@acbh_dmc4
父上の提案から数か月後、伯父上のいるモンテリジョーニへとやって来た。
俺との別れを惜しんだ家族が、皆一緒にモンテリジョーニへと旅行がてら1週間ほど滞在する。
その為、父上は休みを捻出するために多忙な毎日を送っていた。
一人モンテリジョーニへと移り住む俺の荷物で埋まった馬車が1台、家族で乗る馬車が2台での行軍となった。
俺としてはそんなに荷物は要らないと言ったのだが、母上も父上もあれもこれもと家具や洋服、武器などを新調して、相当な荷物の量となってしまった。
ようやくモンテリジョーニへと辿り着くと、外壁門の所に伯父上の姿が見えた。
3台もの馬車を見て目を丸くする伯父上に、父上と母上が説明すると、こちらはこちらで全ての用意を整えていたのにと頭をかいていた。
また伯父上といったら相当な歓迎ぶりで、俺を見るや勢い良く抱え上げ、くるくると回ってから肩車してくれた。羨ましそうに見上げるフェデリコも同じように抱え上げて抱っこしている。
子供とは言え、そこそこ大きい2人を軽々抱き上げる伯父上の逞しさに感心する。
更にクラウディアにも笑顔で手を差し出したら、怖がったクラウディアは母上の陰に隠れてしまった。
一同ヴィラへとやってくると、父上と伯父上は二人揃って書斎へと行ってしまった。
他はこの屋敷の少ない使用人がそれぞれ屋敷を案内し、客室へと向かった。
俺は一人ここに残るため、今後の住処として、最上階の一室を与えられた。
一人だけ大荷物となり、うちの使用人とヴィラの使用人総出で荷物を運びこんでいると、伯父上の傭兵からお声が掛かった。
父上たちが待っている書斎へと向かう。
扉は開いているため、俺が来たことを伝えてから部屋へと入る。
すると満面の笑顔をもって伯父上がもう一度俺を抱え上げて父上に向かい合った。
「なぁ、ジョバンニ、もういっその事エツィオを養子にしては駄目か?俺も良い年だが、傭兵団を率いて各地を飛び回っているから嫁を貰う暇もない。跡取りが居れば助かるんだが」
「もし、エツィオが望むのであれば考えなくもないが、私もこの子を手放したくはない」
「そうか…だが、なぁエツィオ。俺の息子になる気はないか?」
「伯父上…俺は伯父上の事も父上と同じくらい大好きですが…弟や妹の事も気がかりです。ですが、俺がここに居て、どうしても必要だと判断したらそれも吝かではありません」
「うん。ジョバンニの言った通りだな。達観しすぎて子供とは思えん!」
神妙な顔をして、お道化た口調で頷いて見せる。
父上はどこか困ったような顔で頷くと、俺を伯父上から受け取って抱きしめた。
ここ最近は別れを惜しむ様に、皆俺とスキンシップを計ろうとする。父上と母上が盛んに俺を抱っこしてくれるので照れてしまうが、成長すれば中々こうして抱き上げられる事もないのだと思うと、素直に彼らの膝に乗っている。
「まぁ暫くは俺がエツィオを独占してしまうからな。今日くらいは譲ってやる」
「エツィオはやりませんよ。あと、エツィオが力をつけたと判断したら、一度フィレンツェへと戻して欲しい。
私もこの子の成長ぶりを確認してから今後の事を話しあいたいからな」
伯父上は苦笑して父上と約束すると、家族の滞在中はモンテリジョーニを案内すると言い、俺と父上は揃って書斎を出た。
抱っこされたまま両親の寝室へと向かうと、部屋の入り口で目に一杯涙を浮かべたクラウディアがこちらを見つめていた。
父上に下ろしてもらうように言うと、俺はクラウディアに近寄って、どうしたのかと跪いて尋ねた。
「兄さま、おうちにかえりましょう」
「どうして?まだ来たばかりじゃないか」
「ここはキライよ…」
ポロポロと大きな目から涙を零し、俺の胸にしがみ付いて離れない。
