@niziirononanika

(20■■/■/■■ 撮影 勤務時間にS氏と遊ぶ【投影】の様子)
名称:投影 Psychological projection
外見:--cm --kg 外見年齢20代半ば(S氏の容姿を利用時)
分類:被哲型
能力:哲学人を中心とした半径最小/最大:5m/25m範囲内の人間を対象とし、対象自身の持つ「欲望、衝動、思想」を他者が持っていると認識させる。(以下、『自己投影』と表現)
解説:
頭尾が逆向きの翼を背に持つ男性もしくは人型の影です。
出現する時間・場所は不規則で、空間から滲み出すように現れます。(記録映像-■■1228『■■国際展示場監視カメラ映像』参照)
能力対象となった場合、当哲学人に対して自己投影が行われます。当哲学人を視認していない場合に限り、目前の他者に自己投影が行われます。自己投影相手の数に上限は確認されていません。
自己投影される内容は「否認している自身の要素」もしくは「相手に向けている感情」です。
ほとんどの場合において否定的な内容を自己投影するため、副次的に相手を強く罵倒したいという衝動に駆られ、口論や暴行事件に発展します。
能力対象範囲外となった途端に自己投影は解除され、衝動は「誤解だと気が付いた」反応として正常に収まります。
このとき、対象の性格によっては誤解であると認めない場合がありますが、能力の影響ではなく個人の性質です。
(20■■/■/■追記)哲学人【トーデストリープ&レーベンストリープ】を宥めていたとの目撃情報があります。
両哲学人が同時に出現する場合、哲学人【トーデストリープ&レーベンストリープ】の『囁く声』の内容を『他人が自分に向けている加害的な欲望』『他人が自分に向ける心の声』であると認識するようになります。
狡猾な性格であり、人間を揶揄うことに楽しみを見出しているようです。
※特記事項
当哲学人は常に他者からの自己投影を受けており、「どのような性格であるか」の認識に影響します。その特性上、行動原理は把握が難しく、彼の個人的な意見を知ることが出来ずにいるのが現状です。
対応: S氏雇用による間接収容を行う。
精神世界を移動する特性上収容不可能。出現次第担S氏が隔離室へ誘導する。
能力影響により研究所内の不和を誘発するため、実験時以外の接触は避ける。
発見経緯:
■■国際展示場にて発生した小規模な暴行事件と数件ののぞき被害の調査中、不審な影が目撃されており、監視カメラ映像に出現の瞬間が記録されていたことから哲学人の可能性が高いとして哲学人犯罪取締課に連絡される。
その後■■大学附置哲学人研究所所属■■■■■■氏が遭遇。資料作成。
出現場所調査の結果、■■市在住■■家に同棲中と判明。
■■家長男の■氏とのみ交友を築いていると判明。
■氏雇用による間接収容を行う。(資料内他箇所では区別のため「S氏」と記載)
人事資料作成済み→【■■氏人事資料】
補遺:
S氏は哲学人【投影】が高い関心を寄せている人物です。
当哲学人は日常的にS氏の容姿を利用する、夢に介入する、相談に乗る、S氏にのみ姿が見える状態で日常生活を共にするなどといった干渉を行っています。
当哲学人がS氏の元へ姿を表す頻度は、1ヶ月に平均28日間、1日に4時間です。1日の滞在時間にはばらつきが多く、最長で24時間、最短では顔を見ただけで帰ります。
+実験記録
※『認識相手』について。職員名が記載されている場合、哲学人【投影】の姿が見えない状況で実験を行っている。
能力対象:■■■研究員
認識相手:哲学人【投影】
関係性:担当哲学人。収容にあたり接触が多く、実験前から1か月ほど対話を重ねている。
認識:つまらなさ。自身への呆れ。この状況への退屈。発言に対し「それはもう知っている/馬鹿馬鹿しい」と嘲笑されている感覚。
