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目が覚めたらエツィオに生れ変わっていたので、家族生存目指します!

全体公開 8230文字
2020-10-23 11:50:30

第26話「チェック・メイト!」
次で最終回

Posted by @acbh_dmc4

俺の合図で広場を取囲み、番兵に扮した弟子たちが一斉に敵兵に襲い掛かった。
急に味方から襲われたテンプル騎士の兵たちは混乱を極め、統制は崩れて瞬く間に制圧されていった。
そして一部の弟子達は民衆を誘導し、その場に留めつつ護りを固める。この場に居る民衆は父上の無実を広める大事な立会人だからだ。
絞首台に父上を引き摺り込もうとしていた執行人たちはその様子に呆気に取られ、隙だらけの所を俺が連れて来た弟子に指示し、判事共々捕縛した。
チラリと演台の下を見れば、フェデリコは父上が保護されたのを見ると、瞬時に周囲の番兵に対峙していた。
弟子たちもフェデリコに加勢して、一人また一人と敵兵が倒れていく。そして全ての敵兵が無効化され、周囲に静寂を取り戻した頃、フードを被り、正体を隠していたロレンツォ殿が演台へと進み、落ち着いた威厳のある声でこの裁判の終了を告げた。

「ウベルト、そこまでだ」

判事は聞き覚えのある、そして本来ここには居ない筈の人間の声を耳にして目を剥いた。
ロレンツォ殿がその質素なフードを背に落とすと、判事は本格的に狼狽えた。

「私の留守中に随分と勝手な事をしているのだな、ウベルト。私は最後まで君を信じていたというのに」
「な、ロ、ロレンツォ何故、貴方がここに

青ざめるアルベルティを一睨みして、ロレンツォ殿は俺に合図をし、用意していた書状をその手に渡すと、それを判事の前で大きく広げた。
突然の戦闘で縮み上がって固まっていた民衆に向かい、高らかとその書状を読み上げる。

「ウベルト・アルベルティ、貴殿を詐称の罪で告発する!」

判事は驚愕の顔でロレンツォ殿を凝視すると、みるみる顔色を変え、周囲を見渡し、自分の味方でも探しているのか生際悪く群衆に縋るような視線を投げていた。

「罪状はジョバンニ・アウディトーレへの事実無根の罪の捏造、それと不正な金を得ていた証拠を押さえてある。証人も多数確保している」
「で、でたらめを!」
「証拠があると言ったであろう。ジョバンニへフランチェスコ・デ・パッツィの罪を擦り付け、その証拠の書類を2度も私の元へ送るのを阻止した。貴様の運び屋はこちらで確保し、尋問によってお前の犯行を自白させた。それどころか、賄賂を受け取り、汚い手を使い、不正に金をせしめている証拠もある。さて、貴様は反証を持っているかね?」

次第に広場は聴衆の騒めきで満たされた。判事は自分の窮状を救ってくれる仲間を探して、忙しなく視線を動かすが誰一人判事の為に動くものはない。全て弟子たちが取り押さえるか、この会場から退場させられている。
現状を悟ったのか、アルベルディは叫び声をあげて暴れだした。弟子に目配せし、不意を付かれて腕を振払われたかのように判事を離すと、隠し持っていたナイフを抜き、ロレンツォ殿に襲い掛かった。
反撃を予想していた俺は、素早くアルベルディの前に滑り出て、首元と鳩尾に何発かの重い打撃を与えた。
俺の攻撃を受け、倒れ込んだアルベルティを拘束するよう、弟子たちに指示をすると、近くに転がっていた凶器のナイフを回収した。
これで言い逃れは疎か、ロレンツォ殿の恩情も失われた。父上を裏切り、苦しめた者には死を以て償わせる。それに本来なら俺自身が手を下した相手だ。容赦はしない。

