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哲学的ゾンビ

全体公開 9710文字
2019-02-20 07:20:30


名称:哲学的ゾンビ Philosophical zombie
(人間名:路鹿イミュ
外見:166cm 63kg 外見年齢10代半ば
分類:独立型
能力:なし
解説:彼はブロンドの髪とグリーンの目の男性です。
 陽気な性格であり、他者・他哲学人に対し友好的に接します。表情は殆どの場合やや過剰な笑顔であり、態度も躁的なものです。発言も冗談と虚言を多く含むふざけたものが多く、有意義な話(当哲学人は『難しい話』と呼称)を拒否する傾向にあります。これは話題への理解度が理由ではなく、癖であると哲学人本人から証言されています。
 哲学を好み、多種多様な哲学的思想や用語を引き合いに出した無意味な論争を好みます。心の哲学に関しては『一切理解が出来ない』と言う反面、深い知識を有しており、心理的発達に関しては特に強い関心を示します。
 自身が哲学人であるという自認の他に、『感情・心を持たない』という主張を行いますが、彼が持たないのはクオリアのみであることに留意してください。

■■研究補助の実弟です。彼との対話時は非常に落ち着き安心した様子を見せます。彼らの精神衛生を考え、監視のない自由な接触と人間名での呼称を許可します。

哲学人【箱の中のカブトムシ】とのクロステスト結果より、哲学人【哲学的ゾンビ】と人間の明確な差異が発見されました。現在彼を哲学人として申請中。承認待ちです。(20■■/■/■■:承認されました)

上記の明確な差異とは、哲学的ゾンビの定義である『クオリアを持たない』ことそのものです。彼は日常生活においては人間との見分けがつきませんが、他の哲学人、特に心理学系統やクオリアに関わる哲学に触れたとき、人間とは全く異なる結果を出します。(実験記録参照)

対応: ■■大学附置哲学人研究所人型収容室内で生活。人間と同様の生活ができるようにします。
また、本人の希望により研究所内の雑務・研究補助作業員としての仕事も振り分けられており、正当な給与も与えられます。与えられた給与は担当研究員名義で作成した口座に振り込まれ、自由に使用可能です。
発見経緯:哲学人犯罪取締課の連絡を受け、■■■■■■■研究員が発見、保護。

+実験記録を見る

20■■/ ■/ ■■
対象:哲学人【箱の中のカブトムシ】
結果:認識災害、表象の伝達共に効果なし。
保護当日、研究所へ移送中に【箱の中のカブトムシ】を接触させたもの。実験と関係のない雑談部分も今後の対応の参考とするため保存。
※プライバシーに関わる音声は削除・加工しています。
衣擦れの音と篭った音声が録音されている。音声の内容は判断不能。
一際ノイズが大きくなった後、音声がクリアになる。

■■■■■■■研究員:うっわ、スイッチ入ってた。このまま聞き取り調査していい?
【哲学的ゾンビ】:調査?
■■■■■■■研究員:保護するっつったじゃん。哲学人資料書くから自分のこと話して。
【哲学的ゾンビ】:僕って書面上は人間だよ? 引き取るには手続きとかいるでしょ。
■■■■■■■研究員:大丈夫うち前科あるから。君らんとこに居た哲学人の[削除済]。
【哲学的ゾンビ】:は?
■■■■■■■研究員:[削除済]。
【哲学的ゾンビ】:はぁ?
■■■■■■■研究員:ほら大丈夫じゃん。で、何で死ぬ気だったの。
【哲学的ゾンビ】:セオ(※■■研究補助)には新しい人生を歩んでもらいたいから。
■■■■■■■研究員:オーケー、君の思考回路が理解できないってことがわかった。いやあ貴重なデータだ。人と人は別個の脳を持つ限り完全な理解は存在しない。そもそも君含めた世界全ては僕の視点で見ると僕の脳でしかないわけだけど。

