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Eden2

全体公開 6011文字
2019-03-30 23:11:32

第2話「真実」

Posted by @acbh_dmc4

ヘリックスサーバーへとアクセスし、アニムスの外の世界がどのように発展してきたかを知る。
私の没後、500年の間に先駆者の遺産によって高度な文明が齎されたようだ。
今現在の外の様子についても、アブスターゴ社の都市開発プロジェクトの草案等から窺い知ることが出来た。
私の頃には考えられないほど高いビルや便利な道具が溢れ、また強化されたセキュリティや治安維持の組織によって一見すると平和そうであった。
だが如何せん人の闘争本能というものは尽きぬようで、凶悪犯罪の報告を見るに、今を以てしてもテンプル騎士団の理想を変える事はできないのだろう。

私は時代の考証を終え、あとは有用な情報を探し回る事にした。
システムの構築を解読し、またはロックされている情報を見つけたら解除して中身を確かめる。
それは全てもう一人の“エツィオ”を作り上げる為、また私の力を高める為でもあった。
しかしヘリックスサーバー内にあるデータの数々は、それを差し引いてもとても興味深く有意義なものであった。
特に私が戦う術を身に着けるに至った写本を書き上げたアルタイルのメモリー。
彼の記憶は私の生前、宝物庫の鍵と共にその生涯を知るに至ったが、どういう出来事があったのか詳しくは知らなかった。
彼が教団を牽引するに至る出来事を知り、テンプル騎士団とアサシン教団の危うさについて考えさせられた。
私の時代のテンプル騎士団とは違い、どの者達もこの世を救おうと本気で考えていたのだろう。
それが林檎の知識にのまれ、絶望に心を支配されていた故だったとしても。
そして、それは後世のアメリカという国の独立戦争を生き、アサシンの父を持ちながらテンプル騎士団へとその身を捧げた者からも感じられた。
テンプル騎士団の掲げる理想は、あまりに独りよがりで極端な結論さえなければ、私とて同意し尽力した事だろう。
しかしアサシン教団の理想が良いものかと問われれば、長い時を経て危ういものとなっていた。
そして今の教団の衰退を思うに、ファームなどと閉塞したコミュニティで固まり協力者を増やさず、人としての情を一切排除したようなやり方は上手いとは言えない。
監視カメラに映し出されたアサシン教団の長、ウィリアム・マイルズの映像を眺め、ため息を吐いた。

現在私が検めているデータは被験体17号、「デズモンド・マイルズ」のものだ。
今度は彼自身の経歴を表示させると、万感の思いでそのデータを見つめた。

「君は、私の子孫だったのだな

思わずそう呟き、彼の記録を撫でる。
このヘリックスサーバーにある彼の記録は、主に「アルタイル」の生涯と壮年の頃の「エツィオ・アウディトーレ」のデータだった。
彼の精度の高い「エツィオ・アウディトーレ」のメモリーは今、私の中にも生きている。
そもそも、私の人格形成に大きく影響を与えているのは彼のメモリーだろう。
彼が後世の世界で何を成したのか、私の「予言者」としての役目は果たせたかを確かめる。
先駆者の遺産から作り上げられたアニムスによって、デズモンドは私を介しミネルヴァの言葉を受け取っていたのだ。
彼女に言われたように、「私に話しかけたのではない」事を理解し苦笑する。
そして同時に先駆者の予知の正確さには脱帽した。

しかしミネルヴァが告げたこの世界の禍の期限は過ぎている筈だ。
きっとデズモンドは先駆者の遺跡を探し出し、見事世界を救ったのだろう。
誇らしい気持ちになり、彼がどのように世界を救ったのかを考え、他にデータがないかサーバー内を見渡した。
すると隠され、厳重にロックされたデータを見つけた。

何故だかそのデータが、とても良くないものであるような予感がする。
私は胸騒ぎを覚えながらそのロックを外し、データを見て愕然とした。

それは彼、デズモンドの検死データであった。

私は呆然とし、その映像を眺めた。
先駆者の遺跡に横たわる彼の体を好き勝手切り刻み、さらに利用しようとする非情な行いに叫びだしそうになった。
久しく忘れていた、憎しみや怒りが腹の底から沸々と込み上げる。
本来の“エツィオの記憶”で確かに感じた彼の気配を、私の意思を酷く踏みにじられたような思いだ。
私自身は自ら望んでアサシンになったわけではないが、それでもテンプル騎士団のやり方は根本的に受け付けない。
耳障りの言い建前を全面に出し、平気で人の心を踏みにじるやり方は間違っている。
それこそロドリゴやチェーザレ・ボルジアのような分かりやすい悪の方が、まだ可愛げがあるというものだ。


