@KouSyuuka
《シャルロッテ》
毒見を終え、お姉様の美しい指がカップを降ろしました。カチャリ、と小さな小さな音が響き、その音に紛らわせるようにして、お姉様が小さな小さな溜息を零しました。
お姉様の隠し部屋で、こうしてお茶を頂くのは何度目でしょうか。
あれから何度かお姉様とお茶会を重ね、側近たちももう何も言わなくなりました。「貴族院での領主候補生コースの勉強について双方の復習と予習を兼ねてお勉強会がしたい」と言えば、大体は怪しまれずにそれを許されましたし、実際にお姉様にお勉強を見てもらうこともありました。
けれど、最近ではお姉様もお忙しそうで、中々お茶会の都合がつかなかったのです。
お姉様の隠し部屋で、こうしてお茶を頂くのはいつ以来でしょうか。
単純にそれを喜ぶわたくしに反して、お姉様は何処か憂いを帯びた表情で、顔色を悪くしていらっしゃいます。
「お姉様、どうかなさったのですか?」
「……シャルロッテ、……貴女にお願いがあるのです」
「!!」
あぁ、駄目です、お姉様は何やら困っていらっしゃるご様子なのに。お姉様に頼ってもらえたからといって、喜んだりしてはいけませんわ。
「っ、……何でも仰ってください、お姉様」
わたくしは気を付けて表情を引き締め、胸元に拳を運び、お姉様に言葉の先を促しました。
「わたくしは、お姉様の味方です」
わたくしがそう告げると、お姉様はやや伏していた視線を上げて、わたくしを見つめ、ふわりと柔らかく微笑みました。
「ありがとう、シャルロッテ」
あぁ、この微笑みがわたくしにだけ向けられるなら、わたくしもお姉様のために何だってしようと思えるのです。
「しばらくの間、フェルディナンド様を城に留めてほしいのです」
「叔父様を?」
「えぇ、フェルディナンド様の側近たちは、わたくしの側近が足止めします。ですが、フェルディナンド様の相手は、わたくしの側近たちだけでは手に余るのです」
「それは……その……わたくしにも、叔父様を相手取るのは、とても敵わないのではないでしょうか」
「えぇ。フェルディナンド様と敵対して勝てる方は、凡そこのユルゲンシュミットには居ないでしょう。ですが、足止めなら、シャルロッテになら可能です」
「わたくしなら……?」
「えぇ、フェルディナンド様にとって最も大事なのはお兄様であるアウブ・エーレンフェストと、ゲドゥルリーヒであるこのエーレンフェストですから。アウブ・エーレンフェストは肉親の情に篤く、貴女のことがとても大切なのですよ。そんな貴女がお願いすれば、フェルディナンド様は無碍には出来ません。そして『エーレンフェストを良くするために手を貸してほしい』とお願いすれば、フェルディナンド様も耳を貸してくださるでしょう。何も敵対する必要はありません。折角ですから、シャルロッテ一人では難しいけれど、将来のために取り除いておきたい膿があれば、この機会にフェルディナンド様に手を貸してもらって取り組んでみてくださいませ。長期の課題になるほどわたくしには都合が良いです。シャルロッテが次期アウブとなるための地盤固めに利用してくれても、もちろん良いですよ」
……それならばわたくしにも何とか出来そうですし、既にお兄様周辺の不穏な情報は集めつつあります。それを少し補強すれば、叔父様と共に旧ヴェローニカ派を抑え込むことが可能となるかもしれません。
「……わたくしに出来る精一杯のことはいたします。けれどお姉様、理由を伺ってもよろしいですか?」
わたくしが少し踏み込んで訊ねようとすると、お姉様は静かに首を振りました。
「聞かない方が貴女のためです。貴女を信用していないわけではありません。『喋らないで』とわたくしが頼めば、貴女は誰にもわたくしの理由を話さないでしょう。だったら、無駄に貴女を苦しめるよりも、初めから貴女も何も知らずに居た方が気が楽でしょうから」
「……わたくしは、『何があってもお姉様の味方です』と誓いました。理由を聞いても、聞かなくても、わたくしの行動に変わりはありません。ですから、確かに理由を聞かなくても、わたくしはお姉様の信頼に応えます」
「ありがとう、シャルロッテ」
お姉様は一度、瞼を閉じるようにしてニコリと微笑みましたが、
「もしフェルディナンド様に捕まったら、わたくし、『処分』されてしまうかもしれませんから」
「え」
その唇から発せられた声は不気味なほど抑揚が無く聞こえました。貼り付けたような笑顔からは一瞬何の感情も感じられないように思えて、聞き間違えか見間違いかと思うほどで、わたくしは戸惑いました。驚きに表情も言葉も失うわたくしを残し、お姉様は再び優雅にカップを口元へ運びます。そうして次にカップを置く頃には、お姉様は女神と見紛う美しい微笑みを浮かべていました。
「では、お願いしましたよ、シャルロッテ」
