厳しくて、毒ほど美味しくするなんて、なんとなく似ている気がします。あと向こうの世界には美味しい食事がたくさんありましたが、美味しいものほど身体に悪かったりもしたんですよ」
「不味くて身体にも悪かったら誰にも求められず、食べ物の分類から淘汰されるのではないか?身体に悪くとも食べたいと思わせるほどのものが残っているというだけでは?」
「フェルディナンド様は相変わらず理屈っぽいですし、考え方が学者さんみたいですね。でも、そうですね。人の食事のカテゴリーの中にも進化論が適用されるのかもしれませんね」
「進化論とは?」

そんなどうでもいい話を気の赴くままに話しているうちに、睡眠薬が回ってきて私は眠りに落ちていった。今思うと、『これから死ぬ』という恐怖から気を紛らわそうとして私のお喋りに付き合ってくれていたのかもしれない。
私がウトウトと重い瞼を閉じる直前、苦々しい悲しげな表情のフェルディナンド様の顔が掠れて見えて、大きな右手に瞼と額を優しく覆われた。
あぁ、この終わり方は私にとっては幸せだけど、こんな優しくてつらそうな人を放ってはおけないな……と、やっぱりその時に思ったんだったっけ……





「フェルディナンド様!!おやめください!!フェルディナンド様!!っローゼマイン様ッ!!!!」

ハルトムートの叫び声が耳を貫き、現実逃避していた私の意識はハッと現実に戻ってきた。それと同時に私の両足がゆっっくりと床から離れていく。
フェルディナンド様は右手にシュヴェールトで形作った剣を構えながらも、左手で私の首を捕まえてゆっくりと持ち上げていく。斬り殺されるのか絞め殺されるのかどっちだろう……と、ループに慣れきってしまった私は暢気にそんなことを考えていた。
いや、それも一種の現実逃避だったのかもしれない。フェルディナンド様の瞳が殺意の光を強くして真っ直ぐに私を睨み付ける現状から意識を逸らしたい無意識だったのかもしれない。けれど一度、威圧になっているフェルディナンド様と目を合わせてしまったら、もうこちらから目を逸らすことは出来なくなる。虹色に揺らめくそれは、今まで見たことがないほどの憎悪に溢れていた。処分の仕方を考慮してくれないほどに、『今回』のフェルディナンド様は今の私を恨んでいる。
『あーあぁ……しくじったなぁ』と、頭の奥でポツリとそう思った。色んな意味で。
こうなる前に自死するなりして『今回』を終わらせてしまえば良かった。
こんな結末になる前に、どこかで何か違う道筋を……
そんなことを考えても今はもうどうしようもない。首を横に振ることすら今は出来ない。私なりに考えて頑張ったけど、他の人たちも色々な思惑を抱えて考えて行動するのだから、私の思い通りには進まない。ジルヴェスターとエーレンフェストが……フェルディナンド様と私がこんな状況になることを、私は望んでいたわけじゃない。けれど、この状況に辿り着いてしまったのは私のせいだとフェルディナンド様が判じてしまったのなら仕方ない。私を今すぐにでも斬り殺すべきだとフェルディナンド様が判断したなら。これほどまでに憎まれてしまったら、この織地は早々に諦めて『次』に向かうべきだ。そう思って私は抵抗せず静かに目を閉じる……けど、

「お離しくださいっ、エックハルト様!!離してくださっ、ぐっ……っ離せ!離せ!!ローゼマイン様!!ローゼマイン様!!!」

エックハルトに取り押さえられながら、声も言葉も荒げてハルトムートは抵抗している。驚いて目を開くと、床に伏せられ上から押さえつけられながらも足掻こうとするハルトムートの姿が見えた。けどハルトムートがどれだけ暴れたところで、エックハルトはビクともしない。ビクともするわけがない。そんなこと、ハルトムートだってわかるはずだろうに……どうしてそんなに必死になっているのだろうか。
これほど取り乱したハルトムートの姿を、私は初めて見たかもしれない。ハルトムートはもう何度も私のループに付き合ってくれていて、私が殺されてもすぐに『次』に戻るだけだと知っているはずなのに、どうしてそんなに必死になっているのだろうか。不思議に思いながらも、

『大丈夫ですよ、また次で会いましょうね』

そう言って安心させようと思った。けれど、首を締めつけられていて声が出なかった。代わりにカヒュッと咳き込むように赤い血が口から飛び出す。

「ローゼマイン様!!!!」

フェルディナンド様のシュヴェールトが私の胸を貫いた。それは恐らく正確に、魔力器官の中心を貫いているのだと思う。ドロリと身体が溶けて、魔石だけが残るのだろう。

「ローゼマイン様!!!!!!」

溶けて目も耳の無くなる直前、ハルトムートの瞳が虹色に揺らめく一瞬を見て、頭に響く叫び声を確かに聞いた………





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