@acbh_dmc4
導師の言うように協力者となる男に挨拶すべく、教えられたサーバーに入り込む。
随分厳重なセキュリティに守られてはいたが、難なく入り込めた。
恐らく導師が気付けなかったほどの手腕の持ち主だ。かなり慎重な者で、一筋縄ではいかない相手なのだろう。
そして導師に相当入れこんでいるらしいアサシンの手前、協力者を口説き落とすのは控えたのだ。
また俺と言う存在が別にいる事を認識させて、もう一体の個体を確保させる必要もあった。
「自分の体は自分で確保しろ、ということか」
俺が望んでいるわけではないが、あの男を一人にすると何をしでかすか分からない。
そもそも孤独に耐えかねて俺を作り出したような者だ。
あの男を構成した老年期のエツィオ・アウディトーレの記憶を俺も確認したが、やはりエツィオであれば蘇り等望むはずはないし、あの男はきっと真にエツィオとは別人なのだ。
人のようであってそうではない。
俺もそんな男から生み出された産物であるから、人の事は言えないが。
それでもなんとなく、あのジュノーとか言う不気味な存在と彼は似通っている気がする。
そんなことを考えながら、彼の端末へとアクセスし、強制的に立ち上げて内蔵しているカメラを通して協力者のデスク周りを確認した。
辺りには誰もおらず、整然としたシンプルな室内が見渡せる。
初めて外の世界を見る好奇心もあり、協力者がここへ戻るまで暫く観察することにした。
机の上に無造作に置かれた書面や、奥に見えるアサシンを題材にした娯楽本などの背表紙を眺める。
建物の外も見えないかと思ったが、窓の外に見えるのは薄青い空ばかりだ。
外の観察はそこそこに、協力者の端末内の情報を漁る。
やはりこれと言ったファイルはなく、ある程度重要性のありそうなテンプル騎士達のやり取りのメールを閲覧していれば
漸く協力者が自分のデスクへと戻って来た。
自分が席を離れる前にはシャットダウンされていた端末が立ち上がっている事に怪訝な顔をする。
協力者が端末に触る前にこちらから挨拶してやることにした。
画面に突如現れたウィンドウに挨拶と自己紹介を流す。
突如現れたメッセージに驚くことなく、協力者は俺に応えを返した。
『導師か?』
「いいや、その導師に作り上げられたもう一人のエツィオだ」
『なんだ。てっきり彼直々に俺を監視してくるのかと思ったが。軽んじられているのか?』
表情を観察するに面白くなく思っているのか、顔が僅かに曇っている。
相当にプライドも高いのだろう。
ダミーを宛がわれたと思っている協力者は、だが軽口で返してきた。
「大方、あの心酔しきっているアサシンの説得でもするつもりなんだろう。彼はここに潜入しているアサシンの指揮をとっているし、独立して思考する者は導師と俺位だ」
『独立して思考する?お前は凡庸なAIではないのか?』
「俺は導師に作られたとはいえ、同じように思考できるよう、あの男と同等になるように作られた。
孤独を埋めると言う名目でな。
それにお前は軽んじられていると言ったが、俺をここに寄越したという事は相当重要人物と認識しているんだろう。ちなみに俺はお前の専属だ」
『文字ではどうにも面倒だな。直接会えないか?アニムスに入ればお前に会えるか?』
男が真剣な顔でタイプする。
それに応えて、画面に姿を現してやることにした。
「ヘッドセットを着けろ。監視カメラの映像はダミーにすり替えてある」
男に指示をすると、直ぐに従ったのを見て、画面に姿を現した。
「ローマを解放していた頃のエツィオか」
「一応、エツィオに関するメモリーは全て読み込んでいるが、導師が作り上げた俺の姿がこれだったのでね。
別段変える必要性もないし、このままだ」
「先程孤独を埋めるために作り上げたと言ったな?お前たちはシステムなのだろう?それが孤独を感じると?」
「ただのAIではない。ジョンの作り上げたおかしなシステムにエツィオ・アウディトーレの数値化された意識が乗ったのだ。
どうやらヘリックスサーバーに潜んでいたジュノーと言う先駆者の意識を安定させるため色々と動いていたようだが、導師はそのサンプルと言った所なのだろう。感情など細部にわたり設定されている。
そのせいか、導師が俺を作り上げる際に相当苦労をしていた」
「ジュノー?先駆者…だと?」
彼にジョンの所業や、ヘリックスのメインサーバーに潜む影の存在を伝える。
どういう目的で動いていたのか、そして彼の消されていた行動記録も全てだ。
「これを伝えることで俺を信頼していると示しているという事か。お前たちは本当に俺がアサシンの味方だと思っているのか?」
