@ponta_tete
前記事
グラーキの従者についての考察>https://privatter.net/p/5045192
ノートン君の背景推理考察https://privatter.net/p/5061629
ファミ通記事にみるグラーキ考察 https://privatter.net/p/5071578
こんにちは。ぽんたです。
今回はノートン・キャンベルの人物像を考察してみたいと思います。
相変わらずの長文ですが、よろしくお付き合いください!
公式情報から分かっている事
・(うわさ)恐ろしい落盤事故から生還したキャンベルはそれまで以上に暗く寡黙となった。
・坑道の深い闇から遠ざかるため探鉱者へとジョブチェンジ。
・ノートンキャンベルは喜怒哀楽がわかりにくく、付き合いづらい人にみえる。
・貧困から抜け出すための努力を惜しまない人である事を知っている人はその執着心に恐れを抱くだろう。
・事故後の彼の性格は極端で不安定。不機嫌で鬱々していたり、貪欲で怒りっぽくなったり。うわさでは彼の磁石が大脳に影響しているらしい。
・しかし変わらない点も一つある。彼は一貫して自分の運命を変えるチャンスを探しているという事。
強調されている点は事故前と後で性格に大きな変化があったという点、変わらない所が一つあるという点でしょうか。
これだけだと無口で暗くて情緒が不安定という事しかわからん、ってなりますね。
ノートン君関連の公式イラストなんかはコミュ力高そうな笑顔が多いので余計に混乱します。
前の考察記事で、ノートン君がグラーキの従者である場合「表情や反応が鈍くなる」や「グラーキからの磁力が脳に影響を与えている可能性」があり、それらを考慮すればノートン君の人格とは関係なく身体的な事情として「暗く付き合いにくい」とも考えられます。
そうなるとますます、元の性格がわかりません。
そこで、元ネタと思われるラブクラフトの初期作品『ファン・ロメロの変容』に登場するロメロの特徴がノートン・キャンベルにも反映されており、ここからノートン君の性格の手がかりになるのではと考察してみることにしました。
以下はファン・ロメロについての解説になります。
とりあえずノートン君の考察記事だけ読みたい方は後編へどうぞ> https://privatter.net/p/5131034
あらすじだけでなくロメロのクトゥルフ的解釈も添えているので、この記事もよかったら最後まで読んでね!
※本書は引用禁止のため、意図的に表現を変え個人的解説を添えてお伝えしています。
クトゥルフ原作はTRPG界隈にもあまり売れていないと翻訳家さんが嘆いてらしたので是非とも買ってください。最近クトゥルフネタ作品増えてきたので日本語訳が出版されないのは薄い本界隈的にも絶対困ると思う!
ラヴクラフト全集7 (創元推理文庫) H・P・ラヴクラフト https://www.amazon.co.jp/dp/4488523072/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_WPCTDbWWRKE3R
Kindle版: https://www.amazon.co.jp/dp/B00M99NFOS/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_6QCTDbX7DM1XM
ファン・ロメロは「初期作品」の中に収録
<『ファン・ロメロの変容』について>
この短編作品の登場人物はとても少なく、メインで登場するのは語り手である「わたし」とファン・ロメロの二人です。
話の内容もシンプルで「わたし」目線でファン・ロメロという不思議な魅力の青年と共に体験した恐ろしい出来事の顛末を語る、というものになります。
「わたし」こと語り手の男性は、オックスフォード大卒のエリート軍人で、長くインドで軍務にあたっていたオカルト好きな(フラグ)元将校です。
イギリス出身の白人中年男性であると思われます。
彼はオカルト好きが災いしインドで不幸な目に遭ったらしく、それまでの経歴や名を捨て新天地アメリカ西部・カクタス山脈のノートン鉱山で一般作業員として雇われます。
唯一、過去の思い出としてインドで手に入れた「ヒンドゥの指輪」(クトゥルフ的どフラグ)だけは大切に身につけていました。
この指輪が「わたし」とファン・ロメロの奇妙な関係を繋ぐきっかけとなります。
さて、不思議な青年ファン・ロメロは「わたし」からみてどんな人物なのでしょうか。
真っ先に挙げられるのは、彼の美しくも不思議な容貌でした。(ニコニコしてしまう)
ファン・ロメロは近くの土地から引き寄せられてきた(ノートン鉱山は金の一大産地で好景気な場所)、無骨なメキシコ人の大集団の一員でした。その中で一人、驚く程肌の色が薄く、顔立ちも整っているロメロは最初から注目の的です。
とにかく見た目に対しての描写がめっちゃ多いです。
さすがインテリ語り部その洞察力も素晴らしく、ファン・ロメロの容貌からあれこれルーツを考察します。
