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エツィオに生まれ変わったデズモンドは、平穏な人生を歩みたい

全体公開 4953文字
2021-08-14 13:03:11

第9話「いざ、ベネツィアへ!」

Posted by @acbh_dmc4

フランチェスコが動きを見せたのはエツィオがフィレンツェを去ってから1年後だった。
予言通りにミサの最中に襲撃があり、民衆の前で凶行に及んだ。だが、規模はグッと小さなもので、一時的にはシニョーリア広場を占拠したパッツィ軍だったが、フランチェスコを捕らえ、メディチ軍が動き出せばすぐさま鎮圧された。
だが、やはり犠牲も出てしまった。襲撃で弟のジュリアーノ・デ・メディチは深い傷を負い、一時はどうにか持ちこたえたかに見えたが、程なく命を落とした。
襲撃当時にアントニオ・マフェイやフランチェスコ・サルビアーティ大司教、ベルナルド・バロンチェッリ、ステファノ・ダ・バニョーネ等はその場で捕らえる事が出来たが、警戒心の強いヤコポは広場に現れもしなかった。
事件の後処理はジョバンニやフェデリコによって恙無く行われ、ヤコポに関しては弟子たちに足跡を追わせていたが、それも程なくテンプル騎士団の会合の最中に処刑されたと一報が入った。
アニムス同様、ヤコポは残酷なボルジアの刃に貫かれ、苦しみもがきながら、その命を散らしていったのだと言う。

起こる事件に多少の前後はあるものの、アニムスで見たシナリオ通りに事が進む。
家族の運命は大きく変えたが、歴史の本筋はあまり変わらない事が逆に不気味だった。
アウディトーレ家がアサシンである以上、死の危険は常に付きまとう。ジョバンニたちは一時的に命を繋いだが、いつまた同じように最悪な最期が訪れるとも限らない。
エツィオはより一層気を引き締めてボルジアの動きを警戒した。



「エツィオ、そろそろヴェネツィア行きの準備をしてはどうだ?紹介状の手配も済んでいるし、いつでも出発できるぞ」

平和がフィレンツェへと齎されて暫く、マリオから予てよりの視察の話を出された。
メディチ兄弟の襲撃に備え、延ばし延ばしになっていたものだが、いい加減頃合いだろう。
エツィオは弟子たちの報告書の束から顔を上げて同意した。

「ええ。そうですね。弟子たちも俺が居なくとも回るようになりましたし、準備を進めましょう」
「ああ、ヴェネツィアは血気盛んな奴らが多いからな。早くお前を寄越せと煩いのだ。お前の数ある噂の真偽がどうにも気になるらしい」

マリオはエツィオの返答に満足げに頷くと、早速旅路について手配の予定などを詰めていった。
なるべく快適に旅が出来るよう、要望や意見を出し合い決めていく。
マスターアサシンの称号を受けるかも議論の対象となっており、この度の視察でエツィオの実力が認められれば正式に階級が上げられる。
今の所階級を上げる必要性を感じてはいないのだが、マリオもジョバンニもエツィオの昇進を強く望んでいた。
しかし、己だけ先に進むつもりはない。以前から考えていたことだが、今こそマリオに提案する事にした。

「父上、物は相談なのですが、フェデリコも一緒にヴェネツィアの視察に寄越しては?フィレンツェの教団を引っ張って行くのは兄ですし、見聞を広げる必要があるでしょう」
「うむ。それはジョバンニからも相談を受けている。直ぐにとはいかんが、近いうちにお前を追うだろう」