「っ、………………」
どういう意味なのか追求したい。
叔父様にとって最も大切なものはゲドゥルリーヒであるこのエーレンフェスト、とお姉様は仰いました。その叔父様がお姉様を『処分』するということは、お姉様がこのエーレンフェストを害する可能性があるということですか?お姉様がエーレンフェストの敵となるのだとしたら、エーレンフェストのアウブの娘であるわたくしは……
「………………ご安心ください、お姉様」
わたくしは……何があってもお姉様の妹です。
あの日、わたくしはそう誓いました。
仮にお姉様がエーレンフェストの敵になるとしても。わたくしがアウブの娘だとしても。それ以前に、わたくしは何があってもお姉様の妹で居続けると決めたのですから。
お父様がお姉様から奪った【家族】の分まで、わたくしがお姉様の家族で居続けると決めたのですから。
叔父様の足止めも、簡単な事ではないでしょうけれど、お姉様が他でもないわたくしを頼ってくださったのですもの。わたくしは、その信頼に応えてみせます。
「わたくしは……お姉様の妹ですから」
《ローゼマイン》
ドン!ドン!ドン!と、私は三人の前に木札や紙の束を積み上げた。
「さぁ、お三方!またいつ邪魔が入るかわかりません。なるべく早く多くのことを覚えて下さい。織地を解かれたら、魔術具も木札も過去へは持っていけませんよ」
トラオクヴァール、レスティラウト、アドルフィーネが目を丸くしているが、そんな余裕もないはずだ。
「記憶を持たせるのは基本的にこの三名、これ以上は極力増やしません。だから側近の文官に覚えてもらうことも出来ません。便利な魔術具の作り方、魔法陣、要注意人物の詳細、誰が何を望んでいるのか、情報を出来るだけ覚えてから過去に戻って下さい」
トラオクヴァールは呆然としたまま目の前の木札と紙の束を見つめ、アドルフィーネがゴクリと喉を鳴らし、レスティラウトはフルフルと頭を振った。
「待てローゼマイン、其方が何十年もかけて集めた情報を、我々は短時間で覚えろなどと……」
「内容こそ違いますが、このくらいの量の情報はわたくしは一回目の貴族院に上がる前には毎季節覚えさせられていました。大の大人が泣き言を言わないで下さいませ」
反論してこようとしたレスティラウトの言葉を遮って、実績で黙らせる。少し大袈裟には言ったけど、一回目の生では洗礼式を受けてからずっと詰め込み教育を受けてきたことは確かだ。
今度こそ信じられないものを見る目で顔を上げた三人に、私は溜息をついてみせてから向き直った。何か言われる前に、ねじ伏せてわからせなければならない。今の私には忌々しい言葉を聞く余裕はない。
「わたくしの師は確かに規格外で非常識でした。ですが、そうならなければ命を奪われていたから、そうならざるをえなかったのです。……わたくしが師から最初に教わったことは、『自分自身を守るために、教養を身につけろ』という言葉でした」
フェルディナンド様から、『助言』や『説明』を受けたことはそれまでにもあったけど。多分あの時……フェシュピールを教わりながら、私が将来それなりの扱いを保証してもらえるか都合の良い母胎にされるかという話をされた時が、私とフェルディナンド様が師弟になった瞬間であり、フェルディナンド様が私の後見人で家族同然だと私が認識した瞬間だと思う。私の未来のための助言をして、教育を与えてくれた。厳しい規格外な詰め込み教育だったとしても、それが私の未来のためのことだったと、今ならその不器用な愛情を受け取れる。フェルディナンド様からの教育を、非常識や規格外だと知らずに受けて、私まで非常識になったことは恨めしいけど。「これは非常識だよ」って一言教えてくれてれば私は許せた。非常識を常識だと思って教わったことが私の歪みであって。フェルディナンド様が規格外になったことを非難するつもりはない。
「誰も助けてくれない中で、命を脅かされ、大切なものを奪われ続け、それでも生きのびようと努力した結果です。彼の味方にもならない者が、彼を簡単に『非常識で規格外だ』と批判することを、わたくしは許せません」
っと、ちょっと私情が入って熱くなって口が滑っちゃったな。フェルディナンド様の生い立ちについて、情報を渡しすぎたかもしれない。今の言葉だけでエーレンフェストの領主一族がフェルディナンド様を守らなかったことが知れてしまったけど。
私は気を取り直して目の前の三人と順々に目を合わせた。
「アドルフィーネ様。研究を奪うこと、功績を奪うことは貴族の間では出来るでしょうが、身につけた知識や記憶や教養は、誰にも奪われることはないのですよ?」
功績が奪われることは研究者にとっては屈辱でしかないだろうけど、功績に辿り付くまでの課程で身についた知識は、いつか自分を助けるだろうし、記憶や教養というものは、物のように奪われることはない。
