@acbh_dmc4
エツィオは精力的にメモリーの中を探索するようになった。
ソースを読み込んで色々な物を作り上げるのが楽しいらしく、街中を歩き回りテベル塔に戻っては覚えたものを作り出した。
ただ物を作り出しそのままにするという訳でもなく、確認するように見たものを作り出しては直ぐに削除した。
そして私もその学習に付き合ってローマ市内を共に歩き回り、講師の様なことをしている内に多少なり私に対して信頼を寄せてくれるようになった。
あらゆる物をコピーし終え、これで落ち着くかと思っていたらエツィオが私に相談を持ち掛けた。
「一度建造物を作ってみたい。それも大きいものを」
「規模にもよるが、コロッセオとトラヤヌス浴場の境が広く空いていただろう。今日はそこに行くか?そこ周辺は他の市民が入り込まぬようにしておく」
「ああ、頼む」
リクエストを受け目的地へとピクニック感覚で赴くと、私はその周辺だけ人が寄り付かないよう設定を弄った。
準備が整うと、早速エツィオはコロッセオを作り出して見せた。
少々広さが足りないため、二周りは小さくなってしまったが、そのままをコピーするだけではなく調整する事もいつの間にか覚えていたようだ。
作り出したコロッセオの検分をしたが、サイズ以外の違いは無かった。
彼の実験も終わり、特に予定もないのでこのままこの草原でピクニックをしようと提案してみた。
エツィオは特に異を唱えるでもなく同意してくれたので、彼にピクニック用のラグと食事を出してもらい軽い食事を摂った。
腹もくちると二人でゆっくりとラグに寝そべり、気持ちの良い日差しを浴びてまったりと時を過ごす。
こんなに平和なのは10代の頃以来だと思いつつ、微睡ながら高い空を悠々と飛び回る鷹を見上げていた。
ぼんやりと気持ち良さそうに飛翔する鷹を見ていて、空を思いのまま飛んで風景を見下ろすのも一興だと思いついた。
昔レオナルドに飛行装置を作ってもらい、空を掛けた時とは違う感覚が味わえることだろう。
そもそもあれは楽しみのためではなかったし、それに今は連れもいる。
身を起こして口に指をあてて指笛を吹く。
すると上空を飛び回っていた鷹が私へと真っ直ぐ向かい降り、腕を出してやるとその腕に止まった。
寝そべって本を広げていたエツィオは私の行動を見て目を丸くしていた。
「いつの間に鷹をペットにしたんだ?指笛で従わせられるのか」
「いいや。別にそんなことはしなくても意のままに操れるが、格好つけてみただけだ。
こうした方が何かそれっぽいだろう?」
得意気に言って見せるとエツィオが珍妙なものでも見る様な目で私を見上げた。
そんな彼の反応に笑い、腕に大人しく止まっている鷹の胸を撫でてやる。
鷹の翼を触り、またあらゆる角度から眺めて構造を観察する。
一先ず用が済んだので、羨ましそうにしているエツィオの肩に鷹を移して構想を練った。
少しだけエツィオから離れて自らの背に大きくて立派な鷹の翼を構築する。
まるで絵画に描かれる天使のような翼を数度はためかせれば、周囲の草むらが風圧に揺れた。
その様を見たエツィオが目を見張り、立ち上がって私の傍に寄ってくる。
私が何をするつもりか悟った彼は面白そうに口角を上げ、鷹の目で私が作り上げた翼を解析してから自身の背中にも生やした。
正直に言えば空を飛ぶのに翼は必要ないのだが、これも完全な格好つけというやつだ。
そしてこの翼はエツィオにとっては飛行の補助になるもので、これがあれば後々翼なしの飛行を行う際に感覚が掴みやすくなる。
翼が彼の意のままに動くか確認し、飛ぶ前の簡単なアドバイスをするために向き合う。
「少し勢いをつけるために走り出して、その間に翼を羽ばたかせろ。どういう風に飛び立つのかイメージしながら駆ければ易い」
「分かった」
まず私が手本に駆け出して翼を羽ばたかせて勢いよく飛翔する。
エツィオがその後に続き、私を追い抜いて天高く舞い上がった。
珍しくはしゃぐ彼を微笑ましく思い追いかけると、エツィオは更に速度を上げて私を引き離した。
追いかけっこをするように空を縦横無尽に飛び回り、上へ上へと舞い上がれば吹き抜ける風が容赦なく体を冷やす。
このままでは凍えてしまうと思い、体感を切ろうかと思ったが、先を行くエツィオはまだ自分の五感や生理的欲求を切る術を知らない。
それならばと隣を優雅に並走する鷹を観察し、羽毛で出来た保温性抜群のローブを作り出した。
寒さに速度が落ち始めたエツィオの目の前に躍り出て、同じようにローブを作らせる。
肌が露出している場所はどうしても冷えてしまうから、こっそり空気の層を作って風避けしてやった。
快適になった空の旅は思った以上に楽しいものだった。
大空から見下ろすローマの街は雑然としていて、自分の存在がちっぽけなものに思えてくる。
時折高い建物の屋根で羽を休めながら、じゃれつく様に二人空を駆ける。
どこまで飛翔できるのかと好奇心から上へ上へと向かうエツィオを慌てて止めたり、ハプニングがありつつも十分楽しむことが出来た。
コロッセオのてっぺんに腰を下ろし、沈みゆく太陽を眺める。
私は背中の翼を消去すると、エツィオに帰るかと声をかけた。
太陽が沈み、月がその存在を知らしめると、ようやくエツィオは私を振り返った。
「さて、帰ろうか。お前も翼をしまったらどうだ?」
「地上に降りたらな。アンタはここから壁を伝って降りるのか?」
「きっと親切な天使が私を抱えて降りてくれる筈だ」
「フン、奇特な天使が居ると良いな!」
エツィオは意地悪く笑みを浮かべると、私に背を向けて壁を蹴った。
ふわりと地上に向かって降りて行き、地に足を着けると逞しい翼を消してから私の居るコロッセオを仰いだ。
挑発するように笑みを乗せているだろう、エツィオにやれやれとため息をつき、そして意地悪な私は翼なしでふわりと地上に降り立った。
目論みが外れたエツィオは目を丸くして、そして何かに気づくと鼻を鳴らして私を睨みつけた。
「もともと翼なしでも飛べたって事か。さしずめ、翼をつけて飛んだのは格好つけか?」
「よく分かっているじゃないか。次に飛びに行く時も翼を作ろうと思っている。次はフクロウ当たりの翼が良いかな?」
「アンタなんて雀の羽で十分だろ!」
プリプリと怒ったように言い捨てるエツィオに思わず失笑し、競うように二人家路を急いだ。
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