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アニメ『平家物語』第四話「無文の沙汰」の感想、びわが歌っている言葉、原作を交えた解説的なものなど。

全体公開 2 3946文字
2021-12-13 10:36:27
Posted by @sirasu810

 
四話です。前回は命懸けで父を諌めた小松殿こまつどの重盛しげもり)でした。場面は変わり、苦しんでいる徳子。徳子は懐妊していました。けれど苦しみ方が異様です。小松殿は「亡き者たちが見える」左目で様子を窺います。すると平家に恨みを持つ者たちが、徳子を苦しめていたのです。

一方で恋に苦しんでいるような楽しそうな小松殿の次男:資盛すけもり。幼い頃から一緒に育ってきたびわとは、小競り合いできる仲の良さです。

小松殿は、平家が朝廷への忠義を尽くすため、徳子と生まれる子どものために、父である清盛をまたしても諌めに行きます。アニメ三話「鹿ケ谷ししがたにの陰謀」で、平家を潰そうと企てた者たちは、清盛によって罰せられ流罪となっていました。鬼界ヶ島きかいがしまは、鹿児島の硫黄島あたりなのではないかとされています。当時の都人にとっては、九州は言葉も通じない僻地・ド田舎なので、流罪はそれはもうつらい罰なわけです。罰せられていた三名は、俊寛僧都しゅんかんそうず藤原成経ふじわらのなりつね平康頼たいらのやすよりです。

ここでびわが歌うのは、『平家物語』二巻にある『足摺あしずり』を引用したもの。

 さていかに、おのおの、
 俊寛しゅんかんをばつひに捨て給ふかと。
 これ、乗せねゆけ。具してゆけ。
 をめき叫べども、
 漕ぎ行く船の習ひにて、
 跡は白波ばかりなり。
 いまだ遠からぬ舟なれども、
 涙にくれて見ざりけれ。

ざっくりとした意訳は「各々おのおのがたはついに俊寛を見捨てたというのか。ああ、俺も乗せろ、連れてゆけ。そのように呻き叫んでも、船を漕げば跡に残るのは白波のみである。今はまだそこにある船なのに、涙のあまり、まるで遠くへ行ってしまったかのように見えやしない」です。

小松殿の進言により、清盛は三人の罪人のうち、二人は許すことにしました。三人で流罪・共謀者だったのですが、俊寛だけが許されず、他の二人は許され、都に向かう、という場面です。たった一人で取り残されることの恐怖は凄まじいものがあります。俊寛も悪行を重ねた人物として描かれるのですが、まともな家すらない孤島で一人きりはつらいものです。せめて陸地(九州)までは共に連れて行け!と懇願しましたが、彼はこの島で亡くなることになります。

そのころ京都では、引き続き恋に悶えている次男:資盛すけもり。一方で長男:維盛これもりはすでに父になっていました。そしてついに徳子が子を産みます。名は言仁ときひと、のちの安徳天皇あんとくてんのうです。

「この子の先が、あなたに見える?お願い、教えて」
「見えぬ」

子を思うあまり先を知りたいと願う徳子ですが、びわも視聴者も知る通り、安徳天皇は海に沈むことになるのです。小松殿も訊ねます。

「お前のその目には、何が見える?」
「見とうない。見ても何もできぬのなら、何も見とうない」

小松殿は「そうだな……」「私にも何もできぬ」と答えた上で、〈私にできることは何か〉を考え始めます。そして熊野を参拝し、夜もすがら一心に願いました。

「願わくば、父清盛がこれ以上の栄華を追い求めず、世を安らかにすることに心を砕いてくださいますよう。ですがもし、この栄華が父一代限りで終わるのでしたら、平家の子孫たちが恥を受ける様を見ずに済みますよう、どうか、私の命を縮めてくださいますよう、お願い申し上げます」

清盛が悪行を改めるか、あるいは小松殿自身が死ぬか。どちらかを叶えて欲しいという強い願いです。このとき小松殿から抜け出る青い炎について、古典では以下のように表現されています。三巻『医師問答』より。

................

肝胆かんたんをくだいて祈念せられければ燈籠とうろうの火のやうなる物の、大臣の御身より出でて、はっと消ゆるが如くして失せにけり。人あまた見奉りけれども、恐れてこれを申さず。

................

小松殿(大臣)の体から燈籠の火のようなものが出てきて、消えてしまった。けれど恐ろしさのあまり人々は(アニメでは維盛が)とても申し出ることができなかった、とされています。そして祈願を終え、維盛とびわが川で遊んでいると、維盛の着物が水で濡れて透け、黒服のように見えます。従者が「まるで喪服のようだ、縁起でもない」と着替えを促そうとしますが、小松殿は「気にするな」と言います。

小松殿の一心の願い、実は清盛との対比になっています。アニメには登場しませんが、清盛はかつて霊夢を見て、厳島いつくしまの大明神から託宣を受けていました。アニメ原作である現代語訳の『平家物語』三の巻『大塔建立だいとうこんりゅう』では、その部分は以下のように記されています。

................