行動:実験説明を行う。上記認識から発話意思が減退。当哲学人が明確に嘲笑したことに苛立ちを覚え、誤魔化すために冗談を言う。当哲学人は笑っていたが、能力対象は「滑った」ことに居心地の悪さを覚える。口論に発展すると考え、実験終了。
考察:記録用。実験前から認識に変更なし。当哲学人に対する感情に変化が無いためと考えられる。なお、当哲学人からこちらへの認識については「お前がそう思ったのが答えだろう?」とのこと。信憑性に欠ける。
能力対象:■■研究員
認識相手:哲学人【投影】→実験担当研究員3名
関係性:今回初対面となる哲学人。→プライベートで交友のある同僚/同僚/上司
認識:怖がられている。
行動:能力範囲内にて実験説明を聞く。過剰に丁寧な言葉で当哲学人と対話する。当哲学人が嘲笑する。能力対象は5分ほどで床をつま先で繰り返し蹴り始める。怒りを込めて「大丈夫ですから」と発言。能力範囲外の職員に目を向ける。他職員に対し「ちゃんと規定通りの接し方をしています」と発言。他職員へ哲学人対応時規定についての議論を持ち掛ける。口論に発展。実験終了。
考察:複数人が集まる場において、自己投影対象は簡単に切り替わる。加えて、同時に複数人に自己投影される。よって周りの全てに対し悪感情を向ける可能性がある。
能力対象:■研究員
認識相手:哲学人【投影】
関係性:実験協力において数回行動観察を行った哲学人。今回初会話。
認識:他組織への情報流出をされている。
行動:能力範囲内にて実験説明を聞く。その後、■研究員は沈黙。当哲学人が話しかけるが、対話を拒否した。
考察:口論や加害欲求は副産物であり、強制力はないと考えられる。
なお■研究員が自己投影した内容は「否認している自身の要素」に該当すると考えられる。情報流出の可能性について監査室より■研究員への聴取が決定している。
能力対象:■■研究員/■■■研究員
認識相手:■■研究員/■■■研究員
関係性:同僚。プライベートでの交友がある。
認識:自分を見下している。(■■研究員)/自分に嫉妬している。(■■■研究員)
行動:実験説明の後、殴り合いの喧嘩が発生。■■■研究員の勝利で決着。自己投影解除後、話し合いにより和解。
考察:相手との関係が深く、感情が強いほど自己投影された感情も強く、衝動的になると考えられる。
後に哲学人【投影】から「漫画みたいで面白い」と評価されていたと判明。
能力対象:■■研究員(哲学人【死に至る病】担当者)
認識相手:哲学人【投影】
関係性:今回初対面となる哲学人
認識:成人男性。とくに思うところはない。
行動:能力内容と実験説明を聞く。友好的な対話。話が盛り上がり、友人同士のように気軽に触れ合う。実験終了後、当哲学人は「凄いな」と発言(真意不明)。
考察:哲学人【死に至る病】と当哲学人の能力の類似性確認実験。■■研究員は哲学人【死に至る病】の能力影響が少ない職員である。
■■研究員は「自分から相手に向けて思うところも、自分の中に悩みや隠し事もないため、自己投影の条件に合うものがないのでは」と証言。哲学人【死に至る病】の能力影響最小化と同じメカニズムと考えられる。
能力対象:哲学人【死に至る病】
認識相手:哲学人【投影】
関係性:不明。対象自身の持つ「欲望、衝動、思想」を自己に映す点で類似した能力を持つ。
認識:不定形の影。
行動:■■研究員(哲学人【死に至る病】の担当者)についての相談。詳細については「個人情報にあたるため」と証言拒否。
考察:意図していない実験。
哲学人【投影】が【死に至る病】の収容室に出現した後、【死に至る病】に聴取した内容から記載。本来出会わせるべきではない哲学人同士であることに留意すること。
能力対象:S氏
認識相手:■■■■■■氏
関係性:同部署所属かつ同役職の職員。待機時間など日常的に対面しており、表面上の問題は起きていない。
認識:振る舞いについて、変人だと思われている(S氏)/父親※真意不明(■■■■■■氏)
行動:■■■■■■氏が哲学人【投影】が居ると思われる空間に向けて理解不能な対話を行う。S氏は緊張した面持ちで沈黙。実験終了。
