@acbh_dmc4
翌朝、俺は父上についてメディチ銀行へと赴き、職員についてもらい、銀行業の仕事の説明をしてもらった。
施設や仕組み、業務内容について一通りの説明を受けた後、午後にはロレンツォ・デ・メディチに面会する事になっている。
職員の話を興味深く聞き、あっという間にお昼時となって、父上と共に昼食を取りに一度帰宅する。
途中フェデリコとも合流して歩いていると、前方にここ最近は見慣れたヴィエリの後ろ姿を発見した。
そういえば手紙を添削する約束をしていたので、ちゃんと書けたかを確認した方が良いかもしれない。
俺は父上とフェデリコに一言断って、見かけたヴィエリに声をかける事にした。
「パッツィ!昨日はすまないな。仕事中で声掛けらんなくて」
「なっなにしに来たんだ!」
「手紙は書けたのかなと思って。午後からも仕事があるから話すなら今しかなくてな」
「お前、もう家業を手伝っているのか?まだ勉学に励まなければいけない年だってのに、アウディトーレはそこまで逼迫してるのか?」
「そういうんじゃないけど…俺、来年か再来年かでモンテリジョーニに移るから、社会勉強してるんだ」
盛大に拗ねたような物言いで家を馬鹿にしたように話すヴィエリを、まるで子供の憎まれ口程度にしか思わずはいはいと聞き流す。
これがデズモンドの記憶を思い出さず、精神年齢が見た目と同じだったら、家族の前でも憚らずの大喧嘩に発展していただろうな。
精神年齢は少なくとも44歳(+α)は超えているため、ヴィエリの言動は駄々を捏ねるお子様程度にしか思わない。
それに、普段周りから自分優先に扱ってこられて、初めて他者から同等に接せられることに不慣れなのだろう。
しかし俺から邪険にされる事に関しては、そこまで腹を立てていないようにも見える。
意外な人物の成長を見守っている感覚で、微笑ましいと言うのが今の感情だ。
「何にせよ、手紙書けたなら言えよ。添削位なら力になるから」
「……書いてはいるが、なかなか思い浮かばなくて…手紙を書く時に俺の傍にお前が居れば良いのに」
「一緒に書くのか?それもいいかもな。じゃあこれから俺の家に来るか?」
「俺様がお前の家なんかに行ける訳ないだろう!」
「あはは、そりゃそうか。俺もお前ん家行ったら色々問題あるだろうし…うーん、どうしようか」
ヴィエリがソワソワしながら俺の返答を待つ。
しかし暫くは仕事を覚えるやらなんやらで忙しくてまとまった時間を取ることは出来ない。
父上に相談してちょっと時間を作るしかないか…そう考えていると、ヴィエリが服の袖をちょいちょいと引いてきた。
「お前、学園には来るのか?」
「え?いや、家庭教師は雇う事になっているけど、学園は行く予定にないな」
俺の返答にヴィエリは顔を真っ赤にさせて、今にも癇癪を起こしそうになっている。
これでは次に爆発してしまうなと思うが、うまい事は思い浮かばない。こればっかりは俺にもどうしようもない。
そう少しだけ焦っていると、背後から父上に声を掛けられた。
「学園に行きたいのなら、家庭教師だけでなく手配してやるぞ。同年代の友人を作るのも立派な人脈作りだ。将来助けになる」
「ち、父上…でも、良いのですか?それでは銀行業を手伝う時間が少なく…」
「お前はまだ若い。モンテリジョーニでも休まず仕事をして遊ぶ暇もなかったのだろう?今も大事な友人との時間を取れずに悩んでいるのだし、彼もお前と接する時間が要るようだ。構わないさ」
アウディトーレ家の当主の登場に最初は狼狽えたヴィエリだったが、父上は俺とヴィエリの関係を否定するでもなく、肯定したことで目を白黒させていた。
マジマジと父上を見つめるヴィエリの表情にも、不快な感情は見当たらない。
そして先に父上が帰宅する旨を伝えてスマートに俺たちから遠ざかっていくのを、不思議なものを見るような目でヴィエリは見送っていた。
「お前の親父は…なんというか、随分話の分かる人物、みたいだな…」
「ああ我が家は家訓と言う程ではないが、自由な意思を貴んでいてな。確かに我が家とお前の家は仲が悪いが、お前のことも話したら友人になるなら好きにしなさいって言ってたよ」
「…」
何事かを真剣に考える様に無言になるヴィエリに、俺はもう少し歩み寄っても良いかと、軽食堂で昼食をとろうと提案してみた。
大したものは食べれないかもしれないが、ないよりはマシだろう。
言葉少なになったヴィエリと、昼食と軽口を交わして、俺の昼休みは終わった。
父上と共にロレンツォ殿の屋敷に足を運ぶべく、家に戻った。
相変わらずなフェデリコのからかいを正論で黙らせ、父上と連れ立ってメディチ邸へと向かう。
道中昼のヴィエリとの会話で助け舟を出してくれたことを礼を言うと、父上はこの上ない柔らかな顔で笑んで気にするなと言った。
「なに、仕事なら今後いくらでもやらねばならない。それよりも、今のお前にはもっと若者らしい時も過ごしてもらいたいからな。今しか出来ない、大人よりも含みの無い人脈作りだって大切なものだ」
「ええ、そうですね。昨日、母上にも言われました。仕事もほどほどにって」
「その通りだ。使命の事も大事だが、私は時折、お前の真面目過ぎる性格が心配になるのだ」
父上からよしよしと頭を撫でられる。
気恥ずかしくはあるが、久々のその大きな手の温もりは、俺の心を温かく包み込んだ。
いつでも全力を尽くすのは良い事だが、人間気を張り続ける事なんて出来ない。いざという時に集中力が切れてしまえば命取りになる。
