X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

エツィオに生まれ変わったデズモンドは、平穏な人生を歩みたい

全体公開 10193文字
2021-03-30 15:13:27

第6話「新たな仲間」

Posted by @acbh_dmc4

エツィオがサン・ジェミニャーノの件で忙しく過ごしている中、ジョバンニの身体も回復し、いよいよフィレンツェに戻るという話が出て来た。
クラウディアもペトルチオもなかなかエツィオに構ってもらえずに不満を口にしていたが、長閑で豊富に店や観光地がある訳でもないヴィラから出ることを喜んだ。
この地に友達は沢山出来たが、都会っ子の二人が暇を持て余してしまうのは仕方がない。

そしてフィレンツェでのメディチ兄弟暗殺計画の阻止をフェデリコに任せた為、マリオの勧めでヴェネツィアの視察に行く話が持ち上がった。
イタリアの各地にあるアサシン教団への視察をしてから、モンテリジョーニを拠点に長として就任するためだ。
だが、その前にエツィオには手に入れておきたいものがあった。


「マリオ父上、手に入れた写本に新たな武器の製造方法が記されているので、それを作成しに俺も皆と一緒にフィレンツェに向かおう思います」

エツィオは翻訳前の写本の束を纏めると、マリオへとフィレンツェ滞在の許可を取りに行った。
どうせなら各地の教団を納得させるために、下準備は万端にしておきたい。

「そうか。ヴェネツィアの連中は癖が強い者が多い。よそ者には厳しいから、お前自身で自分の居場所を確立しなければならないから数年掛かりの視察になるだろう。その前にゆっくり英気を養うと良い。休暇だと思って暫くのんびりして来い」
「はい。有難うございます」

マリオも働きづめのエツィオを気にしていたのか、快く送り出してくれた。
これに喜んだのはクラウディアとペトルチオだった。
ペトルチオなど喜び過ぎて元気に飛び跳ねるほどだった。
あの病弱だった弟が、こんなにも全身を使って喜びを表現するなんて、とエツィオは思わず目を潤ませるのだった。

「折角療養にモンテリジョーニにまで来たのに、兄さまったら仕事仕事でちっとも相手をしてくださらないんだもの!フィレンツェではしっかり持て成していただきますからね!」
「クラウディア、俺が持て成す側なのか?」
「当然よ!ペトルチオだってお勉強を見てもらうんですものね」
「うん!エツィオ兄さまはとっても頭が良いから、父さんみたいな立派な銀行家になるために見てもらうんだ!」

期待に目を輝かせるペトルチオの頭を撫でて、「それは責任重大だな」と苦笑する。
今回は完全なオフのつもりだから、今まであまり構ってやれなかった、家族との時間を大切にしようと心に誓った。




エツィオ一行が揃ってフィレンツェに戻ると、改装され、より美しくなった生家が迎えてくれた。
クラウディアやマリアの注文で、温かみのある快適な空間にホッとする。

そして意外にもフェデリコは真面目にロレンツォの元で忙しく働いているようだ。
早々にロレンツォに才能を見出され、現在は彼の指導の許、治世学にも励んでいるようだ。
またアサシンとして仕事を請け負うようにもなったらしく、しばしば夜中に出かける事も多い。
昼間に遊び歩かない兄に不思議な気持ちを覚えつつ、エツィオは本来の目的だったレオナルドの工房に向かった。

久しぶりに訪れたレオナルドの工房は、増築がなされ、かなり大きくなっていた。
軽くノックをして来訪を告げると、レオナルドの弟子たちが迎えてくれ、工房内に通された。
壁一面に張り付けられているスケッチや発明品の設計図、天井から吊り下げられた大きな翼の飛行機械を見回して感心する。
設計図には潜水艦や戦車などの軍事的な物も多く見受けられ、エツィオはレオナルドを再度モンテリジョーニの軍事技師に誘えないものかとソワソワした。

程なくして弟子達からエツィオの訪問を知らされたレオナルドが工房に飛び込んできた。
その勢いに目を丸くして、そして懐かしいレオナルドの姿に破顔してからエツィオは両手を広げて挨拶をした。

