@acbh_dmc4
エツィオを部屋へと帰し、私は狐に声をかけた。
先程エツィオに確認する際、念のため部屋に隠れて居てもらったのだ。
エツィオにアサシンの事を話すつもりはなかった。
それと、あの子の聡明さを思えば、あの子をアサシンとすることすらも私は迷っていた。
「ジョバンニ、あの坊やはとんでもない爆弾を投下したもんだな。まさか予言者の事を持ち出し、挙句アサシンについて、名前まで言い当てるとは…アンタがそこまで情報を筒抜けにさせるとは思えんし、写本に書かれていた『予言者』が本当に現れたのかもしれないな」
「馬鹿を言うな。あの子は予言者などではない」
息子に言われた言葉がぐるぐると頭の中を巡る。
エツィオが口走った内容は流石に看過出来ない事が殆どだった。
それこそ神に啓示を与えられたが如く、未来に起こる事実を話しているような鬼気迫るものがあった。
「だが、そのロドリゴ・ボルジアと言うのは念のため調べておいた方が良いのでは?」
「子供の戯言を信じると?」
「俺には、ただの子供には見えなかったね。長男をあしらうあの坊やの姿を見ていれば、お前の意見も変わるだろうよ」
狐は手に持ったナイフを遊ばせながら、何かを思い出す様にして言い募る。
「まるで弟子を指導するマスターアサシンのようだった。動きも良い。直ぐにフェデリコも坊やに対して真剣に学ぼうとしていた。
あの坊やの言っていることが戯言だったとしても、あれは天性のアサシンに違いない」
「エツィオには出来ればアサシンではなく、表社会で生きて欲しいと思っている。あの子は我が子ながら聡明だ。
光の道が似合う。それに、アサシンも一枚岩ではだめだ。アサシンの事をいつか伝えようと考えてはいるが、そこに関わらせるつもりはない」
「だが、テンプル騎士団の勢力は小さくない。今はアサシンが優勢とはいえ、いずれ拮抗することになるかも。
あの坊やをアサシンとして育てた方が教団の為にもなる」
「狐、これは私の判断だ」
ギロリと睨みつければ、狐は肩を竦めてそれ以上は口を噤んだ。
才能があったとして、心根が優しく素直過ぎるエツィオにアサシンの仕事は荷が重い。
成長過程で彼の適性をその都度見る気はあるが、恐らく非情になり切れない性質の彼は、その心の清らかさゆえに自らの命を、そして教団を危険にさらすだろう。
もうこの話は終いだと、狐に退出を促した。
「ジョバンニ、俺は坊やの話を全部聞いておくべきだと思うね」
「狐」
「無理にとは言わないさ。あと、関わるなって言うなら今まで通り俺はそれに従うよ。マスターアサシン殿」
狐はそれだけ言うと、直ぐに窓から街の宵闇へと姿を消した。
*****
俺はアネッタに送られて部屋へと戻った。
恐らく数日の謹慎を言い渡されるのだろうと、父上の表情の厳しさを思い出してため息を吐いた。
本当はあんなことを言うつもりではなかった。
でも、改めて父上の顔を見たら、自ら荼毘に付した、冷たくなった父上やフェデリコにペトルチオの顔が脳裏を掠めたのだ。
自分が下手を打ったという自覚はある。
きっと父上は俺の正気を疑っているに違いない。
そして父上たちの処刑は今日明日の話ではないし、猶予はそれなりに残されている。
父上の動向をこっそり確認していよう。
そして自分もフェデリコの様にアサシンの訓練を頼んでみようか。
アサシンとして訓練を受けさせてもらい、早々に実践にも出させて貰えるようになれば、父上達を罠に嵌める証拠を掴むことが出来、処刑を阻止できるはずだ。
そうなれば俺自身動きしやすく、何も出来ぬままただ悲劇を見ているだけにはならないだろう。
それに、フェデリコが生きていれば、俺がアサシンの長にならなくても良いだろう。
兄は人を引っ張っていくのが得意だし、俺もそこまで教団のために心血を注いで働かなくとも済む。
そもそもあのエツィオは、復讐心に駆られ、また人を信じられなくなった心の穴を埋めるために必死で教団に奉仕している印象を受けた。
「それに折角エツィオに生まれたんだし、金も地位もある。その上綺麗な女の人にもチヤホヤしてもらえるだろうし、堪能しないと勿体無いよなー。俺もモテなかった訳じゃないけど!」
鏡の前に立ってキメポーズをとってみる。
ニヒルに笑ってみたが、まだまだ幼いエツィオの顔は可愛らしく、格好いいと言うよりは女の子のように可愛らしい。
正直クラウディアの着ているようなドレスを着た方が似合うんじゃないだろうか、と鏡の中の自分を見ながら危ない事を思った。
だって子供って男も女もあんまり大差ないと言うか、整った子はみんな女の子みたいな見た目してるよな。
特にこの時代って男でもフリルの服着るし、俺はただでさえ女の子みたいな顔しているのに、このゆるふわな長めの髪ってもう半分女装じゃないか?
