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軍を引くと言う星宿様に嘆願する話 の元になった作品いくつか

全体公開 3 2226文字
2019-10-01 00:23:31

ss名刺/文庫メーカーさんで作成した短文です。

Posted by @satomi8429

■はじめの頃 /張宿

見慣れた路地に炎が立ち塞がる。
振り向けば家屋の壁を火が舐め上げ、
転がり出た幾つもの黒い影が倒れ込む。
いつか見た父の書物の、
恐ろしい画がそのままに。
こめかみに汗が流れる。
膝がわらってうまく立てない。
ごうと燃え盛る火柱が
地鳴りのように責め立てる。
お前がグズグズしていたからだ。
こうなったのはお前のせいだ。

は、と目を開ける。
静謐な深夜の部屋に、
早くなった呼吸音が響く。
大事無い。いつもの夢だ。
深呼吸をして背中を伸ばし、
震える指で書を開く。

夢にかまけている暇はない。
逃げ切るために、挑むのだ。

***

■生存経緯→張宿生存ルート捏造
      1(井宿)https://privatter.net/p/343705
      2(翼宿)https://privatter.net/p/344080
      3(軫宿)https://privatter.net/p/344420

***

■帰国 /井宿・軫宿

一命をとりとめたとはいえ
致命傷を負った張宿を運び込んだ
紅南国の一室で、
井宿と軫宿は互いに無言だった。
「青龍が呼び出されてしまった以上、
朱雀の封印は時間の問題なのだ」
一同へ向けた井宿の言葉は、
あの夜の張宿からの受け売りだ。
井宿の言葉を正しく受け止めた軫宿は
休息も取らずに治癒力を行使している。

軫宿が安堵のため息とともに
椅子に倒れ込んだのは、
小一時間も経った頃だろうか。
横たわった小さな仲間の胸が
ゆっくり静かに上下している。
「間に合った……
「お疲れ様なのだ」
ふたりは力なく微笑み合った。
よかった。間に合った。
自分たちはまだ、
朱雀の加護のもとにある。


※あの夜の張宿→https://privatter.net/p/4673269

***


■朱雀の力 /井宿・軫宿
「朱雀の力がなくなってしまったら、と考えたことはあるか」
 寡黙な彼がぽつりと問うた。傍らでこんこんと眠る少年からは目を離さずに。
「目の前に死にそうな患者がいる。朱雀の力があれば助けられる。どうしても助けたい。
でもこの力は、救命半ばに途切れてしまうかもしれない」
 つい今しがたのことを言っているのだろう。井宿は目で頷いた。
「すごく焦った。緊張の糸が張りつめすぎて、倒れるんじゃないかとさえ思った。
こちらが倒れるわけにはいかないんだが」
 実際、先刻も寺院で治癒力を使った彼の消耗は相当なはずだ。
 疲労の滲んだ軫宿の横顔がわずかに微笑む。
……張宿はいつも、こんな気持ちだったのかもしれん」
 期待される役割、いつ途切れるかわからない力。
「こんなことになって初めてわかってやれるなんてな」
 大きな掌が青白い頬を撫で、あの夜の張宿の姿が井宿の脳裏によみがえる。
 いつ字が消えるかと慄きながら、命を賭す覚悟で仲間のために道を示した。
……ああ」同意の言葉が口から洩れる。嘆息のような。祈りにも似た。
 井宿は彼らの側に立ち、その手と頬が前と変わらず温かいことに、心の底から感謝した。

***


■朱雀の力 /side井宿

 治療を終えてひと息ついた彼が、再び少年の腕を取った。
 生々しい傷跡があらわになり、焼き付いた光景が脳裏によみがえって井宿は息を呑んだ。
「膏薬だ」
 視線に気づいた軫宿が、淀みなく手当てしながら言った。
「致命傷は直してある。こっちの傷も塞いではあるが、そこから先は
こいつと張宿自身の治癒力で治してもらうしかないからな」
 なんともいえぬ濃い草の匂いのする膏薬を、今度は大腿の傷に貼る。
 すまなさそうに包帯を巻く横顔に、井宿はふ、と不安になった。
 軫宿の能力は体力を消耗する。強い生命力を持つ七星士の身体で日に二度も救命措置をし、
体力を大幅に削り取られ余力のなくなった状態で朱雀が封印されたとしたら。
常人と同じ身体になった時、果たしてその身体は彼の命を支え切れるのだろうか。
 よほど酷い顔をしていたのだろう。処置を終えた軫宿が覗き込む。
「大丈夫か」
「それはこっちの台詞なのだ」
 硬い声で返すと、軫宿の手が励ますように肩を支えた。
「心配するな。俺はそんなにヤワじゃない」

■朱雀の力 /side軫宿

 そう言いながら、俺のことよりお前の方が心配だ、と軫宿は胸の内で呟いた。
 巨大な魔物と対峙し、その後心宿の攻撃も受けたと聞いた。
 状況が状況だからなのもあるだろうが、顔色もずいぶん悪い。
 自分に余力があれば、治癒力でなんとかしてやりたいくらいだった。
 それが叶わない今、一番の薬は――
「軫宿も、もう休んだほうがいいのだ。張宿のことはオイラが見ているから」
「驚いたな。その言葉そっくり返すぞ。井宿こそ、早く寝ろ」
 即座に返すと、井宿は無言で張宿の枕元に腰かけ、小さな額に手を置いた。
 口の端が微かにほころんでいる。
……離れがたい、か」
 自分もつられて、包帯を巻いたばかりの手を握る。
 一度は失せかけた、戻ってきた体温に、あらためて安堵の笑みがこぼれる。
「軫宿もなのだ」と、それを見た井宿が言った。

 それは束の間の休息だった。
 手のひらから伝わる温かさに導かれ、再び訪れた沈黙が二人をそっと包み込む。
 嵐の前の静かな夜は、ゆっくりゆっくり更けていく。


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