考察:両方に能力が発露した。両氏は精神世界の哲学人を視認できる体質であり、能力の感受性が高いと考えられる。
能力対象:哲学人【物自体】
認識相手:哲学人【投影】
関係性:世話になったことがある(哲学人【物自体】の証言)
認識:意地悪で他人を揶揄うのが好きな男/引け目を感じている
行動:■■■■■■氏(哲学人【物自体】の担当者)についての相談。前回実験での感受性の高さを報告し、普段の様子と心配事の有無を【物自体】に尋ねていた。
考察:認識と実際の行動に齟齬があり、哲学人同士でも能力が通じていると考えられる。
哲学人【投影】が【物自体】の収容室に出現した後、【物自体】に聴取した内容から記載。
能力対象:S氏
認識相手:■■研究員
関係性:普段関わりのない別部署の職員
認識:死ねばいいと思われている
行動:実験内容説明途中にS氏が動揺。実験担当研究員のペンを奪い自傷を試みたため実験中止。哲学人【投影】がS氏にのみ見える形で現れ、20分後にS氏が落ち着きを取り戻す。
考察:通常時のS氏は精神的に不安定であり、自責感情が強い傾向にある。相手に向ける感情が無い場合、自責と同程度の悪感情が他者から向けられていると認識している。
能力対象:S氏
認識相手:哲学人【投影】
関係性:哲学人【投影】が唯一交友を築いている人間。間接収容に貢献している。
認識:助けたい
行動:重要度の低い雑談。友好的な様子での対話。
考察:攻撃的ではない自己投影がされた例。S氏から【投影】への好意が映っているのだとしても、どうやって好意を獲得するに至ったのかの経緯が不明。S氏との初対面時に映される悪感情は強大である(前回の実験記録参照)。経歴について意見を得る必要がある。
+インタビュー記録を見る
日時:20■■/■/■■
対象︰S氏
間接収容にあたり、経緯と目的の説明と同意を得た後行った。哲学人【投影】との関係性把握を目的とする。
■■■研究員︰それでは、ここからインタビューを始めます。
S氏︰よ、よろしく……。
(S氏は緊張した面持ちでテーブルの上のコップを握っている。■■■研究員が笑いかける。)
■■■研究員︰緊張されてますか?
S氏︰あ、はい、すみません。
■■■研究員︰大丈夫です。いきなり研究所とか、哲学人とか、就職とか、色々同時に起こりすぎですよね。面倒だなーとか思って当然です。
S氏︰すみません……。
■■■研究員︰出来るだけ快適に過ごしていただけるように、こちらも準備をします。哲学人投影確保のため、ご協力お願いします。
S氏︰はい……すみません。
■■■研究員︰謝るの癖だったりします?
S氏︰あ。あの、すみません、あっ、ごめんなさ、あー。
■■■研究員︰責めていません。ただ、ほら。投影ってこう、自責とか他責とかに関連が深い哲学ですから。影響があるなら、うちで何かお役に立てるかなと。
S氏︰はぁ……ありがとうございます。
■■■研究員︰そういえば。投影と関わるようになって、何か変化とか影響はありました?
S氏︰影響、は、わからなくて。何かされたとかは無いし……。
■■■研究員︰ふむふむ。家庭での投影は、どのように過ごしてたんでしょう。
S氏︰え。
■■■研究員︰はい。
(S氏は俯く。困惑した様子で言葉を選んでいる。■■■研究員が待つ。)
S氏︰俺の部屋で、ごろごろしてる?
■■■研究員︰へえ。自室に居たんですね。
S氏︰あ、はい。あと、俺以外に見えないようにして後ろくっついたり……あー……家族が、何か、言うの。なんか、囃し立てたり、とか? です。
■■■研究員︰ふむふむ。家庭内で、ご家族の言葉を聞いて口出しするようなことがあると。
S氏︰はい。ええと、まあ……なんか、大抵、親が言ってるのは俺の、あ、この俺ってのは、投影のことで。投影の要素があるから、俺のせいじゃないって、言ってました。
■■■研究員︰俺のせいじゃない?
