@acbh_dmc4
3日間の謹慎が明けて、書斎へと呼ばれる。
入室の許可を得て扉を開けると、フェデリコも父上の書斎机の前に立ち、俺が隣に来るのを待っていた。
「エツィオ、フェデリコにアサシンになりたいと言ったようだが、今の所お前をアサシンの後継者にするつもりはない」
きっぱりと断言されてしまった。
父上の顔は厳しく、フェデリコも項垂れて、俺にすまなそうな顔を向けた。
「…はい。ですが、護身用にトレーニングする位は良いでしょう?」
「フェデリコとのトレーニングならば禁止する」
「何故?」
「とにかく、この件にお前を関わらせる気はない。今後、自ら関わるようなことがあればそれなりの対応を取らねばならん。
無論、フェデリコ。お前もだ。良いな?」
一層厳しい顔でまるで叱責するかのように言いつけられてしまい、閉口した。
父上にあんなことを言った後、フェデリコにアサシン修行を頼んだのが不味かったのだろうか。
ここまで拒絶されるなんて…
父上に修行をしないことを約束させられ、フェデリコともども書斎を出された。
アニムスで見た時は、俺が夜遊びして帰って来ても笑って許してくれて、俺の親父よりは話が分かりそうな感じだったんだけどなー
思わず大きなため息をついてしまい、それを気まずそうに聞いていたフェデリコが俺に謝罪した。
「すまない、エツィオ。この3日、俺なりに父上を説得してたんだけど」
「ううん、有難う。でも、父上の手を借りれないとなると…他のアサシンも頼れないってことかな」
「他のアサシン?」
「うん。マキャベリの所は、代々アサシンだったかな…でもニッコロは今年生まれたばかりだし…
あと、狐とかパオラとか。アネッタもアサシンの協力者だし」
「それも未来視ってやつで知ったのか?」
「うん。でも父上がアサシン教団の長なら、俺に関わらせるなって言ってると思う。でも他のアサシンに実力を見せれば何とかならないかな」
うーんと考えを整理する。
フェデリコはポカンとした顔をして、俺を眺めた。
「やっぱり、着地を失敗して怪我した後からお前、変わったよな。あの辺りで未来視が出来るようになったのか?」
「うん。未来視っていうか、思い出したみたいな感じ。未来を思い出すってちょっと変だけどな」
しかし、数百年後の未来で俺……デズモンドの記憶を持ったエツィオを解析することになる者達は物凄く混乱しそうだな。
しかもさらに未来のデズモンドが今の俺を解析したらどうなるんだ?俺が俺を解析するなんて、頭がおかしくなりそうだ。
いや、それよりもこれから俺が未来を変えるのだし、太陽フレアの事を研究するようにアサシン教団に厳命すれば、俺が死ななくてよくなる未来を作り出せるかも!
エツィオの家族を守って、未来の俺の死亡フラグも折れるとなったら願ったりだ。
そうだそうだ!その方向でいこう!
よしやるぞ!っと決意を新たに両手の拳を天空に向かって振り上げる。
フェデリコは全然へこたれていない俺を見て、ホッとして笑顔を見せた。
「父上にはああ言われたけど、俺とも稽古しよう。けど、俺が教わる形になりそうだけどな」
「うーん、街中は盗賊たちの目で直ぐに行動がバレそうだし…屋敷の中も当然父上の協力者達ばかり…出来るかなぁ」
「難しいか…でもエツィオも未来ではアサシンだったんだろ?」
「うん。導師にまでなったよ」
どうあってもそのエツィオの人生の経緯は悲しいものだ、少しだけ居心地悪くそう告げれば、フェデリコは不思議そうに小首を傾げた。
「導師にまでなったんだからすごいじゃないか。それで、俺はどんなアサシンになったんだ?」
「フェデリコ、は……」
ゾクリと背筋に怖気が走った。
無邪気に聞いてくるフェデリコの視線が酷く痛い。
とてもじゃないが、残酷な未来を正直に告げる事などできない。
どうしようか、と考えて、俺は咄嗟に自分の願望を口にした。
「…フェデリコも、俺と同じ導師だ!俺とマキャベリが側近で、フェデリコがアサシン教団の長になるんだ」
そうだ。あんな未来は繰り返さない。
フェデリコはあの裁判を生き残って、将来はアサシン教団の長になる。
俺は、それを傍で支える。そして、テンプル騎士団を倒して二人でアルタイルの書物庫に探検に行くんだ。
そう己に誓うように、フェデリコに未来の姿を話せば、輝くような笑顔を見せてくれた。
*****
父上からアサシンの訓練を断られてから、俺に新たな家庭教師がついて、いつもの倍以上の教育が始まった。
今後銀行家の仕事を俺が継ぐと言う事だったが、経済や経営学の外に特に必要もなさそうな音楽に芸術に何故か裁縫等、クラウディアのような子女が学ぶようなことまで組み込まれてしまった。
最初の内こそ、大人しく従っていたが、遊ぶ暇もない程詰め込まれれば、普通の子供だって反発する。
取り合えず俺は、銀行家には必要ではなさそうな物に関してはこっそりと抜け出して、目的を達成する事に努めた。
今の俺の目的は、狐を見つける事。
フィレンツェの盗賊ギルドの場所は知っていたが、そこに子供が堂々と尋ねる訳にもいかない。
