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エツィオに生まれ変わったデズモンドは、平穏な人生を歩みたい

全体公開 9286文字
2021-03-30 15:14:17

第7話「グッバイ愛しい人よ」

Posted by @acbh_dmc4

エツィオはレオナルドの工房に通っていて気付くのが遅れたが、フェデリコはここ最近クリスティーナとの逢瀬をしていないようだった。
前までは寄越される手紙でも、時間があれば彼女と愛を育んでいる事が書かれていたのに、ここ最近は仕事詰めでそんな気配もない。
エツィオはどうせこちらから聞かずとも、部屋に押しかけられ、のろけ話を聞かされるのだろうと思っていただけに、拍子抜けしてしまった。
しかし、こうも話を振られないとそれはそれで気になってくる。

ジョバンニからフェデリコの休みの日を聞いて、いつもより遅くに居間へと出て来たフェデリコを捕まえる。
少しだけ不機嫌そうなフェデリコが朝食を摂っている横で、エツィオは様子を伺いつつ声をかけた。

「なんだか元気がないけど、ちゃんと休めているのか?」
「ああ、心配しなくても十分な休息は取ってる。忙しいは忙しいが、そのうち慣れるだろ」

どこかそっけない風に答えるフェデリコに内心で首をひねる。
最初フィレンツェに帰って来た時までは明るかった兄が、いつ頃からかそっけなくなったように感じる。
単に疲れているからか、それとも自分は何かフェデリコの機嫌を損ねる事をしただろうか?と不安になった。
しかし一度気になってしまうと見ないふりなども出来ず、思い切って尋ねてみる事にした。

「それで、クリスティーナとはどうなっているんだ?そろそろ結婚話とか出ている頃か?」

まどろっこしい事は止しにして、己の一番知りたかった核心を突いてみる。
しかし、思ったような反応はなく、寝ぼけたような、呆っとした態度でフェデリコは一言「とっくに別れた」と耳を疑う事を言った。

まるでなんてことない、つまらない事を報告するようにあっさり告げられた事実に、エツィオはガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。

……え、わ、何だって?別れた?!」
「ああ。フィレンツェに戻って暫くしてな。俺も仕事で忙しくしてたし」

こちらを見ずに、食事をつづけながら億劫そうに報告される。
目の前のモノが何を言っているのか、脳が拒否しているようにまるで頭に入らない。
人がどんな思いで身を引いて、順調に行っていると思っていた二人を祝福しようとしていたのか、この兄は何もわかっていない。

本人としてはなんてことない事なのかもしれないが、己の気持ちを弄ばれたような気がして、エツィオは語気も強く問い詰めた。

「正気か?フェデリコ?」

怒りで頭が沸騰し、顔を赤くし始めているエツィオを面倒くさそうに一瞥し、フェデリコは心底うんざりして返答した。

「向こうから断って来たんだ。なら俺がどうこうできる問題じゃないだろ」
「待てよ、何か事情がある筈だ!フェデリコだってまだ彼女の事が……
「放っといてくれ!もう終わった事だ。良かったな!いま彼女はフリーだ!直ぐ彼女を口説けばお前のものになるかもしれないぞ?」

エツィオはフェデリコの言葉にカッとなり、頬を思い切り殴り倒してしまった。
突然の暴力だったが、さすがの反射神経か、咄嗟に歯を食いしばって無様な姿をさらすことはなかった。
本来ならエツィオから手を出せば、フェデリコも応戦するのだが、フェデリコは気まずげに視線を外して黙り込んだままだった。
きっと誤解があるのだ。フェデリコはきっとプライドの為に縋るような真似ができないだけなのだとエツィオは思い、背を向けた。

「クリスティーナに会いに行く」

フェデリコはピクリとも反応をせず、エツィオの言葉を無視するようにただ黙っていた。

「クリスティーナを説得する!」

エツィオはそう宣言すると、不機嫌に扉を鳴らして部屋から出て行った。部屋に残されたフェデリコは、まるで痛みをこらえる様に顔を歪めていた。


エツィオは急いでクリスティーナの家に向かった。
ヴェスプッチ家の扉を叩き、酷く悶々としながら返答を待つ。顔見知りのメイドが玄関から対応すれば、何故だか彼女の父親のジョルジョが、とても良い笑顔でエツィオを迎えてくれた。

「やぁ、エツィオ殿ではないか。漸く来てくれたね!私はジョルジョ・アントニオ・ヴェスプッチだ。今日は娘に会いに来てくれたのかな?」
「え、ええ。ちょっと聞きたいことがあって……。玄関先で構いません、少しクリスティーナとお話をさせて頂いてもよろしいですか?」
「玄関先でなどとんでもない!是非持て成させてくれ!おい、クリスティーナを呼んできてくれ。エツィオ殿、さ、こちらへ」

