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I'uccello di fuoco

全体公開 6861文字
2020-06-19 11:17:33

第2話「協力者」※今更ですが、オリキャラが出ます。

Posted by @acbh_dmc4

再び狭い通路を通って逃走を図る。
ここからはもう外まで安全が確保されて出られるようだ。
四つん這いで這い進む窮屈な道中に、今後の事を改めて確認することにした。

「それで、俺は外へ出たら物陰に隠れて教団の者を待てばいいのか?」
その事についてだが、お前の意思に任せたい。教団に保護され、またアサシンとして一生を生きるか。または一般人として平穏に生きるか』

俺は耳を疑った。今俺が助け出されているのは、教団が俺を取り戻す任務に就いているからだと思っていた。
不可解な状況ではあるが、長の甥がテンプル騎士団に捕らえられているのだ、当然の事だろう。
だが、男は少しだけ声を強張らせて俺に選択を迫った。

『お前も自分の体が幼くなってしまっている事に疑問を持っているだろう。あのVRルームでエデンの欠片を求めていた俺たちは、3人ともエツィオ・アウディトーレの偽物だ。彼の記憶をもとにシミュレートされたプログラムなのだ』
「な、何を言って

男が唐突に俺や男の成り立ちを話し始めた。
エツィオ・アウディトーレが実際に生きた15世紀のイタリアは500年の時を経ており、この世にエツィオや愛する者達はとうに居ない。
そして俺たちが出来上がったその理由と、導師と男がアニムスから現実世界へ出現しようとして失敗し、俺のみをここへ送り出した経緯。
俺は、あまりの理不尽さに呆然としてしまった。つまり、この男たちは全くの利己的な理由で、教団やこの俺を振り回しているのだ。

『俺たちは体を得たら教団からも逃げ、平穏な日常を送る為の準備をしてきた。アブスターゴのビルから出たら、幻影の示す通りに向かえば隠れ場所となる廃ビルに辿り着く。その日の内に迎えが来る手筈になっている。一時保護された後、導師が用意した屋敷に連れていかれる。お前がアサシンから貰った位置を特定するその装置は、ここで捨てていけ』
「教団を俺たちを助けてくれたアサシン達を裏切るのか?」
『そうだ。我々は元々裏切るつもりだった』
「俺を助けてくれたアサシンは、俺の事を大事に扱ってくれた。そして今も命のやり取りをしている者達だ。俺はテンプル騎士団に造られたモノかもしれないでも、彼らは俺を助けようとしてくれた!」
『ああ。分かっている』

実際に裏切るかは俺に丸投げなんて、そんなのは無責任だ。
あのアサシンが最後に微笑んだ顔は、心から俺を慕ってくれているのが分かった。

「アサシンを裏切ると決めたのは、導師の意思か?」
『導師と俺の意思だ。そして、お前にもそうして欲しいと思っている。だがアサシンに全く関わるなというつもりはない。お前が力をつけて、この世界で生き方を見つけた先に、アサシンを導くことが出来ると思ったら支援しても良い。それはお前の自由だ』

ズキズキと頭が痛む。
目覚めた瞬間から最悪な体調だったのを、ここが敵地であるから無理矢理動かし、今でも気力のみで両手足を動かしてきたのだ。
身体の疲労を強く自覚すると、あまりの気持ち悪さに思わずえずく。
俺のその変化に、耳元の男の声が何か声をかけて来たが、一枚分厚い膜を通したようなひどく曖昧な音に聞こえて理解することが出来ない。
頭の痛みと共に、体に響くような耳鳴りが更に俺を襲った。
身体から力が抜け、その場に蹲りグッタリと頭を壁に凭れかける。
この酷い気分を何とかやり過ごそうと、暫く休んでいたが、また耳元が騒がしくなった。
脂汗をかきながら、なんとか耳元の声に集中する。焦った男の声が叫ぶように俺の名を呼ぶ。
そして窮地に陥ったように、錯乱したような声を上げて、何かを引き留めようと必死になっていた。

