@niziirononanika
※特記事項
こちらは旧資料です。
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名称:汎神論 pantheism イドラ idola
能力:全ての物質との同化と分離。 誤解、思い違いの発生と、それに付随する思い込みの強化。認識阻害。そのものに影響はありません。
解説:彼は20代後半の男性に見える容姿をしていますが、その両手の甲中心と、うなじ部分に魚の背ビレに似た突起物が存在している点が人間と異なります。また、ストール等の衣装を好んでおり、その中で一匹のニホンアマガエルによく似た蛙を飼育しています。が生息しています。この蛙は哲学人の一部であり感覚を共有していながら、別個体として確立しています。右耳にはワイヤレスイヤホンマイクを着用しており、未知の方法によりそれ単体での他通信機への連絡が可能です。
肉食動物に似た形状の歯を持ち、犬歯が発達しています。歯列は人間のものと同様です。
滅多にありませんが興奮時は三ヶ所のヒレが大きく開きます。
彼は非常に穏やかな性格であり、人間に対して友好的に見えます。仕事や私事問わず、相談をすると良いアドバイスをくれることでしょう。彼も人と話すことを好んでいるようで、多くの職員に自ら声をかけ話をする場面が多く見られます。
「人間と自分は非常に近く、歴史を歩む同士であると思っています」との発言からそれが読み取れます。
いえ、間違いなく彼は人間と哲学人を同等に見ているのでしょう。何故なら彼は汎神論なのですから。
彼はこの世のあらゆる真実に繋がっています。
彼は人類の行動に深く影響を与え続けています。
彼は人類の精神に深く影響を与え続けています。
彼の影響を受けた人間はそれに相応しい行動を選択できるのです。
彼は能力を使いたがりません。その理由については口を閉ざしていますが、おそらくは1780年代に起きた汎神論論争を引き起こしてしまったことに由来する罪悪感からの行動でしょう。彼は心優しいのだと思います。
私たちは神に従うべきではないでしょうか。
(20■■/■/■■ 追記)
彼は自身の正体を知った人間に対して好戦的で嗜虐的な態度をとることがありますが、現時点で直接的な危害を加えられた者はいません。一人だけです。4人です。(※事案a参照)
しかし、侮辱やからかいの被害にあったものは数しれず、そのことから逆上し暴力的になった職員に対し反撃した例は数件報告を受けています。
彼はその好戦的な態度に反し積極的に他者に話しかけ、そして様々な先入観と誤解を植え付けては立ち去ることを繰り返します。先入観の矛先は彼自身に留まらず、他の哲学人や学者に対する批評や誤った情報などにまで及び、それを信じた研究員による不適切な行いが数多く発生しました。
彼の発言の殆どはその性格上誤解を生じさせるものであり、彼の能力の都合上、確実に何らかの箇所で思い違いをします。それ自体を防ぐことは難しいですが、彼との会話を録音し、彼の影響下から外れた位置で、第三者を交えながら複数回再生し意味を理解することにより思い込みの程度が緩和することが判明しています。
※クローズドクエスチョンの使用により思い込みを大幅に防ぐことが出来ると推測されます。(20■■/■/■■ 追記)
また、極度の懐疑主義者との会話や制限のある質疑応答を鬱陶しがる傾向にあります。クローズドクエスチョンによるインタビューは長時間にならないよう気を付けてください。拗ねます。
彼は研究において質問をするとほとんどの回答をはぐらかすか、解釈の幅が広い発言により思い違いを誘発させます。しかしそれらの行動に意味は見いだせません。
彼は今でも自身の本名を知らない相手に対して汎神論の名を借りることがあります。しかし、一度看破した我々に対しては同じ誤解を植え付けようとはまだしていません。
彼のはぐらかしの判断基準は未だ不明です。
彼はどうもただの悪戯好きの子供のようなものである、と誤解しておきましょう。その方がこちらの労力を費やさずに済みます。
ただし我々の彼への認識がすべて誤解である可能性を忘れないでください。
毎月16日の夜に研究所外から聞こえる遠吠えの正体は彼でした。
哲学人【リヴァイアサン】、哲学人【社会契約論】を捜しているとの発言があります。各研究所に手配し、発見次第面会を行う予定です哲学的関わりのない対象であり、目的不明のため、発見後は隔離収容予定です。
対応:彼はすべての物質と同一なのですから、何をしてもしなくても同じだと思われます。 一般的な人間と同じ生活環境で過ごしていますが、能力を使用しての詐欺事件を多数引き起こすため、社会生活を送らせることは出来ません。現在は■■研究所にて研究に協力しています。
20■■/■/■ ■■大学付置哲学人研究所へ移動しました。研究担当は■■研究員が継続して行っています。
事案a以降、彼への飲食物(特に加工の不十分な肉類)の差し入れは禁止となりました。(20■■/■/■■ 追記)
発見経緯:彼は己の能力が論争の元になることを恐れて保護を願いに来たのだと考えられます。 彼は自ら■■研究所に連絡を取り、自身が哲学人であることを訴えましたが、その真意は不明です。そして彼に関する事柄を憶測で語ることは大変危険です。彼の口から語られるのを待ちましょう。
▽インタビュー記録を見る
20■■/■/■■
※真実の哲学人名判明前のインタビュー記録なため、名称表記が初期のものになっています。
■■研究員:では貴方について教えてください。
汎神論:はい。ではまず(数秒の間)……僕の能力は真実に繋がるものです。
■■研究員:真実?
