@acbh_dmc4
「ジョバンニ。この坊やにはアサシンを一人つけて監視した方が良い」
狐に連れられ父上の書斎へと辿り着くと、逃げられないようにするためか、猫の子でも摘まむ様に襟首を掴まれて、父上の前に突き出されてしまった。
分かってくれたと思ったのに!あの頷きは俺の頭を心配して「よし、病院へ連れていこう」って意味だったのか?!
せめてもの抵抗にジタバタと両手足を振り回すが、どこ吹く風でちっとも動じやしない。
「父上に言うとかっ!今度は1か月くらい謹慎させられちゃうだろ!」
「ジョバンニ、閉じ込めたところでコイツは簡単に逃げ出すぞ。一度息子の実力を見てから判断しろよ」
父上は俺と狐を見ると頭痛を堪える様に額に手をやり、項垂れてしまった。
「…何故、狐と一緒にいる?」
「この坊やに着けられていた。試しに盗賊ギルドに来いと言ったら、道案内がないにもかかわらず迷わず訪ねて来た。
どこまで何を知っているのか底が知れん」
「なんてことだ…」
父上が今度は頭を抱える。
何故そこまで拒絶されるのだろうと、思わず悲しくなって項垂れたら、父上がゆっくり立ち上がって狐から俺を取り戻し抱え上げた。
「頭から禁止したところでこの坊やは聞けるようなタマじゃない。一度実際にこの子の身体能力をお前も見たらどうだ。
前も言ったが、考えが変わると思うぞ」
「それで、今から試験をしようと?」
「ああ、早い方が良い。何に首突っ込まれて大事なアンタの息子が命を落とすか、教団を貶められるか分かったもんじゃない」
狐は始終すまし顔で父上に物申していたが、この流れは俺に加勢してくれているという事なのだろうか?
狐の意図はどうであれ、俺が無視できない動きをすれば、父上からもアサシン教育の許可を貰えるかもしれない。
これはチャンスだ!
渋々と言った体で父上が俺を連れて中庭へと移動する。
その姿を見たフェデリコも一緒に中庭へ来ると、そこには既に盗賊が2人ほど武器一揃いを持って待っていた。
父上が微妙な顔をすると、狐は俺に武器を選ぶようにと言い、盗賊二人を相手に模擬戦をすることになった。
俺は扱いやすい小剣を手に取り、相手となる盗賊を見定める。
一応俺の年齢を考えて比較的年の近い、若い盗賊の少年が相手のようだ。
年のころは15・6歳と言った所か。
握った小剣を手になじませるように軽く振り、感覚を掴む。
最初は少々重みに振り回されそうになったが、難なく感覚を取り戻し、意のままに動かせるようになった。
軽く息を整えて演習の為庭の中央へと進み出る。
相手を務めてくれる少年は、俺を子供と侮らぬ真剣な顔で対峙していた。
狐が指定したのであろうか、それだけあって俺に対しても油断せずに対峙する。とても有望そうな少年だ。
「では、模擬戦を始める。用意は良いな?始め!」
少年は短剣を突き出すような構えで、俺から距離を取る。
俺は構えたまま少年の動きを注意深く観察し、どう動くかを見極めていた。
こちらが動かないでいると、少年は意を決したように低く体を構え、弾丸のような速さで突進してきた。
少年の突き出される短剣を小剣の腹で軽くいなす。
剣を滑らせるようにして流してから思い切り青年の足を払って態勢を崩してやった。
足技は得意なのだが、如何せん軽く小さな体は全力の蹴りでも大したダメージは入らない。
攻撃にはならないが、不意打ちにはなったのを良しとし、少年が体勢を崩したと同時に手の短剣を俺の持つ小剣で弾き上げる。
そのまま流れる動作で少年の首元で小剣を寸止めする。
一瞬で勝負が決まり、辺りはシンと静まり返っていた。
少年の首元から剣を引き、しかし油断をせずに少年の動向を観察する。
恐る恐る少年が立ち上がり、そのまま俺から離れて短剣を拾った。
「…そこまで」
ようやく我を取り戻した狐が一回目の模擬戦の終了を口にした。
俺は次に挑む武器を2振りの短剣に変え、もう一度庭園の中央に立った。
くるると手の中で短剣を遊ばせ、剣を逆手に次の対戦者を待つ。
もう一人はどことなく見覚えのある中年の盗賊が進み出た。
次は俺の方から仕掛ける事にする。
足に力を入れ勢いよく盗賊の懐へ飛び込み、手の短剣を持ち直して切りつける。
難なく盗賊の短剣で弾かれたが、間髪入れず蹴りを相手の胸に繰り出して、後ろへと飛びずさり、また撥ねる様に横へと移動してもう一度盗賊に飛び掛かる。
火力こそないが、すばしっこい動きで細かく攻撃してやれば、盗賊から仕掛ける事はなかなかできず、焦りに顔が歪んでいく。