『何故だ!導師っ!止めろ!まだあの子がっ!!』
ま、……ィオ(ザザザ)気孔にっ!(ザザ)』

左耳に着けたヘッドセットからザザーっと不快な雑音が聞こえたと同時に何も聞こえなくなった。
俺は必至で男の名を呼んだが、それに応える者は居ない。
またこんな真っ暗で狭く、果たして出口があるのかも定かではない場所で一人取り残されてしまった。
何度も何度も呼び掛けているのに、全く誰も反応をしてくれなくなり、とうとう俺は見捨てられてしまったのだと思った。
あの男にさえ見捨てられてしまった例え、男の本意ではなくとも、ここにこうして一人残されてしまったのだから。
泣き叫ぶほどの気力もなく、呆然として壁に寄りかかる。
これからどうすれば良いのか、指標もなく、ただここから逃げ出したとて、俺はどうすれば良いというのだ。
また目の前が霞み、眩暈と共に導師と男が亡霊のようにその姿を現した。
俺にここから逃げ出す様にと道を示しているのをボンヤリと見つめる。
今見えているこの者達はただの幻だ。
これに意思はなく、ただ道端に設置された道案内の木の板と同じようなものだ。
ジッとそんな幻影の二人を見つめて居れば、まるで風にかき消されたように一瞬にして消えてしまった。

俺は一人だ。

そう、最初から一人なのだ。

周りの風景がいびつに歪む。俺が一向にここから動かないから、もう道しるべが現れないかもしれない。
瞬きをすれば一瞬だけ視界がクリアになる。だが直ぐにまた世界は歪み、だが何も起こらない。
ひぐっと喉が痙攣する。息が苦しくなり、うまく呼吸が出来ない。
頭も割れるように痛み、もしかしたらこのまま死ぬのだろうか?とそう思った。

死ねばきっと家族に逢える。
もし、家族にまた逢えたら何を話そうか酷く苦しい痛みの中で、薄れゆく意識の端っこでそんな事を考えた。


***


どれくらい経ったのか、暗闇の中で俺は目を覚ました。
周りは真っ暗で何も見えない。耳についていた機械の明かりは、壊れてしまったのかもうつくことはなかった。
寝起きで怠いが、身体は随分休まったようで、気絶する直前まであった不快感は治まっていた。
これからどうしようか教団を裏切るか、それとも教団に助命を請うか。
あの男は俺に平穏な人生を送って欲しいと言っていたから、教団を裏切った方が良いのだろう。だがこれから一人で生きなければならないのは恐怖だ。
目の前で家族を殺され、友人もない今、どうしてこれ以上孤独に独り生き続けなければいけないと言うのか。

一人でこんな所に蹲っているのが心細くて、耳の機械へ男へと呼び掛けたが、誰も応えてはくれなかった。
ああ、そうか。もう誰も居なくなったのだった。
一先ずどうするかはここから脱出してから決めようと、狭い通路を四つん這いで進む。
道案内に出てくる幻影の二人が、心細さに震える俺の心を僅かばかり励まし、そして同時にまた精神を消耗させた。
ひたすら暗い通路を這い摺りながら、いつまでもここから出られず、死ぬまで彷徨い続ける妄想が俺を苦しめた。

「いつまで行けばいいんだ。なぁ、指さすだけじゃなくって何か話してくれよ。もう、こんなところはうんざりだ。気が狂いそう

幻影の男に話しかけても感情の無いその顔は、ただ暗い通路の奥を指し示すだけ。
幻影が現れるとその後に襲う頭痛と眩暈に頭を押さえながら、漸く外の光が僅かに漏れ出ている壁に辿り着いた。
何時間もの窮屈な移動のせいで、心身ともに相当消耗していた。
外へ続くだろう蓋に手をかけ、全力で外そうと押し出したがビクともしない。蓋に悪戦苦闘している内に徐々に外も暗くなり始めて、疲労と空腹からもう腕も上がらなくなってしまった。
人気のないこんなところで、あと一歩という所で、俺は終わってしまうのか。
ひもじくて寂しくて体が痛くて散々だ。ここで生きる事に意味を見いだせないとは言ったが、こんな所で酷い孤独の中死ぬのは御免だった。