五秒ほどの沈黙。

■■■■■■■研究員:めんどくさそうな顔しないでよ。
【哲学的ゾンビ】:その四角いの何?
■■■■■■■研究員:箱の中のカブトムシ。
(※■■■■■■■研究員は担当哲学人である【箱の中のカブトムシ】を日常的に連れ回している。この時も同様)
【哲学的ゾンビ】:は? え、それ哲学人?
■■■■■■■研究員:あ、イタミって名前付けてるから、どっちで呼んでもいいよ。もしかして虫嫌い?
【哲学的ゾンビ】:嫌いとかないけど……
■■■■■■■研究員:僕はカブトムシ好きでもなんでもないけど、思考実験は好きだからさ、飼ってんの。
【哲学的ゾンビ】:哲学人を? 飼ってる?
■■■■■■■研究員:うん。
【哲学的ゾンビ】:哲学人を?
■■■■■■■研究員:僕だって信じられないけどさぁ。
【哲学的ゾンビ】:哲学人を……飼う……
■■■■■■■研究員:大袈裟すぎ。君クオリア無いんだよね?
【哲学的ゾンビ】:無いよ。でも哲学的ゾンビは人間と見分けがつかない。アンタ機能主義なんだろ。感情を脳内物質と断言するなら、わかるよね?
■■■■■■■研究員:感情とクオリアは違う概念。
【哲学的ゾンビ】:だったら猶更、クオリアがなくても表現されるものは同じってわかるでしょ。
■■■■■■■研究員:そもそも君達、人間と見分けがつかないってのが定義の一つじゃん。
【哲学的ゾンビ】:そうだよ。だから……僕を哲学人だと証明して、連行する手段はない。人間じゃないなんて証明は悪魔の証明だ。
■■■■■■■研究員:ところで君、イタミのことどう見えてる?
【哲学的ゾンビ】:……白い四角いヤツ。さっき投げたのこれだよね?
■■■■■■■研究員:そ。じゃあちょっと持ってて……何でもいいから話して。
【哲学的ゾンビ】:は? 何でもって何。
■■■■■■■研究員:月って言って。
【哲学的ゾンビ】:……月。
■■■■■■■研究員:星。
【哲学的ゾンビ】:え……星?
■■■■■■■研究員:僕の名前呼んで。
【哲学的ゾンビ】:■■■■さん……
■■■■■■■研究員:姿を想像しながら、猫って言って。
【哲学的ゾンビ】:え? あー……猫。
■■■■■■■研究員:ふむふむなるほど……オーケー、証明完了。君は哲学人だ。本当にクオリア無いじゃん。
【哲学的ゾンビ】:……ええと、こいつ、私的言語の思考実験だっけ?
■■■■■■■研究員:君詳しいね。正解。
【哲学的ゾンビ】:それで何の証明になんの?
■■■■■■■研究員:こいつの能力がさ、発言に表象を乗せるってものなんだよ。猫って言ってさ、僕が思い浮かべたそれがどんな柄でどんな大きさでどんなことをしている子なのかが相手に伝わる。さっき僕が言った猫はどんな子だと思う?
【哲学的ゾンビ】:……わかるわけないじゃん。
■■研究補助:茶トラの子猫ですか?
■■■■■■■研究員:正解。なるほど、受け取ることもないか。
【哲学的ゾンビ】:だって……思い浮かべるとか、ないし。
■■■■■■■研究員:知ってる。それが哲学的ゾンビなんだから。まあその件は研究所で話すとして、人間の体感とクロステストによる判別法について話そうか。

以後、■■■■■■■研究員による論文内容の解説と研究所内での扱いについての説明になるため割愛。


20■■/ ■/ ■■
対象:哲学人【イドラ】
結果:能力の影響を受けた。頻度、重大性は人間相手の時より増しているように見える。
考察:思い違いはクオリアへ影響を与えないということだろうか。つまり物理的に、【イドラ】の能力は脳に影響を与えていると推測される。

が、彼が関わる実験は観測者側へ誤解を生むため、推測がほぼ意味を成さないことが惜しい。性格的な騙されやすさも関係しているだろうか?
自然な反応を観測する為に、【哲学的ゾンビ】に【イドラ】の名は明かしていない。

【哲学的ゾンビ】:こんにちはー! ここの哲学人さんだよね? 僕新入りの哲学的ゾンビ!
【イドラ】:これはご丁寧にどうも。僕もこの研究所でお世話になってます。貴方の先輩ですね。
【哲学的ゾンビ】:へー先輩……えっ、貴方も哲学的ゾンビ!?
【イドラ】:……ふふ。君は、君以外の哲学的ゾンビを見たことがありますか?
【哲学的ゾンビ】:あ、父さんと[削除済]さんと、[削除済]の人達……えっ、僕ら以外に居るの!? 研究所に! うっそマジ!?
【イドラ】:君の目に映るものが真実じゃないかな?
【哲学的ゾンビ】:どっから発生してるの僕ら……待って、じゃあなんでわかんないんだろ。もしかしてオリジナルだったりする?