「レスティラウト様。どれだけ魔力を圧縮しても、身体を鍛えても、怪我を負わされることで動けなくなることもあるかと存じます。それでも圧縮した魔力量やその器、経験や武力、努力というものは、物のように奪われることはありません」
踏みにじられて屈辱を感じることはあるかもしれない。命さえ奪われたらそれまでかもしれない。それでも……
「トラオクヴァール様。命を奪われても、屈辱や無力感に苛まれることがあっても。自分が自分を恥じない限り、その誇りまでもは他者に奪われることはありません。だから、泣き言を言う前に、出来ない言い訳を探す前に、やれるだけのことはやってください」
『諦めない』という意地を手放さないだけで、奇跡の一つや二つは平民にだって起こせたんだから。王族や大領地の領主候補生が泣き言を言わないでほしい。「出来るから安心しろ」と頼もしい背中を見せることが、強者の義務じゃないかと思う。
「もう一度言います。過去には魔術具も木札も持っていけません。鍛えた肉体も生前まで戻り、圧縮した魔力量も元に戻ります。自分自身を護る防具も、未来を変えるための武器も、目の前の情報と記憶だけです。ありったけ、詰め込めるだけ詰め込んで覚えてください。あぁ、『知っていること』と『出来ること』は異なりますので、調合に関しては後で実際にやってみて覚えて下さいね。それと、時を戻る直前に、光の女神の冠にいくつかの制約を誓ってもらいます。そちらについてもしっかりご確認下さい」
私は教師モードに戻って意識的に事務的な声色でそう言ってみせると、三人はようやく目の前の山に手を伸ばして木札や紙を読み始めた。
「ローゼマイン様、わたくしが信頼できる側近が一人居ます。政変の前まで戻るとなると、出来ればその者に協力してもらいたいと考えております。名を捧げてくれると言っているのですが、わたくしがローゼマイン様の色に染まった後、その者の名を縛れば、彼女も記憶を持たせることが出来るでしょうか」
「これ以上人数は増やしたくありませんが、」
ダンケルフェルガーにはクラリッサも居るから何かと融通も利くだろうけど、確かにドレヴァンヒェルではアドルフィーネ一人で頑張ってと言うのも酷な話だ。
「光の女神の冠にその方も誓って下さり、行動を制限出来るのでしたら……」
「女神様、では私も……」
アドルフィーネから相談を受けた後、トラオクヴァールもおどおどしながら手を挙げた。ハルトムートの洗脳のせいで『女神様』って呼ばれるようになってしまったけど、ツェントに『ローゼマイン様』と呼ばれるのも据わりが悪いから、わかりやすいしそのままスルーすることにした。
「この光の女神への制約で『記憶を誰にも見せないこと』とありますが……過去に戻った後、ワルディフリード兄上に私の記憶を見せた方が話は早いかと……」
「それは駄目です」
「何故ですかっ」
「第二王子は今この場に生きていません。光の女神の冠に誓うことが出来ません。過去に戻った時点で何の制約にも縛られていないのです。そしてトラオクヴァール様の記憶を見て、エーレンフェストとわたくしのこと、フェルディナンド様のことを知って、何もしないと言えるのですか?最悪、記憶を見た後でトラオクヴァール様を亡き者にすれば、その織地で制約を持つ者は居なくなります。そうしたらわたくしたちが生まれる頃にどのような織地になっているかわかったものではありません。最悪の場合、レスティラウト様もアドルフィーネ様もわたくしも誰も生まれない織地にだってされてしまっているかもしれません。そうなったら、今度は神々がどこまで織地を解くのかも全くわからなくなってしまいます」
自分で言いながらゾッとしたけど、レスティラウト様もアドルフィーネ様も顔色を悪くして顔をあげた。生まれる前まで織地が解かれ、しかも面倒な大政変を起こした王族に命運を任せるとは、そういうことだ。トラオクヴァールにはガチガチに制約を縛ってあらゆる条件を護らせなければならない。
「っ、で……では、せめてこの織地で、私の記憶を見て助言をいただけますか?政変の前やその後の私の記憶の中で、どこでどうすれば良いのか……ここに作戦はありますが、実際に私の過去の記憶を見た方が、細かい指示を仰げるかと」
「あぁ、それは良いかもしれませんね。実際に政変が起こる前の詳細の記憶など、わたくしたちは知り得ませんし、記憶の同調は本人も忘れているような詳細な部分まで思い出せますから」
「……何故そんなに詳しいのだ」
「何度も記憶を見られてますから」
ケロッと答えて見せると、つっこんでおいてレスティラウトは驚くでも呆れるでもなく「駄目だこいつ」みたいなリアクションで緩く首を振って目の前の木札に視線を戻したりした。それもそれでムカつくなぁ、ふんぬぅ。