上機嫌で応接室に案内され、ジョルジョも一緒に話をしたいと言われたが、個人的な話になるからと遠慮いただいた。
部屋から退出する際に、何かをクリスティーナに話しかけていたようだが、クリスティーナが顔を曇らせてからため息をついて静々とエツィオの元へと近づいてきた。
静かに扉が閉められ、部屋にはエツィオとクリスティーナの二人だけとなった。

「クリスティーナ、久しぶりだ。俺がここに来た訳だけど、フェデリコと別れたって聞いてどうしてだ?!何があった?」
「久しぶりね、エツィオ。フェデリコから聞いたの?」
「ああ。クリスティーナ……その、平気か?」
「お父様に、反対されてしまったの。それで無理矢理婚約者を宛がわれて……フェデリコもお父様の説得をしてくださったんだけど」

暗い顔で打ち明ける彼女は、歯切れ悪く唇を噤んだ。
明らかにこの婚約を望んでいない態度だ。だが、フィレンツェを追われ己の過酷な運命に彼女を撒き込めなかったエツィオと違い、フェデリコはずっと彼女の傍に居た。
それなのに何故こんな事になってしまったのだろう。
じっとクリスティーナの言葉を待っていると、どこか気まずそうな顔で見上げられた。

……お父様が、貴方となら結婚を許したと言ったら、フェデリコが怒ってしまって」
「な、何だって?!何故、俺ならって話になったんだ?」

エツィオはクリスティーナのその言葉に心底驚いて思わず聞き返した。
そして先ほどのジョルジョの態度を思い出す。エツィオの顔を見た途端、とても嬉しそうな、まるで気に入っている部下が訪ねて来たかのような顔で歓迎された気がする。
ジョルジョのあんな満面の笑みはアニムスですら見た事がない。

「貴方はモンテリジョーニの領主になるでしょう?フィレンツェでもモンテリジョーニがあれだけ力をつけたのは貴方の手腕だって評判だわ。それを聞いて、お父様がフェデリコに私と別れて貴方を紹介しろと言い出して。せめて、フェデリコがメディチ銀行で地位を築いてくれれば、お父様も許可したと思うのだけど……
「フェデリコは今、ロレンツォ殿の治世を手伝っているんだ。確かに、事情があって正式に表明されているわけではないけれど……十分将来は安泰だよ!」
「でも、フェデリコは私に彼の仕事の事は何も話してくれなかったわ。それに、貴方の家族の裁判の前夜、フェデリコが娼館を訪ねているのをお父様が見たって仰って……
「それは仕事だったんだ!あそこの女主人はアウディトーレ家の取引先でもあって、業界の情報を扱っているんだ。水面下で我が家を陥れようとする連中の話を聞きに行っていたんだよ!」
「けれど、フェデリコは私に何も教えてくれなかったわ!私は恋人なのにっ!」

叫ぶようにクリスティーナが反論した。その悲痛な叫びに、思わずエツィオは言葉を飲み込み、どうしようもない気まずい思いで彼女を見つめるしか出来なかった。
彼女のご両親は確かに厳格で、クリスティーナの幸せを切に願っている。
彼女自身、箱入りで家族を第一に考えているし、アニムスでのエツィオが彼女を攫えなかったように、フェデリコもアサシンとして人生を歩む上で、彼女を危険にさらせないと判断したのかもしれない。

クリスティーナの取り乱した声を聞きつけて、ジョルジョが部屋に顔を出した。
己の娘が辛そうに顔を背けている姿を見て、僅かに顔を顰め、何があったのかをエツィオに問うた。

「その、僕の兄さんの事で誤解があったようなので」
「君の兄君の事は、失礼ながら調査して今何をしているのかは知っている。だが、私達の愛娘を取り戻したいなら君ではなく、フェデリコ本人が弁解に来るべきではないかね?私は娘が本当に幸せになるよう、相手を選んでもらいたいのだ」
……それは、そう、ですが」

ジョルジョの娘を思う言葉に、エツィオはただ同意するしかなかった。
部外者である己が二人と、そして彼女のご両親に何を言っても好転する事はない。この事については二人の問題であり、エツィオに出来る事など無いのだ。
悔しい思いで口を噤んだエツィオを見て、ジョルジョは優しい笑みを見せた。