俺がここに残る事は皆に話し、俺が学ぶ環境を確認するために家族で訪れているのだ。
馬車の中で始終浮かない顔をしていたクラウディアは、俺が一人家族と離れる事が我慢ならなかったようだ。
俺はクラウディアの小さな肩を抱いて、宥める様に背中を撫でてやり、いつか絶対フィレンツェに帰ってくるからと慰めた。
俺たちの姿を見て、母上も今にも泣きだしそうにしているのを、胸が張り裂けそうになりながら心の中で謝罪した。
しかし、家族を守るためだ。
母上も、あの時に酷く傷つけられてしまった。それを絶対に回避するためなのだ。
「クラウディア、兄さんの勝手で置いていってしまうのを許してくれ。でも、きっともっと素敵な兄さんになって、クラウディアの自慢の兄さんになって帰ってくるから、楽しみにしてて欲しい」
「ステキなにいさま?」
「そうだ。皆に自慢できるくらい、格好良くて強い兄さんになって帰ってくるよ!でも、クラウディア。一つだけ約束してくれ」
「なぁに?」
「ドゥーチョという男には絶対について行ったら駄目だぞ?アイツは…ブタだ。お前くらい可愛くて素敵な女性にはあんなブタは似合わない。もし近寄ってきたらタマを蹴り上げてやれ」
小声でクラウディアにだけ聞こえる様に言ったのだが、クラウディアが「タマ?」と復唱してしまい、聞き咎めた母上に特大の雷を落とされてしまった。
いや、でもこれは重要な事なんだ!そうだ!モンテリジョーニにいる間、伯父上の指導の下、クラウディアにも護身術をちょっとだけ習わせてもらおう。
フェデリコにもクラウディアの周りをうろつく鬱陶しいコバエが居たら、追い払うように言わねば。
少しだけバツが悪く、しかし必死で弁解していると、クラウディアも母上も大分落ち着いたようで、笑顔を見せてくれた。
父上も俺の頭を撫でてくれて、こっそりお前は優しい子だと褒めてくれる。
一部始終を見ていたフェデリコが笑いを堪えながら俺に声をかけてきた。
小さなペトルチオは、長旅で疲れたのか父母の部屋でスヤスヤと眠っていたので、起こさぬよう声を落としてクラウディアの手を握り、フェデリコと一緒に彼の客室へと向かう。
しかし部屋から離れた途端、元気よくフェデリコが俺の方に体を反転させて声を弾ませて提案をした。
「エツィオ!お前の部屋見に行こう!一番上の部屋だろ?」
「駄目!今はいっぱい荷物運び込んでるから、邪魔になるだろ?明日案内するよ」
「でもさっきチラッと見に行ってきたんだけど、梯子で登って秘密基地みたいだな!」
既に邪魔をしてきた後とは、フェデリコらしくて思わず笑ってしまう。
クラウディアはヒミツキチという言葉を聞いて、途端に目を輝かせて俺を見上げた。
「兄さま、ヒミツキチに住むの?」
「うん。明日クラウディアにも見せてあげるよ」
「やったぁ!楽しみ」
ニコニコと元気よく返事をして、聞き分けよく頷くクラウディアの頭をよしよしと撫でてやる。
嬉しそうに頬を染めて、撫でられてご満悦だ。
そんな光景に、フェデリコが俺の真似をして俺の頭を撫でてくるから思わず手を払ってしまった。
翌日、伯父上の部下数人を連れて、外壁を一周して街を見下ろしたり、街に出てかくれんぼして遊んだり子供たちでずっと一緒に居た。
そもそもそんなに子供の興味を引くような施設はないので、直ぐに現地の子供たちと合流してお勧めの遊びなんかを皆で楽しむ。
案内役の傭兵は、俺たちが怪我しないように適当に見守りつつ、木陰で休んでいた。
クラウディアと同じくらいの小さな女の子の面倒を見つつ、皆に俺流の
もし
クラウディアが一生懸命俺の事を褒めたたえて、そして自慢していたのがまた微笑ましい。
しかし俺の腕を引っ張り「兄さまはわたしの兄さまだから、あなたたちにはあげないんだから!」とか言って、ちょっと喧嘩っぽくなっていた。