汎神論:はい。それに(数秒の間)……そうですね。僕は、全人類に共通する事柄なんです。人類の発展に深く影響を与えてしまうような、ですね。
■■研究員:それは、どのように?
汎神論:人の心に僕は居るんですよ。全人類の心に。
■■研究員:普遍的無意識に影響しているんですか?
汎神論:うーん(数秒の間)……あー、生まれつき、人が人である時点で備わっているものでもあります。
■■研究員:貴方は、生得観念?
汎神論:(ストールに手を当てる)……僕は、皆さんの心に、社会に、そして人と人の付き合いに関わりを持つ者です。人間と僕は非常に近いですから、歴史を歩む同士ですね。ここまで言ったら、わかりますよね?
■■研究員:全てに関わる。そうですね、わかりました。インタビューを終了します。ご協力ありがとうございます。
■■研究員はこのインタビュー以降、彼の調査を一切行わず、独断と偏見により資料を作成していました。また、それを見た研究員も初めは疑問を抱いていたものの、彼と会話することにより当時の資料が正しい、もしくは重大な事実を隠すための仮資料と思い違いをしていました。
20■■/■/■■
■■研究員:インタビューを開始します。ではまず、初めの質問ですが。
【イドラ】:はい。
■■研究員:長年に渡り、我々に誤った名を名乗り、騙し続けた理由を教えてください。
【イドラ】:嫌ですねぇ、僕は何も嘘を言ってなんていませんよ。貴方がたが誤解したのです。思い込みって怖いですね。
■■研究員:貴方の本来の名前を教えてください。
【イドラ】:僕は、貴方がたの心に、社会に、そして人と人の付き合いに関わりを持つ者です。わかりますよね?
■■研究員:既に貴方の正体について我々は答えを持っています。確信を持った今、貴方の能力は通用しません。
【イドラ】:なるほど、気が付いたんですね。では何故僕に尋ねるのですか?
■■研究員:貴方の口から答えられなければ、我々は再び貴方の正体を推測と偏見で決めつけてしまうことになります。
【イドラ】:ははっ、賢いねぇ。ええ、僕は(数秒の間)……あー、汎神論ではありません。
■■研究員:貴方の哲学人としての名前は。
【イドラ】:(微笑み。数秒の間)……人間と知識の逢瀬を阻む四枚の壁。
■■研究員:名前は。
【イドラ】:(微笑みを維持している。■■研究員を見据えたまま、十数秒ほど沈黙)……イドラ。
■■研究員:では改めて、イドラとしての能力は何ですか。
【イドラ】:んー、(吹き出して笑う)……聞きたい?
■■研究員:はい。
(哲学人【イドラ】は椅子の背もたれに体重を預け、好戦的な笑みに変わる)
【イドラ】:オーケーオーケー、全部説明してやるよ。どこまで正しく(※強調した口振りで)理解出来っか知らねーけど? 聞く? 聞いちゃいたい?
■■研究員:(哲学としてのイドラの資料に目を通す)……お願いします。
【イドラ】:俺の要素は四つ。蛙の子は蛙、井の中の蛙大海を知らず、尾ひれはひれがつく、そして恋は盲目! なぁこれ蛙要素多くない?
