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軍を引くと言う星宿様に嘆願する話 3

全体公開 2 1947文字
2019-08-26 00:49:55

柳宿も生存してました。
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Posted by @satomi8429

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「なーんだ、皆ここにいたの」
 そっと開いた扉から遠慮がちに発された小声の主は柳宿だった。起き上がっている張宿を認めると、ぱっと顔を輝かせて踊るように部屋に滑り込む。
「張宿!よかったー、気がついたのね。大丈夫なの?もう起きていいの?」
 世話を焼きたくて仕方がないという様子は、擦り傷や土埃にまみれた男物の装束ながらいつも通りの姿だ。柳宿は張宿の肩や頭や額を撫でまわしながら早口で質問を重ね、それからはたと動きを止めた。
……っていうかみんなどうしたの、何お葬式みたいな顔してんのよ」 
「さっきの翼宿と同じなのだ……
「だから!俺を見んな!お前ら!!」
……柳宿は元気そうで何よりだ」
「そうなのだー。いきなりいなくなってびっくりしたのだ」
 翼宿は吠え、軫宿が淡々と、井宿が素直な感想を述べる。
「怪力はないんだけどさ、あたしかわすのが上手いみたい。昔取った杵柄っていうの?子供の頃から逃げ足だけは速かったのよねー。で、気づいたらはぐれてたってわけ」
 明るくしなやかな身のこなしで歌うように言う。重く灰色だった部屋に、ひとつふたつと色が落ち、雲が削られ薄陽が差すようにじわりじわりと光が満ちていく。
 なんだか以前の日常みたいだ、と張宿は思った。初めて来た宮殿で、北へ向かう船の上で、雪吹きすさぶ異国の温かい店の中で。もっと以前の、こんなに事態が緊迫する前の、遠い昔のことのような、ほんの少し前の日常。
「で、星宿様奪取作戦ってなぁに?」
 柳宿が言い、ふいを突かれて全員が柳宿を見た。すかさず翼宿が口を開く。
「なんや柳宿、聞いてたんかい」
「なぁによ、人聞きの悪い。あたしは今来たばっかりよ。聞こえたのはその言葉だけ。星宿様が出陣されるって話はね、さっき星宿様に会って聞いたんだけど」
『星宿様』の部分を愛おしそうに話す柳宿に、張宿がおずおずと問いかける。
「星宿様の出陣について、柳宿さんはその……どう思われますか」
「どうもこうも、星宿様がお決めになったことでしょう。あたしがどうこう言える話じゃないわ」
 あっけらかんと、しかし後半を溜息交じりに吐き出すと、柳宿は寝台のそばの椅子に座り足を組んだ。
「星宿様が戦に行かれるというんなら、あたしは星宿様をお助けするまでよ。星宿様に怪我なんてしてほしくはないけどね」
 柳宿の反応は想定内だ。しかし。星宿の出陣を止めると言えば反対されるだろうか。張宿は乾いた口で唾を飲む。
「それでもやっぱり、僕は星宿様を止めないといけません」
 まっすぐ言うと、柳宿はあっさりそうね、と言った。
「わかってるわよ、あんたにはあんたの信念があるんでしょう。それは当然のことよ。お互いそれを貫きましょう」
 それからずい、と身を乗り出すと、声を落として柳宿が言った。
……でもね。星宿様が出陣なさった後のことなら話は別よ。あたしだって星宿様に死んでほしくはないもの」
 いつの間に移動したのか、柳宿は張宿の隣に座っている。さりげなく背に添えられた手が温かかった。なにを言うのだろう。紫水晶の深い瞳が覗き込む。
「だから、星宿様が戦場に行かれたあとの奪取作戦?なんだかよく判らないけど、星宿様を死なせないために何かするんだったら、乗っからせてもらうわ」
 その言葉は――正確には言葉ではないのかもしれないが――張宿の胸いっぱいに膨らんで張りつめた塊に触れた。背に置かれた白い手のひらに、芯のあるつよい声に、そこからじんわり広がる目に見えない何かに、張宿はたまらなくなって両手に顔を伏せた。池の氷が春の日差しにゆるゆると溶かされていくように、ひしと抱いていた緊張がじわりじわりと溶けていく。
 震える背中が、とめどなく溢れる涙と嗚咽が、どう頑張っても止まらない。
「ばかね。全部ぜんぶ背負わなくっていいの」
 柳宿は張宿の背をさすって言った。
「あたしたちは、運命共同体でしょう?」
「そうだぞ張宿、起きて早々ひとりで抱え込みすぎだ」
「もとはと言えばオイラが原因なのだ……すまなかったのだ」
「朱雀がおらへんかっても、オレたちは朱雀七星士や!今まで通り、みんなでやったろやないか」
 皆が口々に言い、ちょこんと座った張宿にそれぞれが手を伸べる。嬉しさと有難さに、感極まって口のきけなくなった張宿は、ただ何度もうなずいた。
 そうだ。そうだった。確かに僕らはこんな風だった。
 絶望の先に希望を掲げて、皆で笑ってなんとかなると、肩を叩き合って前を見た。

 僕は、僕たちは、朱雀七星士だ。

《続く》→https://privatter.net/p/4919310


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