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目が覚めたらエツィオに生れ変わっていたので、家族生存目指します!

全体公開 6128文字
2020-08-08 00:17:33

第23話「重要な配達」
-フェデリコ視点-

Posted by @acbh_dmc4

エツィオが急遽モンテリジョーニに戻ってしまってから少しの間、俺、フェデリコはその仕事を引き継ぐことになった。
エツィオはフィレンツェに来て半年も経たずに戻ってしまったが、僅かな時間の間に結構な仕事を任されていて、その穴埋めが必要だったためだ。
実際父上も銀行業の手伝いをエツィオに頼っていた為、結構な痛手だった。
それならば銀行の勤務経験のある俺にと、白羽の矢が立ったという訳だが、数字はあまり得手ではない為、気乗りしない。
そもそもが俺は裏稼業の方を継ぐと父上に言われていた為、銀行業は足掛け程度で勤務態度も良い方ではなかった。
元同僚たちに俺が戻ったと父上から知らされた時の態度も、どちらかと言えばあまり歓迎している感じではなかった。

(エツィオが戻って暫くは楽できると思ってたのになやれやれ)

そう内心でぶつくさと文句を言うが、処理能力は悪くはないのでさっさと午前中の仕事を終わらせた。
昼食を取りに家へと戻り、昼休み後に書斎へ来るように父上から言われていたので、書斎へと赴いた。
ノックの後入室すれば、父上は俺の顔を見上げて頷き、優しい笑顔を向け長椅子を勧めた。
父上は手元の書き物を続けながら、ここ最近の俺の仕事ぶりについて話し始めた。

「ここ最近は真面目に仕事をしているようだな。他の職員たちからの評判がとても良い」
「銀行業は退屈ですが、同僚たちから同業者としてのパッツィ家の情報が意外と聞けますからね。今は少しでも情報が要ります。それと父上の表の仕事が落ち着くまでは真面目にやりますよ」
「それは助かる。出来たらペトルチオが銀行家見習いになるまで続けてもらえると助かるのだが」
「冗談でしょう?!今だって退屈で毎日死にそうなのに!」

俺は思わずギョッとして父上へ聞き返してしまった。
あまりの剣幕に、父上は苦笑して「冗談だ」と流した。至極残念そうにため息まで吐くので、冗談と言ったのが冗談のように思えて、俺は震えあがった。
そんな俺の動揺する姿を見て父上はまるで悪戯が成功した子供の用にニヤリと笑うと、一転表情を引き締めて手元の書類を封緘して俺に渡した。
また、机の引き出しから羊皮紙の書類も2枚差し出すと仕事を命じた。

「それで、本題だが、この書簡をロレンツォ・デ・メディチ殿に届けてもらいたい。彼はメディチ銀行に居られる。急ぎで頼みたい」
「分かりました。これの内容をお聞きしても?」
「ああ、ミラノ公暗殺についてだ。共謀者は3人。ジョバンニ・アンドレア・ランプニャーニ、ジローラモ・オルジアーティ、カルロ・ヴィスコンティと言われている。エツィオからも報せがあったが、フランチェスコ・デ・パッツィも関与していた。現在“正義の旗手”がフランチェスコを拘束している」

フィレンツェの自治権を持つ正義の旗手が出てくるとは相当大事のようだ。
それに、今回この手紙を俺に託すという事は、いよいよ運命の時が近づいてきているということだ。父上も同じ事を考えたのか、その表情は硬い。

「これを至急、ロレンツォ殿に届けて欲しい。彼は程なくカレッジへと出発されると聞いた」
「承知しました」

俺は父上の書斎を出ると、裏道を使い、近道をすることにした。だが、メディチ銀行まであと少しという所で、目の前をゴロツキ共に塞がれてしまった。
だがここでやり合っている時間はない。とりあえず来た道を戻ろうと振り向けば、背後の道もお仲間に塞がれてしまっていた。

「悪いが、今お前達と遊んでいる暇はないんだ」

ゴロツキ達を品定めするように見やる。その者たちの腰には、通常フィレンツェの番兵が使う剣が下げられていた。
ただのゴロツキではないという事は、テンプル騎士団が寄越した刺客なのだろう。素人よりも訓練された兵士であればよっぽどやりにくい。
奴らの表情も、職業柄か油断なく俺を睨みつけ、安易な挑発にも乗る気配はない。

「こちらも遊びではない。なあに、すこし痛い目を見て、お前の持ち物を借りるだけさ」

中身は番兵だろうが、罪のない者を甚振ろうとする輩は揃って下種な表情をするものだ。
ごろつき達はじりじりとこちらに迫ってくる。辺りを見回してみたが、通りの両側には背の高い家や壁が連なっており、逃げ隠れできない。大切な文書が入った肩掛けの小さな巾着をしっかりとたすき掛けにし、俺は近くの壁に飛びついた。
ゴロツキの格好をした番兵の幾人かには身軽そうな者もいたが、すいすいと壁を登りつめる俺について来れるものは居ないようだった。
眼下で負け惜しみを吐き捨てるゴロツキ共の神経を逆なでするように太い笑みを浮かべ、挑発するように言葉を投げる。

