@acbh_dmc4
エツィオとフェデリコを部屋へと帰して、狐と書斎へ戻る。
狐は勧める前に近くの長椅子へと腰を掛けると、私に向かって両腕をあげ、どうだと言わんばかりにエツィオの身体能力の凄さを評価した。
「坊やの動きはアサシンそのものだ。無駄がなく、状況判断も早い。加減したとはいえ、早駆けも難なく着いて来た。
これでまだ9歳ってんだから末恐ろしいね!」
「まさか、あれ程とは…開いた口が塞がらないとはこのことだよ…」
どっと疲れが出て、執務机の椅子へと深く腰掛けた。
エツィオには最初から度肝を抜かれた。
模擬戦に使用する武器はどれも実践に使用するものだった。数ある武器を吟味し、一番状態の良いものを選び取った挙句、それを使い慣れた武器の様に振り上げ、また振り下ろしてその感触を確かめていた。
それだけでも驚いたと言うのに、自分より体格が上の盗賊の少年を目の前にしたエツィオの表情が、一瞬にして冷徹なものに変わった。
まるで既に肉を絶ち命を屠る感覚を知るアサシンの様に、一切の情が消えうせ、静かながら殺気を漲らせて目の前の敵に相対していた。
少しでも侮ればこちらがやられる事を盗賊の少年も本能的に察知したのだろう。小さな子供を相手に全力で向かっていった。
それなのにその小さなアサシンに軽くいなされ、そして弟子に訓練をつけるマスターアサシンの様に軽い剣捌きで自分よりも体格が良い少年を軽々と転がしたのだ。
次の大人の男との模擬戦も同様だ。
確かに強さでいえば狐の盗賊団一という訳ではなかったが、それなりに力や知恵のある者だった。
子供である自分の力の無さを十分知っているエツィオの戦術は、感心しきりであった。
「あの子は『予言者』だと思うか?」
思わず狐に尋ねていた。
あまりにも子供離れしているし、明らかにいつものエツィオとは変わってしまっていたからだ。
「そもそも、盗賊ギルドで話したときに『予言者』についてさえ、何かを知っているような感じだった」
「なんてことだ…」
狐の言葉に眩暈が起こる。
よもやあんな小さくしてアサシンの使命を負おうとしているのだ。まるでそれが天命であるかのように。
「写本に書かれている予言者が彼なのであれば、我々にとっては安泰なのでは?」
「だが、それを知られればテンプル騎士に狙われるだろう。それに予言者が何をもたらす者なのかは未知数だ」
「では、坊やに知っていることを聞くか?」
「ああ。そのつもりだ。それと、あの子が予言者であるかもしれない事や、今回示されたエツィオの実力は他言しないように頼む」
「ああ、分かった。今回相手になった者達にも言っとくよ」
途中から参加となった娼婦たちは問題ないだろう。
エツィオの人々に紛れる技はほぼお遊びのようなものだったし、スリの技に関しても少し手癖が悪い程度で済んだだろう。
異様な雰囲気に勘の良い女たちは少しだけ不審な顔はしていたが、私がエツィオにアサシンの修業をつけさせるかテストをしている程度にしか思わなかっただろう。
しかし、私はあの子はアサシンには向かないと思っていた。聡明で心優しい彼は非情になり切れない性質であろうと。
そして彼の明るい性格は、光の道こそ似合うだろうと思っていた。
だからフェデリコとは違い、表の顔である銀行業を継がせ、力をつけさせようと考えていた。
アサシンも一枚岩では居られない。必ず表舞台に影響力を持つ人間の存在が必要になる。
その為に、エツィオに表を任せたかったのだ。
だが、今日のあの子の姿を見て考えが変わった。
「エツィオの今後の処置についてだが、あの子は私の兄に任せようと思う」
兄マリオの元でならきっとあの子を正しく導いて貰えるはずだ。
ここで本格的なアサシンとしての訓練をするにはあの子には不十分だろうし、思い切り鍛錬するのなら、マリオの下で指揮を含めて学ぶのが良いだろう。
そう告げると、狐も納得したように頷いて賛成してくれた。
「今夜はどうする?食事を一緒にとっていかないか?」
「いや、俺はギルドに帰るよ。アンタはゆっくり家族団欒してやればいい。坊やは長く預けるんだろう?」
「うむ。そうだな…幼いエツィオには酷かもしれんが…」
「どちらかと言うと他の兄弟が悲しがるだろうな」
狐の指摘に苦笑する。
確かに今のエツィオは老練した落ち着きを感じさせるし、寂しがるのは我々家族の方なのだろう。
まるで人が変わってしまったようにも思うが、あの子はエツィオで間違いないとも思う。
「おや、既にジョバンニの方が寂しがっているようだな」
「こんなに早く大人になられてしまうと親は寂しいものだ。今夜はエツィオに話を聞いてみるよ」
****
一頻りフェデリコに技の質問攻めにあった後、皆揃って夕食になった。
俺にとってはこの毎日の家族が揃った温かな夕食は何よりも幸せな時間だ。
弟妹の面倒を率先してみてやり、フェデリコとくだらないやり取りをするのが楽しくて仕方ない。
楽しい家族団欒を終えると、父上が俺を呼んでそのまま一緒に俺の部屋へと向かう事になった。
二人ベッドへと腰掛け、優しく、そして俺の意思を確認するように父上が問い掛けた。
「エツィオ、お前は本当にアサシンになりたいのか?」
「うん。俺、父上もフェデリコもペトルチオも、皆を護れるくらい強いアサシンになりたいんだ!