「君は本当に家族想いだ。久しぶりにフィレンツェに帰って、その話を聞き、クリスティーナの様子を見に来てくれたんだろう?私は、君にとても感心しているのだよ。君みたいな素晴らしい青年が我が娘を娶ってくれたら、それは心から安心できるのだが」
「お父さま!止めて!」
「ヴェスプッチさん、それこそ兄さんの恋人を奪った鬼畜な男というレッテルが張られるだけではありませんか?俺は、フェデリコとクリスティーナの幸せを心から願っていたのです」
「ふむ、益々良い男だとは思わないか、クリスティーナ。今時このようにしっかりした若者は他に居ない」

何を言ってもエツィオの言葉を持ち上げてくる。
己が傍から見れば優良物件だというのは理解できるが、それにしたって食いつきすぎだ。正直引いてしまう。
クリスティーナも父親のあまりの言い分に腹を立ててか顔を赤くして半泣きだ。

気まずい空気が流れる中、突如として外から沈黙が破られた。
随分と外が騒がしいと思っていたが、その騒ぎはヴィスプッチ家の前で止まり、焦ったように扉が激しく叩かれたのだ。
そして、クリスティーナの知り合いなのだろう「ジャネッタの声だわ」と呟いた彼女が扉へ視線を向けた。

「クリスティーナ様!出てきてください!マンフレッドが!マンフレッドが!」
「様子を見に行こう」

クリスティーナとその父親と一緒に、エツィオは外へと出て行った。
ジョルジョがジャネッタに声をかけると、顔色を無くし、酷く取り乱して答えた。

「マンフレッドが大変です!あ、あの借金を、していたらしくて今にも殺されそうなんです!」
「なんだって?借金?それはどういうことだ?」
「あ、えええと

婚約者の不実を告げられたジョルジョは顔を顰め、どうしたものかと考え込む。
エツィオはそういえば奴は賭け事で負けを繰り返して借金し、アルノ川に投げ込まれそうだった姿をボンヤリと思い出していた。

「そのマンフレッドって奴はクリスティーナの婚約者だったな?ちょっと様子を見てくる」
「ああ。済まない。もし彼を助けてくれたなら、礼をする。それから、マンフレッドを連れて真っ直ぐ我が家に戻ってきて欲しい」
「申し訳ありません。俺は仕事に戻らなければならないので、マンフレッドに直ぐヴェスプッチ家に行くよう伝えましょう」
「そうかそうか。流石、忙しい身のようだ。だがそう時間は取らせんよ。少しだけでも顔を出してはもらえんか?」

上機嫌にニコニコと笑いかけられ、親し気に肩を叩かれた。
エツィオは困惑してその言葉に頷き、踵を返してマンフレッドの居るというアルノ川へと向かった。
しかし、いくらも行かない内に、エツィオは意外な人物がこちらに歩いてくるのを見つけた。

先程啖呵を切って別れたばかりのフェデリコの姿だ。
急いでヴェスプッチ家とは逆方向に向かおうとするエツィオと目があえば、フェデリコは一瞬気まずそうな顔をした後、意を決したようにエツィオの元へと近づいて行った。

「どうしたんだ?何か問題が起きたのか?」

フェデリコはエツィオが慌てたように道を駆けているのを、何か問題が起きたのだと思い、声をかけて並走してついてきた。
これは調度良いかもしれないと思ったエツィオは、アルノ川でもめ事がある事をフェデリコに告げると、そのまま一緒に現場へと向かう事になった。

果たして、アルノ川へと辿り着くと、いつぞや体験した通り、上等な服に身を包んだ青年がしゃがみ込み、それを二人の男が罵倒しながら容赦なく蹴りを入れ、拳で殴りつけていた。
どう見ても市民の喧嘩だったので、フェデリコは顔を顰めてエツィオに目配せした。

「これは何の冗談だ?」
「見ての通り、一般市民が暴漢に襲われている。市民の味方である我がアウディトーレ家としては、止めてやっても良いとは思わないか?」
……まったく」

フェデリコはやれやれとため息を吐き、エツィオが示したもめ事の元に音を立てずに忍び寄り、二人の男のコートの襟を掴んで持ち上げ、反動をつけて川に放り投げてやった。
情けない悲鳴がアルノ川の黄色く濁った水に吸い込まれていく。

フェデリコはなんてことの無い仕事を一瞬で済ませ、酷く暴行を加えられ脅え切っている青年の元へと歩み寄った。
その様子を見守っていたエツィオもフェデリコとマンフレッドの元へと歩み寄る。
そして、エツィオに「それから?この後はどうするんだ?」とお道化て問いかけた。

