第8話「休暇の終わり」
21/7/26うっかりエンバースの情報が入ってたのでエツィオとマリオの台詞を修正しました。
※デズはエンバースの追体験はしていない設定です。
@acbh_dmc4
フェデリコとクリスティーナの問題に首を突っ込んでから数日後、エツィオの毎日は至って平穏に過ぎていった。
今までが訓練や家族を救うための策を練ったりと忙しくしていた為、ここまで休暇らしい休暇はモンテリジョーニに修行に出て以来だった。
手土産を片手にレオナルドとの約束の期日に工房を訪問すると、弟子たちとにこやかに歓迎された。
すっかり工房に馴染んでいるエツィオに苦笑しながら、レオナルドは新しく作成した武器を丁寧に取り出した。
「こちらは前にお渡ししたアサシンブレード同様、仕込み刃がありますが、それだけではありません。中に金属のプレートが組み込まれた皮の手甲なんですが、敵の剣の一撃を防いでくれます。これの鋳造方法を編み出した方は凄いですね。たとえ斧が当たっても平気なくらい頑丈なのに、信じられないほど軽いのです!」
「ああ、待ちわびていたよ。早速強度の方を試してみたいんだが、良いかな?」
「ええ、勿論!」
レオナルドからその手甲を渡されると、エツィオはまるで古くからの友人と再会したような、懐かしさを感じた。
早速その使い心地を試す為に、レオナルドの弟子たちと模擬戦を行ってみる。
芸術家とは、案外体力勝負であるという事を弟子たちの働きと、エツィオも時折仕事を手伝ったりしていて知っていた。
その為か武術に長けているという程でもないが、それなりに筋のある弟子たちとの模擬戦は白熱した。
そして、手甲のプレートの耐久性にも驚かされた。
どんな痛烈な一撃にもびくともせず、それでいて非常に軽いので何もつけていないかのように腕を動かすことが出来た。
「レオナルド、有難う。きっとこいつに命を助けられる」
「お褒めに預かり、光栄です。これで手を怪我する事はなくなります」
レオナルドはエツィオの右手の甲に出来た傷を指して、心配そうに目配せした。
その傷を見下ろして、エツィオは少しだけ寂しそうに微笑みを見せる。
「この傷は大事な友人を忘れない為の、戒めみたいなものかな」
「そうですか。ですが、気をつけるに越したことはありません。純粋に、心配になります」
「有難う、レオナルド。十分気をつける。俺も痛いのは嫌だしな」
友人の暖かい心配の言葉に心を温かくさせて、優しく微笑んだ。
日も暮れてから家に帰ると、調度フェデリコがジョバンニの書斎から出てくるところに鉢合わせた。
どうやら仕事の報告をしていたようで、ここ最近の真面目な仕事っぷりにエツィオは感心ついでに揶揄ってやった。
今までの己の生活態度を揶揄され、フェデリコは片眉を上げて素知らぬ顔をしたが、わざとらしい反応に二人して笑いあった。
家族団欒の食事を終えると、無邪気にエツィオにじゃれる弟妹にフェデリコが割って入り、部屋に来るよう誘われた。
促されるまま、二揃い置かれた椅子の一つに腰かけて、フェデリコが出してくれるワインを飲む。
他愛のない話を続けている内に、少しだけ真剣なトーンでフェデリコが「お前いつまでここに居るんだ?」と問うた。
エツィオは少しだけ拗ねた気持ちになる。
不服そうに眉を顰めて「なんだよ、さっさと出てけって言うつもりか?」と言えば、フェデリコは優しく笑んで首を振った。
「いやな、お前がフィレンツェにいると、敵さんのやる気が削がれて中々仕掛けて来れないのかなと思ってな」
にやりと揶揄うように言われ、しかしフェデリコの言葉も尤もだと思う。
エツィオがこの街に居る限りは本当に出てこないかもしれない。
