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兼子洋

全体公開 9697文字
2019-04-14 12:00:36


名称:兼子 洋 Kaneko You
役職:■■■支部運用事務所に所属。新人教育を担当。恵智活動中は工作員として運用。
解説:
176cm 45kg 20■■/12/31生 24歳 O型

金色の髪と紫の目の女性。左眼球は欠損しており、小型カメラ内蔵義眼を使用。
全身に皮膚の引き攣れや色素沈着・傷痕がある。全て治療済み。痛覚が弱く、痛みに耐性がある。

閉所恐怖症であり、該当場面では緊張と震えを発症する。また、頭上高くの荷物、あるいは重量物の落下現象に対しパニック発作を引き起こす。

非常に人懐こく、人見知りしない。
哲学人様への信仰心は強い。

(追記:20■■/■/■)
■■支部跡地にて哲学人様と遭遇。
『他者に知覚されない時間』の存在隠蔽能力を発現。
工作員としての教育が開始。10歳到達時に運用開始。

(追記:20■■/■■/■)
孤独・知覚されないことに対する恐怖症を発症。
ビデオカメラによる撮影により症状緩和が確認される。
活動時のビデオカメラ所持を認可。
不要な記録映像は削除し、残りは機密情報として扱う。資料作成の際はデータを抜粋し、問題となりうる情報を削除した上でのみ使用して良い。

(追記:20■■/■/■)
ビデオカメラの奪取・破壊・兼子氏への揶揄は禁止する。
違反者の殺傷事件について、犯人の痕跡は残されていない。

(追記:20■■/1/15)
事件調査は無期限停止とする。

経緯:
20■■/■/■に哲学人【ノマド】様により連れられ、■■■支部管理者の兼子氏が賜る形で入会。当時6歳。
児童養護施設■■■■■園での虐待事件関係者と判明し、正規手続きにより兼子家養子となる。

補遺:
存在隠蔽能力発動時、兼子洋氏は段階的に五感を消失していく点に注意。
能力により他者から遮断される知覚は外見、音(声や足音その他)、味、触覚の順に進行する。また、兼子氏から消失する知覚も同様の順である。
一時間を越える知覚遮断は兼子氏の永久的な消失を引き起こすと考えられる。

※注意※
20■■年現在銃刀法違反・殺人犯として指名手配中。支部外活動時は内容精査の上で登用すること。


.チャットログ

20■■/1/10
リスキーシフト:仲間
対話篇:確認するまでもない。彼女は君より昔からここに所属している。
力への意志:僕も兼子ちゃん好きやでー。
対話篇:よって調査は終了。
社会契約論:会員を殺しとるのは兼子じゃろ。
対話篇:証拠がないよ。
社会契約論:故に現状のわしではあれを罰することができん。
社会契約論:しかし証拠を消せるのがあやつしかおらん。存在隠蔽能力の悪用じゃ。
社会契約論:あやつが人間である限り、その行為は恵智とは呼べん。ただの同族殺しとなり、罰則の対象じゃろうて。
対話篇:その通り。彼女はリュディア王となったのだよ。
社会契約論:ギュゲスの指輪か。
対話篇:流石、君は知っていたか。姿を見えなくし、どこにでも入り込める魔法の指輪。それを嵌めれば不正が誰にも知られない、と理解した故に己の欲望に負け、正義を手放した話。
対話篇:そして彼女は同胞かそれ以外かの区別もつかなくなった。彼女は孤独を恐れる故に、己を孤独にした他者を傷付け殺し、そしてこの世にただ一人となったのだよ。みじめなものだ。
力への意志:使える力を使っとるだけやん。当然や思うけど?
対話篇:力の使い道は本人の意思だろう?
リスキーシフト:仲間。思ってる。
対話篇:それも事実。彼女は仲間を裏切っているわけでもない。
社会契約論:どうするんじゃあの危険分子。
対話篇:もう少し時間が欲しい。
対話篇:だって、罰や利害による従属は正義とは言えないじゃないか。
社会契約論:互いの利益のために相互協力するのが社会じゃろうて。
力への意志:自分が生きるために蹴落とす周りが必要、ってのが人間関係や思います~。
リスキーシフト:みんな、仲間。
ノマド:ちくわ大明神。
対話篇:はてさて、別の議論に発展しそうだ。それも楽しいけれど、ここは社会について考える場じゃないね。
社会契約論:誰じゃ今の。
対話篇:あと数日で、君達もわかる。決定的な崩壊が訪れる。その後再構築された彼女は、今までよりも高く、僕らの領域に近付くだろう。何より僕は11年、彼女の結末を待ったんだ。最近参入した君達が、あと少し待ってくれてもよいものじゃないかい?
リスキーシフト:同意するよ。
力への意志:ええよ~
社会契約論:あと数日じゃな。その言葉、忘れんぞ。