顔立ちそのものはアメリカ先住民的だが、近場の先住民族であるパイユート族でもなく、メキシコ人のそれとも大きく異なっている。
かといって白人種の血を引いているとは思えなかったのは、考えてみれば奇妙な事ではある、と。
白人種ーつまりアメリカの開拓者や、かつてのメキシコの巨大国家・アステカ帝国を滅ぼしたカスティーリャの征服者(スペインあたりの白人種)の血統でもなさそうだと考えます。
オカルト大好きインテリ語り部、めちゃめちゃロメロをよく見てます。
ちなみにこの作品の著者であるラブクラフトが生きた時代は白人優位主義的な考え方が一般的で、作中でも呼吸をするかのようにメキシコ人をdisりまくっています。
ファンロメロの舞台は1894年アメリカ西部です。
この時期、メキシコ本国では大統領による独裁政権で極端な貧富が生まれていました。地方農業労働者や鉱山労働者は特に悲惨で、奴隷のように鞭や銃で管理され死ぬまで働かされるような、人権?なにそれおいしいの?な存在でした。ロメロの一団はメキシコを離れ、アメリカで少しはマシな生活を目指したのでしょうか。
ともあれ社会的貧困構造故の無教養、人種差別、過酷な労働、ハードモードすぎる時代です。
そんな背景を考えると、ロメロが「驚く程肌の色が薄く」「顔立ちも整っている」ことは白人である(ちょっと変わり者の)語り手が興味を持つために、また白人であろう当時の読者が共感するための最低限必要な要素だったのかもしれません。
という重めなメタ事情などどこ吹く風、語り部はロメロにメロメロ()です。
ー寡黙なロメロが早朝に起き出して、東の山峰から昇る朝日をうっとりと見つめ、まるで自分の中に眠る何かへの儀式を果たすかのように、両腕を太陽に差し伸べるさまは、想像力が掻き立てられるままに、気高き古代アステカ戦士のように見えるのだったー
はっ????朝っぱらからどこでなに見てんの???ストーカー???
夜明けに朝陽をうっとり見つめるロメロをうっとり見つめる語り部。
ちょっと褒めすぎたな…と思ったのか、顔立ちは別として()ロメロ自身には気高さを思わせる要素など一つもなく、無知で汚らしい褐色の肌をしたメキシコ人たちの中でくつろいでいる、とか追記してますがよく見るととんでもなくdisられてるのロメロじゃなくてメキシコ人やんか…なにこの流れ弾。嫉妬か?
でも、そのおかげでロメロがメキシコ人の中でも打ち解けている様子が分かります。「くつろいでいる」は精神的にリラックスしている感じが汲み取れて、彼が所属するメキシコ人集団も彼に対して親切なのかなと想像できますね。
寡黙なロメロはモテる男…。
※追記※
人種差別の激しいこの時代、白人のように薄い肌のロメロをなぜメキシコ人達はわざわざ拾って仲間と同等の扱いで育てたのかについては信仰が大きく影響しているのではと推察します。
カスティーリャの征服者というワードが作中にも登場します。これは、アステカやインカ帝国の最高神は「白い神」であるとされていて、スペイン系白人(カスティーリャの征服者)を神の再来と勘違いし丁重にもてなしてしまったというようなエピソードです。
カスティーリャの征服者はもちろん神の再来などではありませんでしたが、ロメロは語り部曰く「顔立ちそのものはアメリカ先住民的でありながら驚くほど色が白い」子です。
ロメロを拾ったメキシコ人はおそらくアステカの末裔で、彼を縁起が良い子として貧しいながらも大切に育てた可能性があると思います。そしてロメロがその信仰を受け継いでいる事も後の展開から伺えます。(そしてロメロには記憶にはないけれど自分の両親もその系譜であって欲しいという願望みたいなものがあったと推測)
貧しさという運命からは逃れられませんでしたが、彼は少なくともこの容姿と信仰に救われ、豊かな心の青年に育つことができました。
と脱線しましたが、そろそろ語り部のターンへと戻して行きます。
さてさて、語り部のロメロストーカーは止まりません。
誰に聞いたのかロメロの生い立ち情報を仕入れてきます。
語り部はイギリス英語話者ですが、メキシコはスペイン語圏です。
語り部は大学でスペイン語も学んでいたらしいですが、イギリス英語とアメリカ英語が異なるように、スペイン本国のそれと植民地の言葉もだいぶ異なるらしく、語り部は方言の強いスペイン語と片言のアメリカ英語しか話せないロメロとの会話に苦労するレベルでした。これはおそらくロメロが属するメキシコ人集団も同じです。
いやだからほんと誰に聞いたの。
ロメロへの探究心が強い…。
そんなロメロの生い立ち情報がこちら。
・貧しさ極まる環境の生まれ
・辺りに広まった伝染病の唯一の生存者として生き残った子供(クトゥルフあるある)
・粗末な山小屋で発見された。小屋の近くには両親と思われる比較的新しい亡骸。
・亡骸の近くにはいささか異常に思える岩の割れ目があった。(クトゥルフ的フラグ)
・ロメロの発見後、そこは雪崩で小屋も岩の亀裂も埋れてしまい、彼のルーツにまつわる手がかりは消え去ってしまった。(クトゥルフあるある)
・ロメロは発見当時、家族の名前など何も覚えていなかった。(SAN値チェック失敗かな?)