「残念だよ、ウベルト。殺人未遂の罪をも犯すとは情状酌量も考えてはいたが、これでもう後はない」

底冷えする視線を判事へと投げかけ「ヴェッキオ宮殿の牢屋に入れておけ」と指示すると、ロレンツォ殿は父上の元へと歩み寄った。
俺は後ろ手に縛られていた父上の腕の縄を解くと、弟子に医者を呼ぶように指示した。
父上は立っているのがやっとだったようで、自由の身になった途端、倒れるように膝を着いた。
慌てて父上の体を支えて楽な姿勢を取らせると、父上が胡乱気な視線を彷徨わせ、目が合った。
俺の登場に驚くでもなく、力なく笑みを見せると、小さく「エツィオ」と名を呼ばれた。
思わず胸が詰まる。警告していたとはいえ敵の行動が早く、辛い思いをさせてしまった。
俺は父上の手を強く握り、しっかりと父上の目を見て「もう大丈夫です」と告げた。

弟子に呼ばせた医者と共にフェデリコも一緒にやって来た為、俺は父上を医師に任せ、フェデリコに近寄って行った。
医師が力なく柱に寄りかかっている父上を診察している様子を、寸の間眺めてからフェデリコに向き直る。父上を安全な場所まで送り届ける人間が必要だったのだ。

「フェデリコ、父上を頼む。念のため薔薇の館で休ませてくれ。アウディトーレ邸は今頃弟子たちが解放している筈だが、暫く寄り付かない方が良いだろう。薔薇の館まで父上を護衛したらメディチ邸まで来てくれ。今後の事を話し合いたい」
「分かった。……エツィオ助かった」

フェデリコは悔しそうに顔を歪め、呟くように言った。
その姿にアニムスで見たエツィオが重なる。自分の無力さを知り、打ちのめされているのかもしれない。
そんな姿に心が痛んだが、俺は言葉はかけずにフェデリコの背中をポンと叩くと父上たちを見送った。
事後処理が残っている。アルベルティは恐らく死罪になるが、それについての報告や、処罰の方法を話し合わねばならない。
傍で見守っていたロレンツォ殿に、この場を収めてからフェデリコとともに伺うことを告げて、民衆の誘導をしている弟子達の指示に向かった。



広場での誘導を終え、フィレンツェの治安部隊に弟子たちから後のことを引継ぎをしている最中、フェデリコがメディチ邸に到着したと知らせを受けて合流した。
共にロレンツォ殿の書斎へと赴き、労わりの言葉を賜った。

「此度はよくやってくれた。君達のお陰でジョバンニを失わずに済んだ」
「いえ、これもロレンツォ殿の協力のお陰です」
「我が家が汚名を被ることなく、計画通りに進められました。エツィオも、駆けつけてくれて助かった。お前が居なければどうなっていたか有難う」

3者共に感謝を告げると、ロレンツォ殿は早速父上の状態について尋ねられた。相当心配しているようで、真剣に父上の無事を確認していた。

「父上は思ったよりも重体です。酷く痛めつけられており、仕事の復帰は暫く難しいでしょう」
そうか。十分休んでくれ。今まで私の手となり足となり仕えてくれたのだ」
「有難うございます。暫くは俺共々モンテリジョーニにて静養したいと考えております」

ロレンツォ殿はフェデリコの話を聞き、不安な面持ちをしていたが、俺が暫くの間弟子達をつける事を告げると了承してくれた。ホッと胸を撫で下ろす。
表の銀行業についても、裏社会についても父上に頼っていた為、父上の不在は心許ないのだろう。
そして、今回関わったもう一人のアサシン、狐の事もロレンツォ殿に紹介する事になった。
狐はフィレンツェの重鎮とのコネなど必要ないと言っていたが、今回共に行動した為、断るのも憚られ了解してくれた。
ただ、フィレンツェでの活動に関して狐独自の判断で動く事は了承してもらう。その中で、情報のやり取りをロレンツォ殿に提供する事を約束してくれた。
テンプル騎士団はこの度の事でフィレンツェで目立った活動は出来ないと思うが、異変があれば狐の情報網より直ぐにロレンツォ殿に知らされる。そして弟子たちに命じれば、驚異を取り除けると言うことだ。
父上の居ない間の警備についてはこれで納得してくれただろう。するとフェデリコが決意に表情を固めて、今後の事をロレンツォ殿に提案した。