(哲学人【イドラ】はストールに手を当てる。首を包むように布地を押し当てている)
■■研究員:恋は盲目。感情を操作する能力があるんですか?
【イドラ】:俺はそんなこと言ってねーな?
■■研究員:え。
【イドラ】:駄目ですよぉ研究員さーん? またとち狂った資料提出したいー?
(■■研究員は顔をしかめる。哲学人【イドラ】は目線を室内の扉に一度向ける。意図不明)
【イドラ】:いやぁ俺もね、こういう役割だから。回りくどい言い方なのかなぁ? ま、勘違いや聞き間違いが俺の元って言えるしさ。
■■研究員:ええ……ええ、命に関わらないだけマシですよ。
【イドラ】:命に関わらないって言ってねーけどな?
(■■研究員は狼狽し椅子から立ち上がる)
【イドラ】:でも死ぬとも言ってない。早とちりすんなよなー?
■■研究員:対策を練るまで、インタビューは保留とします。
【イドラ】:あっ、最後に言わせて言わせて!
■■研究員:なんですか?
【イドラ】:騙されてやんのーーーー!
■■研究員:終了します。
考察:彼には『オオカミ少年』の要素も含まれているように思えます。言動や牙、鋭い爪などは彼が嘘を吐き続ける象徴なのではないでしょうか。
彼は嘘をついてはいません。■■研究員の考えはただの推測です。
彼は狼なんです。
20■■/■/■
■■■研究員:インタビューを開始します。
【イドラ】:いつもの人と違うねぇ。あいつ解雇になったとか?
■■■研究員:■■研究員は他の哲学人担当になりました。これからは私が担当になります。
【イドラ】:へぇ? まあ、当然だよなぁ。
■■■研究員:彼では貴方に対処しきれないようなので。それではまず初めの質問です。貴方が研究所に自ら連絡した理由は何ですか? 貴方の能力なら、社会に適応して生きていけるというのに、わざわざ制限の付く場所に来る理由をお聞かせください。
【イドラ】:社会に適応。そう思うわけ。外の方が自由だってアドバイスしてくれてる感じ?
■■■研究員:いいえ。何の目的があってここに?
【イドラ】:行動には原因がある、ってのは因果性の話だなァ?
■■■研究員:理由などないと?
(哲学人【イドラ】は研究員へ笑顔を向けている。返事はない)
■■■研究員:つまり理由があると。
【イドラ】:おやぁ? んな事言ったっけ?
■■■研究員:どのような理由でしょうか。
【イドラ】:無視かよひっでぇ。理由ー? 哲学人が人間と連絡を取る理由なんて決まってんだろ? 大体二つくらいにさァ。
■■■研究員:(数秒の思案)……保護と、哲学の行使ですか。
【イドラ】:そうそう、大体の哲学人はそれで研究所に来るよなぁ。生活の保護を受けたいからと、自分の哲学を人に伝えるため。生物ってのは生きようとするから。
■■■研究員:貴方もそうだと?
【イドラ】:大抵の哲学人はそうだな?
■■■研究員:なるほど、違うんですね。生存ではないなら……いえ、もっと前提から思い違いですか。貴方がここに来た目的は、哲学人らしいものではないのですか。
【イドラ】:俺はそんなこと言ってないなぁ。
■■■研究員:違うとも言っていませんね。個人的な何かですか。
【イドラ】:(数秒の沈黙。にやついた笑みでストールに手を当てている)……帰納法って知ってる?
■■■研究員:はい、知っています。
【イドラ】:あー……まず、もうちょっと、前。そう、だな。俺は帰納法により知識を得る上で、真実を見失わせるための四枚の壁だ。
■■■研究員:そうですね。
【イドラ】:帰納法の反対は知ってるか?