・ロメロはメキシコ人の家畜泥棒に拾われ、名を与えられ育てられた。
すごい具体的…ガンガン出してくるクトゥルフフラグの数々…痺れますね。
これはラブクラフトの初期作品ですが、この時点でノリが完成していてすごいですね。クトゥルフシナリオいくつか知ってる人なら、クトゥルフフラグに気がつけると思います。そしてそこに気がつかないと多分訳がわからない話です。
語り部とファン・ロメロの奇妙な繋がりは、おそらくかつて同じクトゥルフ神話生物による恐怖体験をし、生き残った者同士の数奇な出会いの物語なのだと思いました。
語り部が持つ「ヒンドゥの指輪」と思っているものは、クトゥルフ的なマジックアイテムでヒンドゥかどうかはおそらくあまり重要ではないのでしょう。
そもそもクトゥルフとは「世界の裏側の真実」であり、世界に散らばるあらゆる信仰や神々が実はクトゥルフの邪神かもしれない、といったところに恐怖があります。
20世紀初めのちょうど科学と信仰という二つの視線が生まれた感覚の恐怖とも言えるかも知れません。
例えば不老不死の薬として水銀飲んだ人が、その後科学の知識を得てしまったらショックで倒れてしまいそうです。
異なる常識、新たな知識の獲得による恐怖。そういうものが根源にあります。
さてさて2人に関する全ての情報は出揃いました。
ここで満を辞して(?)語り部が大切に身につけている「ヒンドゥの指輪」を目にしたロメロが語り部に興味を持ちます。
やったね!かわい子ちゃんとお近づきになるチャンスだ!
語り部はこの指輪に刻まれる古代の不可解な文字が、ロメロの活発な心にかすかな記憶を目覚めさせたようだと観察します。(この描写を見るにロメロは若い気がする。20前後かも)
だがこの指輪はインドで手に入れたヒンドゥの指輪です。無学なロメロがそれらを知っているとは思えません。
しかしこの指輪がきっかけでロメロは語り部を慕い、彼の忠実な召使いのようになりました。
………は???
わたしを「慕う」とか「忠実な召使い」のようになった、とかこの流れで使う???
指輪に興味を持って近づいてきたのだから盗む機会を伺ってるのかもとか疑いそうなものですが、この語り部はストーカーしてたかわい子ちゃんが自ら懐いてきた事にだいぶ浮かれてます。お世話されて全然全くやぶさかではない雰囲気です。
↓むしろこんな釘を刺してくる始末です。
「そういうわたしにしても、ただの鉱夫でしかなかった。」
はぁ〜〜〜!???要るそれ???
逆にただじゃない鉱夫のパターンが知りたいですけど???
むしろ全然アリですけど????
あれ?
えっうそ…
この2人
いつのまにか同じ部屋の2段ベッドで寝てる。
ほわーーーーーーぃ!???????
この語り部めちゃめちゃメキシコ人disってるから絶対ほかの奴は部屋に入れないでしょ!?もしかして語り部のお世話するためにロメロ枕持ってきちゃったの???え、かわいすぎか???そんで良いよって部屋に入れちゃうんだ?(しかもこの部屋ちゃんと鍵がかかる)すごい仲良しだね????
そらナニモアリマセンヨって釘もさしちゃうね?