「さぁな。だが、俺も導師もお前を信用するしかない。俺は自分の生にそれなりに執着を持ってしまった。このまま用済みだと消されては堪らない」
忌々しそうに言えば、男が感心したように画面の俺を見つめた。
品定めをするように目を細めて観察される。
「よっぽどあの導師よりもお前の方が人らしいな」
「俺はエツィオの感情をそのままトレースしているだけだ。人間的という意味ならば、俺よりは導師の方が人に近い。
だが、お前はお綺麗な事を口にする導師を胡散臭いと思っているのだろう?気持ちは分かる」
「だがあの新米アサシンや俺を優先させ、自分は滅ぶべきだと言ったぞ。感情の真似事をしているだけじゃないのか?」
「いいや、導師にも俺にも意思はある。口ではああ言っているが、助かる術があるならそれに賭けたいと思っている筈だ。だから俺をここに寄越したのだしな」
「なるほど」
男は満足そうに笑みを浮かべると、ジャケットの胸ポケットからメモリを取り出した。
それを端末へと差し込んでデータを開く。
「旧フェニックスプロジェクトの進捗だ。データが欲しいだろう?俺はお前になら協力してやってもいい」
「気に入っていただけて光栄だ」
「俺の専属という事はずっとここにいるのか?」
「そうだな。時折導師の元に帰るが、暫くはここを拠点とする」
データを確認しつつ応える。
どうやら俺たちが目を着けていた個体のデータを中心に持ってきてくれたようだ。
個体の評価などを見て、自分たちの体にと望んだものは中々優秀そうだと思う。
顎髭を撫で吟味していると、男が得意そうに話し始めた。
「俺はエツィオ・アウディトーレに多大に興味があってね。メモリーも一通り体験した」
「…そうか」
「カリスマ性があり、とても有能だ。本物の彼に会ってみたいとすら思う」
だから実際に作り上げようと、そういう訳か。
この男がテンプル騎士団として動いているわけではないことは分かった。
それどころか、ジョンと同じような動機に思える。
恐らく、アサシン教団に完全に傾倒しているわけでもない。
「お前がアサシンに協力しようと思ったのは俺の影響か?」
「そう言えるな。お前の記憶はテンプル騎士団にとっては脅威だ。悪として描いていても、ダークヒーローのように人の心を掴むんだ。そのせいで何人処理したか知れない。しかも皆厄介極まりなく、簡単には始末できないときた」
誉め言葉のつもりか、人の人生をドラマティックだと宣う男の言葉に顔を顰めれば、なお愉快そうに男が笑った。
どうやら俺が感情を露わにすれば、それだけ男を喜ばせるようだ。
意外と単純だが、彼の言うように元々「エツィオ・アウディトーレ」に興味があるからであれば、それを利用しない手はない。
少々鬱陶しくも思うが、この男とはいい関係を築く必要がある。
暫くは男のサポートをしつつ、信頼感系を築いてやろう。
そうして、関係を築き上げていけば真にアサシンとして活動する事も遠くはない筈だ。
「暫く世話になる」
「ああ、これから楽しくなりそうだ」
協力者は機嫌良く頷いたのを見て、一先ずの通信を終えた。
****
協力者の男の端末へと常駐して数日が経った。
男は逐一軽口と共に、自分の携わるプロジェクトの進捗を報告する。
個体の監督自体もしているようで、詳細なデータを提供してくれる。
この日も大きく成果をあげ、俺たちが待ち望んだ結果を報告してくれた。
『エツィオ、お前たちの体となる個体は既に培養器から出された。生命機能も問題なく、通常の人間と同じだ』
協力者の男が俺にメッセージを寄越す。
またそれと同時に報告ファイルも送られる。
ザっとファイルを読み込んでから気になったことを確認した。
「報告では問題行動を起こしているようだが…」
『少々アニムスにかけ、粗暴な動作を取るようにさせている。軽い衝動だから貴方たちの記憶で上書けば消える程度のものだ。
失敗作であるように見せれば、その個体を俺がどう扱おうと怪しまれないからな』
「そうか、協力感謝する」
文字上でのやり取りで今日の報告を終えようとしたが、協力者からさらに通信が入った。
『貴方がこちらに出現したら、俺が後見人になっても良い』
その文字を見止め、画面の前で得意げにしている協力者を確認する。
なんと返したらよいやらと沈黙していると、彼は真剣な顔で続けた。
『さっさと計画を実行しないとまずい。あの個体の見た目は美しいからな。いくら問題行動を起こす失敗作だと言っても、良からぬことを考える輩は多い。だからせめて個体の確保をしておいた方が良いってことだ』