「フィレンツェの治安の為には、お前たちのような者は警備隊に復職出来ないようしてやりたいんだが、生憎急いでいるものでね。運が良かったな!」

下から死ねだの殺すだの物騒な罵声を浴びせられたが、俺は構わず屋根の上をメディチ銀行へ向けて駆け出していた。


メディチ銀行へと辿り着くと、真っ直ぐにロレンツォ殿の執務室へと向かった。
部屋から調度ロレンツォ殿の信頼の厚い秘書、ポエティオが姿を現したところで、調度良いと思い声をかけた。
すると、陽気な笑顔でポエティオは俺に挨拶をすると、朗らかに調子を問うてきた。

「これはこれは、フェデリコ様。メディチ銀行に復帰なさったと聞きました。お仕事は順調ですかな?」
「ああ、絶好調だ。ポエティオ、父からロレンツォ殿当ての手紙を預かって来たんだ。今、居られるかな?」

手紙を顔の横で振れば、ポエティオは困ったように眉根を寄せ、両手を広げて言った。

「一足遅れでした。ロレンツォ様はもうカレッジに出発された後です」
「では、出来るだけ早くこの書簡をロレンツォ殿に渡してくれ。これは緊急性も高く重要な書簡なんだ。他の誰にも知られぬように頼む」

いつになく真面目な顔でそう告げれば、一瞬呆気にとられたような顔をしたポエティオだったが、事の重要性を理解したのか、神妙に頷き手紙を受け取った。


任務を終えて屋敷へと帰れば、母上と妹のクラウディアが馬車へと荷物を積み込む使用人たちを見守っていた。
今日から事が落ち着くまでの間、モンテリジョーニへと避難する為であった。
弟のペトルチオはまだ部屋で準備をしているのか姿はない。だがじきに降りてくるのだろう。

「母上、出発はもう直ぐですか?」
「ええ。ペトルチオが下りてきたらもう出る予定なの。ジョバンニは見送りに出てくれるかしら?」
「これから書斎に行きますから、声を掛けましょう。クラウディアは向こうに行って羽目を外しすぎるなよ?」
「フェデリコ兄さまじゃあるまいし!」

俺の軽口に憤慨したクラウディアだったが、エツィオに会えるのがよっぽど嬉しいのだろう、反撃はやさしいものだった。
そんな妹の頭を軽く撫で、母に挨拶を交わすと早速書斎へと向かった。
書斎の外には父上の秘書のジュリオが控えており、俺が入室しようとすると慌てて止めに入ったが、父からの許可は取っていると話すと引き下がった。
書斎からは二人分の話し声が聞こえている。案の定アルベルティが訪ねて来て、父上を上手く言いくるめようとしているようだ。

「お前は心配し過ぎだな、ジョバンニ。フランチェスコ・デ・パッツィは牢の中だ。もう大丈夫だよ」

漏れ聞こえる会話から、重要な話はどうやらひと段落しているようだ。俺はそう判断して軽くノックをすると入室してから愛想よくアルベルティと挨拶を交わした。

「やぁ、フェデリコ。元気そうだな」
「ええ、判事様も、お久しぶりです」
「私は君の父上をなだめていた所だ。何かと災い続きだったんでね。だが、脅威は去った」

調子の良いアルベルティの言に、父上は考え事をする風で流し、俺に対して口を開いた。

「届け物はしてきたか?」
「はい、父上。ですが、ロレンツォ殿は既に出発されていました」

俺の返事に父上が顔を曇らせる。その様を見ていたアルベルティは、注意深く父上を観察していた。
テンプル騎士団に不利となる情報がないか、目を光らせていると言う所だろうか。
金の為に父を売った人でなしの首を、今すぐにでも撥ねてやりたい衝動を抑えつつ、更にもう一言付け加えた。

「召使のポエティオに書簡を託しました。彼ならできるだけ早く渡してくれるはずです」
「困ったな。それでは遅すぎるかもしれん」

顔を曇らせてそう零す、するとアルベルティが父上の背中を軽く叩いた。

「出かけると言っても、ほんの一日か二日だろう。ロレンツォが留守だとしても、そんな短期間に何かが起こったりはせんよ」

自分が墓穴を掘っているとも知らずに呑気に友人を宥める振りをする。
俺はアルベルティの背後で父上に一度軽く頭を下げると、父上は息を吐いて諦めたように顔を俯かせた。
タイミングを見て、俺は更に父上に進言し、アルベルティの退出を促してやることにした。

「父上、母上が出立の挨拶を、と」
「おお、もうそんな時間か。では、少し出る。ウベルト、今日はこれで」
「マリアはどこかに出かけるのかね?」
「ああ。トスカーナ地方に巡遊をな」

更に情報を聞き出そうとするアルベルティに次の句を言わせる前に、俺は父上を急かした。
門前でアルベルティと別れ、馬車に乗り込む母上に別れの挨拶をする。
父上は母上とこれが最期の別れになるかもしれないとの思いからか、いつもに増して熱い視線を投げかけていた。
その細い愛しい身体を抱き寄せて、いつもより長くそうして抱き合っていた。
子供たちの前でも憚らず、母上の顔中に口づけを降らせ、そしてそんな夫の姿に母上は一抹の不安を感じていた。

