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鴻上了見は嫌われたい⓪

全体公開 了遊 2 9 2619文字
2026-01-01 23:39:08

【!】キャラ崩壊コメディ(かっこいい鴻上了見は不在)
・了遊(無自覚両片想い)
・原題は「自分に対し藤木遊作が好意的な事に懊悩し嫌われようと画策するもむしろ好感度が上がってしまい無事死亡する鴻上了見シリーズ」

Posted by @d9_bond

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 鴻上了見は懊悩していた。
 ホットドッグをかじりながらであるが懊悩しているのである。
 カフェナギのプレーンのホットドッグであり、コッペパンにレタスとソーセージを挟んでケチャップとマスタードをかけた定番中の定番、ホットドッグと言われたらそれと連想する王道の代物である。王道なだけに安定してうまい。だが了見の思考はその制作者の事で占められていた。
 藤木遊作である。
 運命としか言えない因縁の相手である。その因縁にも一定の区切りを迎えた以上、本来ならば二度と顔を合わせる事もないはずだった。
(だが──)
 了見は食べかけのホットドッグに視線を落とした。
 今週三度目なのでさすがに買いすぎだと自分でも思う。元々カフェナギの常連ではあったが、キッチンカーが海辺で店を出した時に気が向いたらいく程度だったというのに、現在は場所に限らず時間が出来れば顔を出している。ただ顔を出すのもアレなのでホットドッグも買っているため相対的にホットドッグ食べる頻度が上がっている。
 ちらりと見やった同室内のスペクターと三騎士も辟易を隠していないのでさすがにやはり買いすぎだと反省はしている。当初頻度や栄養バランスについてあれこれ述べていたはずのパンドールに至っては何を学習したのか今では沈黙している。次からは皆に買うのは三回に一回くらいが良いのかもしれない。
 しかしこうなった遠因は藤木遊作である。了見が顔を出すと、明らかに嬉しそうに顔を明るくするのだ。
 あとは草薙翔一の責任も多少あるだろう。藤木遊作が店にいると、妙に楽しそうに遊作に交代する。それと初回に草薙仁に対し了見の事を「昔からの常連さん」「太っ腹だから仲間の分もまとめて買っていってくれるぞ」などと紹介し、草薙仁も嬉しそうに礼を言って以降来店の都度声をかけにこにこ接してくるので買うしかなかった。人の良さそうな顔をして食えない店主であるが、逆にそれで許しているという点で心が広すぎるともいえる。
 とにかく、来訪を嬉しそうにされて不快な人間はいない。なにより鴻上了見にとって藤木遊作はとにかく無視できない存在なのだ。
 了見は大きく重いため息をついた。
 厚かましい自覚はある。
 本来ならば、あの──彼が恐らくひどく傷つくであろう戦いに赴こうとしていた、あの時。
 カードを託した、あの時が最後のはずだった。その後は彼を見守りながらも決してその人生に関わらずにいるつもりだった。
……だというのに)
 あの戦いの後、三ヶ月以上も姿を消していた彼がデンシティに戻ってきたと知って、顔を見に行かずにはいられなかった。
 藤木遊作は、学校にもカフェナギのバイトにも復帰した。自分と同じく彼の帰還を待っていた者も多く、彼は問題なく本当の日常へと戻ってきた。
 そんな彼と直に会い、変わらぬ眼差しのままの彼が戻ってきたことにはっきりと喜んだ。
(そうだ。喜んだ)
 ホットドッグを口にする。


「また、店にも来てくれ」
 再会の際に遊作はそう言った。
……──」
 断ろうと開いた口からは何の言葉も出ない。
 沈黙が落ちる。
 心なしか周囲の喧騒が遠く感じる。
(私は)
 唇を引き結ぶ。
 そんな了見に、あの美しい翠玉をいくらか伏せて遊作ははにかんだ。
「おまえがおまえを許せたらでいい。俺は待っている」


(待っているなどと言われて……ならば行くしかないだろう)
 ホットドッグの最後のひと口をコーヒーで流し込み、再度ため息をつく。
 自分を許せたかと言われると──
(いや、今はこのことを考える場面ではない)
 ホットドッグをつつんでいたペーパーを折り畳み皿に置くと、パンドールが空いたコーヒーカップと共に回収していった。そこで気づいたが、自分が懊悩している間にスペクターたちはとうに昼食を済ませていたようだった。三騎士は既に仕事を再開している。
「了見様」
 と、控えめにスペクターが声をかけてきた。
「何事かお悩みのようですが」
「ああ──いや」
 悩み。悩みなのだろうか? 了見は考える。考えることは重要である。
 こういう時、スペクターは非常に頼りになる。ドクターゲノムと違った種類の享楽家のきらいはあるが、冷静で了見の性格も良く把握している正に信頼できる腹心である。
「藤木遊作のことだ」
 と、口にするとスペクターは何とも言えない顔になった。一番近いのは「無」である。
 そういえば、スペクターはプレイメーカーと盛大にやり合ったことがあった。思うところもあるだろう。だが今更やめるのもスペクターとしては不本意に感じそうなので話を続ける。
「奴は私に対し、気を許しすぎではないか?」
「はあ」
 スペクターは小さく首を傾げた。
「弁えるよう通達いたしますか」
「違う」
「では?」
 気を許しているのは事実であるが不快ではない。自分が問題と感じているのはどこだ、と了見は思考を巡らせる。
 藤木遊作は、こちらが顔を見せれば喜びを隠さず、他愛のない会話に楽しげな顔をみせ、街中で見かければ駆け寄ってくる。
「私を好きすぎていないか……?」
 そう、好意的過ぎるのだ。
 関わってもろくなことになるはずもない人間に対して抱く感情ではない。
「そうだ──私は藤木遊作に嫌われなければならない」
 結論が出た。
 本来はそれが正しい、あるべき姿なのだ。自分は彼の健やかな日々をそれと気づかれない距離から見守り、彼を害するものをそっと排除する程度がふさわしい。
 そうと決まれば彼に嫌われる行動を意図して行うのみである。
 了見は自身の結論に非常に満足しており、左様ですかと相槌をうつスペクターの目がまた虚無になっている事には気づかなかった。


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