■■■研究員:演繹法ですね。
(哲学人【イドラ】の目線が扉に向かう。右足で何度か床を踏み、膝を揺らす。意図不明)
■■■研究員:先ほど貴方が言った、一般論から貴方の行動を推測するのは演繹法ですね。
【イドラ】:あんたのやり方で俺を暴いてみろよ。出来るもんならな。
■■■研究員:やり遂げてみせますよ。前任の代わりに。
【イドラ】:ま、俺には沈黙って手札があるんだが。
■■■研究員:ところで■■研究員ですが、貴方のことをオオカミ少年と呼称したようですね。
【イドラ】:え? ああー、まあ、そう。
■■■研究員:それに対し逆上したとか。
【イドラ】:さあね。でもさぁ、他人のことを嘘つき呼ばわりするのは酷いと思わねぇ? 言われた人は悲しんで当然だ。
■■■研究員:それは失礼いたしました。
【イドラ】:言った事実は変わらねーなー。そういやこの研究所って帰納法関係者とかいねぇの? もちろん、哲学人で。
■■■研究員:その質問には答えかねます。
【イドラ】:えー? じゃあ俺もこれ以上答えんのもなぁ。今日はお開きにしねぇ?
■■■研究員:インタビューを終了します。
20■■/■/■
■■■研究員:インタビューを開始します。
【イドラ】:はーい、どうも。
■■■研究員:今回は。哲学人[削除済み]の資料について、その所在の確認です。
【イドラ】:は? なんかあったわけ。
■■■研究員:私は事件性があるとは言っていませんよ。知ってたんですね、不正アクセスの件。
【イドラ】:へー? 不正アクセスがあったんだ?
■■■研究員:担当者は半年の研究データを失い、研究所としても研究者としても大損害です。様々な証拠から、貴方であれば犯行可能と考えられました。認めますか。
【イドラ】:認めねーな。
■■■研究員:証拠はあるんですよ。
【イドラ】:動機が無いだろ。
■■■研究員:犯行可能であったということは認めるんですね!
(数秒の沈黙。哲学人【イドラ】はスカーフを押さえ、扉に向かって目を向ける。意図不明)
【イドラ】:調査は勝手にそっちでやれば?
■■■研究員:ええ。犯行を認めたと、伝えます。
考察:後日、研究データについては■■研究員の管理ミスにより破損したものとの報告がありました。哲学人【イドラ】に記憶改竄能力がある可能性を示唆しています。
20■■/■/■■
■■■研究員:貴方は本当にイドラなのですか?
【イドラ】:他のどんな哲学人なら二度も名前を騙れるんだ?
■■■研究員:はいかいいえでお答えください。
【イドラ】:はいはい。俺は(ため息)……イドラだ。これはきちんと断定系で話しただろ?
■■■研究員:ええ。ええ、そうですね。そうでした。
【イドラ】:何かあったか?
■■■研究員:彼が……■■研究員の様子が、貴方の担当を外れてから明らかに、異様です。
【イドラ】:お? あいつ何かしたのか。
■■■研究員:心当たりがあるのですね。
【イドラ】:いやいや、んな事言ってねーから。決めつけんのはよくねーって、わかんだろ。俺はそっちの状況見れてねぇよ。
■■■研究員:そう、ですね。
【イドラ】:ほーら、顔上げて。俺の名前疑った理由言ってみ? 聞いてやっから。
■■■研究員:それは……その、彼の発言に、虚偽が多く……いえ、突拍子もないことばかりを提案するので、皆辟易としているんです。まだ貴方の能力にかかって何かを思い違いしているとしか……。
【イドラ】:ふーん? まあ、色んな奴がいるからなぁ。
■■■研究員:ああ……確かに。あの人のことだから、他の哲学人の影響を受けているのかもしれませんね。それに、どうせ軽率に研究対象の言葉を鵜呑みにしてるんでしょう。あんな研究資料を平気で提出したくらいなんですから、元々そういう人なのかも……。
【イドラ】:そりゃあ大変そうだなぁ。
■■■研究員:ええ。あ、すみません。これは貴方の研究記録なのに。
【イドラ】:いいっていいって。ま、あんたも疲れてんだろ。今日はもう休んだら?
■■■研究員:お気遣いありがとうございます。けれどもうすぐ連休が来ますから、その間の備えも必要で。
(哲学人【イドラ】のストールから蛙が飛び出す。一度机を経由し、■■■研究員の胸に飛び込む。■■■研究員が悲鳴を上げる)
【イドラ】:やべっ。ごめん。ほら、帰ってこい。
(哲学人【イドラ】の手の平に蛙が飛び乗る。ストールの中に隠し、形を整える)
【イドラ】:こいつも心配してっから。ってことで、俺のこと気にせず休んでこいよ。
20■■/■/■■
事案a後の対話。
■■■研究員:(焦燥した様子。記録用紙を指先で繰り返し叩いている。)どうしてですか。
【イドラ】:何が?
