@acbh_dmc4
魅力的なプロジェクトを発見して間もなく、外の世界では大きく物事が動いていた。
解析者が地下へと閉じ込められ、拘束されている間に彼のサーバーは隈なく探られたのだ。
その後も解析者はジョンの指示によって地下を自由に動き回り、ハッキングを繰り返していたため、私達は警戒して監視用の分身を残し、彼のメモリーから撤退した。
ジョンの行動は日に日にあからさまになっていき、このままでは暴走した彼がアサシン教団からの刺客だと気付かれる恐れがあった。
そして私達も早急に行動しなければならないと、ジョンの動向をアサシン側に追うように進言し、外からの監視の目を光らせた。
またいくつかの重要なテンプル騎士の動向データを渡してやれば、私の信頼は確固たるものとなった。
社内DMにて指示を出し、私が作り出したメモリー内での待ち合わせ場所でアサシンを待つ。
ローマの郊外、コロッセオを眺める丘の上だ。
そして私は敢えて15世紀のアサシンローブでも市民服でもなく、現代的な服に身を包み、アサシンを待った。
調度彼らの長である、ウィリアム・マイルズを彷彿とさせる服装だ。
ウィリアムと私は血族故か、とても似通っている。
彼らにとって見慣れた衣装はこの世界では際立って異質に写り、そして同時に己との親近感を、また逆に畏怖をも高めてくれる。
この世界での、そして彼ら自身への絶対の存在として、親しみと恐れは対象を支配するにはうってつけだ。
待ち合わせ場所に馬で乗り合わせて来たアサシンが、私の下へと駆け寄り跪く。
まるで焦がれる様に私を見上げるアサシンに微笑みかけ、状況報告を受けた。
「導師、頂いた情報にて現地を調べたところ、テンプル騎士達よりも早くエデンの欠片を手に入れることが出来ました」
「そうか、ご苦労。こちらも急ぎの報告がある。
お前たちにマークしておくよう言ってあったジョン・スタンデッシュだが、死んだ。
あの者が現世の賢者と判明し、テンプル騎士の連中に射殺された。奴らは先駆者のDNAを豊富に保有する賢者を手に入れてしまった」
「そ、それは本当ですか?!」
「デズモンドの亡骸と同じく、ジョンの遺体も出来れば処分したいところだが。不可能だろう。奴らはついに先駆者を作り上げる為のプロジェクトに本腰を入れて取り組み始めたようだ。ファイルをお前の端末に送っておいた」
ファイルの概要を軽く説明し、アサシンに今後の行動の指示をする。
また、ジョンによって解析者に何らかの仕掛けが施された可能性も説明した。
「ジョンによる仕掛けもそうだが、彼は十分アサシンとしての素質がある。彼を味方に取り込んでおけ」
アサシンは私の言葉に頷いたが、それと同時に顔を曇らせた。
焦れたような不安な顔をしているアサシンは、私の関心が他所に向くのが余程不安なようだ。
そう顔に書いてあるアサシンが、私の怪訝な顔をみて目を泳がせて口ごもった。
「そ、その…導師は直接その者と話をさたのですか?」
まるで見捨てられることを恐れる様に、私の顔をしたアサシンが探るように質問をする。
そんな不安を和らげるように、私は優しく彼に声をかけた。
「いいや。彼のメモリーに暫く潜んではいたが、直接話をしたことはない。彼は護るべき一般人であり、現在もそうだ」
「で、では…もしその者がアサシンとなったら彼にも接触を?」
「いや、どうかな。彼はまだ一般人だ。アサシンとしての訓練も受けていないし、訓練を受けたとして君のように優秀はアサシンとなるには何年もかかる事だろう。アニムスを使っての強化は、まだまだリスクも大きいしな」
アサシンは私の言葉に寸の間ホッとし、だが寂しそうに俯いた。
そんな彼を励ますように背中を軽く叩き、少し散歩しようと彼を誘った。
アサシンが私に従い、半歩後ろをついて来るので苦笑して隣に来るよう声をかけた。
暫し無言で荘厳なコロッセオの外周を歩く。
心地の良い風が頬を撫で、空を見上げれば満天の星空がキラキラと大きな満月の周りを飾りたてていた。しかしアサシンは私の隣でソワソワと落ち着かず、風景を見る余裕もないようだった。
「私は君を気に入って度々呼び出してしまうが、これも十分危険な事だ…データだけを渡せば、このように呼び出して話す必要はないのだしな…ただ、この世界は寂しい…私は、話し相手が欲しかった」
アサシンは瞠目し、何故か頬を染めて私を見上げた。