「やぁ、レオナルド。元気にしてたか?」
「エツィオ!お久しぶりです!戻ってらしたんですね。逢いたかったですよ!」

久々の邂逅に力強い抱擁をする。
勢いがつきすぎて少々押されたが、難なく受け止めてから、離れる。
そんなエツィオの余裕そうな姿に、キラキラと顔を輝かせて目の前の芸術家は改めてエツィオへ挨拶した。

「ちょっと見ない内に、また随分と逞しくなられましたね」
「ああ。それにしても、凄いな!君はもう発明家じゃないか!あの設計図は潜水艦か?これが出来たらきっと海の外からの侵略は不可能だな」

エツィオが朗らかに壁にある鮫型の船の設計図を褒めると、レオナルドは目を丸くした。
今までこのような兵器を理論上で可能だと説明しても、皆笑って取り合わなかったのに、エツィオは揶揄うでもなく、手放しで褒めてくれた。
それに「submarine」という聞きなれない言葉で命名され、レオナルドはその名前を途端に気に入り、脳内のメモに刻み込み、後で設計図に命名を書き加えようと心に決めた。
エツィオは写本を出す前から何故か嬉しそうに顔を綻ばせるレオナルドを見て、自分が何を土産にここに来たのか悟られているのだと思った。

「そんな嬉しそうな顔をするなんて、本当にレオナルドは写本が好きなんだなぁ。これは土産だ」
「わぁ!私の設計に命名してくれたばかりか、写本まで!エツィオ、貴方は魔法使いなんですか?素晴らしいです!こんなに胸がいっぱいになるなんていつぶりでしょう!」

早速写本を渡すと、レオナルドは興奮気味に頬を紅潮させて歓声を上げた。
恭しく写本を受け取ると、うきうきと作業机にそれらを置き、ハッとしてから振り向いた。

「あの、エツィオ……これらはいつまでに解読したらいいでしょうか?」
「ああ、そんなに急がなくてもいいよ。レオナルドがそれを全部解読できるまでフィレンツェに居る予定だから。あと、軽く読んだ感じ、こっちの写本は武器の設計図みたいだ。こっちは制作も依頼したい」
「では、それなりに猶予があるのですね?」
「ああ。だけど、根をつめて倒れないでくれよ?優秀そうな弟子たちも居るし、大丈夫かな?」

エツィオが工房を見渡して、苦笑している弟子たちに目配せをしてからウインクを投げる。
数人がドギマギ視線を逸らしたが、奔放な師匠の面倒を見るのは慣れっ子なのか、エツィオの問いにこくこくと頷いて見せた。
しかし念のためエツィオはレオナルドの写本に対する取り組みの熱量について話をすると、弟子たちは皆遠い目をしてため息を吐いた。
申し訳ない気持ちになりつつ、早くも解読作業に夢中になっている友人を置いといて、弟子たちを労うべく手土産の菓子を振る舞う。
甘いものは疲れを取ると言うし、今後のレオナルドの世話をする者達へのせめてもの罪滅ぼしだ。
あと、念のため急ぎの依頼などがなかったかを尋ねる。
無くはないという事だが、そのどれもレオナルドの手がなくともなんとかなりそうだと言うので、その言葉を信じて任せる事にした。

「一応、俺が持ち込んだ依頼でもあるし、暫く俺も工房に通うよ。君たちは自分の仕事をしてくれ」
「ですが、貴族の方に下働きのような事をさせるのは……
「ああ、気にしないでくれ。好きでやる事だし、この間モンテリジョーニにレオナルドが遊び……俺の依頼で来た時にも、食事の世話やら寝かしつけは経験済みだから大丈夫。任せてくれ」

既に依頼主の世話になった事があると知った弟子たちが呆れた顔をしたが、どうやら任せてもよさそうだという事で皆胸を撫で下ろした。
やはり最終確認だとか修正なんかは必要な事で、その時には何とかレオナルドを仕事に戻すようにと約束し、エツィオは暫くの間工房に通う事になった。
レオナルドの弟子たちの軽いお使いなどを手伝ったり、昼食の差し入れなどをすれば、あっという間に皆と仲良くなった。