「父上が完全復帰するまでは今後、俺がロレンツォ殿の補佐を務めたいと思っております。アウディトーレ家は俺が継ぐことに決まっておりますし、父上もそうするようにと言っておりました」
「ああ、わかった。モンテリジョーニから戻ったらよろしく頼むよ」
「誠心誠意、務めます」

ロレンツォ殿はまるで伯父の様に微笑み、フェデリコの背中を叩く。その眼差しには期待も感じられた。
きっとフェデリコはロレンツォ殿や父上の期待通りに務められることだろう。


紅い夕日が街を染め始めた頃、粗方の報告や議論が終わり、薔薇の館へと戻ることにした。
アウディト-レ邸はテンプル騎士団に滅茶苦茶に荒らされているので、今帰った所で休める場所はないからだ。

薔薇の館に着くと、パオラが俺とフェデリコを温かく迎え入れてくれて、無事この事件が終息した事を労ってくれた。
そして父上の寝かされている部屋へと向かう。
父上は俺たちが入って来た事にも気づかぬほどにぐっすりと眠っていた。
顔に痛々しく残るどす黒い痣を見て、胸が痛む。恐らく、顔だけではないだろう、襟元から見える胸部には、包帯がチラリと覗いていた。

「モンテリジョーニに行くにしても、暫くは動かさない方が良いだろうと言われている」
「そうだな。弟子たちが薔薇の館を護衛してくれているから、父上が起き上がれるようになるまではここに居よう。その間俺はあの家をどうにかするよ。かなり荒らされているだろうから」
「そうだな。大事なものは隠し部屋に避難させたが、内部も傷つけられているだろうから、修理の者や人を雇わないと」

事後処理について話すと思わずため息が出る。自宅を確認するのが怖い。
生まれ育った生家が見る影もなく荒らされているのを見るのはショックだ。

「フェデリコも怪我とかはないか?ちゃんと医者に診てもらったんだよな?」
「ああ。俺の方は大したことない。どっかの誰かさんが遅れて登場してくれたおかげで、寝不足だけどな。くたくただ」

少しだけ覇気のない口調でいつもの軽口を叩く。敢えて放置してしまったのは申し訳ない。だが、今回の事でもっと危機感を持って欲しかったのだ。
フェデリコは才能に溢れる男なのだが、如何せんその若さゆえに楽天的だ。それは彼の長所でもあるが、狡猾無比なボルジアを相手取る事を考えるともう少し鍛錬に身を入れて欲しい。
俺は苦笑して「すまなかった」と言えば、フェデリコは肩を竦めると、お休みの挨拶をして自分に割り当てられた部屋へと入っていった。


翌朝、早々に朝食を済ませると、フェデリコに伝言を頼み、直接アウディトーレ家の惨状を見に行った。なるべく原状回復するべく、その判断をしようと赴いたのだ。
屋敷の荒らされ方は執拗で、建物の壁という壁は切りつけられ、カーテンなどは引き千切られて、ベッドや机や椅子なども叩き壊されていた。
果たして隠し部屋や書類を探すのに、ここまでする必要はあったのか。もしここに他の家族がいたならば、記憶の比ではない程に傷つけられてしまったのではと考えると寒気がした。
ここの修繕費用は判事に請求したいものだが、既に財産はメディチに没収されている。まぁアウディトーレ家なら然程痛くもない金額だが。
書斎の暖炉の左側の隠し扉を開き、石造りの隠し通路を進む。一歩足を踏み入れれば僅かに石畳が沈み、通路の複数のランプに明かりがともされた。
通路を進んだ先にある円形の部屋には母上が大事にしていた絵画や宝石、フェデリコの取っておいていた女の子からの手紙やら、ペトルチオのコレクションが所狭しと収納されていた。
こうして見るとどことなくヴィラ・アウディトーレの地下にある聖域に似ている。
父上の仕事道具が入っている大きな鉄製の収納箱を開けると、見覚えのあるアサシンの衣装とアサシンブレードが大事に納められていた。
何も紛失していないことを確認すると、箱の中の装束を手に取り、なんとなしに観察した。
着古された感はあるが、大事に保管され、清潔に保たれている。衣服の素材が豊富な現代の知識を持っていても、俺には判別できない素材で出来ている。こういったオーバーテクノロジーで精製された物が、アウディトーレ家にはいくつもある。
やはりこれも、先駆者の遺物の知識から作られた物なのだろうか?俺はこのアサシン装束をもう一度着てみたいと強く思った。
アニムスの中ではこの装束を着て、フィレンツェやヴェネツィアの街の屋根を飛び回ったものだ。なんとなく懐かしい気持ちになり、少しだけ、と思いその装束に袖を通す。
まるで自分の為に誂えたかのように身体になじみ、全身に力がみなぎるのを感じた。エツィオと言えばこのアサシン装束と言ってもいいほどに特別なものだ。
そんな今の自分の姿を見れないかと思い、どこかに鏡はないかと辺りを見回した。