(実際ロメロはロメロでお世話しながら指輪を見つめてるけど盗ろうとかそういう発想が全く無い。なにこのかわいい子)
ちょっと違う部分で個人的に盛り上がってしまいましたが一旦正気に戻りまして、ここに先述したロメロの生い立ちに関するクトゥルフ的解釈を添えてみます。
結論から言うとロメロの両親はなんらかのクトゥルフ神話生物の狂信者だったのではと思われます。ロメロはその事をきっと知りませんが、子供の頃の儀式の記憶が少しありました。
儀式は信仰を意味します。そして信仰は民族につながるので、それらの記憶は自分のルーツを知る手がかりになるかも知れない。
彼はうっすらと残る記憶を手がかりに両親への思慕を抱き続けていたのかもしれません。名前も何もわからない曖昧な記憶…ふいに指輪という手がかりを持つ男性が現れて、ロメロはたぶんすっごく嬉しかったのではないでしょうか。
思わずお世話をしてしまうほどに。
ロメロが抱く「信仰」が伺えるのは、まもなく彼らに降りかかるクトゥルフ体験の中での事です。
ノートン鉱山で起こったダイナマイトの人的ミスで山の最下層付近の洞窟が吹っ飛び、陥没する事故が起きました。
この事故には語り部もロメロも担当外で関わりはありません。
また人的被害はなく、そこには深く、計測不能な程の無気味な亀裂が生まれました。
フラグ乙です。
鉱山監督は地底への調査を命じましたが、皆が青ざめた顔で引き返してきてしまい、その晩は嵐が来ることもあって作業は全面中止に。
真夜中、上のベッドで寝ているロメロに声をかけられて語り部は目を覚ましました。
ロメロは何か期待のこもった、興奮している様子でした。
「セニョール、あの音が…。地面の下、あの鼓動です。」
ロメロが「あの音」と言います。
ロメロはこの音を知っていました。
それは嵐の音に混ざって聞こえる不思議な詠唱のようなリズムでした。
そして、稲妻と共に語り部の指輪が不思議な輝きを帯び、2人は導かれるように、ポッカリと空いた大きな亀裂へと誘われて行きます。この辺りから現実感が薄れて行きますね。
大胆な行動に出ている割に、恐怖と気後れを感じずにはいられない語り部と違い、ロメロは黙々と亀裂にかかる梯子をくだっていきます。
そして、太鼓の音と詠唱が新たなリズムを刻み始めた途端、ロメロは叫びながら語り部を置いて、闇の中へと走り出して行きました。
「ウイツィロポチトリ! 」
まもなくして彼の断末魔が響き、地底が焔に包まれ…
そして
語り部は焔に包まれたファン・ロメロが変容してゆくさまを目のあたりにしました。
その姿は筆舌に尽くしがたいとして描写はありませんでした。
翌朝、語り部は自室のベッドで目覚め、近くのテーブルで眠るように息絶えたファン・ロメロの遺体が発見されました。
あの夜、2人が亀裂の底へ行った形跡はなく、自室のベッドで寝ていたこと、検死しても彼の死因はわからなかったこと、そしていつに間にか語り部が大切にしていたヒンドゥの指輪がどこかへ消えてしまったことなど、不可解な事実が判明しますが、結局あの晩の出来事がなんだったのかは分からぬまま、亀裂の大穴は嵐の夜の落雷で陥没が起こりすっかり埋もれてしまいました。
語り部は人生の晩年になっても、時に思い出します。
耳に残るあの太鼓の音と共に、ファン・ロメロの変容が実に恐ろしいものであったと。
以上が『ファン・ロメロの変容』の主な粗筋となりますが、ファン・ロメロの行動について少し整理したいと思います。
ロメロにとって地底から聞こえる「あの音」はおそらく、かつて両親が関わっていた儀式によってもたらされたものと同じでした。
クトゥルフ知識があればそれがなんらかの邪神であると想像がつきますが、普通は誰もそんな事知りません。
ロメロの両親ですら、それが邪神とは知らなかったかもしれません。
もちろんロメロもまた知る由もなく、メキシコでメジャーな?神への信仰だと思い込んでいた様子が伺えます。
ロメロが叫んだ「ウイツィロポチトリ 」はアステカ帝国が祀る主神・太陽の神の名でした。
朝日へうっとりと両腕を伸ばすロメロをみて、語り部が気高きアステカ戦士のようだ、と感じたのはきっと伏線ですね。
ロメロは毎朝、太陽の神様と両親に挨拶をしていたのでしょうか。
そしてもう一つ。
語り部は焔に包まれたファン・ロメロの姿を見て「変容」と表現しました。
この時彼に訪れたのは「死」ではなく人ではない何かへの変貌であったのを、語り部は直感的に悟ったのかもしれません。
真に恐ろしかったのは、見た目の変化以上に彼を理解の及ばぬ何かに変えてしまったーその向こう側に広がる無気味な世界だったのではないでしょうか。(SAN値チェックどうぞ)
夢のような体験はクトゥルフあるあるで、普通の夢ではなく別の世界に誘われた実体験のようなものだと思います。語り部は指輪と引き換えにこの世界へ生きて戻ってこれました。
ファン・ロメロは両親が信じたはずの太陽神の名を叫びながら、闇に潜む邪神の懐へ飛び込んで行ってしまう、なんとも皮肉な物語です。
でも私はロメロの心情に共感を覚えるし、彼が何かを大きく間違えたとは思えないんですよね。その理不尽さこそが恐ろしくて哀しい。
変容してしまった彼は、今もどこかで昏い焔の中を彷徨っているのでしょうか。
次> https://privatter.net/p/5131034