***


フィレンツェへと戻って来てから半月ほど経っていた。
いつもの様にレオナルドの工房へと赴き、弟子の手伝いや、レオナルドの世話を焼いて一日を過ごす。
家に帰ればペトルチオの勉強を見てやったりマリアやクラウディアののろけ話や愚痴を聞いてと至って平和な毎日だ。
テンプル騎士団やアサシン教団等という対立する組織がなければ、世界はもっと平和だったのではないだろうかと思う程だ。
そんなこんなで今日もレオナルドの助手……というよりも殆ど介護の様に身の回りの世話を焼き、夕食を食べさせてから帰ろうと準備をしていた。

「ほら、レオナルド!晩御飯の時間だ!はい、口開けてー」
「エツィオ、その……一応ひと段落したので、今日は自分で食べます……

気まずそうに眉尻を下げて返答するレオナルドに、すっかり横から食べさせることに慣れてしまったエツィオが驚く。
その反応を見て、益々情けない顔をするレオナルドに、思わずエツィオと弟子たちは失笑した。

「というか、その……随分弟子たちと打ち解けていますね……
「ああ。暇な時間とかアニョーロ達とレオナルドの面白話に花を咲かせていたからな」
「な、何を聞かされたんですか?!アニョーロの話は話半分に聞いてください!多少大げさに言うんです、彼は!」

慌てて反論すると、エツィオは面白そうに笑いながら「分かってるよ」と言い、レオナルドにジト目で見られつつ、彼の目の前の机上を手際よく片付けていく。
慣れた手つきで二人分の食事を出して、向かい合って座った。
弟子たちはそんな二人の様子を微笑ましく確認してから、各々食事を摂りに外へと出て行った。

「準備しといてなんだけど、折角うちのメイドが持たせてくれた食事だから、俺もここで食べたいんだけど良いかな?」
「勿論です!エツィオと食事をご一緒できるなんてとても嬉しい。それにとっても美味しそうです。それにしても、なんだか世話焼きが慣れてますね」
「まぁ、半月も世話してれば流石にね。モンテリジョーニでもレオナルドの助手を務めていた訳だし」

にっこり笑って答えれば、レオナルドは目を白黒させてから「本当に変わった方です」とスープに口をつけながら言った。
食事をしつつ、レオナルドが解読を終えた写本について熱弁する。
余程謎解きが楽しかったのか、徐々に語り口調に熱が入り、食事そっちのけになるので、ちょこちょこ横やりを入れつつ、レオナルドの食事を進ませる。
仕方がないなと呆れる半分、歴史的偉人の無邪気な好奇心に微笑ましさを感じる半分と言った感じで楽しい食事が進んでいった。

……それで、残るは武器の設計図の写本だけなんだな」
「ええ。アレは直ぐに解読出来て、作成にも取り掛かれると思います」
「作成には1~2週間位かな?」
「解読してみないと分かりませんが……

レオナルドはエツィオの断言に目を丸くして口ごもると、その反応を見たエツィオは何でもない事の様に「そうだったな」と相槌した。
レオナルドの探る様な視線がエツィオに注がれる。
目の前の聡明な芸術家は、しかし思ったことが全て顔に出てしまう。
レオナルドはエツィオにどこまで踏み込んでも良いものか計りかねて、困ったような顔になってしまった。

「レオナルド、俺の事がそんなに気になる?」

エツィオが悪戯っぽく笑って言うと、レオナルドはどぎまぎしながら視線を彷徨わせ、葛藤の末、好奇心に負けて口を開いた。
知るのが怖いような、それでも目の前の魅力的な少年の事を理解したいような、戸惑いながら疑問をぶつける。

……貴方は、初めて出会った時にも、私を見て……とても懐かしそうな顔をされていました。それに、貴方はこれから何があるのか、何が起こるのかを既に知っているように行動される……
「ふーん、君もそういう風に思うのか……はぁ、本当に動きすぎたんだな」

レオナルドの事を散々分かりやすいだとか顔に出る等思っていたが、自分も人の事は言えないのだとため息を吐く。
そして、珍しくレオナルドから踏み込んだ質問をされ、エツィオはもう一段階関係を勧めるべきかと判断し、レオナルドの顔色を伺いつつ己の気持ちを伝える事にした。