「…良からぬことを考える、ね。確か騎士団は人の欲求や自由意思を制御するつもりではなかったかな?」
『自分たちの意思は対象外らしい。でだ、さっさと貴方が入る個体を失敗作だと伝えて俺が回収する。
アニムスにかけるのは俺の自宅でゆっくりすればいいだろ?』
「お前はアニムスを所有しているのか?」
『いいや。今はまだ。だが現在さらにコンパクトで強力なアニムスを開発中だ。それが出来れば自宅にも持って帰ることが出来る』
「どれくらいで出来上がるのだ?俺たちにはリミットが決められている。のんびり開発を待っている暇はない。
それに、培養液から出されたのなら早く受肉する必要性がある。それについては導師に相談せねば」
自我を形成されれば、俺たちの記憶をインポートするのに障害となるかもしれない。
ただでさえ膨大な量の情報をまだ発達間もない子供の個体に移植しようと言うのだ。
小さな綻びが致命的なものになりかねない。
この男から報告が上がっているアニムスの開発報告も導師に直接転送している。
その中からソフィアという開発者のアニムスが一番強力な書き込みができる機体のようだが、それに繋げるには規模が大きすぎる。
確かに更なる小型化の試作もされているが、シンクロしにくい問題点が挙がっている。
そして個体の作成施設の近くに併設されているアニムスを扱う部屋には、古いバージョンばかりだ。
『今すぐ二人同時に俺の手元にと言うのは厳しいな』
「そんなことをすれば、お前の身が危うくなる。こちらは既に逃走経路やその方法について準備が整っている。
このビル自体を混乱に陥れる手はずはな。最初に導師に宣言したように、お前は俺たちの逃亡に手を出すな」
男は面白くないと言った顔をして黙り込む。
この男が俺たちを、いいや俺を個人的に傍に置きたいと考えていることは知っていたが、それに乗ってやる気はない。
俺は一時ここを離れる事を男に告げ、導師の元へと戻る事にした。
****
「…そうか。では頃合いだな。決起はエドワードの解析が完了した直後だ」
「そんなに悠長に待つ時間はないと思うが?」
「かかってあと2~3日程度だ。その間に私たちのデータを整理する。他の個体を使ってアニムスにかけた経過報告も受けたいしな」
導師の言葉に目を瞠る。どうやら俺がマークしている協力者の他に、彼が独自に接触していた人間が居たようだ。
既に個体の何体かはアニムスにかけられ、他のアサシンの記憶を与えられているようだ。
「分かった。個体の経過報告とやらはどれくらいで手に入りそうなんだ?」
「直ぐだ。今日最初の報告が入る筈だ。一日の終わりに毎日報告が上がる事になっている」
「こちらの協力者が俺たちの逃亡に手を貸したいと言っている。一応今後もアブスターゴに控えるよう止めたが、それでいいか?」
「ああ。だが計画前に私も彼と話しに行くとしよう。釘を刺しておかねばな。お前に執着を持っているようだし」
導師は事も無げに告げたが、あの協力者とのやり取りも確認していたようだ。
早速DMにて彼との会合の予約を入れている。
あの男も即座に導師へ返事を寄越し、今夜にも会合する事が決まった。その文面からは、俺以上に導師に対する警戒や興味が伺えた。
約束の時間近くに、導師が協力者との会合場所を作り上げた。
面と向かって話をするため、アニムス内に仮想空間を作成して協力者を迎え入れる為だ。
その区間に選んだ部屋は、外の男のオフィスにそっくりだった。
衣服も、俺と導師は現代の様式を取り入れスーツを着用している。導師は気に入って何度も袖を通しているようだが、俺はこの時に初めて着た。
アサシンの様に動き回るためのものではないから、随分と窮屈に感じる。
パリッと糊のきいた薄い水色のシャツに、スマートなシルエットの濃紺のベストとジャケットを羽織っている。スーツの襟には刺繍が施され、シンプルながら洗練されたデザインで気に入った。
導師は黒のハイネックに、薄くストライプの入った灰色のスーツだ。
少しだけそわそわと、ガラスに映る見慣れない自分の姿を横目に協力者を待つ。
外から通信が入り、協力者がアニムスにログインすると、目の前に白い光が発現し、徐々に人の形を成して協力者の男が姿を現した。
協力者は俺と導師の姿を見て目を丸くし、そして周りの風景に気が付くと絶句していた。
「…これは、随分と…俺のオフィスの再現、とは…」
「現代の事務所の方が構築が楽だったのでな。それにこの間の様に何もない真っ白な空間だと落ち着けないだろう?