でももう疲れたこのまま、ここで朽ちるなら、せめて眠るように死にたい。
瞼が重くなり、うとうとと誘う眠りの魔力に抗いがたく、ゆっくりと瞼を閉じた。
あと少しで楽になれる、そう思った時に何かが外れる音と、父上のような大きな腕に抱きしめられて、肩を揺り動かされる。
うっすらと目を開けて、暗がりで顔は見えないが、俺を抱え上げているのが男であることはなんとなくわかった。
コイツは敵だろうか?それとも味方だろうか?分からない。

………!」

男が焦ったように何かを言う。でも、俺は何も考えられず、もう眠りたいとそればかり思っていた。
すると、頭の中で俺が行くべき場所が浮かび上がってくる。
同時にあの男が、未来の俺たちが、口々にその場所へ行けと命令する。

……街の、ビル迎え
………?」

頭の中の未来の俺たちが永遠に道筋を話し続ける。
煩い、頭が割れそうだ。内も外も、もう嫌だ。頼むからもう俺を放っておいてくれ。眠らせてくれ。

俺を抱える男は、また何か俺に聞いて来るが、俺はもう意識を保っていられなかった。


***


頭に響く振動と聞きなれない音で目を覚ました。
俺は物凄く狭い、柔らかい長椅子が大半を占める空間に居た。
前には男が一人、やはり同じデザインの、でも一人掛けの椅子に座って、何かの円形の取っ手を握っている。
俺は不思議に思って体を起こすと、身体にかけられていた毛布がずり落ちた。
改めて周囲を見渡せば、四方にガラス戸が嵌められていて、景色が飛ぶように過ぎ去っていくのが見えた。
馬よりも早く、そして殺風景な灰色の道を時折鮮やかな色をした車輪の付いた箱が並走していた。

ポカンとその光景を見つめていると、前方にいる男が俺に気付き声をかけた。

「やぁ、起きたようだね。気分はどうかな?これから向かうのは私の病院だが、暫く検査入院して体調を整えたら家に帰してあげるよ。まだあと1、2時間はかかるから寝ていたらいい。あ、そうだ!喉渇いているだろう?スポーツドリンクだが、これを飲んで良いから」

男は少しだけ振り向いて俺に変わった形の瓶を渡すと、直ぐに前方を向いた。
受け取った瓶は、瓶にしては柔らかく、そして透明で中身が何かの液体が入っていることが分かった。
一気に喉の渇きを自覚して、その中身を飲みたいと思ったが、開け方が分からない。
コルクが嵌っているわけでもないしけれど、飲み口には蓋のようなものが取り付けてある。これを捻れば開くのか。俺の記憶にない筈のこの瓶の知識が自然に浮かんでくることに少しだけ疑問を持ったが、知識に従って先端を捻ってみた。
少し固くて開けにくかったが、何とか開ける事に成功すると、行儀が悪いとも思ったが、直接瓶に口をつけて中身を飲み込んだ。

その液体は、とても甘くて、少しだけ塩味を感じて美味だった。
夢中で飲み乾すと、今度は紙に入った棒状のものを渡された。

「病み上がりにどうかとは思ったが、何も食べないよりは良いだろう。チョコレートだ。病院についたらちゃんとした食事が出るから、今はそれで我慢してほしい」
「あ、ありがとう
「食べたら寝ていなさい。着いたら起こすから」

貰った棒についた紙を剥がして、出て来た茶色い物を恐る恐る端っこを齧ってみる。
これも先ほど飲んだ飲み物と同じく甘い。だが濃厚な甘みと、芳ばしい香りが鼻腔を抜け、この世にこんなに美味しい物があるのかと感動した。
あっという間に平らげてから、もう一度外を見る。
灰色の道の奥に見える、見た事もない建物群を眺めて、ここは俺の知る世界ではないという事を痛感した。
一先ず状況を確認したいと思い、俺は男にいくつか質問をすることにした。

あの、貴方は?おれは、何処に連れていかれるんだ?」
「ああ、私はスティーブン。医者だ。君のお父さんに頼まれてね、秘密裏に君が逃げ出す為の手配をした」
「じゃあ、おれをあの狭い所から助けてくれたのは貴方?」
「いいや、私は指示通り定期的に廃ビルに君が来ていないか確認しただけだよ。君は指示されたビルのソファの上で寝ていたのを保護したんだ」