せめて今度から髪の毛を後ろで結ぼう。
しかし、若いエツィオって俺初めて見るんだよな。
アニムスで追体験した時ってアルタイルの時もそうだったけど、何故か全部俺の顔だったし。
エツィオが50代くらいのイケオジになった時は本人の顔だったけど。
格好良かった。それで平気で20も年下を口説くんだもんな。つくづくイケメンは得だ。
お、俺はハンサム寄りだったから!ちょっと目が垂れ気味で愛嬌があっただけで。
「エツィオ?鏡の前でなに百面相してるんだ?」
鏡を見て唸っていたら、いつの間にか部屋に入って来たらしいフェデリコに、怪しい奴を見る目で見られていた。
人の部屋に入るときはノックをしろよ!と内心思っていたら、「ノックならした」とフェデリコに突っ込まれた。
何この兄貴、エスパー?
「えすぱーってなんだよ?っていうか全部口に出てるから」
「えっ!」
思わず口を両手でバチンと塞いだが、今更だし、とフェデリコが苦笑した。
どことなく元気がないその反応に、俺はもしや先ほど俺が父上に言ったことでフェデリコが叱られたのではと思った。
「お前、俺がアサシンの訓練受けてるっていつ気づいたんだ?」
「それで父上から怒られたの?」
「ううん。父上にはさっきエツィオにアサシンのこと言ったのかって聞かれただけ。俺はお前に気付かれてるのも知らなかったから、正直にそう言ったし、もしかしたら自分で技の練習しているのを見られてたのかもって話したけど、怒ってはいなかったよ」
「でも、じゃあなんで元気ないんだ?怒られたからじゃないのか?」
フェデリコは俺の顔をジッと見つめて、困った顔をして小さく微笑んだ。
そして物憂げにふぅと小さくため息をつくと、少しだけ躊躇して話し始めた。
「お前にあそこまで手も足も出なかったんだ。普通にへこむ」
「お、俺は避けるのが得意だっただけで、フェデリコをノックアウトしたのだって運が良かっただけだよ。偶然が重なっただけだって!」
「俺、途中から本気で殴りかかってたし、お前は避けるのに余裕があった。多分、実力差ってやつだ。俺だって父上に稽古をつけて貰っているんだからそれくらい分かるんだよ」
思わず口を噤む。
だって俺はアニムスでエツィオの50年分のアサシンとしての技術を習得していたのだ。
導師にまで上り詰め、教団を引っ張っていった経験もある。
それにエツィオだけじゃない。
天才と言われたアルタイルやコナーの人生も体験して、若干9歳にしてかなりの経験を積んでいる。
小さな手足で、そして異様に軽い身体で火力は出ないが、どんな戦い方をすれば良いか、理解しているのだ。
「お、俺もアサシンになりたくてこっそり練習してたんだよ」
「けど一人で練習して俺よりも強いって、お前の方がアサシンとしての才能があるんだな」
フェデリコはガックリと項垂れて打ちひしがれているが、俺に言わせれば幼いながらに十分才能に溢れ、将来は相当力のあるアサシンになるだろう。
けど、ここで慰めたらきっとフェデリコは怒るよな…
フェデリコの顔色を窺っていると、ふと先ほど父上に訴えた事を思い出した。
あまりにも荒唐無稽な話を父上に話そうとして遮られてしまったが、年の近い子供であればある程度柔軟に信じてくれるのではないか。
もしフェデリコが信じてくれれば、きっと悲劇を回避できる足掛かりになる。
「なぁ、あのさ…もし俺が、未来に起こることが分かるって言ったら信じるか?」
「なに言ってるんだ?」
「さっき父上にも言ったんだ。当然信じてくれなかったけど。当たり前だと思う。けど、俺は一度アサシンとして生きた記憶がある。勿論俺はその記憶が本当にならなければ良いって思ってるし、実際その記憶を違うものにしたいから行動を起こそうと思ってる」
「エツィオ?」
「父上は処刑される。今から8年後、テンプル騎士団の罠にかかって。アルベルティ判事が父上を裏切るんだ」
「アルベルティ?彼は父上の親友じゃないか!アサシンの味方でもある」
「メディチ家に財産を抑えられた事を恨みに思って、そこにテンプル騎士団が付け込んだんだ。黒幕はロドリゴ・ボルジアだ」
そこまで捲し立てると、フェデリコはポカンとした顔をして俺の顔を眺めた。
「おかしいこと言ってるのは分かる。でもこれが本当になったら嫌なんだ。俺の妄想だって、そんなのはただの悪夢なんだって信じたい」
「うーん、急には信じられないけど…」
「俺が言う事が本当になるなんて確証なんてない。だけど、俺の知ってる状況とか、アサシンとテンプル騎士団の関係とか一致すれば証明になるかも。まずはそれを調べたいんだ」
フェデリコは半信半疑と言った顔で俺の話に耳を傾けてくれた。
そして俺がアサシンの修業を受けたいと言うと、神妙に頷いて肯定してくれた。
「じゃあ、俺からも父上にアサシンの修業が出来る様に掛け合ってやるよ。どの道アサシンの事を知られているのだし、駄目とは言わないだろう」
「ああ。そうしてくれると助かるよ」
「あと、今後の事どうしたいのかも、お前の知ってることを話してくれ」
「ああ、じゃあ―――…」
フェデリコに全てを話そうと口を開いたとき、ノックの音が部屋に響いた。
二人扉を振り返り、そして顔を見合わせる。
一先ず返事をすれば、父上が扉を開けた。
「フェデリコ、エツィオは暫く謹慎させる。部屋に戻りなさい」
「父上、俺はもう平気です。エツィオももう反省して…」
「フェデリコ。いいから出るのだ」
厳しく言い据える父上に逆らうことはできず、フェデリコは心配そうに俺を振り返り、父上に促されて部屋から出て行った。
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