S氏︰……すぐ謝るの、癖なんですけど。俺が、悪いわけじゃないから、気にするなとか。そういう。
■■■研究員︰なるほど。会話はよくするんですか?
S氏︰お喋りなんで……あと、俺の姿真似た後から、趣味とかも合わせてきて。結構そういう話します。一緒に見たアニメの感想とか。
■■■研究員︰趣味が合うっていいですね。結構仲良しだったりします?
S氏︰まあ、わりと。
■■■研究員︰そういえば、お二人はどこで出会ったんですか?
S氏︰え……と。
(S氏の目線が隣に向かう。そこには誰も居ない。)
S氏︰どこだっけ?
(数十秒の間の後、S氏は笑みを浮かべた。)
S氏︰あー、俺、夢遊病みたいになることあるんです。
■■■研究員︰なるほど。その夢遊病とは、今もよくあるんですか?
S氏︰頻度は減ったんですけど、たまに。その、精神科の通院はしてて、診断的には、眠りが浅いから睡眠薬貰ってて。
■■■研究員︰ふむふむ。通院中ですか……。
S氏︰あ、都合悪かったり、とか。
■■■研究員︰いいえ、うちの研究所は病院が併設、連携してありまして。そっちに転院するのも悪くないのではないかな、と。
S氏︰そうなんですか。
■■■研究員︰うちの病院は職員手当て付きますし。ところで哲学人投影は、いつからそこに?
S氏︰え。
S氏が再び隣を見る。驚いた表情だったが、すぐに不貞腐れたものに変わる。
S氏︰見えてなかったのかよぉ……。
■■■研究員︰もしや初めから?
S氏︰はい。こいつそういうことするんで。その、怒らないで……。
■■■研究員︰怒りませんよ。
S氏︰あの。
■■■研究員︰はい。
S氏︰……なんでもないです。
■■■研究員︰何かあれば言ってください。その為のインタビューですから。
(数十秒の沈黙)
S氏︰病人が変なこと言ってるだけって思いますよね。
■■■研究員︰いいえ、思いません。
(その後の質問に対しては不明瞭かつ研究員に同調しようとする回答が多くなったためインタビュー終了。)
考察︰両者の関係性は良好。むしろS氏は哲学人【投影】にのみ心を許している。
日時:20■■/■/■■
対象:哲学人【投影】
間接収容初期の対話。
S氏を介さない対話を希望したところ、担当である■■■研究員と一対一であることを条件に了承された。当哲学人はS氏に似た男性に、頭尾が逆向きの翼が生えた姿で現れた。
【投影】︰で? あれに会う間、研究所に拘束されてやってるんだ。それ以上何を望む?
■■■研究員︰研究への実験協力もいただけるととても助かります、という交渉です。心理学系の方々は自由人ばかりで、実験記録が取れなくて。
【投影】︰確かに。あいつら誰一人として大人しくせんからな。兄弟達が迷惑をかけてしまったようだ。
■■■研究員︰思ってもないでしょう?
【投影】︰その通り。良心は俺ではない!
■■■研究員︰まったくもって。しかし他の方々はそれぞれの担当が苦心するので、こちらはこちらの研究を進めたい。精神世界についての情報とかね、くれたりしませんか?
【投影】︰俺に利益は?
■■■研究員︰貴方は娯楽を好むと聞きました。研究所権限で自由に使えるスマートフォンを支給します。うちWi-fi完備してますし。
【投影】︰……わりと嬉しいところを突いてくるな。
■■■研究員︰貴方が精神と記憶をネットワークに見立てて代替品を持ってるのは知ってますけど、本物のインターネットは■■さん経由で楽しんでたんでしょう?
【投影】︰いや、しかし。お前。
■■■研究員︰何でしょうか。
【投影】︰そんなに俺達の世話は退屈か?