ギルドを仕切っているのは恐らく狐だろうが、父上から俺との接触禁止を言い渡されているかもしれないし、交渉するなら狐に追いつく必要がある。
とはいえ、俺の手足は小さく、体力だってそれほどない。
基礎体力をつけるために、筋トレや街中を駆け回ったり壁登りをしたりを日課とした。
そして今、盗賊たちを見つけてはこっそり後をつけて、人々の中に溶け込む訓練をしている。
「やっぱり手足のリーチの差で直ぐに撒かれちゃうなぁ。俺に気付いてるのかもしれないけど」
今日は折角見つけた狐に撒かれ、腹立ちまぎれに壁をよじ登って狐が通ったかもしれない屋根の上をゆっくり歩く。
大分壁登りも上手くなったと思うが、そんなに持久力はないので、屋根に上がるころには息が上がっていた。
もっと鍛錬して狐に追いつけるくらいまで体を完成させなければと気を引き締める。
「屋根に上がられると途端に着いて行けなくなっちゃうんだよな…」
「だがここまで追いかけて来れたのは見事と言う他ない」
「うっ、わ!」
背後から急に声を掛けられて咄嗟に飛びのいてしまった。
クルンと狐に向けて体を向け、咄嗟にアサシンブレードを向けるような動作で腕を前に出していた。
「反射神経も抜群だ。これを訓練しないなんて本当にジョバンニは何を考えているのやら」
「狐!」
「どこから着けていた?」
飄々とした態度で、狐が俺に問う。
未だドキドキと脈打つ心臓を胸に手を当てることで落ち着け、深呼吸をしてから狐に向き直った。
「…市場から」
「随分前から着けられていたんだな。で、さっきの構えはアサシンブレードを装着した際の構えに似ていたな」
「あー、うん。まぁね」
「俺に何の用だ?」
単刀直入に聞かれて、俺は狐が逃げないようにローブをしっかり掴んでしがみ付いた。
ここでうんと言ってもらわないと、どうにもならない。
「俺にアサシンの稽古をつけて欲しいんだ!」
「必要ないように思うがね。お前の動きは洗練されていた。正直この屋根に上がってくるまでお前の存在に気付かなかったんだ。この俺が」
「で、でも…」
「坊主。ここじゃ何かと拙い。盗賊ギルドを知っているか」
「うん。知ってる」
「じゃあ、そこにこっそり忍び込め。部屋を用意してやるからそこで話そう」
こくりと頷き、サッと身を翻して屋根からベランダの格子へと飛び移る。
良いところに藁山が放置されているのを見つけて、それに向かって飛び降りた。
クルリと体を回転させて背中から着地する。勢いよく藁山から飛び出して、人波を縫って狐の指定したギルドへと向かった。
****
盗賊ギルドの酒場へと辿り着き、こっそり裏口の戸を開けようとドアノブに手を伸ばした。
すると扉が急に開き、中から狐に胸倉を掴まれて引きずり込まれた。
強引な所作に、別にそんな風に引き込まなくたって自分から入ったのに、と思ったが、狐の非情な表情に軽口を叩く気も失せた。
「坊主。当然のようにこの場所にやって来たが、何故ここを知っている?」
「その、アンタ達の仲間を着けて……」
「ジョバンニの前で予言者を持ち出し、アサシンの上層部の人間の名を当てた、当の予言者様がこの場所を着けて知った、と?」
「あの場に居たのか?」
恐らく狐は俺の言葉を頭から否定する気はないのだろう。あの時、はじめに予言者とアサシンの名を言ったのは、俺の言葉を無視させないためだ。
「しかし、警戒心が薄すぎるな。子供だから仕方ないのかもしれないが、俺に殺されるとは思わなかったのか?」
「あなたが仲間であるというのは知っていたし、そもそも教団の教義として一般人に手を掛けるのは禁止されている。市民を巻き込む事がないとは言わないが、俺はまだアサシンでもなく、敵でもない」
「罪なき者に刃を振るうな。アサシンの教義まで知っているとは……お前は何者だ?」
「予言者、と言いたいところだが、写本に書かれている預言者になるかは現時点では未定だ」
胸倉を掴まれていた手が離れる。
狐は油断なく俺を観察し、そして優雅な仕草で俺に部屋の奥の椅子を勧めた。
素直にそちらへ腰を掛ける。
「俺はお前に関わる事を禁止されている。アサシンの稽古をつけるのは無理な相談だ」
「でも俺を無視することは出来ないだろ?アサシンの事を知り過ぎているし、出来れば監視下に置いておきたいはずだ。そのついでにちょっと訓練をして、アサシンとしての適性があるのか判断しても良いのでは?」
「……今回お前の動きを見ていて、アサシンとして完成されているのは分かっている。正直驚いたよ。咄嗟の構えや、屋根の上から藁山に飛び込む様なんか、他のアサシンと変わりなかった。だが何故だ?何故アサシンに加わりたい?
この道は辛く厳しい闇の道だという事も分かっているんだろ?」
「目的があるんだ。俺が、家族を守らなくちゃいけない」
「それがロドリゴ・ボルジアと関係があるのか?」
狐をまっすぐ見つめる。
俺の本気を見て取ったのか、狐は無言で頷いてくれた。
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