「汝は、この剣をもって天下を鎮めよ。朝廷のおん守りとなれ」(略)「汝は知っているか。もちろん忘れてはいるまいよ。高野山で、あるひじりをして言わせたことをだ。しかし悪行があればそこまで。汝の栄華は一代限りで、子孫にまでは及ぶまいぞ」

................

荒れ果てていた厳島のやしろを修復し、丁重に祀ったのは清盛でした。その功徳くどくによって、官位昇進が思いのままだったわけです。しかしきっちりと釘は刺されていました。悪行あらば、平家の栄華は一代限りだと。アニメ三話と同じく、物語における「やってはならぬ」の法則再びです。

熊野詣くまのもうで以降、小松殿は弱っていきます。後白河法皇さえ見舞いに来ました。「生きてくれ」と願い、小松殿の回復を祈って(自身の楽しみも含みつつ)、今様いまよう(歌謡のこと)を歌います。

 遊びをせんとや 生まれけん
 戯れせんとや 生まれけん
 遊ぶ子供の声聞けば
 わが身さへこそ ゆるがるれ

大筋には「遊びをしようとこの世に生まれてきたのだろうか。戯れをするためにこの世に生まれてきたのだろうか。遊ぶ子供たちの声を聞いていると、私の体までもが動き出してしまいそう」という意味ですが、歌の解釈はさまざまです。
「遊び」「戯れ」が何を示唆しているのか、「今にも動き出しそうだ」と明るい気持ちで前向きでいるのか、「心身が思わずゆらいでしまいそうだ」と情けなく思い嘆いているのか、など様々な情景を暗示させる歌になっています。今様は白拍子たちが舞とともに披露するものでもあるので、拍子もよく軽快な言葉運びであることも、この歌の魅力です。

笑い合うびわと息子たち。しかし小松殿の容体は思わしくありません。夢を見ます。

「清盛のこうべだ。悪行が過ぎたゆえ、春日大明神が召し取られた。もはや、平家の運命は尽きた。——面白かろう?」

なぜ春日大明神の使いが小松殿に霊夢を見せたのかというと、春日大明神は藤原氏の氏神さまです。殿下乗合てんがののりあい事件でもありましたが、平家は藤原を、摂政家をないがしろにし、我が物顔で朝廷を動かしてきました。驕り極まれり、ということです。なおアニメ三話の強訴にも、春日大社は関わっています。寺社の派閥やパワーバランスの面から『平家物語』を読んでみるのも面白いと思います。

さて「やってはならぬ悪行」はもう取り返しのつかないところまできていました。小松殿が熊野で一心に願ったこと、どちらが叶うのかが定まります。

「こんなことしかできぬ。びわには何もできぬ。見えていても、何もできぬ……

びわの左目の色が変化しました。小松殿を失った平家。
次回からはとうとう戦乱、破滅の足音がぐんと近づいてくることになります。



——以下雑談——

徳子の出産を平家一門はそれはもう喜んでいまして、清盛は声を上げて泣いたとされています。そして徳子の入内に際して、小松殿は徳子を養女にしていたので(実父の清盛が在俗ながら出家した〈入道〉なので、後ろ盾になるため)父としてお祝いしています。以下はアニメ原作である現代語訳の『平家物語』三の巻『御産』より。

................

中宮ちゅうぐうと例の「父子」であられる小松の内大臣重盛公は、御産を終えられたお方のもとに参じられて、黄金で鋳ました銭九十九文を皇子のおん枕もとに置かれ、こう言われたのでした。
「天を父とし、地を母となさいませ。おん命は唐土もろこしの仙人東方朔とうぼうさくに等しいほどの長寿を保ち、お心には天照大神を入れ替わらせ、立派な天子とおなりください」
祝福でございました。
重盛公の、これが寿ことほぎにございました。
それから桑の弓と蓬の矢で、天地四方を射させられたのでございますよ。いっさいのわざわいよ、去れと。

................

小松殿……

もう一つ小ネタで、小松殿とびわが車の中で「陰陽師たちは、さらに今から百日のうちに天下に一大事が起こり、戦乱が相次ぐと占ったそうだ」と話していました。この時代にも陰陽師は活躍しています。神祇官じんぎかんです。公的な卜占ぼくせんを司り『平家物語』作中でも度々登場します。あの人から五代下った子孫なども出てきます(アニメでは出ないよ)。



◀︎三話の感想・解説はこちら
https://privatter.net/p/8267514

五話の感想・解説はこちら▶︎
https://privatter.net/p/8267661


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