(数秒沈黙)
■■■研究員︰退屈だなんてまさかそんな。そう思ってるのは貴方では? だから■■(※S氏)さんをこちらに任せたんでしょう。世話しきれなくなりました? ですよねあの人目を離したら死にますもんね! かといって面白い人でもない。なーんでただでさえ扱いが慎重な哲学人の世話してんのにただの人間の介護も仕事になってんでしょうね!
【投影】︰おーい、記録、残るぞー。
■■■研究員︰これは貴方が思ってることなので。
【投影】︰俺が何であるか忘れたか?
■■■研究員︰実験に協力してくれないからどんな能力かわかってないんですよねー。
【投影】︰投影とお前たちが呼んだ。それが答えであろうに。
■■■研究員︰おっとそうでした。あれ? じゃあ貴方は何を彼に映したんです?
(数秒沈黙)
【投影】︰ほう?
■■■研究員︰何でそんなに彼に固執するのかな、と。
【投影】︰それが本題だったか。
■■■研究員︰実験協力のお願いが本題です。
【投影】︰あいつは死にたがりで生きたがり、何より逃げたがりだった。
■■■研究員︰はい。
【投影】︰だから気に入った。だから共に居る。俺は傷の舐めあいが好きなのだ! 納得したか?
■■■研究員︰概ねは。
【投影】︰どこが気がかりだ。
■■■研究員︰どうして彼なんですか?
【投影】︰ほう?
■■■研究員︰心理学系の方々からすれば、哲学要素が似通っているならまだしも、哲学知識のない一般市民はその他大勢でしかないはずです。何故、数多い人々の中から彼なんですか?
【投影】︰俺が見付けたからだ。
■■■研究員︰夢遊病が珍しいですか。
【投影】︰いや? よくあることだ。あれだけ内に俺を育てているのも、変わってはいるが珍しいとは言い難いな。
■■■研究員︰では何故。
【投影】︰目が合った。
■■■研究員︰それで、何故。
【投影】︰一目惚れの理由に理論を組み込むタイプだな?
■■■研究員︰一目惚れは懐かしさや共感といった過去記憶との照らし合わせによるものです。
【投影】︰本当に理論を当てはめるか……。
■■■研究員︰心理学研究をしている身ですから。けれど投影である貴方にこれは当てはまるでしょうか。
【投影】︰では、心が生んだものの視点でこう言おうか。
■■■研究員︰はい、お聞きします。
【投影】︰神も悪魔も理不尽だ。運命は選べん。俺に目を付けられて不運な男よ、あれは。
■■■研究員︰彼が嫌いなんですね、貴方は。
【投影】:さて、どうだろうな。
考察︰読めませんでした。突然飽きて離れる可能性は否定できません。
日時:20■■/■/■■
対象︰S氏
哲学人【投影】との関係性構築について、詳細確認のため実施。
■■■研究員︰インタビュー形式でお話しするのは久しぶりですね。いつもの雑談と思って、気楽にお話しください。
S氏︰……はい。
■■■研究員︰まあ、いつも緊張されてますから。気楽に話したことなんでありませんでしたね。
S氏︰す、みません。
■■■研究員︰相変わらず。謝る癖も抜けませんね。
S氏︰(不明瞭な動揺による発声)
■■■研究員︰でも、こちらが■■さん(※S氏)に慣れました。投影の影響で少々の制限がありますが、好意的に迎えています。そのことは、誤解のないようにいただきたいです。
S氏︰すみません。
■■■研究員︰まあ状況から、誤解するなというのも無理な話です。だから定期的に言っていきますよ、こういうことを。
(数秒沈黙。S氏は居心地が悪そうにしている)
■■■研究員︰では本題に入りましょう。哲学人【投影】と仲良くなれた理由やきっかけをお教えください。
S氏︰え、ええと。アイツが勝手に家に来ただけなので、あんまり。
■■■研究員︰でも彼、能力が。ほら、喧嘩に発展しがちじゃないですか。これは実験を重ねた結果見えてきた傾向ですよ。
S氏︰(頷いている)
■■■研究員︰初対面で、彼に向ける感情が何もない場合は特に。彼がどんな人物かわからないから、自分の中の悪感情を投影してしまう。それが彼という人間だと思ってしまう。そして嫌悪し、排除したいと思う。■■さんも、初対面ではそうじゃなかったですか?