しかも、フランチェスコの居場所すら、狐たちの包囲網で徐々に絞られている。今は目星の場所をアサシンの包囲網で監視している状態だ。
そろそろテンプル騎士団が狙ってきそうなミサが近いというのに、会合を開く気配すらない。
「フランチェスコを先に拘束しても良いんだが、そうするとアントニオ・マフェイらの始末を各々つけなければならないから面倒なんだよな。メディチ家を囮のように扱うのは少々心苦しいが。エツィオ、この街を出た振りしてこっそり戻れないか?」
「それだったら普通にモンテリジョーニに帰るよ」
「何だって?遊び来ただけで仕事もせずに帰るつもりか?!」
わざとらしく驚いて見せるフェデリコの話に乗っかって、ジト目で見返してやる。
確かに二人でやれば確実だが、これはフェデリコが試されている局面でもある。
そもそもジョバンニからも手出し無用と念を押されていた。
「冗談だよ。分かってるとは思うがな。でも本当に帰るのか?」
「結構長居したしな。目的の物も手に入れたし、そろそろ帰らないととは思っていた。弟子たちが平和ボケしたら大変だしな」
「……気の毒に」
明らかに弟子たちに向けて十字を切るフェデリコの脛に蹴りを入れる。
軽く小突いただけだというのに、大げさに床に転がって痛がる姿に呆れた。
しかし兄弟のじゃれ合いももうあと僅かだ。正式にマリオの養子となり、アサシンの長候補として活躍している今、次いつ家族に会えるか分からない。
そして、会えたとしても、それは同業者として仕事で会う事になる。
今回の滞在で、家族として皆と過ごせた。エツィオは少しだけ寂しい思いに蓋をして、満足そうに笑んでここでの生活から去る決意をした。
「……そういえば、お前ヴェネツィアの視察に行くんだろう?モンテリジョーニに帰ったらすぐ発つのか?」
「マリオ父上はそのつもりみたいだが、俺はもうしばらくヴィラに居るつもりだ。レオナルドがアサシンへ協力してくれると約束してくれたから、ヴェネツィアに行く前にモンテリジョーニの案内をしたい」
「父上から聞いたが、その芸術家を軍事設備の顧問として雇うんだろ?これ以上あそこを強化する必要があるのか?」
フェデリコは目を白黒させてエツィオを見つめた。
モンテリジョーニの城門設備や兵や弟子たちの鍛錬を見て来て思ったが、既にどんな軍隊が攻めて来てもビクともし無さそうな重装備だった。
更なる武装を伴うとなると、周りの国々も黙ってはいないだろう。
既にモンテリジョーニは目をつけられているというのに、これ以上となると戦争でも企んでいるのではと勘繰られるかもしれない。
「レオナルドにいくつか作って貰いたいものがあるんだ。まぁ、はた目には強化されているとは気づかないだろうし、何せ今の彼の名声は芸術家としてだ」
「それもそうか」
「それから、モンテリジョーニの今後のためにも、アウディトーレ家がメディチ家と懇意であることを強調してもらいたい。そうすればモンテリジョーニとフィレンツェの緊張は多少解れるだろう。メディチ兄弟の暗殺阻止は重要だぞ」
フェデリコはよもやこの任務がモンテリジョーニにまで影響力を持つと言われて目を剥いた。
確かにエツィオがモンテリジョーニで行った事はフィレンツェにも届いているし、フィレンツェの支配者であるメディチ家とアウディトーレ家がこれ以上ない程に懇意であると知らしめれば、モンテリジョーニを守る事にも繋がる。
フェデリコは顔を引きつらせながら恐る恐る口を開いた。
「まさかこの任務の結果が分かるまで視察は行かないつもりか?」
「まぁな。パッツィ家には一応、責任があるし。フランチェスコの件が片付けば、家族にその事を告げなければならない。それに、ヴェネツィア行きの紹介状の手配もあるからな。それが手に入る頃には片が付くだろう?」