「フェデリコ、彼は……クリスティーナの婚約者だ」
「クリスティーナの?こいつが?」

フェデリコの視線が冷たく非情な物へと変わった。
まるでアサシンとして任務を受けている最中のような、殺気を漲らせて睨まれたマンフレッドは心の底から震えあがった。
先程の暴漢たちの比ではなく、目の前に立ちふさがる男がまるで死神の様に恐ろしく感じる。
思わずその隣に居るエツィオに助けを求めるような視線をやるが、当の男は素知らぬ顔でフェデリコをじっと見ている。

「コイツの悪癖を突き出せば、クリスティーナとその父親ともう一度話し合えるだろう。フェデリコの口から今の自分の立場や誤解している事を話せば分ってくれるさ」
「お前からのお膳立てなんて御免だね!言われなくても分かっているんだ」

エツィオの助言を鼻で嗤い、一蹴した。
あまりのフェデリコの頑固さに呆れてため息を吐けば、フェデリコは予想外の行動に出た。


「うわ!おい!よせ!何をするんだ?!」

フェデリコはマンフレッドの胸倉を掴んで工事中の橋の縁に辛うじて足がつく位の位置で締め上げた。
もし、彼の体を支えている腕を離せば、アルノ川に真っ逆さまに落ちるだろう。
背後に見える淀んだ川の水面を見て、マンフレッドは顔を青ざめさせた。

「何故お前はここであの暴漢たちに襲われていた?」
「お、俺は何もしていない!た、ただ、ちょっと金を返すのが遅くなってしまって……
「借金があったって言うのか?」

あわあわと意味のない事を叫び、とても本当のことを話しそうもないので、エツィオはマンフレッドの代わりに陳松を話してやることにした。

「この男は暇つぶしに賭博に嵌っているんだ。こんな奴にクリスティーナを渡していいと思うか?」

ギロリとフェデリコがエツィオを睨みつける。
本気の殺意の乗った睨みだったが、エツィオも物おじせず、挑発するようにフェデリコを見返した。

「クリスティーナの婚約者だと言ったな?お前は、彼女を愛しているのか?」

唐突な質問に、マンフレッドは眉間にしわを寄せ、フェデリコを見つめた。
しかし、目の前の新たな恐ろしい暴漢は、心底軽蔑したような冷たい目でマンフレッドを見下している。
そしてもう一度助けを求める様にエツィオに視線をやるが、そのエツィオは吊るされている男などまるで眼中にないと言った風で目の前の暴漢を見ていた。

「言っておくが、ヴェスプッチの婚約者候補の最有力株は隣にいるこのエツィオだ。今のお前では太刀打ちできずにあの親父に叩き出されるだろうな」
「おい、フェデリコ!俺にそんなつもりはない!」
「お前になくても先方はそのつもりだ。今のタイミングでフィレンツェに帰って来たんだったら申し出があるだろうな。それとももう口説かれたか?」

先程ヴェスプッチ家でジョルジョとのやり取りを思い出し、エツィオは少しだけ罪悪感に顔を顰めた。
だが、フェデリコはお構いなしにマンフレッドにさらに発破をかけるような事を言う。

「エツィオにその気がなくても、このままじゃお前はクリスティーナの婚約者からは外される。もし挽回できるとしたら、エツィオにその気がないとはっきり断りを入れられた上で、お前が彼女を心から愛し、良い夫になると誓いを立てて懇願する事だが、お前にそれが出来るか?」

フェデリコの剣幕に、マンフレッドは息を飲み、だが真剣な顔で頷いた。

「で、出来るとも!俺は彼女を愛している!この命にかえても、彼女への愛は貫く!」
「クリスティーナの良き夫になると約束しろ。もし破ったら……二度と賭博も出来ないようにしてやる」

フェデリコとマンフレッドのやり取りを見て、エツィオは目を丸くしていた。
フェデリコは本気でクリスティーナを諦める気でいると分かったからだ。
嘗て遠い昔にアニムスで見た、エツィオとマンフレッドのやり取りを、自分の兄で実演されたような気持ちで見つめる。
誓いを立てたマンフレッドを橋の中央に捨てる様に引き上げると、橋の袂でクリスティーナがこちらを心配そうに見ているのが目に入った。