まぁいいや、話を戻そう。
「ですがそれならわたくしが見るより、ハルトムートに頼んだ方が良いでしょうね。敵の先手を読む能力や、布石を置いて敵の手を立ち行かなくさせる手腕は、ハルトムートは随一ですから」
「其方の側近のあの文官か……そういえば何故ここに居ない」
「何故って……わたくしたちのこの密会の邪魔をしにくる方々を、邪魔しに行ってくれているからですよ」
だから最初から言っているじゃないですか。時間がない、いつ邪魔が入るかわからない、ハルトムートの足止めもいつまで効くかわからない、って。
フェルディナンド様の足止めはシャルロッテに頼んである。ジルヴェスターが大事なフェルディナンド様にとって、ジルヴェスターが大事にしてるシャルロッテを無碍にはできない。あとはハルトムートたちがどれだけユストクスたちを引き止められるかだ。
「……エーレンフェストの者を足止めするくらいならば、私が王命を……」
「ツェントがわざわざエーレンフェストを名指しして王命を出し、それを聞いて他の領地がどう捉えるとお思いですか?一枚障壁を崩せば第二、第三と次の手が立ち塞がり、その都度こちらは対応に追われるのですよ?足止めが目的ならば、完全に封じてしまうよりも、拮抗を長く続ける方がマシなのですよ。……単なる経験則、ですけどね」
まぁ、今この場で私の『経験則』に勝る理屈は、誰にも用意出来ないだろうけどね。
《エックハルト》
おのれローゼマイン、フェルディナンド様の指示に背き、一体何をやっている!
フェルディナンド様が送ったオルドナンツは、ローゼマインからもユストクスからも返事がない。煩わしい事情が重なり、フェルディナンド様も城を離れることが出来ずにいる。しかし、フェルディナンド様が言うのだから、ローゼマインがコソコソと大領地の領主候補生と徒党を組んで裏で何か動いていることは確かだろう。
ローゼマインがフェルディナンド様の指揮下を離れ、勝手な動きを見せるようになれば、エーレンフェストの、引いてはユルゲンシュミットの脅威となるとまでフェルディナンド様は仰られている。
護衛騎士として私がフェルディナンド様のお側を離れること自体、忌々しい状況だが、フェルディナンド様の命とあらば、すぐにでもローゼマインを止めてその身柄をフェルディナンド様の御前へ突き出さねばならない。
私は出来る限りに足早に歩を進め、長かった回廊の角を曲がる。その先の部屋にローゼマインはいるはずだった。
しかし、その手前、廊下の中央という不自然な場所に、アンゲリカが一人静かに佇んでいた。アンゲリカは私の姿を視認すると、シュティンルークに手をかける。
「ここから先へは行かせません」
「そこを通せ」
「ここから先へは誰も通すなと命じられています」
双方の主張が真反対に衝突する。簡単には退かないことは瞳を見ればわかったが。駄目元でいつぞやのように「訓練を付けてやろうか」と言ってみたが、「私は主の命に従います」と返された。こうして敵として対峙するとわかっていれば、余計な訓練も付けず、助言の一つもくれてやらなかったものを。いや、エーレンフェストの騎士の一人として、アンゲリカに無能なままで居られても困ったのだがな。いずれにせよ、これ以上の押し問答は不要だろう。仕えるべき主、護るべき護衛対象が異なる以上、我々が曲がりなりにも婚約者である事実も詮無いことだ。
「シュヴェールト」
私もまたシュタープで剣を象り、間合いを測りながら爪先に力を入れて踏み込んだ。
アンゲリカはシュティンルークで私の剣を受け、鋭く高い金属音が回廊に響いた。妙に反響が短く聞こえた気がしたが、アンゲリカがすぐさま私の剣を受け流すように刃先の角度を変えたからだろうか。単純な力の押し合いならばこちらが有利だ。それをわかってか、私の体勢を崩すことが目的のようにアンゲリカは変則的に左肩の力を抜いて私の剣をシュティンルークの上に滑らせた。力が流され、その隙にアンゲリカは剣を流した方向にそのまま素早く身体を一回転させるようにして、隙が出来た私の肩にシュティンルークを振り抜こうとする。だが、『体勢を崩す』という事象は私には起こりえない。体幹を意識して、アンゲリカの脇腹をめがけて靴の底をたたき込んだ。どんな体勢からも攻撃が出来るよう、おじい様から幼い頃から習ってきたことだ。そしてここは剣技を競う試合の場でないのだから、何も唾競り合いだけが攻撃の手ではない。
アンゲリカは私の蹴りに飛ばされながら、爪先に力を入れるようにして後方に長く吹き飛ばされることを抑えたように思える。身体の一部分、極めて局所的な場所に身体強化を欠ける技術が身についている。そして魔力を使う緩急が細やかに効率的になっている気がした。ダームエルの戦い方を彷彿とさせる。ローゼマインの側近たちは、個々の特筆した能力を伸ばすと共に、全体の底上げも意識されているから厄介だ。