■■■研究員:事案aについてです。ああ、いえ。そもそも、どうして。どこまでこの研究所を支配しましたか。
【イドラ】:(ため息)……何が?
■■■研究員:彼が、どうして。
【イドラ】:あーもう、落ち付けって。なーに? どうしたわけ。
■■■研究員:■■さんをどうして殺したんですか。
【イドラ】:え。
(哲学人【イドラ】は唖然とする。■■■研究員が机を叩き立ち上がった。)
■■■研究員:貴方は! もしかして知らなかったんですか。人間が死ぬってことを。
【イドラ】:(数秒の沈黙)……人はいつか死ぬ。それは演繹法的だろ。
■■■研究員:貴方は帰納法の反対でしたっけ! だったらこの、当たり前のことは、貴方の知識の範囲外でしたか? そうですか。じゃあ他の、■■■■さんの姿が見えないのも、そうなんですか。
【イドラ】:は。誰だよそれ。
■■■研究員:[業務に関するため削除]の! それに、研究所内の出勤数が先月より低いらしいです。貴方が関係しているとしか思えない!
【イドラ】:いや、それ連休来たから。
■■■研究員:彼らをどこにやったんですか!
【イドラ】:落ち付けって。
(哲学人【イドラ】のストールから蛙が飛び出す。一度机を経由し、■■■研究員の胸に飛び込む。■■■研究員が悲鳴を上げる)
【イドラ】:こらっ!
(哲学人【イドラ】が手を伸ばす。■■■研究員は怯えた様子でその手を払う。)
(蛙が床に落下する。)
(蛙は哲学人【イドラ】の足に向かって跳ねる。十数秒の沈黙。)
■■■研究員:い、インタビューを、終了します。
【イドラ】:ああ。
20■■/■/■■
処遇判断用ビデオ通話記録。■■所長は音声のみを送っている。
■■所長:はじめまして、哲学人【イドラ】。
【イドラ】:どーも。
■■所長:私の役職については説明があったと思う。万全を期すため、君に対し名を伏せることを予め了承いただく。
【イドラ】:どーぞ。
■■所長:私の名の有無など、関係が無いことか。
【イドラ】:好きに解釈すればいいんじゃないですかねー。
■■所長:そうだね。それでは単刀直入に、最近所内で発生している事件についてだ。
【イドラ】:はーい。
■■所長:研究員三名の殺傷事件。一名の死亡。研究データの消失。盗用・改竄の発覚。退職者の増加。無断欠勤の多発。
【イドラ】:うーわ。
■■所長:犯人は君だね?
【イドラ】:あー。
(哲学人【イドラ】は顔を上げる。首のスカーフに手を当て、押さえている)
【イドラ】:ええ、そうですよ。全て僕のせいです。
(哲学人【イドラ】は目線を下げる。微笑んでいる)
【イドラ】:正直に話そうが、虚偽であろうが。刑は変わらないんでしょう。
20■■/■/■■
※■■大学附置哲学人研究所所属■■■■■■■研究員との対話。個室に二人きりではあるが、不測の事態に備え■■■■■■■研究員背後の扉の向こうで職員が待機している。
処遇申告前日に■■■■■■■研究員の申請により実施、記録した。
■■■■■■■研究員:やあ。
【イドラ】:おや、こんにちは。
■■■■■■■研究員:(言い淀み)……っと。なるほどね、挨拶だけで距離感誤認しそうになった。もしかして僕達ははじめましてではなかったかもしれない、なんてね。面白いね君。
【イドラ】:そうですか。貴方のお気に召したならなにより。
■■■■■■■研究員:改めて、別の研究所から視察に来た■■■■(※ファーストネーム)だよ。資料見てるから、口調とか無理しなくていいよ。
【イドラ】:あー、(嘲笑)無理してるとは言ってねーけどな。まあ好きにさせてもらうぜ。
■■■■■■■研究員:そう。じゃ、とりあえず僕から何個か質問するかな。ところで君のインタビュー記録さ、君自身への質問数が異様に少なくてウケる。
【イドラ】:知らねーよ。対話は片方が打ち切ったら成立しないだろ? 話したくても相手がいなくちゃ始まらねぇ。
■■■■■■■研究員:■■■さんが途中で切ったりしてるもんね。君って精神汚染とか持ってんの?