「随分楽しそうだな、エツィオ?」

俺は突然声を掛けられて文字通り飛びあがった。振り向いた先にはニヤニヤ笑いをかみ殺そうとして失敗したような顔のフェデリコが、部屋の扉に寄りかかってこちらを観察していた。
まさか人が居るなんて思わなかったし、一連を見られていたのかと羞恥心で全身茹蛸の様に真っ赤になる。
まったく気配を感じられなかったのは、フェデリコの実力半分、懐かしい衣装にテンションが上がってうきうきして気を抜いていた俺の失態半分と言った所だ。

「フ、フェデリコっ!!?ど、どうしてここに
「そりゃあ、屋敷の惨状を確認しにな。今現在は俺がアウディトーレ家の当主代理だから?ちゃんと仕事はしないとな?」

あんまりにもアワアワしていたのが面白かったのか、フェデリコが弾ける様に笑い始めると、あまりの羞恥心から今すぐ姿をくらましたい気持ちになった。

「良く似合ってるじゃないか!今回の褒美に父上に強請ってみたら良いんじゃないか?」
「う、うるさい!似合ってるのは知ってるよ!本来ならこの衣装で活動してたんだから!」

ひとしきり笑い終わったフェデリコにさらに揶揄う様な事を言われて、反射的に言い返すと、少しだけ場の空気が変わった。
ソロリとフェデリコに視線を送ると、微妙な顔をしたフェデリコが俺を見下ろしていた。

そうならなくて良かったって所だな。お前があんまり浮かれていたものだからつい揶揄ってしまった」
いや、うん。良いよなんとなく着てみたいって思っちゃったのは事実だし
「気持ちはわかる。その衣装に憧れないアサシンは居ない」

ぶふっとまた噴出したフェデリコにムッとして、思わず子供の頃の様に殴り掛かった。
見越していたのか、俺の反撃を飛びのいて交わすと、ジリジリと間合いを取って対峙した。

「久しぶりに追いかけっこでもするか?」
「ふん、どうせすぐ捕まるさ。今の内に降参した方が身のためだぞ?」
「ほうほう、ではお手並み拝見と行こうじゃないか」

ニヤリと互いに笑い合い、脱兎のごとくフェデリコが入り口に向かって走り出すのと俺が飛び掛かるのは同時だった。
幼い頃、些細な言い合いやフェデリコからのちょっかいで度々行われた追いかけっこが始まった。
昔と違うのはお互いに手足のリーチが無くなり、軽々と障害物をよけたり登ったりできるようになったことで、何処へでも行けるという所だ。
アウディトーレ家から勢いよく飛び出すと、周囲を警備していた弟子たちがビックリした顔で俺たちを見送っていた。
露天商近くの樽をジャンプ台にして塀を駆けのぼり、猫のように素早く細い梁を走る。壁に飛びつけば目敏く突起を掴んですいすいと体を上へ上へと持ち上げた。
壁を超え屋根から屋根へと飛び回り、フィレンツェ中を縦横無尽に駆け回る。
しかし割とマジ目に追いかけているが、フェデリコとの距離は中々縮まらない。俺がフィレンツェへ帰って来てから鍛錬している様子は見られなかったが、フェデリコなりに真面目に修業はしていたらしい。

ならば、足止めをしてやろうと走りながら掌程度の瓦礫を集め、また壁を登ろうとするフェデリコに向かって投げつけた。
カカカッと音を立ててフェデリコの頭部を囲うように瓦礫が壁に突き刺さる。なるべく鋭利な物を選んだので上手く刺さった。