私が剣を構え直すのとほぼ同時に、アンゲリカは姿勢をこれ以上低く出来ぬほど低く構えて、私の足をめがけて切り込んでくる。アンゲリカはおじい様から身体強化を使った戦い方も教わっているため、決して簡単に力負けするということもないが、もっとも優れた長所はそのスピードにある。これはアンゲリカのそれを活かした戦い方だ。
通常であれば足を狙われれば後ろに引いて避けるのが定石だが。ならば実践の場において、敵の期待通りにしてやる道理もない。アンゲリカが振り抜いて剣を避けると同時に、宙で前転するように身体を前に倒し床を蹴る。アンゲリカの背後、上空に回る形でその背中に剣を振った。
「くっ」
すぐさまアンゲリカは床に手を突き側面に逃れた。背中に目はないはずなのに的確に危機を察し、即座に次の行動に移っている。やはりアンゲリカのこの勘とスピードは厄介だ。接近戦に持ち込めればこちらが有利なのだ、先手ばかり相手にくれてやる道理もない、こちらから踏み込んでいくべきだ。……そう思ったのは確かだが。こちらが動く前に、攻撃を避けるでもなく、アンゲリカは不自然に立ち位置を変えた。壁際ではなく廊下の中央に位置するように。それがあまりにも不自然で、私はアンゲリカが最初に言った言葉を思い出す。アンゲリカは『ここから先へは誰も通すな』と命じられている。そしてアンゲリカは愚直的な側近だ。主の命を全うするために、『ここから先へは誰も通さない』という指示に今まさに固執している。アンゲリカがローゼマインに名を捧げたという話は聞いていないが、元より名捧げは他人に吹聴するものでもない。私が知らぬだけでアンゲリカはローゼマインに名を捧げているのかもしれないし、名を縛られて『ここから先へは誰も通すな』と命じられているのかもしれない。それならば話が分かる動き方だった。名を縛れずともアンゲリカならば愚直にローゼマインの命に従うのかもしれないが。私にとって今はそんなことはどうでも良いか。だがおかげで私も一つの解の選択肢を得た。何も此処でアンゲリカを倒す必要はない。この先を抜けてローゼマインを捕らえられれば私の勝ちなのだ。言わばローゼマインが敵陣の宝だ。貴族院時代の宝盗りディッターを思いだし、私は身体強化で足元に力を入れた。
そこからアンゲリカの横を狙って大きく一歩を踏み込めば、無理な体勢になることも厭わずアンゲリカは私の進路に身体を差し込ませてシュティンルークでそれを防ぐ。狩る戦いより、護る戦いの方が不利なのだ。それはヴェローニカの悪意からフェルディナンド様を守り続けた十数年でこちらも苦しいまでに痛感している。そんなことを考えながら、私は攻める手を緩めずに剣を振った。アンゲリカを倒すか、アンゲリカを振り抜きこの先に進むか、私はそのどちらかでよい。アンゲリカはやはり、攻撃の余波をそのまま流せば良い場面でも、極力その場から離れぬように踏みとどまって私の攻撃を防ぎ続けた。このまま押し通せばいずれここは突破出来る、時間の問題だ、そう思った。
「っ、!??」
だが、不意に足がもつれてバランスを崩した。いや、足が床から離れない……いや、力が上手く入らない??
咄嗟に床に手を着くと、手の平からズルリと魔力が床に吸われたような感覚がした。
「!!??」
すぐに床から手を離そうとしたが、手が離れない、いや、身体に力が入らない。つい咄嗟に身体強化をかけて体勢を立て直そうとしてしまったが、その度にやはり魔力が床に吸われる感覚がした。
「アンゲリカ、」
「!!?」
突如としてハルトムートの声がした。周囲の警戒を怠っていたわけでは決してない。前からも後ろからも、誰かが歩いてきた気配も音もなかった。だが、声のした方に顔を向ければ、確かにアンゲリカの背後の更に奥、壁際にやや寄りかかるようにしてハルトムートが立っていた。
「これをエックハルト様の手首に」
そう言ってハルトムートが空中に何かを放り投げる。アンゲリカはそれをキャッチすると躊躇うことなく素早くそれらを私の手首に取り付けた。抵抗する間もなかった。抵抗しようにも、意識はハッキリしているのに指先が冷たくて動かない。床に倒れた状態でカチリと音を立てて目の前の手首に填められたそれに目を剥く。これは、シュタープ封じの腕輪ではないか!だがこれを使用するにはツェントやアウブ、騎士団長の許可が要るはずだ。
「何故其方たちがこれを!」
私が目の前にいるアンゲリカを睨み上げて怒鳴ると、アンゲリカはキョトンとした顔を浮かべ、「?ハルトムート、これは何ですか?」とハルトムートを振り返り尋ねた。ちょっと待て、何かもわからないものを婚約者の手首に躊躇いなく填めたのか!?爆発物だったらどうするのだ!!