「俺の希望としては、君には全部話してしまいたい。でも、君にとって厄介事はごめんだろ?俺の事情に巻き込むわけにはいかない」
「厄介事、というと……少し前にあった裁判だとか、ですか?」
「そうだな。我が家は勿論無実だが、何かと陰謀には巻き込まれやすくてね」

いつもならこうして濁せば聡明な彼はすぐに引くのに、レオナルドは構わず言葉をつづけた。

「し、しかし、私を……必要にしていると?以前、貴方は私を軍事技師に求めましたし」
「ああ、君が居れば心強いと思う。でも必ず必要という訳でもない」

敢えて突き放すような事を言えば、レオナルドは毒気を抜かれたように瞠目した。

「無理強いはされないのですね」
「そんなつもりは最初からないよ」

緩く首を振るエツィオを見て、レオナルドは暫し沈黙する。
彼の中で好奇心と理性が拮抗し、壮絶な戦いを繰り広げている様が見て取れるようだ。
そして張り詰めた様な顔をして、今にも安易な返事をしてしまいそうだった。

レオナルドが口を開く前に、エツィオはやれやれとため息を吐いて忠告した。

「レオナルド、俺が言ったことで君を悩ませてしまってすまないと思っている。何度も言うが、俺は君に無理強いするつもりはないんだ。そんな事をしても意味はないしね。だから今日はちゃんとベッドに入って休んでくれ。夜は碌な事を思いつかないんだから」
……ええ、分かっています。創造には適度な睡眠と体力が必要ですから」

罰が悪そうに同意するレオナルドに確りと頷いて見せる。
そして、思い悩むレオナルドは、今夜気を紛らわすために、この写本の解読と武器の作成を一人で進めてしまいそうだと思った。
折角ならまともな判断を下せる状態で、また明日この話の続きをしたい。
強制的に休ませるには、余計な物は没収しておいた方が良いだろう。

「この写本は一旦持って帰る。これが手元にあれば気になってちゃんと休めなそうだからね」
「あの、確認したいのですが、私の返答如何によってはその写本を任せて貰えなくなるなんて事はないでしょうか?」
「まさか!俺だって君に会えない間、これの解読をしてみたけど、君ほど早くこの写本を解読して、忠実に武器を作成してくれる者は居ない。写本の武器は信用できる者でないと任せられないし。今夜は純粋に君に休んで欲しいだけだ」

慌てて写本を盾に勧誘するつもりなんてないというと、レオナルドは途端に安堵して笑みを見せた。
エツィオは「お休み」と挨拶を言って工房を後にした。


****


翌朝、早々にメイドから起こされ、来客がある旨を告げられた。
非常識とは言わないまでも、それなりに早い時間だったので、モンテリジョーニのマリオから緊急の伝令でも来たのかと思い、玄関口へ急げば、意外な人物が佇んでいた。

「レオナルド?どうかしたのか?急に訪ねてくるなんて」
「いえ、昨日の件で……一晩考えてみたのです」

レオナルドの姿を確認すれば、服は着替えているものの、少し寝ぐせの付いた髪に、真っ赤な目をさせており、ちっとも休めていないことが見て取れる。
折角解読作業もひと段落したというのに、ちゃんと休息を取らず、昨夜の事で一晩中頭を悩ませていたのかと思うと、エツィオは申し訳ない気持ちになった。

「一晩考えてみたって、もしかしてあのままずっと起きてたのか?」
「ええ、まぁ、その……ですが、ちゃんと横にはなりましたよ。眠れませんでしたけど」

レオナルドの返答にエツィオは困った顔になり「食事は?」と問いかけた。

「その、まだです……
「じゃあ、せめて何か食べよう。俺の部屋に用意させるから」
「す、すみません……
「ううん。俺の所為だろ?レオナルドの意思に任せるとか言って、全然配慮してなかった。すまない」

部屋へと招き入れて、メイドに食事を頼む。部屋に丸テーブルと椅子に食事を用意してもらって、向かい合って食事を摂る事になった。
もそもそと用意された食事に手を着けるレオナルドを心配そうに見やり、出方を窺う。
ある程度食事を腹に納めると、少しだけ頭がしゃんとしたのか、レオナルドが意を決して口を開いた。