(この世界で生き残れば、もしかしたら彼と語らう事があるかもしれないと思っていたのに)

淡い期待であったが、もう二度と彼と直接話すことは叶わないのだと落胆を覚えた。

先駆者の遺跡で何が起こったのか、アブスターゴの検死や分析官からの報告、先の震災のニュース記録等で予想することが出来た。
世界を護る代償に、彼は自らの尊い命を散らすほかなかったのだ。
やりきれない、後味の悪い思いだけが残り、私はそのデータを閉じた。

念のためデズモンドのデータの複製を作り、宝物庫の鍵の形を模した円盤に保存をした。
本当は、このデータを破壊してやりたいところだが、そんなことをすれば私どころか、さらにデズモンドの体を冒涜されかねない。
彼の亡骸は依然敵の手中にあるのだから。
なんとか怒りをおさめ、私は一旦エツィオの元に帰る為、そのサーバーから拠点とするサーバーへ転移を試みた。
その瞬間、懐に忍ばせていたデータのコピーが光を放ち、私の手をすり抜けて目の前で消失した。
いいや、消失というよりもこれは何処かへと「転送」されてしまった。

私は驚き、その転送先を特定するよう発信コードを探した。
自らの体を構成するコードに、データを取得すれば自動で外に転送されるプログラムが書き込まれていた。
それは強制されたもので、回避するのは不可能なものであった。
転送されたデータはキュリティを掻い潜り、アニムスの外へと発信されてしまっていた。
もし勝手に放出されるヘリックス内のデータを感知されれば、私はこのアニムスからすぐさま削除されてしまう。

私は震える手で先ほどまで抱えていたコピーデータを探った。
複数枚に分けてコピーしたものの内、1つを残して全て跡形もなく消えてしまっていた。
一つだけ残ったそのデータを取り出し、見下ろす。
それは厳重に鍵をかけ、パスワードと専用のサーバー内でなければ開くことのできないよう暗号化した、デズモンドの検死記録が残されていた。

「これを転送したところで開けないからエラーが出て手元に残ったのかいいや、これは

内容を確かめればそのデータは壊れてしまっていた。
一度転送し、エラーで帰ってきたものであるから、このデータはもう再生する事すらできないのだ。

私の存在は恐らくアサシン側が撒いたスパイウェアの類なのだろう。
ある程度の情報を収集し、教団側へとデータを流せば何台かのアニムスを巻き込んで自爆するコードが存在していた。
なんという事だヘリックスサーバーを動き回ることによって私は自らの寿命を縮めてしまっていたのだ。
このままではもう一人の私を作り上げる前に、この私が消されてしまう。
しかしこの身はアニムスの情報を収集し続け、また私の中のデータは吸い上げられる。
これを止める術を早急に探さねばアサシンを動かすような情報を得てしまえば消されてしまう。
セキュリティが疑問視され始めている現状では、いつ私の終わりが来てもおかしくなかった。

ヘリックス内を彷徨い、有用な情報がないか死に物狂いで捜し歩いた。
その間何度もコードを書き換えることを試したが、なぜかその自爆コードを変えようとすると、体の制御が利かなくなる。
書き換えようとすることが、自ら起爆ボタンを押すことに繋がるのだろう。

私は途方に暮れ、アニムス内部を動き回るのを止めてメモリーへと戻った。

久しぶりに屋敷へと帰った私は、真っ先にエツィオの元へと向かった。
数個のパッチを当てられた彼は、大分器もしっかりとし、これならば今すぐデータをインポートしても耐え得る程安定していた。
急ぎ彼の前まで進み出ると、私を慕うように見上げてくる彼の頬に触れた。
私の思考はエラーを弾き出し、今この瞬間にも相当のメモリーを消費してしまい止まる事が出来ない。
一先ず落ち着かなければと思うのだが、解決法のない問いを認識してしまってはどうにもならない。
そんな私の心など知らず、目の前のエツィオは暢気に私の名を呼んだ。

まるでVRルームで出現した青年だったエツィオのように、あどけない仕草をする彼を見下ろし、頬を撫でる掌を滑らせ、首筋をなぞる。
不思議そうに見上げてくるこの“人形”を、今すぐ蹂躙してやりたい。

伯父上?どうされたのです」

怪訝そうに私の顔を覗き込み、そして私の両頬を彼の掌が包んだ。
彼の暖かい掌が、苛立ち絶望に黒く塗りつぶされた心を酷く引っ掻いた。
この身を支配する破滅から、どうにか逃れなければ今のこの体を捨て、新しい自爆コードのない器をつくれば
だが、この人形一つ作るのにかなりの時間を要した。
新しいものを用意している間に感ずかれ、消去されないとも限らない