「ほら、彼女が待ってる。もう行け。無事に結婚できるかは分からないが、約束は守れよ」

マンフレッドはフラフラとクリスティーナの方へと近づき始めたが、途中で歩を止めて、こちらに振り向いた。

「ぼ、僕は本当にクリスティーナを愛しているんだ!きっと彼女と結婚して見せる!そして、全力で彼女を幸せにするつもりだ!」

両腕を広げ、大声で宣言したマンフレッドは再びクリスティーナの元へと歩き始めた。
彼女と合流したマンフレッドは一言二言クリスティーナと言葉を交わした後、エツィオを見やった。
エツィオはジョルジョからマンフレッドと戻るよう言われていたことを思い出したが、フェデリコを指さした後、首を振り、行けないことを伝えると、頷いてその場を去っていった。
クリスティーナは何度かフェデリコを振り返ったが、フェデリコはそっけなく背を向けたまま、アルノ川を眺めて居た。

先程のフェデリコとマンフレッドのやり取りは、かなり派手だったため、彼女もしっかりフェデリコの言葉を聞いていただろう。
それだけに、ちゃんとした言葉も交わさないのが悲しくなった。
無言で兄の隣に並ぶ。
暫しの無言の時が流れ、気まずそうにエツィオは隣を見やると、フェデリコは呆れたような顔をして口を開いた。

「お前までそんな顔をするなよ。なんだかこっちまで情けなくなるだろうが」
……でも、クリスティーナの事、本気だったんだろう?俺は、フェデリコなら彼女と幸せになれると思って……心から二人が幸せになる事を願ってたんだ」
「まぁ、縁がなかったのさ。今の俺は一見すれば職にもつかずにフラフラしているように見えるしな」
「そんなことはない!ロレンツォ殿について政治に関わっているじゃないか!」

エツィオが思わず熱くなってそう反論すれば、フェデリコは苦笑を零して肩を叩いて宥めた。

「報いなのかもな。お前に嫉妬していたから、きっと天罰が下ったんだ。正直、意地の悪い想いでクリスティーナと付き合う事にしたんだ。どんどん出世していくお前を見ていて、卑屈になってた」
「フェデリコ……
「だが、元々クリスティーナは、そのマンフレッドって奴と結婚する筈なんだろう?」
「ああ、そうだ」
「なら、そうなる運命だったんだ」

フェデリコは少しだけ残念そうに笑うと、エツィオの顔をジッと見つめた。

「お前は凄いよ。実際、モンテリジョーニでの評判はフィレンツェにも届いている。父上や俺たちの命も救ったし、教団はお前が居なければここまで勢力を広げられなかった」
「それは俺が未来に起こる事を既に知っているからだ。本来この記憶さえなければ、俺は長い事テンプル騎士団に振り回されて、家族を奪われる何の力もない男だった。妹までアサシンに巻き込んで危険な目に合わせてしまったし
「たかだか記憶を持っていたって、それを覆すだけの能力がなけりゃ同じ未来を歩いたはずさ。それに、クラウディアを危険にさらしただって?冗談は止せ。クラウディアも天性の才能を持っているぞ。あいつの彼氏がよその女に鼻の下伸ばした時に、物凄い綺麗なフォームで右ストレート決めたんだ。偶然その場面に遭遇したんだが、その速さと威力と言ったら、惚れ惚れしたもんさ。思わず父上にクラウディアも鍛えようって進言した位さ」

あっけらかんと笑い声を立て、エツィオにこれ以上気にさせまいと話題を逸らす。
これ以上二人の事に口をはさんでも、ただ辛くなるだけだろう。
心に少しの罪悪感を感じ、曖昧に笑うと、フェデリコは仕方のない奴と言わんばかりに苦笑し、乱暴に頭を撫でた。

「正直お前を引き合いに出されてプライドは傷付いたが、仕方ない事だろ?俺にはやっぱりあんな美人は荷が重すぎた。それに実はもういい感じになりつつある娘がいてな」
……フェデリコ?」
「そう睨むな。クリスティーナもこんな軽薄な男に捕まらなくって良かったんだよ」

何処か吹っ切れたような顔をしたフェデリコに、エツィオは苦笑して納得することにした。
フェデリコはとても賢く気の良い男だ。
きっと彼に合った素晴らしいパートナーを見つけて幸せになるに違いない。
そしてクリスティーナも……今度こそ幸せになって欲しい。これ以上、彼女を振り回すような事はしない。
未来、フィレンツェで起こる悲劇もきっと防いでみせる。
家族を救うことが出来た、自分になら、きっと……

「兄弟二人して振られたって訳だ。やけ酒なら付き合うぞ」
「残念だが、俺にはもう春が来てるから聞かせるのはのろけだ」


小憎らしい笑みを見せて兄貴風を吹かせるフェデリコの背を叩いて、二人は昼から知り合いの酒場を貸し切り、泥酔したフェデリコの未練たらたらな愚痴を聞いてやるエツィオは、平和を噛み締めるのだった。



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