【イドラ】は意味ありげに微笑んでいる。

【哲学的ゾンビ】:本物の哲学人の方か!
【イドラ】:ええまあ、僕は正真正銘哲学人ですよ。
【哲学的ゾンビ】:え、じゃあ何で五体満足? あっ、もしかして再生能力あるとか? それで人間じゃないってわかったから連れてこられたんでしょ!
【イドラ】:そうではありませんね。僕は自ら研究所に足を運び、哲学人であると明かしました。
【哲学的ゾンビ】:くっつけてもらうため?
【イドラ】:理由は色々ですよ。研究所は僕にとって都合がよかったので。
【哲学的ゾンビ】:ああまあ、確かに? 僕も[削除済]から保護されてるわけだしさ。
【イドラ】:ところでつかぬことを聞きますが、君の担当研究員さんはどなたです?
【哲学的ゾンビ】:え? ああ……■■■■■さんだよ。あと■■■■さんが発見者だから、結構口出ししてんじゃない?
【イドラ】:なるほど。僕の名前、説明されてました?
【哲学的ゾンビ】:ううん! 哲学人だってことだけ聞いてた。
【イドラ】:ふむふむ……あ、どうせ後で説明されるだろうから先に言っておきます。
【哲学的ゾンビ】:うん?
【イドラ】:僕の名前はイドラです。人間名ではありません。

五秒ほどの沈黙。【哲学的ゾンビ】は目を見開きイドラを見つめている。

【哲学的ゾンビ】:あーーーーーーーっ! 全部嘘か!
【イドラ】:騙されてやんのー! あははは!

対話時間終了となったため、研究員が入室。記録終了。

この実験以降、【イドラ】は【哲学的ゾンビ】を気に入ったようです。補食対象として認識している可能性があります。接触には充分注意してください。■■■研究員
あの人、ただの子供好きなんじゃないかなぁ。■■■■■■研究員

20■■/ ■/ ■■
対象:哲学人【ドクサ】
結果:誤認識を無効化。
考察:【ドクサ】の能力は思考や知覚自体に影響を与えず、知覚の受け取り方を歪ませ別の物品と認識させる。その受け取る先こそクオリアなのではないだろうか。
彼の能力は対象の気質や体調により効果の強さが変動するため、再検証が求められる。
実験時の様子:【ドクサ】がじゃれつき、【哲学的ゾンビ】が拒絶するだけであった為詳しい記録は割愛。後に話を聞くと、【哲学的ゾンビ】は「初対面の男に飛び付かれたら誰だって嫌がる!」と怒りを露にしていた。

20■■/ ■/ ■■
対象:哲学人【フレーム問題】
結果:【哲学的ゾンビ】は発声を行ったが、殆ど言語として意味を成さなかった。恐らく問答をしているが、表記不可能な未知の発音と言語形態である。
意味を認識できる発声も、ワードサラダとなっており解読不能。
【フレーム問題】は彼の発言を理解していなかったが、通常通り動作している。

対話後、彼は自身の発言が正常な言葉であったと主張したが、発言内容を訪ねると、少なくとも二種類の発言を同時にしていたことが判明した。うち一つは疑問形式であり、他は普段の【哲学的ゾンビ】が好むような哲学の話題である。
考察:おそらく、【フレーム問題】の『疑問を植え付け、発言させる』能力が作用し、『疑問を自身の意思と思わせる』能力が無効となった為と推測される。結果、【哲学的ゾンビ】の意思(クオリアのない彼の、自発的に見える行動の始点を意思と仮定)を押さえつけることができず、普段の発言と能力による発言が同時に発生したのではないか。
研究員はモニターで対話の様子を遠隔から観測。【哲学的ゾンビ】は一貫して笑顔である。
【フレーム問題】:おはようございます。当機体との対話は貴方の聴覚へ害を与えませんか。
【哲学的ゾンビ】:[表記不能の発声]。
【フレーム問題】:貴方の声を聞くことにより、色彩感覚の変化は起こりますか。
【哲学的ゾンビ】:[表記不能の発声]。
【フレーム問題】:……天井が落ちた場合どのような対応をしましょうか。
【哲学的ゾンビ】:[表記不能の発声]。