俺は、てっきりアサシン教団の協力者に保護されたのだと思っていた。
この男もそうなのではないだろうか?あの狭い通路で力尽きた、俺を迎えに来ると言ったアサシンが、目的地に俺を案内してくれて、そして次に運び屋としてこの男が使わされた。
ならば、今度はこの男が教団の者か念のため確認しなければ。

「合言葉とかある?」
「合言葉?そんな指示は受けていないなどんな感じのやつだい?」
「真実はなく、っていうやつ」
「真実はなく?それに続く言葉がないと、信用してもらえないとか?うーん、それだと私は指示されていないから分からないな。でも本当に君のお父さんから頼まれたんだよ。ジョバンニ・デ・カストロノヴァは君のお父さんだろう?で、君はエツィオ・デ・カストロノヴァ。いや、ドメニコだったかな違うかい?」

カストロノヴァ?そんな家名は知らない。
だが、そんな筈はないのだが、俺はもし偽名を使うとしたらそう答えたかもしれない。何故だかそう感じる。
教団の事を知らぬふりをしているのだろうか。それとも、この男は末端のもので、誰に使われているかも分からず、ただ運び屋を命じられただけなのかもしれない。

「信用してはくれないかな?まぁ、だけど、君を診察して問題がないとなったら、君の家の者に預けるから、それで判断してほしい」
「分かった。どの道、俺に頼れる人は他にいないから
気を強く持つんだ。きっと家族の元に帰してあげるから。約束する」

男の言葉に頷いて、そろりと窓から視線を外し、隠れる様に長椅子に蹲る。
ゴウゴウと鳴り響く聞きなれない音からも逃げる様に両手で耳を塞いで目を瞑った。



とてつもなく長い時間をそうしていたような気がする。
急に音と振動が止み、前の椅子に座っていた男が、おれの座席の方のドアを開けて、俺を揺り起こした。
眠っていた訳ではなかったが、目を瞑って居た為、少しだけ視界が霞んでいたので、瞼を手で擦り起き上がった。
男は俺に断りを入れて、横抱きに抱え上げると、消毒液のような匂いの漂う白い建物内へと入っていった。
その場所ではこの男は上位の立場のようで、すれ違う聖職者のような白衣を纏う者達に恭しく声を掛けられていた。
建物の奥の個室へと連れていかれると、俺は簡素な人一人横たわれば寝返りも打てない程の小さなベッドへと座らされると、男もまた小さな丸い椅子に腰かけて俺と向かい合った。

「やぁ、改めて自己紹介をするね。私はスティーブン・デボス、医者だ。君のお父さんに資金援助をしてもらってね。君がアブスターゴの連中に狙われていると聞いた。ひどい扱いを受けたのだろうね、可哀想に。だが、もう安全だ。これから君の健康診断をして問題なければお家に帰してあげるからね」
「父上に、助けてもらった?」
「ああ。君のお父さんには感謝しきりだよ。危うくこの病院を失いかけた所を助けられたんだ。ジョバンニに会ったらよろしく言っておいてくれ。では、まず熱を測ろうね。耳を出してくれるかな?直ぐ済むからね」

優し気に微笑む男に色々な質問や触診をされ、目の前の薄い板に向かって何かをした後に、また部屋を移された。
今度の個室も白を基調とした簡素な部屋だったが、寝心地の良いベッドが置かれ、座り心地の良さそうな椅子も傍に置かれていた。
ベッド脇の机には、先ほどの“診察室”に置いてあったのと似た板が置かれ、医師はそれの使い方を教えてくれた。
動く絵画(にしては人間味の無い簡単な絵だったが)がその額縁の中に現れて、俺は息を飲んでそれを眺めた。
医師はその他にもいくつかのお菓子や読み物を差し入れしてくれると、笑顔で俺に別れを告げた。

「用があるときはこのボタンを押せば看護士が来るから。君の退院は様子を見て3日後、迎えが来るように君のお父さんに連絡しておく」
ありがとう」

医師が出て行ってから目の前の“テレビ”という板を操作して色々なものを見た。
世の中がどうなっているか知るためには雑多な情報が多すぎて逆に良く分からない。
だけどその煩雑な物を見ていれば、余計な事を考えなく済んで安心した。
これから俺がどこに送られるのか、それは3日後に分かる事だ。
それまで、俺は何も考えず、ひたすら体を休める事にした。


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