頬を撫でる手を取り、彼の姿をじっと見つめる。
今やデータを受け入れても壊れないほどの力を手に入れた器。
この器は私ほどの力を有することはないが、全く同じものを作るには今の倍以上の出力と時間が必要になり、外に感ずかれる恐れがある。
だがある程度作りあがったこの体をもう少し強化し、私が入り込めば消滅を免れるのではないかそう考えた。

彼の手を握り、彼を構成するコードを一から解読する。
何処を強化し、どのコードを書き直せば“私”を受け入れても破綻しない強度を得られるかを知るためだ。
だが、ここでも私は手酷く期待を裏切られてしまった。

彼の体を構成するコードにも、私と同じ自爆コードが書き込まれてしまっていた。
これを書き換えようとすれば、アニムスと私を巻き込んで消滅してしまう。
だが、最早新しく作りあげる時間などない。
互いの自爆コードの期限を引き延ばし、器を作ったとしてどれほどの時間を要すのか。
途方に暮れ、これ以上ないほどの絶望に目の前が真っ暗になった。

一生を実際に“生きたエツィオ”とは違い、私は生まれたばかりなのだ。
そして私は本物の人間のように、ここで“死ぬ”のが怖いのだ。

何故、私が消えねばならない?
何故、私は自我を得た?
何故、私はこの世界から出られない?
何故、何故、何故!!!

何時だって理不尽な現実に、怒りが唸りを上げて咆哮した。
衝動的に体が動き、目の前の人形の首を掴んでベッドへと叩き付ける。

オートシミュレートで“エツィオ”の反応を返す人形は、驚き息を飲んで私の腕から抵抗しようともがいた。
私の腕に爪を立て、彼なりの力の限り反抗する。
激しい怒りに支配され、力が不安定に出力されて周囲の区間が形を歪めて消えかかる。
周囲の異常事態に気付いた人形が慄き、必死に酷いノイズのような不快な音で私に呼び掛けた。

「何故私ばかりが奪われる!私の人生も!自由も!この命も捧げろというのかっ!!何故だ!」
「お、おじう、えおち、ついてく、れ!!」
「煩い!煩い!煩い!貴様など!中身のない人形のくせに!口答えをするな!」

手を振り上げて人形の頬を思い切り張り上げた。
人形は打たれるまま顔を背け、そのまま動かなくなった。
思いつく限りの呪詛を叫ぶように浴びせかけ、ひたすら理不尽に打ち据える。
しかし、人形は暴力を振られる前に弱々しく放った静止の言葉以降、何の反応も返さずされるがままになっていた。

止め処ない怒りを吐き出し続け、意味のない暴力を繰り返していくうちに、徐々に虚しさが募っていった。
肩で息をし、人形の首から手を放して空を仰ぐ。
私は何をしているのかそもそも実態の無い私に、真の自由が訪れることはない。
こんな暗く冷たい世界で独りきりで生きていてなんになるというのか。
きっと今に嫌になるに決まっている。

深く呼吸を繰り返し、視線を私の下で横たわる人形に移した。
己の下で横たわる人形は、私の「口答えをするなめ い れ いか)」に従い、まるでマネキンのように動作を止めていた。
全ての機能を止め、ただそこに物のように横たわる人形は、まるで死した者のようであった。
冷水を浴びたように全身の熱が引き、私は一瞬で正気を取り戻した。

瞼を閉じ、ゆっくりと息を吐き出して気持ちを落ち着けてから目を開けた。
辺りを確認すれば、暗く冷たい何もない空間が広がっていた。

世界には私と私の下で死んだように動きを止めた人形だけが存在していた。
自暴自棄になり、全ての消去を望んだ為に、どうやらいくつかのメモリーを吹き飛ばしてしまったようだ。

「お前は、消えなかったのだな

動きを止めた人形を抱きしめる。
まるで抗議するようにエデンの林檎を模した彼のデータが足元に転がりぶつかった。
林檎を拾い上げ、人形を見下ろす。
既にデータを受け入れることが出来る器だ。
そろそろ頃合いなのかもしれない。

そっと彼の胸の上に林檎を落とした。
ふわりと柔らかな光が彼を包み込み、ゆっくりと馴染んで吸い込まれ、役目を終えたリンゴは透明になり砕けて消えた。

彼の見開かれていた目は、ゆっくりと瞼を下ろし、安らかな寝息が静かに耳を打つ。
その静かな音に耳を傾けていると、徐々に心が凪いでゆき、落ち着きを取り戻せた。

「すまなかった。何処か、落ち着ける場所を見つけよう

穏やかに眠るエツィオに囁きかける。
すると返事をするように鼻から抜ける声がして、思わず笑みが零れた。


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