(数秒沈黙。S氏は目線をあちこちに向けている。何かを探している)
■■■研究員︰■■さん?
S氏︰あ、いえ。すみません。はい、多分。そう、です。それでいいと思います。
■■■研究員︰違ったのなら、そう言っていいんですよ。事実が知りたいんです。
S氏︰(俯いている)
■■■研究員︰■■さん。
S氏︰殺してくれると思いました。
■■■研究員︰はい。(5秒待機)……大丈夫です。そのまま、続けてください。
S氏︰俺は、死にたかった……わけじゃ、なくて。(焦りによる発声)あのそうじゃなくて、そう思ってたって、あいつに気付かせてもらって、でもないな。ええと。
■■■研究員︰ゆっくりで大丈夫です。難しいなら、出来事を順に、言ってもらっても大丈夫ですよ。
S氏︰あ、はい。ええと、会ったのは、初めは。夜で、ほら、夢遊病みたいな時があるって言った、じゃないですか。それで。
■■■研究員︰はい。
S氏︰俺無意識に死のうとする癖があるんです。
■■■研究員︰ええ。
S氏︰そ、の、時に。あいつに会って。止められなかったです。止められなくて、俺が勝手に失敗して。正気に戻って、ああミスったなって思った時にあいつ。
(数秒沈黙。S氏は俯いている)
■■■研究員︰どうしました?
S氏︰俺達は救われたいんです。
■■■研究員︰そう、思うんですね。
S氏︰あの、俺、心理学も哲学も詳しくなくて。だから投影に勉強しろって言われるんですけど……だから、ま、間違ってるかも、ですけど。でもあの、投影についてはあいつ自身から教えてもらったことがあって、というか、皆いっつも言ってるからわかってるって思ってたんですけど!
■■■研究員︰はい。大丈夫です。何でしょう?
S氏︰あいつのこと、嫌わないでやってください。
(■■■研究員が1秒言葉に詰まる。すぐに気を取り直し、穏やかに対応する)
■■■研究員︰勿論。研究所は哲学人保護施設でもありますから。
S氏︰あ、あー、そう、です、ね。そうなんですけど。
■■■研究員︰他になにか?
S氏︰あいつは、自分自身、です。自己投影って、そうじゃないですか。
■■■研究員︰はい。
S氏︰あいつは俺を救おうと。違うな。俺達は救われたいんだって、教えてくれました。その気持ちは同じで、あいつはずっと、俺と同じで苦しんでるんだって。教えてくれました。
■■■研究員︰はい。
S氏︰嫌いになる理由が、無いんです。
■■■研究員︰初対面から同情があった、ということでしょうか。
S氏︰それで……大丈夫です。多分、それが一番わかりやすい言葉、だと、思うし。
■■■研究員︰他の表現がありますか?
S氏︰あいつは、その。俺です。それが一番……近い、言葉です。
■■■研究員︰でも、貴方は。
(数秒沈黙。S氏は俯いている)
■■■研究員︰貴方は自分自身がお嫌いではありませんか。
(S氏は首を横に振る。その後、疲労から対話継続不可能として記録終了)
考察︰自己投影が偶然にも上手く噛み合っただけ、と考えられます。現状の情報では。
日時:20■■/■/■■
対象:哲学人【投影】
当哲学人の人格確認のための対話。
通常時は記録を伴わない雑談として実施しているもの。S氏のインタビュー後の確認として、記録付きで実施。
【投影】:5mの距離は取らないのか?
■■■研究員︰影響も加味してのインタビューですよ。お手柔らかにお願いします。
【投影】:ふふん。お前次第だな。
■■■研究員︰そうですか。では本題です。今回は、■■さん(※S氏)と仲良くなった経緯についてお教えいただきたく思ってます。
【投影】:はて。あれがここに滞在するようになってすぐの頃、話したように思うが?