「特別な珍しいものですが、材料と知識と魔力とその気があれば作れます。我々の主は優秀ですから」
「ローゼマイン様はすごいのですね」
「そうだとも、よくわかっているなアンゲリカ」
ハルトムートはニコニコと緊張感のない笑みと声でこちらに歩み寄り、アンゲリカの問いに答える。今ここで私はローゼマインを脅かす存在であるため、ハルトムートからは間違いなく敵と認識されている。ならばハルトムートは敵である私の疑問に答える道理はなく、味方であるアンゲリカが納得できる程度の答えを返せばいい。アンゲリカはその答えで気は済んでしまったようだが、私が納得できるものでは到底なかった。
「くっ、……」
私の目の前、すぐ近くにハルトムートの足が見えた。だがギリギリ、私から何かしてやれる距離には居ない。床に這い蹲りながら、ハルトムートの顔を睨み上げる。その橙色の瞳は影を落としながらも冷たく、そして愉悦を孕んだように揺らめいたように見えた。
「…………いつぞやと逆ですね」
そう言われて私が「何の話だ」と返せば、「いいえ、こちらの話です」と、ハルトムートは瞼を閉じるようにしてニッコリと微笑み、その橙色の瞳を隠してしまった。そして再び瞳を開いたかと思えば、素早くシュタープを取り出し、「ヴァッシェン」と、私を含めて洗浄の魔術をかける。つい目を閉じてしまったが、『私を含めたここいら一帯の床』にヴァッシェンをかけたように思えた。床には何も敷かれていないし、何も描かれてはいないはずだ。だが、やはり床に何か仕込みがあったのだろう。その手法を、我々は知らない。我々すら知り得ない悪意の手法があるということを、恐ろしく感じた。私たちより歳も経験も劣るはずの者が、一体何をしたというのだ。
「くっ、其方、床に何を仕込んでいたっ」
私が再び、今度はアンゲリカではなくハルトムートを直接睨み上げて問えば、アンゲリカもキョトンとした毒気のない表情でハルトムートを見上げた。
「ハルトムート、床に何か仕込んでいたのですか?何故エックハルト様は動けなくなったのでしょうか?何故わたくしは平気なのでしょう?……わたくし、エックハルト様とこの機会に本気で強さを競い合ってみたかったのですが」
後半は少々不満の色を乗せてアンゲリカが問う。ハルトムートはそれに対して、見慣れた仕草で大仰にやれやれと肩を竦めた。
「こうでもしないとローゼマイン様が消されていた。アンゲリカはローゼマイン様が消されても良かったのか?」
「!!それは困ります!!わたくしはローゼマイン様がいないと生きていけません!!」
「よくわかっているな、アンゲリカ、大変結構」
ニコッとアンゲリカに微笑むハルトムートに、怒りが込上げる。フェルディナンド様が使う『大変結構』という労いの言葉が、ローゼマインを経由して、今この場でハルトムートに使われることが甚だ腹立たしくてたまらない!そして『何をしたか』という問いがいつの間にか『何故したか』の解に変わっていることにアンゲリカが気付かないまま満足してしまっていることにも。それ以上の理由を知る必要がアンゲリカには最早無い。ならばこれ以上の情報をハルトムートが口にすることも最早無い。そもそも今のこの状況で、私がハルトムートから情報を引き出そうとするのはあまりにも不利だ。腕力に訴えられればその限りではなかったが、今の状況は分が悪い。
その苛立ちを知ってか知らずか、逆撫でするようにハルトムートは私の顔の前で粉末をばらまいた。
「ゲホッ、グッ……っ」
指先が痺れる……小癪な、痺れ薬か?!