20■■/■/■
対話篇:ね、僕の言った通りだろう。


.■■■支部会話記録

兼子氏所有ビデオカメラのデータ。削除されていたものを復元後、議会の評価資料として運用。
※暴力的行為を容認可能な会員のみ閲覧すること。

20■■/■/■■

(■■支部通路の映像。会員二名の後ろ姿が映っている。窓からの日差しは夕刻を示している)

(映像が会員に近付く。一名がナイフで首を刺される)

(もう一名が駆け出す後ろ姿が映る)

(カメラは床に倒れる会員■■を映す。複数回、顔面を中心にナイフが突き刺さる)

(兼子のものと思われる笑い声が記録される)

(記録終了)


20■■/■/■■

(■■支部会議室の映像。会員三名が休憩に使用している)

(他会員の活動態度について雑談。評価に値しないため内容は割愛)

(会員■■にビデオカメラが近付く)

(金槌により■■の頭部が殴打される。他会員が悲鳴を上げる)

(記録終了)


20■■/12/31

(■■支部倉庫の映像。会員と思われる一名が俯せに倒れている。倉庫内は消灯しており、廊下からドアを通し差し込む灯りの範囲のみ視認可能。会員の特定はできない)

会員:(助けて、とかろうじて聞き取れる音声)
兼子:なんで?

(兼子が会員に歩み寄る)

兼子:なんで僕がお前の言うこと聞かなきゃなんないの?

(兼子が会員を蹴り付ける)

兼子:なんでお前は他人に命令できると思ってんの? なんでお前は僕を使えるの?

(会員の体が仰向けになる。頭部からの出血が確認できる)

兼子:なんで許可なく死んでんの。良いよなぁ、死んでも怒られない人は!

(アラーム音)

兼子:あ。ハッピーニューイヤー!

(吹き出すような笑い声)

兼子:おめでとう、僕。

(記録終了)


20■■/1/15

(兼子家寝室の映像。消灯された部屋で、兼子がベッドに座り、ビデオカメラに正面を向けている)

(160分間身動ぎせず、同映像が続く)

兼子:僕は、ちゃんと、ここに居る。

(兼子が立ち上がり、ビデオカメラに歩み寄る)

(記録終了)


20■■/■/■■

(■■支部通路の映像。会員一名の後ろ姿が映っている。窓からの日差しは夕刻を示している。兼子が歩み寄り、刃物を背中に突き刺す。会員は無言で倒れる)

兼子:あ。

(会員の体が崩れ、木の根が複雑に絡まり合った物体に変わる。特徴から、哲学人【ノマド】様であると考えられる)

兼子:ノマド様。
【ノマド】様:やあ、久しぶり!
兼子:ごめんなさい。
【ノマド】様:うん? ああ問題ないよ。私の体に重要器官はないし、どこを切り離しても問題ない。
兼子:ごめんなさい。
【ノマド】様:ああ、しかし。君は今も、苦痛に飽きているね。
兼子:ごめんなさい。
【ノマド】様:痛くないように。苦しくないように。怖くないように。寒くないように。乾かないように。
兼子:ごめんなさい。
【ノマド】様:なにも求めないから、ただ、今ある全てを拒絶し消し去りたい。幸福など一欠片も求めない。
兼子:ごめんなさい。
【ノマド】様:その価値観を尊重しよう。
兼子:ごめんなさい!

(兼子が走り去る。【ノマド】様がビデオカメラを拾い上げる)

(ビデオカメラが事務室まで届けられる)

(記録終了)


20■■/■/■■

(■■支部通路の窓から中庭を映している。中庭の花壇に木の根が複雑に絡まり合った物体が乗っている。特徴から、哲学人【ノマド】様であると考えられる)