およそあのエツィオがしそうもない表情を浮かべられ、その様が実に奇妙で思わず失笑してしまった。
「……導師は、貴方は…本当にただのプログラムなのですか?」
アサシンが心底不思議そうに私に問いかけた。
まるで私の存在を疑うような、怪訝な表情を浮かべる。
怪しまれているわけではなさそうだが、念のためアサシンに、教団に仇なす存在ではないと告げる。
「確かに“寂しい”などと感情の真似事のような事を言う私はさぞ不可解だろう。私はプログラムとしては欠陥があると言える。人でいう感情のようなものが芽生えた理由は私にもわからない。だが、敵ではない」
「敵だなんて!そのような事は思いません!ただ、…俺は、貴方が教団に…現実世界に居てくれたら良いのにと、そう思うのです…」
「もう死しているが、エツィオ・アウディトーレは現実に生きていたよ。知っているだろう?」
「メモリの中の貴方と、今接している貴方は別物に感じます。ええと、年齢も違うので、きっとその差なのでしょうけど。
でも、俺は…俺は『貴方』が現実世界に居てくだされば、と」
彼の言葉を否定せず、黙ってその吐露に耳を傾けた。
「夢のような事だとはわかっています…それでも、貴方のような存在が教団に居てくれたら…アサシンの裏切りなども起こらないだろうと思うのです。俺は……貴方に出会うまで、いっそ教団を抜けてしまおうかと迷っていたので…」
「そうか…思い止まってくれて嬉しい」
「貴方のように俺を、末端のアサシンを気にかけてくれる存在が居たなら、きっと教団の結束が強くなると思うのです」
そう告げると、アサシンは唇を噛んだ。
思った以上に今の教団の足元は脆く、テンプル騎士団に遅れをとっているようだ。
テンプル騎士団側が予想しているアサシン教団の規模も、決して過小評価はしていないようだが、衰退していると考えている。
偶然アブスターゴの裏に潜む陰謀に気付いた少数の技能者が、アサシン教団についたとして、今のテンプル騎士団の敵ではない。
そんな中、仲間が次々と倒されていけば、己の身の振り方を考えるというものだろう。
「…私を現実世界にという話だが、不可能という事もない」
完全に私に執心しているアサシンが勢いよく顔を上げた。
その瞳には期待が見て取れ、まるで子供のように純粋な眼差しに内心で苦笑する。
エツィオには止められたが、やはり魅力的な現世への出現が叶うならば手を伸ばしたい。
私は彼を利用しようとしている。ひどい裏切りをしようとしている事に罪悪感を感じないでもないが、私は目的のためならば手段を選ばない。
私の答えを欲するアサシンに、それとなく核心を告げた。
「流入現象を利用すれば“エツィオもどき”は作ることが出来る」
「流入現象、ですか…?」
「ああ、勿論普通の人間がただアニムスにかかるだけでは駄目だ。元の人格とアニムスで得た人格が競合して精神を病んでしまう。そうだな、例えば完全に記憶喪失になった人間にアニムスを使えばそのリスクは下がる。記憶の何もかもを私のデータで上書きしてしまえば“エツィオ”として行動するようになる」
そして私に近いDNAを保有していれば…そう、デズモンドのDNAから作られた体なら、完全な“エツィオ”を作れるはずだ。
だがそれを直接このアサシンに告げはしない。
今日、彼に渡したデータの中にはフェニックスプロジェクトの概要が含まれている。
自身で考え、辿り着いたその結論がこのアサシンを動かし、私の体として差し出すのを待つ。
「だがな、私の使命はここからアサシンに有用な情報を抜き取り、そして最後にアニムスと一緒に心中する。それが使命であり、運命だ」
「そ、そんなのは間違っています!貴方はこんなところで消えて良い存在じゃない!」
「いいや、それは避けられん事だ。私のプログラムには自爆コードが書き込まれている。私では外せないし、いつでも教団の者の手で簡単に消される命だ」
「俺が、俺が何とかして見せます!」
「君なら、やってくれるのだろうとは思う。だが、私は一プログラムに過ぎない。そんなモノの為に命を懸ける必要など無い」
少々くさいかとも思ったが、静かに目を伏せ、薄く微笑んで見せれば、決意を胸に秘めたアサシンが私を熱く見つめた。
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「…初期のフェニックスプロジェクトの進捗だ。デズモンドのDNAからは3重螺旋があまり抽出出来なかったが、特定のDNA配列を再現した個体を何体も作成している。いくつかはもう培養器から外に出して動いているようだ」