「アンゲリカ、エックハルト様を運ぶのを手伝ってください。どのような反撃をしてくるかわからぬため、首の後ろを持って引きずってきてください」
私の怒りにも構うことなく、ハルトムートは事務的に、そして気遣いの欠片もなくアンゲリカに指示を出す。アンゲリカもまた愚直に指示に従い、私の身体を引きずった。体は動かぬが幸か不幸か頭も声もハッキリとしている。せめて不満をぶつけ言葉で抗議を続け、時には考えられ得る脅しや駆け引きを持ち出すが、二人とも、もう私の言葉に耳を貸しはしなかった。
引きずられた距離はそう長くはなく、戦った場から程近い一室のようだった。
「蓋が開いている方に入れてください」
首の後ろを持たれて後ろ向きに運ばれているため、そこに何が在るのかは目に見えない。ただし喋り方から、其処に何かが二つ在り、そのうちの一つは蓋が開いているということはわかる。アンゲリカは身体強化を使ったのか、私の身体を大きな箱のような魔術具に投げ込んだ。何処に、何に閉じこめる気だと思わず身体を強ばらせるが。ハルトムートは穏やかに微笑んで箱の中の私を覗き込み、客人をもてなすような声色を発した。まるでこちらの緊張を解こうとするかのように……このような状況で、そのような試みがあまりにも不釣り合いで、言い得ぬ不気味さを感じてぎょっとする。
「大丈夫、命までは取りませんよ。しばらくこちらで大人しくしていてください」
そう言いながら蓋が閉まっていく刹那、オルドナンツが箱の中に飛び込んできたかと思えば、それが私の目の前でピタリと止まった。
まさかこれは、時を止める魔術具の―……
《ハルトムート》
この『ループ』における最大の障壁は、王族でもランツェナーヴェでもラオブルートでもゲオルギーネでもなく、フェルディナンド一派だと断言できる。
ローゼマイン様を除きグルトリスハイトを所持する者、ユルゲンシュミット随一の魔力量、自領の最高権力者から命を脅かす悪意を向けられ続けて十数年を生き延びた経験……そのどれもが、敵に回せば恐ろしかった。
そして、ローゼマイン様が自分の制御下から外れれば、責任を持ってローゼマイン様を処分するというお考えだ。無論、ローゼマイン様が大領地の領主候補生や、ましてや王族と接触を謀っていることが知れれば、『脅威』と認定されて消される可能性が増す。実に厄介なことこの上ない。
しかしフェルディナンド様本人は、ローゼマイン様を庇護するのも、自分の指揮下から外れた際には処分をするのも、マイン様を貴族とした『責任』と考えておられるのだろうが、私から言わせればその考えは独り善がりの自己満足に他ならない。その勘定にローゼマイン様の意思はないのだから。
ローゼマイン様は、フェルディナンド様が後見人となることも、庇護や教育を与えられることも、『恩義』として受け取っている。ゼロに対して利を受け取っているため、その対価としてエーレンフェストに利を返すことで、間接的にフェルディナンド様に恩を返しているというお考えだった。更に言えば、ローゼマイン様が望まぬ形で貴族となったのは、家族の命を救うためであり、マイナスをゼロにする取引と考えられている。
それに対してフェルディナンド様は、ローゼマイン様を望まぬ形で貴族にしてしまった負債に対して、これを庇護し教育を与えることで等価が取れていると考えて満足されているように思える。つまりフェルディナンド様にとってローゼマイン様を庇護し教育を与えることは『当然』であられるようだが、ローゼマイン様にとってはそうではない。
当たり前と思っていなかったものを与えられるのはありがたくもあるだろうが、言い換えれば、ローゼマイン様はそれを望んだわけではないのだ。要らぬ世話だとは言わないが、要求されてもいないものを支払って満足されておられる様は、私の目にはあまりにも滑稽で傲慢に見えた。
そして、マイン様を貴族にした責任として、ローゼマイン様が脅威となった際にはフェルディナンド様の手でローゼマイン様を処分するという考えこそ、身勝手に他ならない。それはエーレンフェストに対して全うすべき責任であり、ローゼマイン様の意思が度外視されている。ローゼマイン様がそのようなことをいつ望んだのか。
後見人であるフェルディナンド様がそのようなお考えでは、代わって主の望みを叶えること、主を脅かす害意から主を護ることこそ、我ら側近の勤めだろう。客観的普遍的な正義など語る気はない。主の望みこそが我々の全てだ。
しかし、フェルディナンド様がひとたびローゼマイン様を『危険分子』と断じ、これを処分しようと動いた際に、それは我々にとってはあまりにも強敵となる。我々が何度ループを繰り返し、経験や知識を身につけようと、フェルディナンド一派の実力もまた強大だ。
先手を打とうにも、長年ヴェローニカからの攻撃を防ぎ続けただけあって、我々の攻撃の手も核には今一歩届かない。
ただし、彼らの知識にない手段であれば、自ずと彼らの対応は後手に回る。その隙を突くしか突破口はない。そして正面衝突は避けること、これに尽きる。
ループの中で知り得た道具や魔術具を、出来るだけフェルディナンド一派には秘匿して使用することに注意する。