相手の余裕を剥ぎ取るように、また単調にならぬよう縦横無尽に飛び回って、ついに盗賊の手から短剣を弾き上げた。
俺を抑え込もうと何も持たない腕が、首元目掛けて伸びてくる。
その腕を軸棒代わりに腕を絡め取り、くるりと盗賊の背を転がる。
そのまま地に着地をせずに、盗賊の背中におぶさるようにしてしがみ付いて首元に短剣を突き付ければ、今度は狐が調度のタイミングで終了の声を上げた。
わっと盗賊の少年とフェデリコから歓声が上がる。
「ナイフ無げはどんなものかな?坊主、これは扱ったことがあるか?」
狐に楽しそうに5本の投げナイフを渡されて、的代わりの木の板を5か所に配置される。
要望通り、2つの木の板は1つ1つ、3つの木の板を一気に突き刺せば、愉快そうに両手を叩いた。
「ジョバンニ、さっき娼婦を呼んで来るように言いつけたから、人ごみに紛れる技と、スリの腕を確認したら調度日が暮れる。
勿論坊主の早駆けも確認するだろ?」
「何故スリ等やらせる?流石にそれは…」
「うーん、身長がないから自然にスれるか分からないけど、やってみたいな」
「スッたことがあるのか?!」
父上が目を剥いて俺に問い詰める。
流石にこの姿ではやった事がないので素直に無いと答えたが、疑わしそうに俺を見つめていた。
風景に溶け込む技と(と言っても体が小さいのでほぼかくれんぼみたいなものだったが)同時にスリも難なくクリアすれば、父上は呆れたような顔になり、フェデリコは目をキラキラさせて俺を褒めてくれた。
「さて、坊主。最終試験だ。俺を追いかけろ。あんまり難しい道は選ばないから安心しろ」
「屋根に登られるとキツイんだけど…」
「まあ坊やが簡単に登れる場所もある。そこら辺は選んでやるさ。ジョバンニ。アンタは坊やの後をついてやれ」
日が落ちて人の顔も朧げに見える程度になった頃、父上はアサシンの装束に身を包み、俺は顔を隠すよう頭巾付きの薄い外套を羽織り外に出た。
狐を追いかけるのは本日2度目になるのだが、加減してくれるとは言え、すばしっこい彼を追うのは骨が折れる。
駆けだした狐の後を全身全霊で追いかける。
流石に道を選んでくれているようで、塀の上へと上がる際には商店の壁に置いてある空樽の近くだったり、木箱などが積みあがっている場所から降りたりと気遣いがあった。
背後を軽々と父上がついて来て、俺は少しだけ心が浮つくのを感じつつ、それでも真剣に狐の後を追った。
屋根の修繕のために置かれたであろう長い梯子を登って屋根の上へと出て、家と家を渡しているロープの上を猫の様に駆け渡る。
大人の体で渡るよりも、小さなこの体でかける方が安定感があり、狐に少しだけ追いつきそうになったが、それを見るや意地悪く、少々登るのに苦労するコース取りをされてまた距離が空いた。
高い壁を前に、父上が俺に手を貸そうかとオロオロしている姿をしり目に、近くの煙突を駆け上がってから後ろの壁にジャンプすれば、ギリギリ壁を超えることが出来た。
思わず父上にどうだと振り向けば、何処か嬉しそうに微笑む気配がした。
屋根の上を静かに駆け抜け、見張りの番兵がいる隣をこっそりと駆け抜ければ、狐が遥か屋根の下にある藁山に向かって飛び込んでいった。
これには父上が抗議の声を上げかけたが、俺は父上に振り向いて笑みを見せると、昼間に飛んだように、藁山目掛けて屋根瓦を蹴った。
背中に声にならない叫びを聞いたような気がする。
空中で猫の様にくるりと体を反転させて屋根の上の父上を振り向く。
驚愕に目を見開き、俺に向かって手を伸ばし空を掴んでいる姿が見えた。
どさりと藁山へと飲み込まれる瞬間に瞼を閉じて、雪崩れ込む藁から目を護る。
そしてサッと藁山から地面に躍り出ると、父上の居る屋根の上を見上げて大きく手を振った。
一拍置いて今度は父上が藁山へとダイブする。
俺と同じように藁山から飛び出ると、俺の目線に合わせて膝を着いて怪我はないかと尋ねられた。
「大丈夫。多少衝撃はあるけどちゃんと口を閉じて顎を引いてたから」
「見事なものだ。まるで何度も飛び込んだ事があるようだった」
苦笑して俺の頭を撫でてくれる。
そして背中を押されて狐との追いかけっこを再開すると、直ぐゴールのアウディトーレ邸へと着いた。
父上から念のため体に傷やら痣やらがないかと、アネッタに服を剥かれて確認されたが何の問題もなく、本日の試験は無事終了となった。
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