(哲学人【イドラ】が■■■■■■■研究員を見詰めて微笑む。回答前に■■■■■■■研究員が言葉を続ける。)
■■■■■■■研究員:ま、何をもって汚染というのかって話だとも思うけどね。だって心変わりとか普通にするじゃん? そして汚染というからには汚される前の精神はまるで正常で汚れていなかったかのように聞こえるじゃん? でも精神って見えないんだから綺麗も何もなくない? よって日本語的な汚の字は違和感かな。言語によってこの辺変わるけど。
【イドラ】:(軽く手を上げる)……いや、哲学人と話してる途中に行動がおかしかったら、精神を塗り替える能力があると考えるのが自然だろ。
■■■■■■■研究員:自然って何?
【イドラ】:仮定の話な。経験から規則性を見出したとする。例えば、毎日正午に飯を食う鳥がいるとして、正午になればどんな時も飯が現れると思う。餌を持ってきていた飼い主が消えていたとしても。それが体感上正しいと思って、そして一度も例外がなければどうだ?
■■■■■■■研究員:体感上は正しい。ただしそれは論理的な正しさであって、真実において正午と食事に関係はないと君も僕も知っている。だから君との会話と精神的な変化に関係はないかもしれない……ん? 精神汚染能力あるかもって質問したの僕じゃん? おかしいなぁ自分で反証し始めてた。
【イドラ】:(笑う)お前も研究者してんなぁ。
■■■■■■■研究員:そりゃあね。あ、君って嘘は使えるの?
【イドラ】:嘘つきのパラドックスって知ってっか?
■■■■■■■研究員:それは君が嘘つきだと自称した時成立するよね?
【イドラ】:(数秒■■■■■■■研究員を睨む)……俺は自由意志で会話ができてる。
■■■■■■■研究員:ふむふむ。続けて。
【イドラ】:ただ、嘘による詐称と、思い違いの誤解は同一と思うか? んで、俺は(膝を揺らす)……誤解を生む先入観だ。
■■■■■■■研究員:あー、能力と哲学に沿わないね。なるほどそれで嫌いなのかな? 哲学人は自分の哲学を広めたいものだから。
(哲学人【イドラ】は微笑んで沈黙する。)
■■■■■■■研究員:肯定、いや訂正。否定も肯定も無し、と事実をそのまま認識するね、危ない危ない。ところで自分の哲学に沿わない行動をした時、君達哲学人にペナルティはあるの?
【イドラ】:さあな。
■■■■■■■研究員:僕はさ、前回の記憶を保持したままの永劫回帰を知ってるんだ。
(哲学人【イドラ】は目を見開く。口を開け、言葉を発さずに閉ざす。)
■■■■■■■研究員:彼女は自分の記憶による自己否定で精神的ダメージを追い続けている。君も同様、明言と虚偽の双方に苦痛を覚えるのではないかと僕は今考えてる。さてこの考えは君の能力による誤解かな?
【イドラ】:あー(数秒の間)……それで納得したらいいだろ。
■■■■■■■研究員:これで納得しないでいられる人だから僕が呼ばれて、聞き込みしてくれって言われてんの。なので気合を入れていつもより猜疑心マシマシでお送りしております。でも明言が苦しい可能性があるから、さあどうしよっかなとも考えてる。
【イドラ】:(呟くような罵倒語)
■■■■■■■研究員:話題変えるね。テオリアって知ってる?
【イドラ】:知ってたらなんだよ。
■■■■■■■研究員:僕は考えることが好きだ。そしてそれは人間として正しいとすら思う。人間の体は思考することに適しているからさ。じゃあ、君にとって正しく幸福な在り方って何?
(哲学人【イドラ】は顔を背け沈黙する)
■■■■■■■研究員:おーい?
■■■■■■■研究員:話したくない?
■■■■■■■研究員:この話題を、曖昧に誤魔化したくない?
【イドラ】:どうだろうな。
■■■■■■■研究員:うわ。君が普通の人間なら今ので回答と見做すのに。こんなにお膳立てされても誤解の可能性出てくるの、大変じゃん。
【イドラ】:勝手に思ってろ。
■■■■■■■研究員:そうする。あ、そうそう。僕なりに一つ仮説を立ててみたんだけどさ、聞く?