だから、俺にも訓練をつけて欲しい。勿論今までみたいにちゃんと銀行業の勉強もするよ。父上みたいに稼業との両立もしてみせる」
「アサシンとなれば闇に生き、苦しむことも多い。それを承知でアサシンになると、そう言うのだな?」
「うん」
父上の言葉に力強く頷けば、とても寂しそうに微笑まれ、優しく頭を撫でられた。
「私はお前に銀行業を継がせ、日の当たる道を歩んでもらいたいと思っていた。勿論、私のアサシンとしての仕事の事もいつかは話すつもりでいた。お前に表の世界を任せ、フェデリコに陰で活躍してもらう。アサシンにとっては財政も重要だからな」
「はい。そちらも疎かにするつもりはありません。それに、我が家にはペトルチオも居ます。弟はとても賢い。きっと力になるでしょう」
ペトルチオは体の弱さも相まってきっとアサシンになる事はない。ならば、表の稼業は弟を中心に据えればきっと俺の両立も難しくないはずだ。
アサシンとなることを譲る気はないのだと示せば、父上は重く頷いて分かったと言ってくれた。
しかし父上が何かを迷うように俺の顔を伺い、視線を合わせる様に床に膝を着いた。
「…最近、夜に魘されているな。しきりに私やフェデリコ、ペトルチオの名前を呼んでいた」
「えっ…」
父上が心配そうに俺の顔を眺める。
アニムスに掛かってからよく悪夢に魘される様になっていたが、この体に生まれ変わってもどうやら同じのようだ。
外に聞こえるほどに魘されていたのかと思うと、恥ずかしいと同時にヒヤリとする。
俺、他に変な寝言なんて言ってないよな?
「お、俺そんなに煩かった?」
「いいや、ここ最近のお前を気にかけて、ちょくちょく様子を見ていたのだ。お前が毎夜魘されるのはアサシンになりたいことと関係があるのか?
エツィオ、お前の知っていることを話してくれ。
狐が言っていたが、お前は予言者について何か知っているのか?お前が、予言者なのか?」
手をぎゅっと握られて、父上が真剣な顔で俺に尋ねてくる。
本当のことを話したとして、どれくらい信じてもらえるかは分からない。
だが俺自身、自分のこの記憶が、この世界で本当に起こる事なのかを確かめたい気持ちがあった。
一先ず、エデンの欠片についてを父上に話してみたら良いのではないだろうか。
そして、俺のこの記憶が正しいことが分かれば、父上と兄弟の処刑を知らせ、止められるかもしれない。
「バチカンのシスティーナ礼拝堂の地下に先駆者の宝物庫があるんだ。
宝物庫を開く為にはエデンの杖と、エデンの林檎が必要で、林檎はキプロスに眠っていて、杖は教皇が所持している」
ここまでを一気に言ったが、父上は俺の言葉を遮ったりはしなかった。
驚いた顔はしているが、真剣に受け止めてくれているのが分かる。
「二つの秘宝が揃うとき宝物庫の扉が開かれ、中に入った者が未来の天変地異の予言を授けられる。
アルタイルの写本に書かれている予言者はそれを未来に伝えるためのものだ」
「未来の天変地異を?では、誰かが予言者と定められているわけではないと?」
「うん。予言者は最初から居るわけじゃなくて、宝物庫に入った人間が予言者になるんだ」
父上は一つ頷くと俺の言葉を促した。
どうやら知っていることを全て話せという事らしい。
「エデンの林檎は危険なものだ。アレは人の意思を奪い、支配する力がある。命すらも奪える兵器だ。
あれをテンプル騎士団に奪われる訳にはいかない」
「そうか。お前はそれの在処に心当たりがあるのか?」
「宝物庫で使われる秘宝の一つはキプロス島にあるという事しか知らない。あとはマシャフにあるアルタイルの書物庫にも別の林檎が一つ。
そちらの書物庫の鍵の在処は知ってる。書物庫の鍵の在処を確かめて貰えれば、俺の話が本当だって分かるかも」
「他には?」
「これで全部だよ。書物庫の鍵を探してくれる?」
父上を見れば、顎に手を当てて俺の話を整理しているようだった。
しかし作り話だとはねのける様な気配はない。祈るような思いで俺は父上を見上げた。
「…信じられんような事ばかりだが、私が得た情報がこうもお前の口から出てくると、無下にできないな。
他にも私に言っていないことがあるのだろう?それは今話す気はないのか?」
「うん。確証の無いことだから…それに、俺をアサシンとして認めてくれるなら自分で何とかする」
「……わかった。協力してくれそうな者に手紙を書いておこう。それと、お前の訓練に関してだが、マリオの所に送る。
そこでなら思い切り鍛錬できるだろう」
父上の言葉に嬉しさがこみ上げる。
これで父上たちの処刑を止められる確率が上がる!
「有難うございます。父上!」
心から喜んで父上に抱き付けば、複雑そうな顔をして俺を抱き締め返してくれた。
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