「ジョバンニ
「マリア、エツィオによろしく頼む。私は暫くそちらには行けないと思うが、仕事が済んだら迎えに行くから」
「ジョバンニ、必ずですよ?必ず、いらしてくださいね」
ああ、そうだな。道中気をつけて。クラウディア、ペトルチオの事を頼む」

別れの挨拶を交わす父上の姿を、複雑な思いで俺は眺めて居た。
万が一エツィオの予言が現実のものとなってしまったら、父上は命を落とす事になる。そうすれば、最悪俺一人でモンテリジョーニに亡命する事になるかもしれない。
今日から俺は暫く仕事が終われば家には帰らず、パオラの元へと身を隠す事になっている。
父への冤罪を暴くためにも、俺が捕まってはいけないからだ。
しかし、娼婦街に向かう俺の姿をクリスティーナや彼女の家族に見られたら誤解を生むかもしれない心配がある。
現在クリスティーナとの交際に関しても、素行の良いとは言えない俺を彼女の両親は認めてくれず、反対しているのだ。

頭の痛い話しだ。
俺は人知れずため息を吐き、そして父に倣って家族に別れの挨拶を告げると、馬車を見送った。
父上は馬車が角を曲がって見えなくなっても、ずっとその道を眺めて続けて居た。

「父上、きっと運命は変えられます。その為に皆全力で事に当たっているのですから。エツィオも」
「ああ。そうだな

フィレンツェの教団としても、父、ジョバンニを失う訳にはいかない。
メディチ家と懇意であり、テンプル騎士団も無視できない権力を有するアウディトーレ家は、まさにテンプル騎士にとっては目の上のたん瘤だ。

俺の言葉に励まされたのか、もう遠く見えなくなった馬車から目を背ける様に父上は書斎へと戻っていった。


父上と別れ、俺は午後を真面目にメディチ銀行で過ごした。
恙無く業務を終え、自宅へは帰れないので行きつけの食堂へと向かった。
食堂の主人と親しく挨拶を交わし、白いんげんとパンのスープとビーフステーキを頼み、夕食にする。
ワインも欲しい所だが、実はこう見えて俺は未だ仕事中だ。
ゆったりと食事を進め、美味なスープに舌鼓をうっていると、程なくして後ろの席に痩せこけた、茶色いローブに身を包んだ男が座った。

その男は聞こえるか聞こえないかの声量で短く「かかった」と言った。

俺はナイフでビーフステーキを切り分け、肉の欠片をナイフで刺し、口に運んでから満足そうに「ふぅむ」と声を上げた。
後ろの男が店主にワインを注文し、軽く引っ掛ける様に飲みながら俺にさらに語り掛ける。

俺がロレンツォ殿に手紙を届けるよう指示を出したポエティオには、狐の監視がついていた。
俺が裏切り者のアルベルティの前でわざと手紙の所在を伝えたので、奴の手の者がポエティオに接触するかを確認するためだ。
そもそもロレンツォ殿はアルベルティの裏切りに未だ懐疑的だ。裏切る要素はそれなりにあると理解している筈だが、長年父上と共に仕えていた為信じたくはないのだろう。
父上とて相当に思い悩んだのだ。だが、信じてもらわねば俺たちの命に関わる。
ロレンツォ殿を納得させるには、更に奴の裏切りの証拠を突き付けねばならない。

ポエティオは早馬を頼み、手紙を持ってロレンツォ殿を追ったようだが、案の定途中で足止めを食った。
フィレンツェの国境で番兵に止められ、暫く後、アルベルティやテンプル騎士団の御用聞きをやっている男と何やら問答した後、ポエティオは渋々手紙を渡し、念を押してそれをその男に託した。
狐はその手紙を追う形で男を尾行したが、やはり辿り着いた先はアルベルティの邸宅だった。
暫くテンプル騎士団の御用聞きの男はアルベルティ宅に滞在した後、新たな手紙を持ってアルベルティの家を発った。
現在その手紙に関しては他のアサシンが偵察中だが、程なくそれは手に入れるだろうという事だった。

(アルベルティの署名の入った手紙だとしたらこれ以上ない程の証拠だな)

証拠の手紙はそのままロレンツォ殿に届けられるだろう。
しかしそれはカレッジではない。アルベルティが今日父上の書斎を訪ねて、予言通りの行動を示した。
それを合図にアサシンがロレンツォ殿に追いつき、彼はフィレンツェからはそう離れた場所には行かず、近くの屋敷に留まっている筈だ。

俺も父上も、今夜ロレンツォ殿の下へと合流し、これから起こるエツィオの予言を伝えて、今後の計画に協力してもらう。
いよいよ命懸けの勝負がこれから繰り広げられる事になるのだ。

いつの間にか茶色いローブに身を包んだ男は消えていた。恐らく、盗賊ギルドに戻ったのだろう。
俺も目の前の食事を急いで平らげると、娼館への道を急ぎ帰った。


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