【フレーム問題】の目線がモニター用カメラに向けられるが、すぐに【哲学的ゾンビ】に向かい直し、一方的に見える会話を続ける。

十分後、【哲学的ゾンビ】の発言に変化が乏しくなる。【哲学的ゾンビ】自身は身振り手振りも行えており、立ち上がるよう指示を出すと問題なく従った。
黙るよう指示すると、発声が正常なものに戻り、理解できる言語で【フレーム問題】と問答を行った。問答内容は一定で、FP状態と類似している。
対話に変化が見られなくなったため実験終了。


20■■/ ■/ ■■
対象:哲学人【既在/到来】
結果:肉体的逆行は正常に発生するが、精神的退行は起こさなかった。また、記憶や思考能力を維持した肉体のみの逆行は起きなかった。
既在はこれについて「記録はあるけど、経験はない」とコメント。
考察:意思や感情、精神といったものは記憶とは独立した存在なのだろうか。

※彼らはクオリアに関わる哲学人ではないが、保護前に【哲学的ゾンビ】が所属していた施設での知人であり、研究所の規則上対話が可能であることと、記憶と経験の操作が可能なため実験を決行した。【哲学的ゾンビ】のことは人間名(イミュ)で呼称している。

※以下は実験前の会話である。双方の思想確認の為、記録を残す。
【哲学的ゾンビ】を視認した途端、【到来】は【既在】を自身の背に隠す。既在は到来の後ろから【哲学的ゾンビ】に手を振り、【哲学的ゾンビ】もそれに応える。

【到来】:……なにしてんだよ。皆探してるぞ。
【既在】:うんうん、家出良くないよ。[削除済]さんすっごく心配してたからね。
【哲学的ゾンビ】:息子を? 情報漏洩を?
【到来】:それは……
【既在】:身内から裏切り者が出たこと!
【哲学的ゾンビ】:わーい僕絶対帰らなーい! 私刑確定じゃん!

■■研究員が三人の雑談を軽くとがめる。
対話の申請があり、■■■■■■研究員、■■研究員から許可が出る。

【到来】:ええとな……まず、何で研究所に?
【哲学的ゾンビ】:ああそれ! 僕があてもなく家出した直後にさぁ! ここの研究員さんに、君を保護アンド管理させてもらう! ってされたんだよね。んで、行くとこなかったし丁度いいじゃーんってなった!
【既在】:わかりみに溢れる。
【到来】:あー……あのさ、今後の身の振り方次第では、ちゃんと許されるから。
【既在】:でもやったことは変わらないの。事実は事実として付いて回る。
【到来】:そしてそれを踏まえた扱いが決定される。自分の行いを投企したんだから、受け入れるしかねーだろ……帰らないか?
【哲学的ゾンビ】:えー? いーやでーす! だから僕は連れ戻されず処罰もされない未来の自分へと投企する!
【到来】:それは逃避だろ。
【既在】:ここでずっと暮らすの? 目的って無いの?
【到来】:研究所に居ても、飼い殺されるだけだぞ。
【哲学的ゾンビ】:目的ぃ? あーりまーす! 哲学人研究!
【到来】:……え?
【既在】:哲学人が?
【哲学的ゾンビ】:そう! 研究所に居るんだからさ、お手伝いさせてもらいたいじゃん。僕哲学好きだし、哲学的ゾンビがクオリアについて研究する、この矛盾を僕の一生をかけて解いてみたい。これは僕にしかできないことだ。
【既在】:えぇー……
【到来】:……そうか。
【既在】:納得してない。
【到来】:俺は理解した。あっちも研究はやってるけど、こっちの方が設備も整ってるし、当然の選択だ。到来として、お前の投企を邪魔するわけにはいかないな。
【既在】:到来がそう言うなら僕もそうなる。
【到来】:だからって家出は必要なかったと思うんだけどなぁ……
【哲学的ゾンビ】:えーだってぇー一泡ふかせてから飛び出したいじゃん思春期だしぃー。ところで君達さ、研究所にも[削除済]にも何も言われないの?
【到来】:なにもって、何が?
【既在】:信仰は自由だからね。
【到来】:ああ、それ? え、特に何もないだろ?
【哲学的ゾンビ】:ふーん、そうなんだ。じゃ、こっちでもよろしくね! あ、でも、父さんに僕のこと言わないでね?
【既在】:りょー。
【到来】:……ほどほどにしろよ? 口利きはするから。
【哲学的ゾンビ】:あはは、心配ありがと!
【到来】:すみません、終わりました。あと、■■さん、一ついいですか。

記録終了。






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