エツィオはマリオの肯定に喜んだ。己ばかり重責を負うなどやはりごめんだ。ならばフェデリコも巻き込んで多少は楽をさせてもらう。
なんと言ったって当初の目的はフェデリコに教団の長を押し付けるつもりだったのだ。
色々と特殊な境遇のせいで、己が長になる事は決定事項としても、フェデリコも同様長に据える目標は変わらない。
なんと言っても彼はアサシンとしての才能も、人の上に立ち、導く資質も備えている。
そしてエツィオは人を使うよりは自ら動きたいタイプの男なのだ。どちらかと言うと計画を実行する、補佐役が最も向いているのだろう。
アニムスで見た、導師と呼ばれるような立場になっても各国を飛び回っていたし、口も上手い方だからなんやかんやマキャベリを丸め込んで旅立ったに違いない。
己が一所に留まらず飛び回る指導者ならば、しっかり教団に構える人間も必要だ。その点でエツィオとフェデリコが協力すれば正に向かうところ敵なしと言える。
過酷なアサシン人生を送る上で、家族と支え合えるのは何よりも心強い。
そうしてアサシンとしての人生を多少は穏やかなものに変えるべく、フェデリコを巻き込んだ遠征計画をしっかり練るのであった。

また、視察とは言え、エツィオがヴェネツィアに渡った事をテンプル騎士団に早々に報せる訳にはいかない。
なんせ、テンプル騎士団は過剰なまでにエツィオを警戒して、メディチ兄弟暗殺すら遅らせたのだ。
エツィオ・アウディトーレと言えば今やボルジア家の大敵だったし、モンテリジョーニの目覚ましい発展の功労者として名が売れてしまっている。
フィレンツェにあるアウディトーレ家がメディチ家の覚え目出度き家柄でもあり、一時的ではあるがモンテリジョーニとの平和をもたらしたとして名声が高まっていた。
否が応でもエツィオの行動は衆目を集めてしまう、なんともアサシンらしからぬ評判ではあるが、そこは情報伝達の発達していない中世の世だ。
手配人の風体は絵画で衆知を呼びかける世界では、少し変装して名前を変えればどうとでもなる。更に念を入れて影武者を立てれば暫くの間は敵の目を欺けるだろう。
弟子達の中からエツィオと背格好が似ている者を幾人か集めて、影武者としての指導もつけた。これで後は出発するだけであった。


乗合馬車でロマーニャまで数日の後、船着き場で紹介状を見せて船に乗り込む。
出港前に船上で水辺を眺めて、本来ならばあのあたりの小島に取り残されたカテリーナを助けていたな、等と記憶を反芻していた。
カテリーナの事が気になって、船の受付をしている男に「カテリーナ・スフォルツァという女人を知っているか?」と確認すれば、そんな人物はこの地に居ないと返された。
記憶では彼女に随分振り回されるので、この人生でその二の舞にはなりたくない。今後も必要以上に彼女に関わるつもりはないのだが、やはり関連深い地に来ると気になってしまう。
記憶の中の美しいカテリーナについつい思いを馳せながら、エツィオは船が出航するのを待った。

数日の航海の後、エツィオが単身ヴェネツィアへ辿り着くと、波止場にはアントニオが迎えに来てくれていた。
ようやく揺れる甲板から固い地面に降り立つと、エツィオはホッと息を吐いて周りを見渡した。
ヴェネツィアの富と繁栄の象徴ともいえるドゥカーレ宮殿が、南側はラグーナ、西側はサン・マルコ広場、北側はサン・マルコ大聖堂に面して建っている。
高層の煉瓦造りの鐘楼を見上げ、嘗てアニムスで登ったなぁなどと感慨に耽ってしまった。
相変わらずここは美しい街だ。
お互いに軽い自己紹介を済ませ、盗賊ギルドへと案内してもらう。
盗賊たちはエツィオを品定めするようにジロジロ見ているが、その視線に臆することなく堂々と振る舞った。
若造だからと色眼鏡で見られている事は分っていたし、この地において異邦人は珍しくはないが、余所者に対する風当たりは強い。
先ずはここでの信頼関係を築くことから始めようと、物腰柔らかく皆に挨拶した。
親睦を深める為にも一人一人の些細な挑戦に丁寧に応え、完膚なきまでに叩き潰していく。
余裕に見えるように常に泰然と微笑みを湛え、時には健闘した盗賊に感心しながら声をかける。そうすれば、猜疑心に満ちた皆の顔が、徐々に解れていくのが分かった。