「正直な所、面倒事に巻き込まれるのは私としても嬉しくありません。ですが、貴方といると知らない世界を覗けるようで、とても楽しい。特に写本は興味深い知識の宝庫だ」
「ああ。君はこれが好きだろうと分かっている。だから、俺の話を聞かなくったって、君が良ければこれからも解読を頼みたいし、写本に書かれている道具は作って欲しい」
「有難うございます。そうして頂けると私も嬉しいです。……あの、それで、もしや貴方は既に私に見張りをつけているのでは?」
「うん。見張りじゃなく、護衛をつけている。申し訳ないんだが、俺と関わってしまったことで、既に君は目をつけられてると思うから……

申し訳なさそうに告白すると、レオナルドは特に驚くでも悲観するでもなく、なにか吹っ切れたような眼差しになった。
そしてまるで写本を前にした時の様に目を煌めかせて、身を乗り出し口を開いた。

「それなら、毒を喰らわば皿までも!既に巻き込まれているのなら貴方の秘密を知りたいものです。私、こう見えて度胸もあるのです。でも、巻き込んだからにはちゃんと護って下さいね」
……それは、勿論だけど、レオナルド……
「私に二言はありません!さて、それではこれからたっぷり貴方の秘密を教えて下さるんですよね?」

まるでクリスマスプレゼントを目の前にした子供の様に無邪気に期待を膨らませるレオナルドを見る。
一度覚悟が決まってしまえば怖い事など何もないとばかりに、エツィオに関して嬉々として質問攻めにした。


……テンプル騎士団というと、13世紀ごろに解散した組織ですね、それに対抗する組織のアサシン教団がまだ存在するとは……いえ、写本にもそれらしき記述がありましたし、そんな組織とエデンの果実?というのを奪い合っている、と」
「ああ。まるで夢物語だろう?俺だって話していてそう思う」
「まぁ、そこら辺は分かりました。それで、私が知りたいのは貴方の事なんですが、そちらもお話しいただけるのですよね?」

半日かけてアサシンとテンプル騎士団、そして“かつて来たりし者達”についての説明を終え、流石に話し疲れたのだが、レオナルドの追及は止まない。
寧ろ知りたかったのはエツィオ自身の事だと今までの話は前振りだと一蹴されてしまった。
しかしエツィオは己の核心を話すのは、アサシンとテンプル騎士団以上に荒唐無稽すぎると考えていた。
念のため、レオナルドにもそう伝えてみるが、聞いてみない事には判断出来ないと返されてしまった。

……はぁ、わかった。だが、これは話半分に聞いてくれていい。実際信じてもらえるとは思っていないし。俺は未来に起こる出来事を体験していて、自分の人生で何が起こるのかを既に知っている」
「それは、予見した、という事ですか?例えば、占い師のように?」
「いや、違う。エツィオの人生の一部を体験したんだ。例えば、そうだな。本に書かれた登場人物の人生を自分が体験する、みたいな」

レオナルドは案の定俺の突拍子もない話に面食らったようだ。
しかし、俺の話を理解しようとしているのはわかる。

「前にも言いましたが、貴方は先に起こる事を既に知っているようだと私は思っていました。知識にしたってそうです。私が設計した“submarine”を見て用途を直ぐに理解されていましたし、それに写本の武器についても」
「潜水艦はかなり未来に実現する兵器なんだ。それから写本に関してはヴィエリとの戦いの後、技の指南書と一緒に件の武器をその位の期間で作って貰ったと記憶していた」
「未来に実在する兵器、ですか?!それは一体いつ頃に完成するのでしょう?!それと、貴方の口ぶりからすると、ご自分の人生の他にも“未来”を体験されたのですか?」

エツィオはしまったという顔になった。
レオナルドの好奇心は底を知らない。迂闊な事を言えばまるで泉の様に疑問がわき出し、まるで火山の噴火の様に怒涛の質問が浴びせられる。
全部知るまでは部屋から一歩も動き出しそうにないレオナルドの気が満足するまで、エツィオは未来について知る範囲で答える羽目になった。