女の子たちの仲裁をしたり、フェデリコと他の男の子たちの遊びに付き合って悪ノリが過ぎて怒られたり、子供たちの部屋で夜更かしして笑い合ったりして楽しい時を過ごし、あっという間に1週間の時が経ってしまった。
モンテリジョーニ最終日の朝、フェデリコもクラウディアも母上も、皆朝から沈んだ顔をしていた。
何とか皆を元気づけようと話をするが、クラウディアは初日の頃よりも辛そうに泣き出して、ずっと俺にしがみ付いている。
「に、にいさま、にいさまも、おうちにかえりましょう!にいさまをおいていくなんてだめぇ!」
「クラウディア、エツィオはここで、伯父上に鍛えて貰わないと駄目なんだよ」
「お、おじさまが、うちにきて、にいさまに、おしえたらいいじゃない!」
クラウディアにつられたのか、小さなペトルチオまでも泣き出して、一気に気まずい空気が流れる。
オロオロと泣いているクラウディアの肩を抱き、どうすれば良いかと考えていると、フェデリコが俺とクラウディアをガバリと抱えて持ち上げた。
急なフェデリコの行動に面食らった俺とクラウディアは呆気に取られ、怒ったようなフェデリコの顔を見つめた。
「逢いたくなったらまた帰ってくればいい!俺たちだって遊びに行ってやる!それとなクラウディア。エツィオは強くなって俺たちの家に帰って来た時、お前も飛び切り素敵なレディになってエツィオを驚かしてやればいい!俺だって今度お前と手合わせする時は絶対勝って見せる!みっちり父上に鍛えてもらうんだ!悔しかったらさっさと帰って来いよ!」
少しだけ涙声のフェデリコが、怒鳴るように檄を飛ばす。
俺もクラウディアも呆気にとられて、そして急に寂しさが胸を襲った。
鼻の奥がツンとして、ジワジワと目頭が熱くなる。うっすらと風景がぼやけて見えるが、俺は精一杯笑みを張り付けてフェデリコとクラウディアを抱きしめてやった。
「多分、俺の方が才能あるから次も絶対勝っちゃうかもな!」
「言ってろ。絶対次は俺の勝ちだ!」
「わ、私も…にいさまが帰ってくるまで、素敵なレディになってるから…母様に負けないくらい」
「それは凄いな。そんなに素敵になっちゃうと、周りの男が放っておかないだろうから、兄さんが教えた事忘れないようにな」
「ドゥーチョが出たらタマをけりあげてやるわ!」
クラウディアの力強い下品発言に、母上にまた怒られてしまうかと思ったが、仕方がないというように優しく微笑んで聞かなかったことにしてくれていた。
母上の腕に抱かれているペトルチオにも別れの挨拶をする。
まだ小さなペトルチオ。
身体が弱く、あまりベッドから起きられないが、それでもヨチヨチと俺達の後ろをついて歩く。
どのくらいの期間、ここで過ごす事になるのかまだ分からないが、次に会うときに忘れられていないと良いな。
「ペトルチオも、もっと元気に俺たちみたいに駆け回れるように、兄さんが元気が出る方法探してやるから…」
ペトルチオとの小さな約束。キョトンとして俺を見上げ、にいたま、と辿々しく名を呼んでくれた。
アブスターゴにさらわれる以前、バーで働いていた時に医者とかも客に居たから、そこそこ病名とかの知識はある筈だ。多分。
あんまり真面目に聞いてなかった事もあるけど、食事療法とか民間療法レベルの事は覚えてる。
ここの医者と相談して、ペトルチオの身体の療養方法なんかも調べられたらいい。
「クラウディア、母上とペトルチオの事、頼むな。お前が便りなんだ」
「…わかった」
「フェデリコも。皆の事、頼む」
「当たり前だろ!」
皆との別れを済ませ、帰りの馬車へと乗り込んでいく家族に千切れんばかりに手を振って、馬車が見えなくなってもずっと見送っていた。
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