【イドラ】:何で俺関連で仮説立てようって気になれんだ。聞かせてみろよ、笑い飛ばしてやっから。
■■■■■■■研究員:君って食べ物が欲しくてここに来たの?
【イドラ】:(数秒の沈黙の後、額を手で押さえる。しかめっ面をしている)……ただ食うために行動してんなら、研究所である必要はねーだろ。
■■■■■■■研究員:そうだよねー。研究所である必要がある、とは、思い込みかもしれないけれど。他にも何かあるかも、だね。じゃあ環境? 能力を行使できる場所が良かった。
【イドラ】:どうだろうな。
■■■■■■■研究員:制御できる存在がほしかった?
【イドラ】:それもあるんじゃないか?
■■■■■■■研究員:怪我させたくなかった?
【イドラ】:それ以上考えんな。
■■■■■■■研究員:オッケー、一旦ここで止める。
【イドラ】:どーぞ。
■■■■■■■研究員:あ、これが最後。言いたいことあるんだけどさ、これは本気で答えてね。
【イドラ】:あ?
■■■■■■■研究員:君って狼みたいだよね。
【イドラ】:(■■■■■■■研究員を睨みつける)……それは(歯を食いしばる。)……言われたく、ねーな!
■■■■■■■研究員:オッケー、本音ありがと。これからの対応に組み込むね。
【イドラ】:は?
■■■■■■■研究員:あはは。インタビューを終了しまーす。
インタビューの後、■■■■■■■研究員は「【イドラ】の能力に強制力は薄く、意識的に疑い続けることできちんと会話が出来るようになる。と発言しました。
20■■/■/■ 哲学人【イドラ】による損失が甚大なものであるため、■■大学付置哲学人研究所へ移動となりました。
▽事案a記録
発生日時:20■■/■/■■
内容:哲学人【イドラ】による職員の殺傷事案
損害:なし
以下は監視カメラ映像の書き起こしである。
なお、時刻を表す数字は途中から数字の羅列に置き換わっており、正確な時刻は不明。
20:29:00
■■研究員(元担当職員)が買い物袋を持って廊下を歩いている。前方から同じく通行していた哲学人【イドラ】が現れ、立ち話が始まった。双方共に笑みを浮かべている。
20:37:00
■■研究員が袋の中から物品(生の骨付きもも肉であると特定された。)を取り出し、哲学人【イドラ】に渡す。哲学人【イドラ】はそれを受け取り、口に運ぶと咀嚼し飲み込んだ。雑談が再開する。
その後も時折肉を摘んでは飲み込む様子が見られる。
0.876388889
■■研究員の表情が曇り始める。哲学人【イドラ】は変わらず笑顔である。
21:06:00
カメラの映像が約8秒乱れる。
映像再開。画面大半にノイズと歪みが発生。カメラ中央左下部分のみ正常に再生される。
哲学人【イドラ】が不明な種類の肉(■■研究員の肉と推測できる)を咀嚼している。足元に■■研究員の白衣と白骨が落ちている。
0.8875
私服姿の職員(特定できず)が画面を横切って走り去る。
哲学人【イドラ】が勢いよく振り返り、職員に向かって怒鳴っている。
0.926388889
哲学人【イドラ】が監視カメラを見上げたまま映像が五分間静止。その後一時間に渡りノイズ映像となり記録されていない。
0.972916667
映像再開。
■■研究員のものと思われる骨と白衣が、警備員が巡回するまで放置されている。
映像終了。
■■研究員は翌日■■■市の路上にて轢死体として発見された。食い殺されたはずの彼の体が欠損していない理由は不明です。
以上の事案から、彼は血液を摂取すると興奮状態となり、凶暴性を発露するのだと推測できます。用心のため、肉類の差し入れは控えてください。身勝手な行動は身を滅ぼすのだと、■■研究員を見て学んでください。 -■■■研究員
監視カメラのノイズに確認できたパターンを複数言語に照らし合わせて解析したところ、換字式暗号の一種であり、最終的に「ごちそうさま」と解読可能でした。
哲学人【イドラ】の能力による、通信機器操作の結果残された言葉であると考えられます。
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