@sirasu810
八話です。びわは久方ぶりに祇王たちが暮らしていた庵を尋ねます。祇王は亡くなっていましたが、びわと同じ色の目をした人の話を聞くことができます。びわの「おかあ」かも知れません。琵琶を弾きながら各地を訪ねるびわ。
そのころ、頼朝は戦に負けたことで意気消沈していました。
「負けた……」
「なにを気弱な。次は勝てば良いのです」
「勝てる……?」
頼朝の描かれ方が面白くていいですね。周囲にせっつかれ、進むしかない頼朝。そして動き出す木曽義仲。FGOでもおなじみ、武勇に優れた女武者の巴御前も出ています。アニメで強調されているのは、義仲が粗暴な田舎者であることです。アニメ原作・現代語訳の『平家物語』 でも、義仲は「都の洗練を知らない、すばらしい野人である」と書かれています。
そして越後に来ていたびわは僧侶から、越後守の城太郎助長の話を聞きました。木曾義仲を討たんとしたとき急死したと。このお話は『平家物語』六巻『嗄声』にある物語です。古典においては以下のように書かれています。
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木曽追討のために(略)明くる十六日の卯の刻に、すでに打つ立たんとしけるに、夜半ばかり俄に大風吹き大雨くだり、雷おびたたしうなって、天晴れて後、雲井に大きなる声の嗄れたるをもって、「南閻浮提金銅十六丈の廬舎那仏、焼きほろぼし奉る平家の方人する者ここにあり。召しとれや」と三声叫んでぞ通りける。城太郎をはじめとして、是をきく者みな身の毛よだちけり。
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平家の方人する者、とは平家の味方のことです。平家側の助長は、義仲を討つために出立しようとしますが、唐突な大風・雷が起こり、空が晴れると天上からは大きくしわがれた声が「大仏を焼いた平家に味方するものは召しとれ!」と三度叫びました。助長は死んでしまいましたが、彼には側室がおり、その人物の目がびわと同じだった、「浅葱の方」と呼ばれており、越後を去って京に戻ったという話を聞きます。
対して都にいる平家は宗盛が頼りなく、のん気なことに宴ばかり開いていました。小松殿の長男:維盛は憤りますが、叔父の重衡は寺を焼いたこともあって戦に及び腰です。しかし義仲の都入りは、すなわち平家が都から排除されることを示しますので、この戦には負けられません。兵を率いて出立する維盛。そこに現れた義仲。
「にっし!やあやあ我こそは、源氏の血を引く木曽義仲なり!」
「ひやぁやぁ!んんっ、やあやあ我こそは、平重盛が嫡男、維盛なるぞ!」
「にひ、明日そっちにいってやるから、待っとけよ!」
粗野な義仲が相手であるからと、平家の兵たちは余裕ぶっていましたが、これをたしなめる維盛。怖がりな維盛は、数度の戦を経た経験から、武将らしく気を張るようになってきました。しかし夜中、山間に「えい、えい、おう……」と恐ろしい声が響きます。義仲を甘く見ていた平家側にとっては不意打ちです。知らぬ間に背後には敵兵が一万騎も配置されていました。有名な『倶利伽羅落』の物語に入ります。びわが歌うのは『平家物語』七巻の『倶利伽羅落』を引用抜粋したもの。
平家、後ろを返り見ければ、
白旗雲のごとし。
前後より敵は攻め来る。
人には馬、落ち重なり、重なり、
さばかり深き谷一つを、
平家七万余騎でうずめたり。
巌泉血をながし、
死骸岳をなせり。
平家物語において白旗は源氏側を、赤旗は平家側を示します。「さばかり」は、たいそう・非常に という意味。「あまりにも深い谷」ということです。夜間の敵襲に驚いた平家は後退しようとしますが、退路は抑えられていました。我先にと逃げ出すも、逃げた先は倶利伽羅峠の断崖。人や馬が次々と折り重なり、谷一つを平家の七万騎が埋め尽くしました。谷川は血で染まり、岩の間から湧く水さえもが赤くなり、死骸はうず高く、丘をなしました。
「あれは……地獄だ……!!」
なんとか生き延びた維盛でしたが、かつてなく凄惨な、そして被害甚大な戦になってしまいました。平家は七万もの軍勢を失い、味方は残り少なくなります。このまま都にいては義仲が攻めてくるので、落ち延びるしかありません。平家は帝と三種の神器を伴い都を出ることに。しかし後白河法皇は取り逃してしまいます。出立に際し、維盛は妻と子を都に残すことにしました。
「全て私のせいだ……。一門の者に合わす顔もない!私が、一緒に都を落ちるなど……」
涙を流す維盛。西でもう一度兵を起こすのだと励ます三男:清経。しかしその一方で、清経自身も深く落ち込んでいました。
横暴を行なっていた平家が去り、都にはとうとう義仲が入ってきましたが、都の人々は怯えていました。アニメ原作・現代語訳の『平家物語』八の巻『鼓判官』では、義仲の都入りを以下のように表現しています。
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狼藉だ。いたるところで他人の土地や家に押し入り、物品を略取していた。木曾の軍兵がだ。賀茂の社、石清水八幡宮のご領地も憚らず、青田を刈りとって秣にしていた。どこぞの倉を押し開けて物を盗っていた。往来する人々の持ち物を奪っていた。衣類を剝ぎとっていた。(略)「平家が都におられた間は、たとえば六波羅殿といっても、ただなんとなく恐ろしいだけだったが」と誰もが言った。「こちらは着物を剝ぐようなことまでする。平家に源氏が入れ替わって、さらに悪いことになった」
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六波羅殿は、清盛のこと、また平家の屋敷を指します。義仲の軍勢もまた、平家と同じように勝者の奢りをふるっていました。びわはアニメ一話で見た平家の禿髪のことを思い出し、狼藉をやめさせようと兵に掴みかかります。斬られるか、となったときに三人の白拍子が現れ、助けてくれます。いったい誰なのか、というところで次回へ!
——以下雑談——
三種の神器は、帝の正統性を示す重要アイテムです。原作『平家物語』四の巻『厳島御幸』でも明言されていますが、
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皇位のご象徴でございます三種の神器を新帝の御所にお移し申しあげます。
すなわち内侍所こと神鏡、八咫の鏡を。
神璽、八坂瓊の曲玉を。
宝剣、草薙の剣を。
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この三点を持っていること、そして安徳天皇がいることが、いまの平家にとっての切り札です。この状態でさらに後白河法皇(当代の実質的支配者)を捕らえていたなら、源氏に追い落とされることもなかったのですが「ご運はもはや末」であるためそれは叶わず、流浪の一門になってしまいます。
なお日本には神代から伝わった霊剣は三つあるとされています(諸説あり)。十握の剣、天の蠅斫の剣、草薙の剣です。別扱いされたり同一扱いされたりします。別名もたくさんあり、もろもろのゲームや漫画で一度は聞いたことがあると思われる有名な神器です。
なお映画『シン・ゴジラ』終盤に出てくる部隊アメノハバキリは、天の蠅斫の剣(天蝿斫剣、天羽斬などとも)が元ネタです。この剣はスサノオがヤマタノヲロチを倒すときに使ったもので、ゴジラをヤマタノヲロチに見立てて、部隊名をスサノオの剣からとっているのです。ハバは蛇のこと(虫のハエのことじゃないです。蠅は羽羽とも書き「大蛇、之を羽々」ともいいます)。作戦名も「ヤシオリ」ですし、絶対ぶっ倒すな名称で大変よきですね。
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