今は少しだけ肩の力を抜こう。そして、もう少し人を信じてみよう。
そう話している内にメディチ邸へと辿り着いた。
御用聞きに来訪を告げると、さっそく屋敷へと招かれて、アウディトーレ家よりも豪華な作りの執務室に通された。
一度アニムスで訪れたことはあるが、あの時は随分とテンプル騎士団に荒らされて殺伐としていたが、今はどこも綺麗に磨かれて、素晴らしい内装に目を奪われた。
改めてフィレンツェを実質統治している実力者にお会いするのだと、今更ながら緊張してきた。
少ししてロレンツォ殿が執務室へと入って来たので、父上に倣って礼をする。
父上たちは2,3挨拶を交わした後、ロレンツォ殿に俺を紹介してくれた。
「お初にお目に掛ります。俺はエツィオと申します。以後、お見知りおきを」
「ああ、噂は聞いているよ。ジョバンニの自慢の息子だと。私はロレンツォ・デ・メディチ。君の御父上の事は心から信頼し、頼りにしている。君とも共にフィレンツェの繁栄を目指していきたい」
「勿体無いお言葉です」
挨拶を済ませると、皆腰を落ち着け、歓談の流れになった。
父上とロレンツォ殿の軽い業務連絡の後、俺の今後の進退について先に話す事となった。
「息子は1~2年フィレンツェに滞在した後はモンテリジョーニの跡目として、我が兄マリオの元に養子に入ります。それまでは私の表裏手伝いをし、経験を積ませるつもりです」
「では、フィレンツェでずっと活躍する事はない、と…見た所とても聡明で実力もありそうだ。是非、我が家に長く貢献してもらいたいのだが」
「俺がモンテリジョーニに行くことで、間接的にメディチ家への利に繋がるでしょう。フィレンツェには父上もおりますし、俺が居ずともメディチ家の威光は揺るぎません」
それでも渋るように表情が和らがない所を見ると、我が家が力を持ちすぎる事を懸念しているのだろうか。
しかし、アサシンは権力者の御用聞きではないし、主人を持つ兵士でもない。あくまでも父上がメディチに付いているのは、その方が情報が入りやすく、テンプル騎士団へ牽制になるためだ。
メディチ家に懇意にするアサシンは父上一人で十分だし、各所に力を分散させた方が防衛線を張れる。
父上との結びつきが強いロレンツォ殿に、アサシン教団の本質を今一度思い出していただかなければ。
「ロレンツォ殿。我らアサシンは鞘の中の刃。人類の自由と平和の為に生きる者です。少なくとも俺や父上は家の繁栄よりも、フィレンツェのみならず、世界の平和の為に尽力しております」
「ああ。それは承知している。だからこそ、我が下でその力を奮ってもらいたいと思う」
「…言うなれば貴殿は獅子を飼っておいでだ。我が家が力を持とうが落ちぶれようが、必要とあらばその牙は嘗ての味方に剥くこともある」
「エツィオ!」
「よい、ジョバンニ。人々の自由が脅かされれば、君は私に対しても牙を剥くと言うのだな。…益々惜しいが…理解した。君を縛ることは出来ぬとね」
無言で礼を取り、居住まいを正す。
そのやり取りに、始終隣でハラハラ見守っていた父上が息を吐いた。
ロレンツォ殿はそんな対照的な俺たちを見て、泰然と笑みを見せると、楽しそうに感想を述べた。
「まるで賢者を相手にしているようだ。君は見た目に見合わず随分達観しているね」
「それだけ我が道は険しいのです」
「違いない。ジョバンニは良い息子を持ったな。羨ましい限りだ」
ロレンツォ殿の世事に礼を言い、仕事の話を詰めて、俺は一足先に執務室を後にしてメディチ銀行の業務に戻った。
***
今日一日を終えて、家族団欒の食卓に着く。
初日の仕事の感想を聞かれて、今日は一日数字と睨めっこをして、随分肩が凝ったと言えば、父上は笑ってそのうち慣れると言った。
「だが、今後学園に通うなら業務もそれほどしなくて済むんじゃないか?」
「兄さま、学園に通うの?」
「うん。なんか流れでそうなった」
「良かったわね。貴方は学園で沢山友達を作るべきよ。仕事漬けよりも良いと思うわ」
母上も朗らかに賛成してくれて俺も嬉しく思うが、学園に関して少しだけ不安が過る。
今の俺には知り合いらしい知り合いなんて皆無に等しいし、ヴィエリの偏った友人の中でやってける気はしない。
ショーンのデータベースでエツィオが学園に通っていたことがあるっていうのは知っているし、エツィオに沢山の仲間が居たのも体験して知ってる。
でも、あの時を体験しただけで、俺自身はどうやって友人になったか一切知らないんだよな。
上手く友達が出来るだろうか。
少しだけ憂鬱になっていると、フェデリコが微笑ましいものを見る様に背をバシバシ叩いて励ましてくれた。
「そう心配するなよ。お前の事だからすぐに友達が出来るさ。新しく入ってくる奴はそれだけで目立つから、休む暇もなく声かけられるだろうさ」
「そ、そうかな…」
「どの道ぼっちになったとしても、お前にはヴィエリが居るだろ?というか、奴の為に学園通う事になったようなものじゃないか」
「あー、それが一番心配なんだ…」
「はっはっは!まぁ、アイツの事だからお前にべったりになりそうだな。でも通う日数だってまちまちなんだから気楽に行け」
フェデリコの言う事は軽い調子だが、一理ある。
持ち前の社交性を信じて、なるようになるだろう。
そして銀行業に不真面目なフェデリコに、父上から俺の学園の手配をするように下知が下り、盛大に不満を垂れながらも手配を進めてくれる事になった。
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