「まったく、噂通りの超人だな、君は」
「お褒めに預かり、光栄だ。厳しい鍛錬を積んだ甲斐があったというものだ」

朗らかに返せば、アントニオは苦笑して他の盗賊達を追い払った。
彼特有の戦略室である、ヴェネツィアのジオラマが置いてある部屋へと通される。
机の上に置かれたそれは、アニムスで見た時よりも簡易的なものだったが、これからアップグレードしていくのだろう。

それらを眺めて居ると、アントニオが銀のゴブレットにワインを注いでエツィオに渡し、歓迎の乾杯をしてくれた。
インテリなアントニオが選んだワインだけに、とても上等なものだった。味わいながら飲み乾すとエツィオは礼を言った。
油断ない笑みでアントニオは返し、そして身を乗り出し、伝え聞いた噂の真偽を確かめる為か、いくつか質問した。
エツィオに関する噂は一人歩きをし、彼が訪れる地には富と名声が齎されるだとか、たちまちの内に平和が訪れる等と言われている。
荒唐無稽に聞こえる噂が多い中、真実に近いものだけをアントニオは話題に上げていった。
相変わらず正確な情報を選び抜き、戦略を練る鬼才な人物だと感心し、己の事を良く知ってもらう為に、エツィオはこれまでの経緯について話して聞かせた。

「ほう。君はまさに神のような才に恵まれた少年かと思えば、意外に謙虚で努力家なのだな」
「技術は才能だけでは磨かれない。それに、少しばかり人より成長が早かったとして、努力を怠れば直ぐに追い抜かれるものだ」
「違いない。それで、君はこの地で何をしようと考えているのか、聞かせてもらえるかな?」
「そうだな。俺はここでアサシンを育てたいと思う。勿論、俺が居なくとも機能するまではここで指導を続けるつもりだ」
「ほう?ここでも君のアサシンを育てるのか」

アントニオの瞳がきらりと光った。挑戦的な笑みを乗せて、面白そうにエツィオの宣言に頷く。
ヴェネツィアは常に他国の侵略から街を守らなければならない重要な都市の為、ここでの教団の構造も他とは違う。
アサシンで構成された団員はおらず、情報収集を主とする盗賊団、そして戦闘・防衛を担当する傭兵集団で回している。
ここでは盗賊達がアサシンに近い仕事をしているが、しかし戦闘技術は今一つなのだ。
戦えて身軽な任務をこなすアサシンもこの地には必要だろう。少数でもいい、いついかなる事態にも対処できる組織があれば、この街の守りはより強固になる。
今までは手が足りなく、アサシンの教育に当たれる人物はいなかったが、エツィオという弟子の育成に実績がある者が来たのだ。
ここでのアサシン育成如何によって、エツィオの実力を測る事も出来るだろう。

「君の活動に関して異議を唱える気はない。だが、一つ条件をつけさせてくれ。私達の盗賊団から引き抜くのは禁止だ」
「ふむ、一からアサシンを育ててみせろというんだな?」
「盗賊団の中にアサシンに向いている奴はそれなりに居る。だが、そういった者達は我々のギルドでも高い地位に居るんだよ」
「承知した。盗賊ギルドに迷惑はかけない。一から我が弟子を育てよう。だが、盗賊団から俺の作るアサシンに入りたいという者が出てきたら、もう一度貴方に相談するとしよう」
「大した自信だ。お手並み拝見といこうじゃないか!」

慇懃に礼をするアントニオにエツィオは挑戦的な笑みで返し、この度の任務が開始された。
今までは勝手知ったる親族の治める土地で、ある程度訓練を受けた者達を中心に弟子の育成に努めていた。
だがこれからはどの組織にも属さない民衆から人を見繕って雇い、育て、一人前にしていかなければならない。
かなりの時間を要する任務ではあるが、弟子の勧誘から指導まで、アニムスを通して幾度となく経験しているのだ。
既にノウハウはあるのだから、街の様子を把握して実直に進めれば良い。そしてフェデリコがこの地へ到着すれば、その労力だって少しは軽くなるのだ。
エツィオは自信に満ちた笑みをその顔に浮かべて、ヴェネツィアの街に向き合うのだった。


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