兼子:ノマド様。
【ノマド】様:やあ! カメラ、無事届けられたんだね。
兼子:申し訳ありません。
【ノマド】様:なんで謝るんだい。自分の存在を証明するために、周りからの目が欲しかっただけだ。その考えは、当然だと思ってる。
兼子:哲学人様を傷付けてしまいました。
【ノマド】様:そうだね、呈する恵智の会に居るためには、哲学人を大切にして、崇めなければならないからね。哲学人を傷付けてしまっては、会員の資格がないね。
兼子:ごめんなさい。
【ノマド】様:けれど無視されるのも、何も知らずにのうのうと生きられるのも、嫌だね。
兼子:どうすれば、良かったんですか。
【ノマド】様:認められたい。ここに居たい。けれど痛みや苦悩は欲しくない。それらがあるくらいなら消えてしまいたい。
兼子:僕が、死ぬべきでしたか。
【ノマド】様:けれど誰の目にも映らず、誰にも顧みられないというのは、悔しくて、怖い。
兼子:僕は間違えていましたか?
【ノマド】様:君の価値観では、正しい自己防衛だった。
兼子:僕はやりすぎていましたか?
【ノマド】様:君の価値観では、君の尊厳が貶められることは、即時、君の命を脅かす恐怖だった。
兼子:僕は、許されませんか?
【ノマド】様:君の価値観では、少しでも自分に価値が無ければ、役立たなければ。駄目な奴だと思われたら、この場所には居られない。
兼子:僕は、この場に、相応しくない人間ですか?
【ノマド】様:君の価値観では。
兼子:それなら!
【ノマド】様:けれど私は君の価値観を尊重しよう。小さな悪口一つで、君の人権が剥奪され未来永劫苦痛の中に押し込められ、この場所を幸福にするための生贄にされる。そんな人生を考えてしまう恐怖は紛れもない事実だから。その価値観を持つ君自身を尊重し、眺めていたい。
兼子:でも。
【ノマド】様:私は君の価値観を尊重している。私はずっと、君が考えていることを口にしているよ。
兼子:どんな僕が。
【ノマド】様:私が求めているのは、今の君で、未来の君でもあって、過去の君でもある。
兼子:(沈黙)
【ノマド】様:誰かを傷付ける君で、自分を守りたい君で、間違えたかと後悔する君でもある。
兼子:(沈黙)
【ノマド】様:大丈夫。君がいじめられても、また私は来るよ。
兼子:助けて、くれるの?
【ノマド】様:疑うかい?
兼子:まさか! 哲学人様を疑うなんて――疑ってしまいごめんなさい。ごめんなさい!
【ノマド】様:どのような行いも。どのような思想も。どのような結末も。尊重されるものだよ。
兼子:許してくれるの。
【ノマド】様:悪いことをした、と思うね。
兼子:痛いのは、怖かった。
【ノマド】様:自分が再びそうなるなら、他人を代わりにしたかった。
兼子:僕は今までずっと耐えたから!
【ノマド】様:だから今度は自分が、誰かの犠牲の上で幸せになりたい。
兼子:……はい。
【ノマド】様:でも、本当なら、誰も犠牲にせず幸せになりたい。
兼子:(沈黙)
【ノマド】様:そんな君の全てを、私は尊重するよ。
兼子:生きても、いいですか。
【ノマド】様:勿論! 歓迎するよ、愛しい価値観よ!

(記録終了)


20■■/■/■■

(■■支部玄関。会員■■を映している)

兼子:やっほー! 広報・突撃・記録係担当兼子くんちゃんですどーもー!
■■:うわ……元気ですね自分。
兼子:元気いっぱいが僕だからね! ■■■(■■のファーストネーム)君も笑って笑って! ほらぁ!

(兼子が■■と肩を組む。その様子を自ら手を伸ばし撮影している)

■■:そのカメラ何なんです?
兼子:記録用!
■■:仕事ならしゃあないですね……
兼子:えー、では関西■■■支部から来てくれた■■君。■■■支部に来たからには推し哲学人様と今後の抱負をカメラに向かって言ってもらいます。
■■:なにそれ知らん……関東ってそうなん?
兼子:そうです! ほらほら誰? 対話篇様? 力への意志様?
■■:あー、じゃあ、まあ。マハト(※【力への意志】様が好まれる愛称)で。
兼子:カッコいいもんねぇ! ちなみに僕の推しはノマド様!
■■:機密情報持ち逃げ野郎やないですか。
兼子:怒るよー! ああいやノマド様は君のその見解すら尊重するけどね! 素晴らしいよねノマド様! 君もあの方の恵智によってありがたくもその無礼を許されているんだってことを理解してね?
■■:おお……ガチ信者……
兼子:勿論。ノマド様が僕や君を尊重されなかったのなら、僕には今すぐ君を殺す理由が三つほどある。

(ビデオカメラが下げられる。地面と兼子の足が映る。■■から半歩離れる)

兼子:ああ、存在を認められるって、幸福なことだね!

(記録終了)






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