■■■研究員︰改めて、お願いします。
【投影】:では言おう。あいつは死にたがりで生きたがり、何より逃げたがりだった。よって気に入り、傷の舐め合いをするため共に居る。以上だ。
■■■研究員︰彼は、貴方は彼自身だと言っていました。
【投影】:ほう!
(哲学人【投影】が表情を明るくする)
■■■研究員︰投影、と名付けたのですからわかっています。彼は貴方を通して彼自身を見て、だからこそ自己愛があり、貴方を嫌いにならなかったそうですね。
【投影】:ふむ。そうだな、否定はしない。
■■■研究員︰けれどそれでは、貴方の個人的な性質や、個人的な感情が見えません。貴方個人として、彼を気に入った理由は何でしょうか。というのがまず一つ。
【投影】:そうだな。そしてその理由は、先ほど言った内容と。以前言ったことだ。
■■■研究員︰一目惚れでしたっけ。ただの不運とするのならば余計に、そこに貴方の感情が含まれないじゃないですか。
【投影】:そうか?
■■■研究員︰ええ。偶然出会っただけであれほど気に入っているのなら。偶然出会わなければ救うこともなく。出会う順番が異なれば彼を見捨てていた。そうなります。
【投影】:そうだな。で?
■■■研究員︰それを非難する気はありません。彼が見捨てられようがどうでもいい。けれど、雛鳥の刷り込みのようなそれに、貴方の感情を見出すことはできません。
【投影】:一目惚れに理論を組み込む派だろう、お前は。
■■■研究員︰はい。
【投影】:では、俺の一目惚れにも理屈がある。俺の過去、経歴、考え、嗜好が反映されている。とは思わないか。
■■■研究員︰思わないんですよ、貴方に関してだけは。
【投影】:どうして?
■■■研究員︰貴方は影だからです。
【投影】:正解だ。
(数秒の沈黙)
(哲学人【投影】のため息)
【投影】:改めて言おう。俺は影だ。お前だ。成らなかったお前が俺なのだ。故に、俺はお前だ。
(数秒の沈黙)
【投影】:どこまでも退屈で、どこまでも無意味で、誰かを傷付け価値を刻みたくて、無理なら今すぐ死にたくて、けれど生きるために飢え、求め、動く本能。
■■■研究員︰(沈黙している)
【投影】:故に俺はお前を愛している。
■■■研究員︰(沈黙している)
【投影】:お前はお前を愛しているのだから。
■■■研究員︰(沈黙している)
【投影】:故に俺はお前達を愛している。
■■■研究員︰(沈黙している)
【投影】:大丈夫か? 理解せずとも構わん。お前が不要と唾棄したものが、唯一、そして確実に、疑いようもなく、お前を愛している。これは不愉快なものだろう。理屈でなく、ここに辿り着くと不愉快に感じるだろう。それが当たり前だ。さあ、顔色が悪いぞ? 休もうか? あるいは不快の原因を再び切り捨てようか? 無意識の底に再び抑え込んでしまおうか。なあ?
■■■研究員︰(沈黙している)
【投影】:認めたくない部分からは目をそらして構わない。大丈夫、それは俺が請け負おう。仕事が退屈だなんて思わぬよう、俺が退屈を請け負おう。お前がくだらない人間だと他者に知られぬよう、俺がくだらない者となろう。誰かへの嫉妬心も、お前のものではない。友人に嫉妬したのはお前ではなく俺だ。けれど俺はお前である。しかしお前は俺ではない。成らなかったお前が俺なのだから。さあ、認めぬままに、なかったことに、捨ててしまって。それから。言ってしまえ。お前の中の悪意を俺という箱に詰め込んで、呪いの言葉をかけろ。わかるな?
■■■研究員︰お前は、俺じゃない。
【投影】:いい子だ。
(記録終了)
考察︰後半の記憶がなく、記録終了後に勤務に戻った記憶もありません。
言葉をそのまま受け止めるならば、彼なりに我々の負担を背負い、救おうとしているのかもしれません。
(20■■/■/■追記)このインタビュー以降、職務が精神的に楽です。