ピタリと足を止めたフェデリコが両手を顔の横に上げて降参したのを見て、俺は両手を腰に当ててゆっくりとフェデリコに歩み寄った。

「本気で殺す気かお前は」
「俺がナイフを持ってなくてよかったな。しかし、走りで追いつけないとは正直驚いたよ。真面目にやってたんだな」
「そりゃ、な。いつまでもお前に負けっぱなしってのはプライドが許さない」

可笑しそうに振り返ったフェデリコにつられて俺も笑う。そしてフェデリコがやや引き攣った顔で俺の格好を指さした。

「しかし、その装束で走って来られると本気で恐ろしいな。いや、お前の気迫の問題か?逃げてる間中生きた心地がしなかった」
「大げさだな。殺気も出して無いのにそんな訳ないだろ」
「ああ、お前昔から怖かったもんなぁ。俺の逃げ足の速さは小さな頃から悪鬼から逃げる訓練をしていたお陰だな」

悪鬼とは何だ悪鬼とは。謂れのない中傷にため息をついてから辺りを見渡す。自分たちが現在立っているのはサンタ・トリニタ教会の屋根だった。
さて、お遊びも済んだことだし帰ろうと声をかけると、フェデリコは俺の肩を叩いて、屋根から伸びる背の高い塔によじ登り始めた。
ついて来いとばかりに見下ろされ、ため息をついてフェデリコの後を追った。
先に塔の天辺に到着したフェデリコが俺に手を差し伸べる。二人で呼吸を落ち着けてから眼下の街並みを見渡した。
花の都フィレンツェは、とても美しい街だ。朝日に照らされ、オレンジ色の屋根が陽気に輝いている。

「良い人生だよな

おもむろにフェデリコが呟いて、同意を求める様に俺に向かって穏やかに微笑む。
なんだろう、この兄は。もう一度死亡フラグでも立てようというのだろうか。
フェデリコの隣に並んで、疲れたため息を吐き、もう一度フィレンツェの街並みを見下ろす。

「映画とかゲームだったらここで盛り上がる音楽が流れて、タイトルでも出てきそうな雰囲気だから、同意しない」
「また訳の分からん事を」

目を白黒させるフェデリコを横目に、さっきの台詞に既視感を覚える。そして、その後に続く展開もなんとなく読めてしまって突っ込んだ。

それで?お兄様はこの後クリスティーナの所に朝の挨拶にでも行こうって?」
「流石予言者様は何でもお見通しだな。愛しい恋人に目覚めのキスを贈りに行ってくるよ」

本来それは俺の役目の筈だったのに、とやさぐれながら手を振って十字架の飾りに背を預ける。
苦笑したフェデリコは、俺の頭を強引に撫でながら「拗ねるなよ」と柔らかく笑った。
この場から立ち去ろうとするフェデリコの背に、俺は一応声をかける。どうせ朝っぱらからベッドでイチャイチャするだろうと予想はついた為、悔し紛れだ。

「あそこの父親は厳しいから1分だけ顔見たら戻れよ。番兵呼ばれるぞ」
「1分だって?冗談だろ?」
「家の片づけとかあるんだからな!早めに戻れよ。っていうかお前がやれ!」
「優秀な弟をもって俺は幸せだよ。適当に職人にでも頼んどいてくれ」

負け惜しみで畳みかけるが、自由人な兄はどこ吹く風でさっさと塔から降りて行ってしまった。フェデリコが戻るころには既に粗方手配が終わっている事だろう。
塔の上からフェデリコがクリスティーナの家の方へ駆けていくのを見下ろして、思わず笑みが漏れる。
高嶺の花はフェデリコに任せて、俺はもう少しフラフラ遊ばせてもらおう。今はこんなに平和なのだから。
願わくば、これがエンドロールであってほしいものだが、生憎と俺の人生は始まったばかりだ。
少なくともボルジア一族を討たない事には真の平和は訪れない。

俺は気合を入れるように勢いよく立ち上がると、眼下に見つけた藁山に向けて、信仰の跳躍をした。



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