にっこり微笑んで肩を叩けば、「この悪魔め……」と小さく悪態をつかれた。
敵の動きを促す為にも、早々に動いた方がいい。
ボルジアにはバレてしまいそうだが、マリオに急病になってもらって慌ただしく帰宅の手配を整えた。
「お兄さまったら、いつも慌ただしくいなくなってしまうんだから!」
「兄さま、次はいつ帰って来れる?」
「すまない、クラウディア、ペトルチオ。なにせ、マリオ父上も年だから……」
苦笑して言えば、二人の背後にいるジョバンニとフェデリコが笑いを咳払いで必死に誤魔化していた。
マリアも意図は薄々感づいているのだろう、二人を見て仕方のないという顔をし、名残惜しそうにエツィオを抱きしめて別れの挨拶をしてくれた。
いつだって家族との別れは寂しい。名残惜しむ皆の顔を見て、エツィオは後ろ髪を引かれる思いで馬車に乗り込んだ。
モンテリジョーニへの帰路は特に問題もなく、ペトルチオから貰ったおやつを食べながらまったりと進んでいった。
一応病床の設定となっているマリオは屋敷に缶詰めにされて、書斎でエツィオの登場を今か今かと待っていた。
エツィオが書斎の扉をコンと一回ノックした途端扉が開き、満面の笑みをたたえたマリオがハグで迎えてくれた。
「度々怪我や病気にしてしまってすみません。ただいま戻りました、父上」
「屋敷にこもりきりになるのはどうにも性に合わん。だが、良く帰って来た!休暇は楽しめたか?」
「ええ、とても。リフレッシュ出来ました。それで、レオナルドがアサシンに協力してくれると約束出来ました。早速彼の仕事がひと段落したらモンテリジョーニに迎えるつもりです」
かねてよりレオナルドの話はマリオに話していたし、前にヴィラへ遊びに来た時に直接会話し、マリオ自身も彼を気に入っていた。
休暇と言いつつしっかり教団へ貢献して帰ってくる辺り、エツィオの職業病にはマリオも苦笑を禁じ得なかった。
「そうかそうか。彼はこちらに工房を構えるか?ならば、新しく建物を建てるのだが」
「いいえ、彼はこれから依頼で色んな場所を飛び回るので、レオナルドが必要だと言ってからでいいと思います。我が教団で囲ってしまうのは勿体ないですからね」
「わかった。お前の好きにするがいい。所で、まだ屋敷から出ては駄目か?」
「ええ。病気だと言ってまだ1日しか経っていませんから。父上も少し休まれては?」
外出禁止を言い渡されたマリオはこの世の終わりのようにシュンとするので思わず失笑する。
エツィオの笑い声に「他人事だと思って」と力なく言うマリオは子供のように見えた。
「ええ、父上は生涯現役ですからね。辛いとは思いますが、暫くは大人しく……」
「なら、エツィオ!お前が付き合え。閉じ籠もるなら昼から飲んだくれても構わんだろう。ここへ攻め入る阿保も居ないだろうしな!」
病魔も裸足で逃げ出す程に豪快な笑い声を立てて、使用人にエツィオの帰還祝いにと、酒宴の準備を言いつける。
書斎に宴会の準備がなされ、エツィオは苦笑して執務机に並べられたご馳走を見渡した。
ご機嫌に銀のカップにワインを注ぎ、「Chin Chin!」と乾杯する。
まだたった一日だというのに、閉じ込められて相当鬱憤が溜まっていたのか、マリオはハイペースでワインを呷っていた。
マリオも酒は弱い方ではないが、相当酔っ払っているのか「エツィオ、お前の予言を聞きたい」といつもは聞いて来ない事を口にした。
敵の動きに関しての助言程度の事は聞くが、自身に関する未来の事は聞く事がない。
一度不思議に思って問うたことがあったが、自身の予言を聞いてしまえば、聞いた予言に縛られてしまうからだと言っていた。
時にそれは己の信念を曲げることに繋がってしまう。人から言われる曖昧な予言は目を曇らせ、致命的なミスにも繋がるだろう。