私の報告を聞いたエツィオが浮かぬ顔をして報告をする。受肉に関してなぜか消極的なエツィオは、それでも私の指示通り、プロジェクトを監視してくれていた。
デズモンドのDNAからフェニックスプロジェクトの前の段階である、“指導者”の作成はまだ打ち切られてはいない。
培養器の中での成長過程のデータを眺めながら、これを廃棄するのも勿体無い。
使い捨てとしてアサシンを掃討するための兵士を創り上げる価値くらいはあると判断したのだろう。
そしてまだ培養液の中で胎児のように蹲る、小さな個体の画像データを選び手元に表示させた。
「…この個体が、一番俺の幼いころに似ている」
「ああ。文字通りエツィオ・アウディトーレの試作と言った所か。私たちの事を相応しくないと評しておきながら矛盾したものだ」
「相応しくないのはアニムスにかける記憶の事を言っているのではないのか?」
「そうだが、その記憶がDNAの下に子に引き継がれるのなら、オリジナルと同じ道を選ぶことも十分あり得る。それに、これは本物のエツィオとなる」
その個体の画像を見つめ、思わず笑みを浮かべる。
そんな私の顔を見るなり、エツィオが呆れた顔をしてため息を吐いた。
「まるで悪役だな。その凶悪な面はどうにかならんのか」
「良い男だから悪い顔をしても様になっているだろう?」
「言ってろ。他の個体のデータも見るだろ?」
エツィオが私の前までスライドさせたデータは、“指導者”となる個体の名簿だった。
幾つかのデータを念のため確認する。そしてその中のデータの一つに、ピタリと手が止まった。
エツィオのDNAを持った先ほどの個体よりも、一回り程小さなモノ。
培養器の端には器にと望んだ個体の後続の番号が打ち込まれていた。
「都合のいい事に同じ遺伝子配列の子供がもう一体いる」
「素晴らしい。これで同じ者を作らせるよう働きかけられないか、アサシンにオーダーする手間は省けたな」
するりとエツィオが私の服の袖を掴む。
控えめに私の注意を引き、やはり乗り気ではない態度でエツィオは私に疑問を投げかけた。
「受肉したとして、その後はどうなる?」
「勿論アブスターゴから逃げ出す。まずは協力してくれる、私に心酔するアサシンを増やす事から始めよう。一人だけでは心許ないしな」
「…その後は?」
愁いを帯びた顔で目を伏せ、私に未来の事を尋ねる。
彼の意図が分からず、そして何故そんなに現実世界へと、また人へと生まれ落ちることを拒むのか、私は彼の真意を尋ねた。
「貴方はまたアサシンとして、血に濡れて生きたいというのか」
「お前が渋っているのは、それが理由か?」
不安そうに揺れる瞳が私を縋るように見上げた。
束の間の平和とはいえ、他者の血から遠い生活をして、私たちの心が、エツィオの魂が疲れ切っていたのを自覚したのだ。
現実世界にアサシンの力を借りて発現すれば、きっとアサシン教団は私達を担ぎ上げる。
長く己の人生を歩めなかった私達は、また同じように心を殺して闇に生きる事など望むはずがない。
「完全に関りを断つことは出来ないだろう。だが、私達の人生を諦める気もない」
「どうすると言うんだ」
「受肉したとして、体は10歳にも満たない子供だ。アブスターゴを抜け出し、アサシン教団に保護されても即利用される訳ではない。やりようはいくらでもある」
外へ出ればこそ、可能性は広げられる。
また私達は、精度は劣るが幾つものシミュレーションを行い、ミネルバが使ったような未来視をすることだって出来る。
「お前はその年齢の頃の記憶に引っ張られ過ぎだ。少しは吸収した知識と、未来に起こり得る事象と対処法を計算する方法を学べ」
「アンタが柔軟過ぎるだけだ!」
拗ねたように文句を言うエツィオの顔には、もう憂いは見受けられなかった。
一頻り彼の私への罵倒が終わると、私はまた挑発するように彼に尋ねてやった。
「で?まだ現世に蘇るつもりにはならないか?」
「アンタの人生にストッパーがいた方が良いだろう。仕方がないから付き合ってやる」
私がしたように、ニヤリと悪役のような笑みを見せて彼は了承した。
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