今回で言えば、ローゼマイン様が作成された【消えるインク】を使い、【闇の属性を持つ魔法陣】を床に書き記しておく。我々ローゼマイン一派には【ランツェナーヴェの銀】と魔力を通さぬ皮を仕込んだ靴と小手を身につけるよう支給する。あとは別のことに気を引きながら、相手を魔法陣の上に留まらせれば、魔力枯渇でいずれ動けなくなる。それまで魔力が床に流れることを気取られないよう、如何に注意を引くかが肝心だったが。
エックハルトに関しては、アンゲリカだけに足止めを任せるのは心許なかったため、【フェアベルッケンのお守り】で姿を消しながら私もフォローのため控えていた。ついでに【小型化した指定範囲型の盗聴防止の魔術具】も起動させていたため、周囲に争いの音は響かず、特に横やりが入ることもなく事が済んだ。
これだけの【相手が知り得ない道具と知識】を用いて、ようやく動きを封じることができたのですから、何とも厄介な相手だ。
いざとなれば魔術具を投げて援護をしようと考えていたが、アンゲリカだけで足止めが間に合ったのは僥倖だったと言える。気取られないように魔力を吸い出すには、短時間のうちにあまり大量に魔力を吸わせるわけにはいかないため、長く魔法陣の上に留める必要があったのだ。しかし、エックハルトは身体強化を多用する戦い方をする特性があったために、予定より早く動けなくなってくれた。
……以前ローゼマイン様が、「身体強化を使わないと動けない状態で奉納式を行ったら、身体強化の魔力も吸われて動けなくなって大変でした」と話しておられた。同じ事をしてやれたと思えば、少しは溜飲も下がるというもの。しかしそれを言うなら、床に這い蹲るエックハルトを見下ろした時にこそ顕著にその愉悦を感じた。ループの中でも何度としてフェルディナンド一派に敗北し、エックハルトに私が取り押さえられたことも一度や二度ではなかったため。あまり下手に敵に情報を渡すべきではないが、「いつぞやと逆ですね」と口を滑らせたことは許されたいと思ってしまう。
さて、あまり魔法陣に魔力を吸わせると、魔力枯渇で死にかけられてしまう。フェルディナンド様に情報が渡ることは避けたいため、遺言を飛ばすような危機感を感じられては困るのだ。動けなくさせる程度に留めて、早々にヴァッシェンで床の魔法陣を消し去っておく。
情報の伝達手段を警戒のため纏めると、オルドナンツは相手のいる方角と生死の情報と声を報せるが、境界を越えられない。魔術具の手紙は境界を越えられる。名捧げの命令も境界を越えられるが、主から臣下への一方向のみで、命令の形をした指示しか渡せない。それに対して遺言は境界も越えられる上に映像と声も伴う鮮明な情報量を渡せる。シュタープを封じオルドナンツを飛ばせなくし、身動きを取れなくすれば、今エックハルトの取り得る手段として警戒すべきは遺言のみ。
……許されるならいつか伝達手段としての遺言を研究してみたいと思いますが、再現条件が難しく、主がそれを許さないだろうことが残念ですね。
話が逸れましたが、個々の能力としては私もアンゲリカもエックハルトに劣るため、その侮りからエックハルトが遺言を飛ばすほどの危機感を感じることはないでしょうが。『フェルディナンド様からエックハルトへのコンタクト』をも警戒するなら、悠長にもしていられない。情報が揃えばフェルディナンド様はすぐにでも次の手を講じて行動に移してしまわれる。ローゼマイン様は『行方不明が一番確実で安全な完全犯罪なのですよ』と仰った。出来るだけ多くの情報を『不明』にしておく必要がある。ユストクスやエックハルトの命までもは脅かさないようにするのは、遺言を飛ばさせないためでもあるが、二人の死亡が明確になってしまっては、フェルディナンド様がそれに応じた次の行動に移ってしまわれるからだ。二人に当てたオルドナンツは飛び立ってくれなくては困る。
その上で二人に余計な行動を起こさず大人しくしていてもらうには、時を止める魔術具の中にでも放り込んでしまうのが簡単だ。いざとなれば魔術具ごと隠し部屋に入れて登録を解除すれば、二度と二人は出てこられなくなる。この二人という手足を失わせるだけでも、フェルディナンド様の手数は減らせるだろう。
ローゼマイン様がフェルディナンド一派を極力傷つけたくないと願うため、我々の取り得る抵抗の手段も限られるが。『次回を本命として動く』とした『準備のための織地』でのみ許される強硬手段だ。
……次を最後の織地と望むなら、個人的に恨みを晴らせるのもこの織地が最後となる。そのつもりで、折角ですから思う存分やらせていただきたいと思います。
《ローゼマイン》
しばらくしてハルトムートが合流し、トラオクヴァールの提案を飲んで、同調する意識の中で過去に対する忠告や指導を繰り返してる。今日でもう三回目だ。
同調はどちらにも精神に負荷を強いるというけど、どちらかと言えば確認する側の方が疲れて、見せる側の負担は少ないと思ってたんだけどな。何度もループを繰り返してるためか、元からなのか、ハルトムートはあまり疲れた様子を見せず起きあがってくる。その一方でトラオクヴァールは毎回ぐったりした様子で同調を切った。……過去の記憶を見せる側であるはずのトラオクヴァールは、元から悪かった顔色を、更に死人みたいな土気色に染めている。
うーん、ここで死なれても困るんだけど……
魔力を回復させる回復薬、
体力を回復させる回復薬、
……気力を回復させる回復薬って、なかったっけ?
◆次の織地へ
◆目次に戻る