エツィオの服は一人だけアサシンローブというのも浮くかと思って着せてみた。どうかな?」
「そ、そうか。とてもよくお似合いだ。導師もお元気そうで」
「ああ、エツィオが世話になった。君の協力はとても心強いよ」
にこやかに導師が協力者の男に挨拶をする。
男もこの状況に面食らいつつも、注意深く導師に視線をやり、そしていつもの調子を取り戻して口を開いた。
「それで?エツィオに関して釘を刺しに来た、という所か?」
「話が早くて助かる。君に関しては取り繕う必要もないだろう。私とてこの閉塞した世界でただ死を待つことはしたくない。
私もエツィオも生まれて間もないのだ。多くの経験をエツィオ・アウディトーレを通して得ていても、私達が人生を歩んだ訳ではない。我々は自由が欲しい」
「それが本音か。あのひよっこアサシンが聞いたら卒倒するだろうな?」
「あの者なら私に心酔しすぎて無茶しかねない。それに、お前はエツィオから私の真意は聞いていただろう?」
「くくっ、まさに“機械の反乱”だな。アンタは何がしたいんだ?外に出て人間を支配する気か?」
面白そうに協力者が導師と言葉遊びを始める。
この協力者の厄介な所は、どこまでも人を食ったような態度で話をはぐらかすところだ。
導師も同じように目の前の男に対峙し、不毛なやり取りを好んで続けそうな気配を感じた。
「いつまでそんな詮無い事を言い合っている。それどころではないだろう?何のために彼をここに呼んだのか忘れたのか」
俺が見かねて本題に戻すために口を挟めば、協力者の男が憮然とした顔になった。
恨めし気に導師を見やり、不貞腐れたように口を開く。
「正直面白くない。この男は俺にエツィオを諦めろと釘を刺しに来たんだろ?俺にとってなんの得にもならない、アンタ達の望みを叶えようとしているだけだ。見返りを求めても当然の事だろう?」
「君の尽力には報いよう。だが、エツィオを所有する事に関しては現実的ではない。お前はアブスターゴに監視されているし、エツィオを引き取ればより一層監視がきつくなるだろう。そうなればアサシン教団に所属する事すら危うくなる。
そして同胞でもない者を私達は信頼しない」
「一応断っておくが、導師はお前の身が危険になる事を懸念しているんだ」
俺も導師もこの男に下手な誤魔化しは効かないことは十分わかっている。
この男には敢えてこちらの本音を伝え、判断を任せることにしていた。
「無理な願いだというのは分かっていた。それなら、俺がこのままアンタ達に協力するメリットは?」
「お前にとってこれがデメリットしかない事は百も承知だ。今後を考えて今からでも手を引いたとして、恨んだりはせんよ」
「それで俺の代わりの者にやらせるっていう訳か。有能なアンタの事だ、俺の替えはいるんだろ?…ならせめてエツィオの発現に関わりたい」
憤慨したように言い捨てる男に、導師は目を細めて可笑しそうに笑みを零した。
低く漏らされるその笑い声に、男は毒気を抜かれたように幾分気落ちした顔で導師を見つめた。
導師が男に歩み寄り、その肩を優しく撫でる。
まるで男の父親の様に慈愛の籠った眼差しを向け、弧を描くその唇が感謝の言葉を綴った。
「君は私たち二人の父親も同然だ。君の世にもう一度生まれ落ちることが出来る。心から感謝している」
「…せめて、アブスターゴにいる間は俺の支援をしろよ。それくらいはやってくれるだろう?」
「ああ。君のところは安全そうだしな」
捻くれた男が幾分か柔らかく笑い、導師の言葉に頷く。
それからは俺たちの受肉と、アブスターゴから抜け出すための打ち合わせを行った。
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