予言に囚われてはならない。それがマリオの信条であった。
「ええ……ですが、何を聞きたいんですか?」
「お前の、子供についてだ。何人いて、男か、女か……」
エツィオは目を丸くしてマリオを見つめた。
その視線の意味を察して、「自分の未来は聞かなくともわかる」と苦笑して言われてしまった。
薄々、エツィオがモンテリジョーニを強化している意味を察しているのかもしれない。いつだって己が動いてきたのは家族の為だった。
エツィオはマリオの優しさに少しだけ笑んで、未来の事を話し始めた。
「実は……俺の未来に関して、その終わりは知らないのです。結婚するんだろうなと言う女性の事は記憶にあるのですが」
「そうなのか。では、お前の嫁になるのはどう言う女なのだ?」
「コンスタンティノープルで書店を営んでいる美しいヴェネツィア人の女性です。20も年が離れているんですけど……」
「ほう?流石はエツィオだ!そんな若い嫁さんを貰うのか!いくつの時だ?」
「俺が54、5の時ですね。白髪も多くなって、前よりはモテなくなっていて、老いとは残酷なものだとちょっとだけ嘆いていたと思います。ナンパなのは変わりないんですけど」
そう話せば、マリオは満足そうに笑んで頷いた。
まるで目の前にエツィオの家族が見えているように目を細めて優しい顔になる。
「運命的な出会いをするんだな。それで、馴れ初めはどうなんだ?」
「……マシャフのアルタイルの宝物庫の鍵を探す為、地図の解読を頼みました。テンプル騎士団に攫われ、命の危機に陥ったというのに、それでも俺を受け入れてくれました」
「エ、エツィオ……それでは、お前……」
「ええ。もしかしたら俺はもう彼女と出会うことはないのかもしれません。出会えたとしても、男として見てもらえるかどうか」
語り口調こそ何でもない事のようだったが、マリオはその予言に息を飲んだ。
既にコンスタンティノープルでの遺物の回収は終えている。
これから紡ぐはずだった愛しい人との劇的な出会いや冒険は、既にない。
「運命を変えるのにリスクがないとは思っていません。父や兄弟を助ける為には必要な事でした」
エツィオは最初から承知済みでコンスタンティノープルに指示を出したのだ。
何もかも思い通りの未来を作り上げる等、己が神にでもならない限り不可能だと理解している。
マリオは緩くため息を吐くと、手元のカップを遊ぶように揺らし、考え事をするように視線を下げた。
エツィオの予言に愁いを感じている事は明らかで、その親心に温かな気持ちでエツィオは口を開いた。
「とはいえ、俺が伴侶を諦めた訳ではありません。出会いはいくらでもありますし、真面目に探せば妻になってくれる人が現れるでしょう」
エツィオが何歳まで生きたのか、その最期の時こそ知らないが、恐らく彼女よりも早くに死ぬだろう。
そしてその前に彼女に身の回りの世話を頼まなければならなくなるかもしれない事を考えると、やはり年相応の相手と結ばれて欲しいとも思う。
あれだけ聡明で美しく、度量の深い女性ならばなおさら、相手には困らない筈だ。
そんなエツィオの顔に、愁いが一つも見つからない事にマリオはホッとした。
「お前ならば新たな未来を紡ぐ事も出来るのだろう。そして実際、そうしているのだったな」
「ええ。未来は本来、自分自身で切り開くものです。決められたシナリオ通りに動く必要なんてありません」
「お前の言う通りだ。きっと、我々の紡ぐ未来はとても明るい!」
しんみりした空気を払拭するように、マリオはカップを掲げてもう一度祝杯を宣言する。
エツィオはいつもの調子に戻った事にホッとし、一緒にカップを掲げた。
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