「あの、もし、私の未来に関する事でなにかあったりするでしょうか?危険などがあれば回避したいのですが」
……今頃それ聞く?まあ、そうだな……注意というか、これは忠告なんだが……ピタゴラスの神殿の謎を追うのなら、あまり周囲に吹聴しない方が良い。そのせいで痛い目を見る事になるからね。特に君の恋人のサライ本名はちょっと忘れちゃったけど、小綺麗な少年だ。その子には何でもかんでも話をするな」
「えっし、少年、ですか?」
「ああ。20年位先の話なんだが、君が大きな厄介事に巻き込まれる事件と言ったら先ずはそれかな。後は、ボルジアが君を技師として徴用するんだが、出来ればそれも阻止したい」
「ボルジア……ロドリゴ・ボルジアですか?アサシン教団の敵の?」
「正確にはロドリゴの息子のチェーザレが君を脅して技師として召し抱えるんだ。それで一時テンプル騎士団の軍事力が上がってしまう。そうすれば、我がモンテリジョーニが落とされてしまう可能性が出てくる」

エツィオの話に途端に顔を曇らせ、レオナルドは不安な顔になった。
よもや、己がエツィオの敵の手の者になるなど、それから先はどうなってしまうのか、考えるだに恐ろしい。

……敵に手を貸した私は、どうなるんです?」
「教団は君をボルジアから奪い返す。テンプル騎士団も君に危害を加えたりはしていなかったと思う」
「テンプル騎士団はそうでも、貴方を窮地に追いやるのでしょうから、アサシン教団の方で何か罰があるのでは?」
「いいや。教団は君を取り戻してからは特に何もしなかったな。俺が長になっていたこともあるし。それにボルジアからの報酬は雀の涙でこき使われていたんだから、それこそが罰になるんじゃないかな。アサシンに協力しているものとして、きっと君は針の筵になっていただろうし」

ボルジアに徴用されているレオナルドは自由がなかったように思う。
監視をつけられ、報酬も二束三文なら満足な休息もなく、やつれた姿をしていた。そんなレオナルドを見て、アニムスのエツィオは心を痛めていた。
そんな事をレオナルドに説明してやると、暗い未来にガックリし、そして力強く顔を上げてエツィオの手を取った。

「わかりました。私は貴方の教団の仲間になりましょう!軍事技師としてモンテリジョーニに連れて行くなり、どうぞお好きに!」

今まで以上に強い宣言にエツィオは面食らった。
こちらとしては脅しでそんな未来を話したわけではなく、ただ気をつけて欲しかっただけなので、慌ててレオナルドの申し出を遮った。

「レオナルド、別に協力者で居てくれればそれで良いんだぞ?勿論君の事は何もなくとも教団が護るし」
「それならば端から教団に所属してしまえば手っ取り早いでしょう。それにエツィオの元で好きなだけ研究をさせて貰えた方が得です。モンテリジョーニには潤沢な資金もあるのでしょう?」
「ああ、君が良いなら……正直助かるよ。もっとモンテリジョーニを強固に出来れば安心だし。君さえよければ雇わせてくれ。それから、これまで通り我が家は君の工房にも支援をする。手始めにあそこに飾ってある馬鳥の完成に着手するなんてどうかな?空から襲撃できれば敵の意表を突ける」
「ほ、本当ですか?!あれを完成させることが出来るなんて感激です!ああ、エツィオ!どこまでもついて行きます!」

輝くようないい笑顔でそう約束するレオナルドに始終気圧されつつ、良い方向に話がまとまりエツィオも内心でとても喜んだ。
一先ずトントン拍子に事が運び過ぎていて怖い気もするが、備えあれば患いなし。
己の周りを強固に固めれば、ボルジアとの交渉が実現するかもしれない。

今一番、宝物庫に近いのはロドリゴ・ボルジアなのだから。

そして協力関係を結べてキリ良く話が終了するかと思いきや、まだまだ続く果てない追及を無理矢理終わらせるために、泣き落としをする羽目になるエツィオなのだった。



前の話    もくじ    次の話


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.